転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第35話

「まず事情を説明しておこう。いきなり本題に入ってもお前らわけわからんだろうからな」

 

 アザゼル総督は顔を真面目モードに切り替えて話を始めた。

 

「数日前、須弥山の帝釈天からの使者と会談するためこの屋敷を出たらしい。だが会談にはやってこなかったと須弥山側から連絡があってな。どういうことだと調べてみたら八坂の警備をしていた烏天狗が瀕死の状態で見つかったそうだ。そいつはもう死んじまっているが、最後に八坂姫は何者かにさらわれたと告げたらしい。首謀者はおそらく『禍の団』だ」

 

「……なんだか、えらいことになってますね」

 

 兵藤が気の抜けたような意見を言う。えらいことになってるのはいつもの事だろうに、今さら何を言ってるんだこいつは。

 

「ま、各勢力が手を取り合おうとすると、こういうことが起こりやすい。オーディンのときもロキが来ただろ? 今回はその適役がテロリスト共だったわけだ」

 

 アザゼル総督が不機嫌そうに言う。この人は遊ぶのが大好きだから、仕事を作るテロリストは絶対に許さない姿勢だもんなぁ。今も舞妓遊びとかを邪魔されて、はらわた煮えくり返っているのだろう。

 

「九重さま、天狗族の長がお着きになられました」

 

 俺らをここまで連れてきた狐の妖怪が戻ってきた。

 隣にいる山伏姿で鼻の長いじいさんは、古くから九尾の一族と親交の深い天狗の一族の長だと紹介された。さらわれた八坂と娘の九重を心底心配している様子だな。

 

「総督殿、魔王殿、どうにか八坂姫を助けることはできんのじゃろうか? 殺されたり、京都から連れ出されていないことはわかるが、我らでは西洋の術はよくわからん。解析できんこともないが時間がかかり過ぎるんじゃ」

 

「なんでわかるんですか?」

 

 兵藤が天狗の長の言葉に食いついた。

 

「京都の気が乱れていないからじゃよ。九尾の狐はこの地に流れる様々な気を総括して調整する存在なんじゃ。京都は存在自体が大規模な力場じゃから、八坂姫がいなくなれば確実に何らかの異変が発生するんじゃよ。まだその予兆すらあらわれていないと言うことは、八坂姫は無事であり、連れ出されてもいないと言うことなんじゃ。さらった連中も一緒じゃろうな」

 

 天狗の長はそう言っているし、本気で気の乱れが全く感じられないからな。原作通りグレートレッドを呼び出す実験が目的で、八坂姫は拘束されているだけで全く手出しされていないんだろう。

 ていうか拉致されるときに抵抗して大きめの怪我でもしててくれれば、地脈なんかに影響が出て居場所も特定できたんだがなぁ。拘束するにしたって、よっぽど対象の安全に配慮した方法じゃないと影響出て即探知されるってのに。そんな方法を考える方が龍王数体をただ捕獲するより楽って上位神滅具はどんだけ便利なんだって話だよな。

 

「セラフォルー、悪魔側のスタッフはすでにどれくらい調査を行っている?」

 

「つぶさにやらせているのよ。京都に詳しいスタッフ―――京都の妖怪とか京都に住んでた術者の転生悪魔とその主を中心に動かしてるから、京都の妖怪との連携だって上手くいってるもの。ただそれでも情報はほぼゼロ。よほどの腕利きが極少数で潜んでるみたいなのよねー」

 

 苦虫を噛んだような表情でセラフォルーさまが言う。実際嫌な情報だ。龍王クラスを無傷で拘束し続け、捜査網にも全く引っかからないとなると現在動いているスタッフでは捕縛や撃破どころか撃退するのすら確実に不可能だ。俺らが動くか強い連中を呼ぶか、最悪セラフォルーさま自身が戦わないといけなくなる。できれば避けたい事態だからな。

 

「お前らにも動いてもらうことになるだろうな。人手が足りなさすぎるからな。他の強い連中連れてくるとなると人員の選定とか周囲の組織への通達とかで時間かかるから間に合うかわからんし。それにお前らここの所すごい目立ってるからな。テロリスト共なら目的達成のついでに倒して名を上げようぐらいの欲はかくだろうし、無警戒な感じで旅行でも楽しんで首謀者釣ってくれ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だあー、疲れた! いろいろあり過ぎだろ」

