曹操たちが作った空間から解放された後は、警戒を続けたまま修学旅行に戻った。
すると時間の経過と共に、京都中に満ちていた気が二条城の方に流れていくよう調整されていくのを感じることが出来た。原作と違う言動を取っていたので、転生者にでも入れ知恵されて余所でやるかもと思ったがそれはなさそうだな。
このまま原作通りに進んで、ゲオルクかレオナルドを撃破して英雄派を瓦解させられればいいんだが、さてどうなることか……。
就寝時間間近になって、敵の実験場が二条城であることが『怪しい』から『ほぼ確実』になったので、作戦会議をしてから出発することになった。
ただなぜか会議をする場所が兵藤が泊まってる部屋。八畳一間にこの人数というのは少々窮屈だ。なぜもっと広い部屋を会議用に確保しておかなかったんだろうか?
セラフォルーさまと共に大場をとっていて窮屈さはあまり感じていないであろうアザゼル総督が、部屋の中心に敷かれた京都の地図を示しながら話し始めた。
「では作戦を伝える。現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。この指揮はセラフォルーが取る。京都駅を中心に行動していた悪魔、堕天使を総動員して怪しい輩を探っている。京都に住む妖怪も協力してくれているところだ。いまだ英雄派は動きを見せないが、京都の各地から不穏な気が二条城を中心に集まっているのは計測できている。九尾の御大将は京都の気脈を司る存在だから、間違いなく英雄派の仕業だ。やつらはこれで『実験』をするつもりなんだろう」
「『実験』って……なにやらかすつもりなんですかね、あいつら」
「わからん。気っていうのは純粋なエネルギーだからな。用途が多すぎて何の実験をするつもりなのか絞りきれん。ろくでもないことなのは間違いないだろうな。それを踏まえたうえで作戦を伝える」
アザゼル総督が由良たちの方を向く。
「まずはシトリー眷属女子組。お前たちは京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもお前たちの仕事だ。一応このホテルには強固な結界を張ってるから、有事の際でも最悪の結果は避けられるだろう。それでも不審なモノが近づいて来たら、お前らで当たれ」
「「「「はい」」」」
由良たちはなぜかほっとしたような顔で返事をする。
次にアザゼル総督は俺たちの方を向いた。
「イッセー、木場、ジョージ、匙。いつも悪いが、お前ら四人はオフェンスだ。このあと、二条城の方へ向かってもらう。今までと違って、敵の戦力は未知数だ。危険な賭けになるかもしれないが、優先すべきは八坂の姫を救うこと。それが出来たらソッコー逃げろ。奴らは八坂の姫で実験をすると宣言してるくらいだからな。あの曹操の言動からして、虚言って感じでもなかったしな」
「お、俺たちだけで足りるんですか?」
兵藤が慌てて問いかける。前線で体張るやつの意見は大体同じだな。戦力が多いに越したことはない。せめて増援から何人かつけてもらいたいものだ。
「安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。各地で『禍の団』相手に大暴れしている最強の助っ人だ。そいつが加われば奪還の可能性は高くなる」
「助っ人って誰ですか?」
木場が訪ねる。
「予想してたより強くて器用な奴が来てくれることになった。もうこいつ一人でいいんじゃないかってレベルの奴だとだけ覚えとけばいい」
「いや、教えてくださいよ。敵の増援と勘違いして攻撃してもいけないし、いくら増援が強かろうが一撃くらえば死にかねない相手とやり合うんですから油断もしないと思いますし」
兵藤なんかはアザゼル総督が太鼓判押してるってだけで信用したようだが、俺としては是非とも答えてほしい。ここで原作とのズレが出て妙なことになって欲しくないのだ。
「わーったよ。お前らの驚く顔が見たかったって言うのにつまんねーこと言いやがって。来るのは須弥山の闘戦勝仏と『
良かった。ここで原作とのズレは出てないか。というか案の定隠してたのは遊びでか。
