会合が終わりシトリー領に戻った俺達は、即特訓を開始した。元々長期休暇の度に合宿はやっていたし、特訓メニューは既に組んであったからな。ソーナ姉さんはその状況で「明日から」などというのは嫌だったらしい。
と言っても、変わったことはほとんど何もしていない。俺と匙以外のシトリー眷属は尖った性能も、特殊な力もないからな。堕天使や天使からもらった技術を試した以外は、全員普通のトレーニングだ。
匙だけは赤龍帝の血でヴリトラの力が目覚めかけていたため、アザゼル総督に改造されてたけどな。なんでも「元々扱えなかった力を持った神器を無理に埋め込むと、上手く使うことができなかったり、自身が元から持っていた力が使えなくなったりすることがある。だが、同質の力ならいけるはず」とのことらしい。つい最近まで敵だった奴が自分の部下を改造すると言う提案をソーナ姉さんは最初は拒否していたが、結局爺さまとセラフォルーさまの眷属の監視の元、アザゼル総督が機材と神器を持ってきてシトリー領で施術するのを条件に受け入れたのだ。しかしここまで面倒なことをしてまで匙を改造するとは……よっぽどヴリトラ改造超人が見たかったんだろうなぁ。目が凄いキラキラしていたもの。
そして俺は、研究室に籠って会合の前にやっていた研究を続けていた。堕天使からもらった『英雄の力を引き出す補助具』も、天使からもらった『ゲオルギウスの力を制御する聖具』も、そのまま使うつもりはなかったからな。下手に訓練するより、そっちの方が戦力増になると判断されて趣味に打ち込めたのだ。なんかいつもの三割増してきつい特訓をしていた連中がすごい目をしていたけど気にしてはいない。
そして迎えたゲーム前日。俺達はグレモリー眷属と一緒に会場入りするために、グレモリー家の城に来た。
俺としてはグレモリーの腰巾着みたいに見える行動はやめてほしかったのだが、ソーナ姉さんは一人で会場入りすると居心地が悪すぎるとか言うので一旦合流することになったのだ。まぁ、ソーナ姉さんマジで社交界では嫌われてるからな。下手に関わるとセラフォルーさまの制裁を喰らうし、避けすぎても制裁を喰らう。おまけにソーナ姉さんの思考は冥界の常識とは大きくずれているので、どう関われば無難に過ごせるのかもわからない。挙句、関わったところでグレモリー家と関わった場合以上の利益は絶対に得られないと言うのだから、そりゃ腫物みたいに扱われもするだろう。居心地が悪いというのも、ソーナ姉さん以上に扱いがきつい俺は熟知しているが、シトリー家次期当主だというのなら、避けるのではなく解決しようとして欲しいものだ。
そんなことを思いながら、匙と共に城を探索していると、兵藤兄弟が待機している客間に行きついた。
「お、兵藤兄弟か」
「匙、それに譲治も。なんでここに?」
「リアスさんから聞いてないのかよ。ソーナ姉さんがリアスさんと会場入りするっつーから、ついてきたんだよ」
そんなことを話しながら席に座る。匙は兵藤の近くの椅子へ、俺は兵藤とはかなり離れた席に座る誠二の近くに座った。
入り口から見たときは、何で離れて座っているのかと思ったが、近くに来てようやく理解できた。こいつ、薄らとだが精霊の力を纏ってやがる。漏れ出すところまではいっていないが、精霊使いとしての適性のない、もしくは魔法防御力の低い悪魔が触れば焼かれそうだ。それで兵藤は万が一にも当たらないように距離をとっていたのか。
「えらく強くなったみたいだな。アザゼル総督の特訓の成果か?」
「おお、なんか「お前は自分の適性が分かってない」とか言われてな。なんでも堕天使側の神器持ちに調べさせたらしい。元々使い魔は全員精霊だったし、言われた通りにやってみたんだよ。そしたらかなり強くなれたぜ。制御の方はまだまだだけどな」
「見ればわかる。才能は凄いのに訓練が足りないせいで発動しっぱなしじゃねぇか。ま、そこまで才能があればすぐに落ち着くだろうけどな」
しかし、こいつが精霊使いか。俺の領地を案内してた時も精霊との交渉はやたらスムーズに行ってたし、納得できなくもないな。俺の領地やグレモリー領でスカウトした後も各地に転移して精霊を探してたらしいし、それらの扱いを覚えたというのなら相当な戦力増になっているだろう。レーティングゲームが楽しみだ。
