第26話
グレモリー眷属とのレーティングゲームを行ってから少しした頃、俺達シトリー眷属は珍しく全員そろって冥界にやってきていた。
とは言え特訓で全員で使い魔の森に突撃するために来たわけではない。
「お待ちしておりました。ソーナ・シトリーさま。そして眷属の皆さま。こちらへどうぞ」
原作でグレモリー眷属やバアル眷属が呼ばれていた、テレビ収録の為に冥界へ来たのだ。
原作ではグレモリー家とバアル家がインタビューを受けていたので、おそらく勝利した者たちが呼ばれていたのだろう。この世界ではそうらしいから原作でもそうだったんだと思う。
プロデューサーに連れられてスタジオに向かい、打ち合わせの後に撮影をした。
番組の内容は、終始ソーナ姉さんへの質問だったな。
グレモリー戦はどうだったか。もし城に攻め込まれていればどのように対処するつもりだったか。後日行われるバアル家とのレーティングゲームに向けての意気込みは。今回選ばれた六家の後継者以外で注目している若手はいるか。こんな感じの質問ばかりだったな。ソーナ姉さんも常識はともかく立ち振る舞いはきちんと教えられていたので問題なく過ごすことが出来た。
ただシトリー家が困る質問もあったがな。
「今後の目標を教えてください」
これだ。
向こうは「勝てなくともバアル眷属に一矢報いる」とか「同じ戦術家タイプであるシーグヴァイラ・アガレスに勝利する」なんかを期待していたのだろうが、ソーナ姉さんはこの前の会合の時と同じことを言いやがった。
そう「レーティングゲームの学校を作る」なんて夢物語みたいなことを言ったのだ。現状最悪な庶民受けは一部改善されるだろうが、シトリー家と交流のある元人間の上級悪魔なんかは『頭がいいだけのバカ』認定して距離をとっていきかねない。元人間だと時間感覚が純血とは異なるので、会合にいたお偉いさんのように「じきに落ち着くだろう」と長い目(百年単位)で見てはくれないんだからな。
最悪領地の経済がガタガタになってしまうので、収録終了後即座に爺さまに連絡してその部分はカットして流すように圧力をかけてもらった。もちろんそんなことをしたのがバレればシトリー家もテレビ局もセラフォルーさまから恨みを買いかねないので他の出演者も放送は撮影した物の一部だけに変更だ。あと番組の尺が足りないので負けた家も呼んでインタビューすることになったらしい。この隠蔽工作のために爺さまはかなり私財を使ったみたいだったな。
そんな感じで問題はあれど撮影も終わり、さて帰るかとなったときに客が来た。
「サイラオーグ、あなたも撮影今日だったんですね」
「ああ、ソーナも今日が撮影と聞いて来させてもらった。良い眷属を見つけたようだな」
病気の母がシトリー領で療養していることもあり、近くに来たときは挨拶を欠かさないサイラオーグさまだ。
俺は前にこの人と会ったことがあるのだが、その時から「実力はあるが覇気がない」と評価されているので良い眷属というのは匙の事だろう。他の奴らは罠を仕掛けたぐらいなので、それの性能や配置が優れていた場合はソーナ姉さんをほめるだろうしな。
「あと、うちの『兵士』がソーナの『女王』に用があるらしい。話の為に隣室を借りてある。いつもの
「そうですか。ジョージ、行っていいですよ」
「わかりました」
「おーっす。久しぶり」
「久しぶりって言う程か? この間会合であっただろ?」
「あの時は話もできなかっただろ? 原作の話聞きたくてさ」
隣室に行くとサイラオーグさまの『兵士』――獅子堂春人、通称ハルト――が待っていた。表向きは俺に対して魔法具の作成依頼を何度も出してきているお得意様になっている奴だ。そいつはカモフラージュの為に持ってきたと思われる書類はわきに置いて、いきなり原作について尋ねてきた。
ハルトは俺と同じ特別な転生者だ。そして、俺の知る限り唯一の『憑依者』でもある。
所有者が死んでもその場に残って殺した連中を抹殺しサイラオーグさまの眷属になった神滅具『獅子王の戦斧』の所有者に憑依していたのだ。原作通り正体不明の連中――話の内容的にバアル家の管轄地でこっそり神器所有者狩りをしていた堕天使の下っ端っぽい――に襲われたらしいが、存在を知っていたので殺されるよりも神器の覚醒が早かったので生き残れたんだそうだ。他の神器と違って、レグルスが勝手に暴れてくれたから助かったと言っていたな。