 

「匙、天龍と関わった時点でイベントの度に事件が起こるのはよくあることだ。名探偵が旅行に行ったら殺人事件に遭遇するくらいの確率でな。早く諦めて良くある面倒な作業の一つと思って淡々とこなさないと後がきついぞ」

 

 夜、俺と匙は生徒会役員男子用ってことになっている部屋でだらけていた。

 妖怪の里を出た後、グレモリー眷属と共に観光に戻り、ホテルに戻ってからは明日の行動についての会議。会議自体は「明日はアザゼル総督との合流用に転移魔法陣持って、九尾の姫さまの案内で京都観光―――と言う名目の首謀者釣り」であっさり決まった。

 今は女風呂を覗きにいけないように松田と元浜を反省文作成の名目で捕まえに行くまでの休憩時間だ。

 

「? 名探偵の例えは分かるけど、後がきついってなんだ? きついの今じゃね?」

 

「俺らの寿命を考えてみろ。あと一万年はあるんだぞ? それなのに初めの一年でめちゃくちゃ濃い経験積んでみろ。残りが味気なくってしょうがなくなるぞ。酔生夢死って言うのがぴったりな生き死人になるならともなく、今みたいな事件が多発する世の中を求めるようになりかねん」

 

 その最悪の例が原作のリゼヴィム・リヴァン・ルシファーだ。

 神と悪魔の戦争に最も多くの者が参加していた時代を生き、参戦していた戦士が死に過ぎて続行は不可能となった時点で酒浸りの引きこもりに。そのままだらだらとただ生きてきたが、異世界という全くの未知を確認し行動を再開。かつての戦乱よもう一度と言わんばかりに周囲を扇動して暴れはじめた。

 それ以外だとコカビエルもか。あいつも元はシェムハザ副総督同様自由にエロいことをするために組織のまとめ役やってたらしいが、戦争ばっかりやってるうちに戦争中毒になり戦争を再開させようとした。

 今はまともな精神をしていようが、動乱の時代に慣れすぎれば平和な世の中で生きる事は出来ないのだ。俺らが最も警戒しないといけないのがこれだろう。

 

「うわ、そりゃ避けたいな。戦争戦争喚いてる老害にはなりたくないぞ」

 

「だな。だからこういう事件に参加させられたときは、終わった後に手に入るもののことを考えて行動するのが良いらしい。目的と手段が入れ替わらないように気をつけろって爺さまが言ってた」

 

 今は事件を解決し協力体制を築き、俺たち下っ端は報酬を手に入れるのが目的だが、そのうち事件を解決するために事件を探し回るようになり、挙句自分で事件を起こし始める。そうならないためには手段に一々感想を持たず、目的の事だけを考えてこなすのが一番なのだ。

 そう言う意味では兵藤の乳狂いは正解だな。戦闘パートでも乳の為に力を振り絞っているし、さっきの観光も受けた任務など存在しなかったかのように楽しんでいた。これはつまり心の切り替えは完璧ってことで、精神面では文句のつけようがないな。

 唯一の懸念は乳に飽きが来ることだが、アザゼル総督はいまだに飽きは来てないようだし、兵藤もかなりもつだろう。たぶん。

 

「となると俺は学校設立を目指して頑張る感じでいいのか?」

 

「学校設立までで区切るのは問題だと思うが、それ以外はいいんじゃないか? 人材育成って完全な正解が存在しない、いくらでも挑戦し続けられる分野だし。俺も魔法とかの研究始めたのは親から勧められた以上に、上を目指せばきりがない、いつまでも続けていられる趣味だからだしな」

 

 要は永いことチャレンジできる、達成はまず不可能な事なら何でもいいのだ。燃え尽き症候群からの自殺は転生悪魔の死因でもかなりの割合を占めるからな。

 

「ま、面倒なことを考えるのは後からいくらでもできる。とりあえず、今一番やる気の出ない仕事やっとこうぜ。もう時間だ」

 

「ん? ああ、そうだな。変態が覗きに行く前に捕まえてこないと」

 

 時間が余ったのでつい余計な話をしてしまったが、仕事を忘れてはいけない。長寿の悪魔にとってやらなくてはならないことがあるのは幸運なこと。サボる癖をつけてそれを手放してしまうのはもったいない、というのも爺さまの教えなんだからな。

 

 

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