「楽しそうな顔してるなー。あんたは戦闘は好きじゃないと思ってたんだけど、ちょっと意外だな」
「戦闘は別に好きじゃないぞ。できれば避けたいと思ってる。でもレーティングゲームは商品が豪華なだけのスポーツだからな。楽しまなきゃ損ってモノだろ」
「でも会合で会長バカなこと言ってただろ? 下手に勝って学校作っちまったら、シトリー家の損害ばっかが大きくなるだろうし、それは避けたいもんだと思てたんだけどな」
それは確かにその通り。途中まで上手くいってると、失敗したときの損害は大きくなる。主家であるシトリー家がそれで傾いたりすると、例え独立していても俺にも被害が来るからな。それを避けたいと言う思いは当然ある。
だがそれとこれとは話が別だ。
「オレはソーナ姉さんの『女王』だからな。相応の対価は貰ってるし、それに見合うだけの働きはしないと駄目だろ」
「悪魔の等価交換意識ってやつか。本当にあんたは元人間なのか疑わしい時があるよな」
「元人間だからこそ、悪魔らしくあろうとしてるんじゃないか。転生悪魔には必須の心構えだと思うぞ? ……それに、そう振舞ってれば昇格もしやすくなるし」
上級まで昇格すると、自分の土地を持ってそれを運営していくことになるからな。その時に周囲と軋轢を生みにくい性格なら昇格試験の合格ラインが少し低くなるのだ。現在も存続している名門シトリー家の当主から「孫である」と言う保証を貰っているため初めから中級悪魔で、コカビエル討伐で売った恩があるためグレモリー卿から昇格試験に推挙してもらえることになっているオレには身近な問題だったんよ。原作の事件に対応するための自由にできる戦力を持っておきたいし、ソーナ姉さんの暴走を止めるための発言力も欲しいので一発合格したいオレには大事なことなんだ。
ちなみに以前の種族としての常識を引きずったり、問題行動が多かったりする場合は、どんなに功績があっても上級への昇格は渋られてしまう。特に人気があるやつだと、騒動になったときに面倒なので近くに来ることを貴族たちが嫌がり認められにくいな。原作の兵藤たちが飛び級での昇格を認められなかったのは、この辺が原因な気がしてならない。
「なるほどな。つまり内申点目当てで優等生やってるようなもんか」
「まぁ、その通りだな。原作の事件もオレらの前世でも完結すらしてなかったし、事件が全部済んだからって問題が全て片付いてハッピーエンドってわけじゃないからな。できるだけ早めに権力と戦力持って激動の時期に備えたい」
コカビエル討伐、黒歌同様SS級はぐれ悪魔ユーリの捕縛と功績も挙げてるから上級悪魔への昇格試験に推薦はほぼ確実にしてもらえるだろう。変なことやって躓きたくない。
「おっ、話してるうちに結構経ってたみたいだな。ソーナ姉さんたちが来てる」
「こっちも感知してる。精霊魔法ってすごいよな、屋敷の中でのことならすぐに教えてくれるぞ」
それは精霊に愛されまくってるお前くらいのものだ。普通覚えて一月もしないうちにそこまで感知範囲は広くならない。普通の精霊魔法の使い手に喧嘩売ってるようなこと言うもんじゃないぞ。
……まぁそれくらい鋭ければパーティでの黒歌の問題は気にしなくていいから楽でいいな。誠二が塔城見張って単独行動しないようにしとけばスルー出来る。いくらヴァーリチームでも最上級悪魔も多く参加するパーティの会場にまで殴り込んで来たらあっさり圧殺されるから、乗り込んできてまで確保するってのはないだろうしな。無駄に危険を冒す必要はない。
「イッセー、セージ、お待たせ。あら、二人もここにいたのね」
「あとで召喚する手間が省けましたね」
ドレスアップした女性陣とギャスパーが部屋に入って来た。のんびりするのは終わりだな。この人ら向こうでの感覚引きずってるから使用人じゃなくてオレに頼んでくるのは目に見えてる。
朱乃さんもドレスアップして動きづらそうだし、とりあえずタンニーンさまが来るまでの時間つぶし用の茶でも淹れときますかね。