「私の目標は、冥界にレーティングゲームの学校を建てることです」
ソーナ姉さんの真意が理解できなかったようで、お偉いさんが尋ねた。
「レーティングゲームを学ぶところならば、すでにあるはずだが?」
こんな常識知らずでは将来が不安だ、シトリー家との付き合い方は考え直した方が良いかもしれない。そんな顔をしながら質問するお偉いさんに、ソーナ姉さんは淡々と返した。
「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔だけしか通うことの許されない学校です。私が建てたいのは下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔てのない学び舎です」
そんな戯けたとしか言いようのないことを聞いて、お偉いさんたちは一瞬呆けた後爆笑に包まれた。
「ハハハハハハハハハ!」
「それは無理だ!」
「これは傑作だ!」
「なるほど! 夢見る乙女と言うわけですな!」
「若いと言うのはいい! 我々年寄りにはとても思いつかないことだ! しかしシトリー家の次期当主ともあろうものがそのような絵空事を語るのは感心せんな。これがデビュー前の顔合わせで良かったというものだ」
匙や他のシトリー眷属、グレモリー眷属なんかはその笑い声に戸惑い、怒っているようだったが、俺は彼らと同感だった。
なにせソーナ姉さんの目標というのは、人間の考えに染まり過ぎていて悪魔と言う種の現実に則しているとは言えない物だったからな。
まずレーティングゲームは上級悪魔や一部の特権階級の悪魔以外は『王』として参加することはないのだから、それ以外に学ばせても無駄だ。学びたいのなら上級に昇格してから通えばいい。人間風に言うのなら、高校を卒業してから大学に通えってことだな。上級悪魔になっても駒集めなどもあってすぐにゲームに参加するなど不可能なのだから、それで十分間に合うし。
次に、『悪魔の駒』によって力を分け与えられている転生悪魔はともかく、下級悪魔も一緒に通わせると言うのがありえない。悪魔の学校は勉学より人脈作りがメインで教育は二の次だから下級悪魔にとっては通う意味がないと言うのもあるが、なにより悪魔と言うのは強さの差がとても大きいのが問題なのだ。一緒に通わせて、同じ授業など受けさせたら間違いなく死人が出る。大人になれば山を吹き飛ばすような攻撃を放てるのが普通な上級悪魔にとっては遊びのような戦闘訓練でも、人間と大差ないどころか、それなりに魔法や術を身につけた人間になら負けかねない程度の下級悪魔には即死級の危険な訓練なのだ。かといって下級悪魔に合わせては上級悪魔にとってはストレスがたまるばかりで何の訓練にもならないことを延々とやらされることになる。こうなってしまっては学校をやっている意味が欠片もない。人間だって学力ごとに違う学校に通わせているのに、なぜソーナ姉さんはここまでしようと思ったのかオレでも謎だ。
最後に、悪魔と言う種族は個人差が大きい。魔力量や体の丈夫さは言うに及ばず、魔力の質や使い方も千差万別だ。名家なら家系ごとに伝わる特殊な力があるし、個人の体質や趣味嗜好などで効率や使い方なんかはガラッと変わる。ある人にとっては凄まじい効率で大きな戦果を上げられる使い方でも、他の人にとってはどんなに魔力を込めても発動すらしないなんてのはザラにあるからな。兵藤の『洋服破壊』や『乳語翻訳』なんかはその典型だ。そう言う理由で、人間のように一纏めにして一気に教えるという手段が取れないため、下級悪魔まで通わせたら絶対に教師の数が足りなくなる。そもそも十数年しか生きていない才能だけで強くなってるような連中がやる『教師ごっこ』ならともかく、きちんとした『教師』をやれるような者は引く手数多なので、そんな名誉や功績とは無縁な下級悪魔の教育なんてやってくれるわけがないんだけどな。
これら以外にも学んだところで『悪魔の駒』を全員に配布できるほどは作れないとか、下級悪魔では優れた教師を雇えるほどの金は稼げないとか、それ以外にも問題は多々あるため、事実上ソーナ姉さんの言うような学校を作るのは不可能なのである。決して下級悪魔を差別しているがために学校に通わせていないわけではないのだ。
というか差別自体悪魔にはほとんどないんだけどな。些細なことで差別したりする人間と違って、悪魔は意思疎通できて一緒に暮らしていく努力ができるなら多種族でも普通に受け入れるくらいだし。ソーナ姉さんの言っていることだって、実現可能ならとっくにやっていただろう。
「私は本気です」
そう真面目に応えるソーナ姉さん。
せめて爆笑に乗じて冗談っぽく終わらせて下さい。次期当主がこんな常識のない人だって知られたら他家の人たちは関わってこなくなるし、領民だって不安になるでしょうが。
それに『伝統』と『誇り』―――つまり『強き者にはそれにふさわしい厚遇を』という合理的な思考と長寿ゆえに弱い者から過剰に搾取することのなかった悪魔だからこそ問題なく続けられてきた慣習と、強き者を安定して輩出する血筋を現代まで絶やすことなく戦乱を生き抜いた事に対する自負―――を重んじる旧家の人には特に受けが悪い。弱いから見逃されたおかげで生きているような連中を、悪魔の常識である『等価交換』を無視して厚遇すると言うのだから当然だ。
現悪魔政府の重役を担うこの人たちから嫌われたら将来すっごい苦労することになると言うのに、次期当主のソーナ姉さんがこんなのでは爺さまの胃が休まる時はないだろう。それを支えなきゃならない俺も、今後のことを考えたら気が重くてしょうがない。お偉いさんたちが、若気の至りだと笑って聞き流してくれているのがせめてもの救いだ。だから匙、そう今にも噛みつきそうな顔はやめろ。暴走し始めたら『女王』として殴ってでも止めないといけなくなるだろうが。
その後は、セラフォルーさまが常識的にありえない事を言っているソーナ姉さんを擁護し、「何を言ってるんだこいつは?」みたいな表情になっているお偉いさんを無視してサーゼクスさまと共に話を進める。
「ならなら! うちのソーナちゃんがゲームで見事に勝っていけば文句もないでしょう!? ゲームで好成績を残せば叶えられる物もおおいんだから!」
「ふむ、ならゲームをしようか。それも若手同士、リアスとソーナでだ。もともと、近日中に赤龍帝を有するリアスのゲームをする予定だった。アザゼルが各勢力のレーティングゲームファンを集めてデビュー前の若手の試合を観戦させる名目もあったものだからね。だからこそ、ちょうどいい。リアスとソーナで1ゲーム執り行ってみようではないか」
さらっとさっきの会談で後日決めることになった議題を、魔王二名の合意でゴリ押しして決定した。アジュカさまとファルビウムさまも止めなかったし、もはやお偉いさんたちは完全に置いてけぼりだ。
「公式ではないとはいえ、私のとっての初のレーティングゲームの相手があなただなんて運命を感じてしまうわね、リアス」
「競う以上は負けないわ、ソーナ」
お二方とも既にノリノリだが、ここは会合の場なので私語は謹んでもらえませんかねぇ。周囲からの視線が痛くてしょうがないんすよ。
そんな小心な俺の想いは気づかれることもなく、図太い人たちだけで話は決まってしまった。
「対戦の日取りは―――(人間界の時間で八月二十日)。それまでは各自好きに時間を割り振ってくれて構わない。詳細は後日送信する」