その後レグルスの勧めでサイラオーグさまの『兵士』になり、サイラオーグさまが母親の様子を見に来るときについて来て以来の付き合いだ。気楽な『兵士』の立場で、原作に関わることも少ないだろうと面白半分で尋ねてくるのでたまに凍らせたくなるが使い魔の森に一緒に資料を採取に行ったりもする友人である。
「原作って言っても俺は誠二みたいに兵藤にべったりってわけじゃないからそんなに詳しくは知らんぞ。この間手紙で伝えた以上の情報はなしだ」
「その手紙、アスタロト戦「どうにかなると思う」だけで根拠ゼロだったじゃねぇか。たぶん契約で情報そのものは話せないんだろうけどさ、おまえのせいで主人公が原作みたいな異常な育ち方してないだろ? 何か安心できるような情報が欲しいんだよ」
原作の話をしているのに、珍しく真面目な表情だ。外部のお偉いさんであるオーディンも巻き込まれるし、上位神滅具の所有者が関わる最初の事件だからわからなくもないんだけどな。
あと契約で情報を漏らせないのはこいつの想像通りなので、バアル家の使用人にでも頼んで探らせればわかる程度の情報を渡すとしよう。
「シトリー家が昔よくとってた依頼って、女を裸にしたり、心を読んだりする依頼だったんだよ。と言っても実行してたのは家臣で爺さまたちはやってないぞ」
「は?」
「ただ最近はそんな依頼はすっかりなくなって、それ専門のやつら仕事無くなってたんだけどな、最近どうも連続して依頼が来てるみたいなんだよ。それも同じ相手から」
「ッ! 『洋服破壊』と『乳語翻訳』の指導か!」
「さあな。内容については黙秘も契約のうちらしくて俺やソーナ姉さんも知らん。依頼を受けてそいつに回した爺さまだけだ。
あとこれは別の話だが、服脱がすのと心を読むのが専門の奴が「超有望な後継者が見つかった」って喜んでたらしいな。ついでに言うと親類の俺らと歳の近い娘をグレモリー家関係の誰かの侍女か妾として送り込もうとしているらしい」
ちなみにこの技術、魔法使い相手だと簡単に弾かれるし、心が読めるくらいの実力差があれば倒すのは簡単、拘束出来ればより情報を搾り取れる魔法具もあるので外に漏れても問題なしと爺さまに判断されている。だからグレモリー家に盗られても何の反応もなかったんだが、兵藤が使って大活躍してしまうと問題が起こりそうで不安なんだよなぁ。
ま、そのへんのごたごたは実際に起きてから対処するしかないか。
ハルトの方はと言うと、神滅具対策があると言うことを聞いて安心しているようだった。いつもの事態を楽しむだけの顔に戻っている。
「うん、そういうことなら大丈夫だな。『洋服破壊』さえあれば反転装置あってもどうにかなるだろうし。後の問題はさすが主人公って感じの狂気の領域な精神力でどうにかするだろ」
「だな。実際のとこアルジェントの力を増幅させて反転したってお偉いさん方なら普通に防ぎそうだから心配なんかするだけ損だ」
オーディンだってだてに『魔術の神』を名乗ってる訳じゃないからな。いくら神滅具で強化したと言ってもベースが普通の神器じゃ致命傷を負わせられるわけがない。
アスタロト戦での事件はそこそこ強いやつが削れて非常時に動ける奴が減ればラッキーくらいのデモンストレーションじゃないかと俺は思ってるしな。そこまで気にしなくていいだろ。
「いや助かったぞ。これでしばらくは戦争の心配しなくて済みそうだ」
「気にするな。これくらいだったらそんなに対価はとらねーよ。次のレーティングゲームで加減なしで来てくれれば十分だ。サイラオーグさまにそう言っといてくれ」
ソーナ姉さんは一度でいいから思いっきり負けておいた方が良さそうだしな。というか種族の差ってものを実感しておいた方が良い、が正しいか。その相手にバアル眷属は絶好の相手なんだから是非とも思いっきりやってもらわなくては。
「うちのキングはそっちに借りがあるもんな。手加減しかねないし、伝えておく。シトリーの『女王』からの要請だって言えば納得してくれるだろ」
「頼んだぞ。じゃそろそろ王様んとこに戻るか。そろそろあの人たちの話も終わってそうだ」
「そうだな。なら続きはレーティングゲームの後ってことで」