まぁ気持ちが分からないではないけどな。
この世界では元の世界ほど神話が知られていない。主神クラスの連中の名前と、広告塔である英雄の伝説くらいだ。そして伝説で知られるような英雄はほとんどが死んでいる。その数少ない例外が孫悟空なのだ。
知らずに会えば兵藤ならさぞ面白い反応を見せてくれただろうからな。
『あの石猿と馬か。まぁあいつらなら不足は無かろう』
「! 久しぶりに修行以外で喋ったな。ヴリトラの知り合いなのか?」
匙が自分の影から生えた黒蛇に驚く。ヴリトラって本当に戦うこと以外に興味がないのか、日常生活で話をすることはまずないから俺以外のシトリー眷属も驚いてるな。
俺は修行中の教育熱心なヴリトラばかりをよく見てるんで、急に話しかけたことには驚けないんだがな。『我が分身』とまで言う相手が全力で戦う時は補助具に頼るのは情けなくて嫌なんだそうだ。なお補助具がパンツであることについては大して気にしていないらしい。さすがは邪龍というべき周囲の評価への興味の無さだな。
『かつて丸呑みにしてやった奴の部下だ。あれの下と言う時点で全盛期の我より劣るのは確実だが、現状の我が分身たちが束になっても勝てない程度には強い。戦力として期待してもいいだろうな』
「あー、ちょっと待ってくれ。お前の言ってる孫悟空の上司って誰だ? まさか帝釈天じゃねぇよな?」
『いやそいつだが?』
「マジか!? お前あいつに殺されたんじゃねーのかよッ!?」
おお、珍しくアザゼル総督が原作の事件以外で動揺してる。
『確かに止めは刺されたな。だがその前に我があいつを丸呑みにしてやった。諸仏に介入されなければやつはそのまま我が血肉になっていただろう。それに止めを刺されたと言っても一年あれば復活できる程度だ。我が奴を喰えぬよう契約を持ちかけてきたヴィシュヌと、我に気付かれることなく倒されるたびに少しずつ神器に封じていった『聖書の神』にしてやられたとは思っているが、奴にやられたとは全く思えんな』
「マジか……とんでもないこと聞いちまったな」
アザゼル総督が楽しそうな表情を浮かべる。セラフォルーさまもだ。何かよくないことを考えてる顔だな。
「楽しそうっすね」
「まぁな。今度会った時、このネタでからかってやろう。失敗談知られたからって口封じなんかしようとしたら、かえって広まって恥の上塗りになるよう準備してからな。他にはないのか?」
『他か? そうだな、例えばその時の契約で須弥山の半分は我の物となっている。それもかなり重要な部分を含めてな。契約の隙間を突かれて殺されはしたが、契約自体は残っているから、今のあいつは借家住まいだ。我に『出ていけ』と言われれば、ヴィシュヌも介入してくるので出ていかざるを得ない立場にある』
ヴィシュヌが契約を結ばせたから、ヴリトラの所有権の正当性については保証してもらえるってことか。たしかこの世界の強者ランキングでもヴィシュヌは帝釈天より上位だったし、契約を反故にすることはできないんだろう。須弥山の技術には興味があるし、今度匙とヴリトラに売ってもらえないか交渉してみようか。
「がははははっ! なんだおい! しまんねぇなぁあの爺さん! 他には!?」
『そうだな。ではメーガナーダに『
「おいヴリトラ。話が進まないからその話は後にしてくれ」
『む、そうだったな。これが終われば英雄の末裔共を焼きに行くのであった。早く済ませて向かうとしよう』
話に熱中し始めたヴリトラを匙が止めた。アザゼル総督は不服そうだが、ごねないところを見ると後で聞きに行くつもりだな。前世の知識と違うとこがないか気になるし、俺も一緒に聞きに行こう。
「あー、じゃあ話を戻すか。教会三人娘はオフェンス四人のフォローだ。前線まで付いて行って、回復役に徹しろ。ゼノヴィアとイリナはアーシアの護衛だ。アーシアはメンバーの生命線だからな、死んでも守れ」
「「わかりました」」
アルジェントと紫藤が揃って返事をする。ゼノヴィアはなぜか不服そうだ。
「アザゼル先生、私には七本中六本を統合したエクスカリバーがある。便利な武器を持てない間に技術も大分伸ばせたと思う。それでもオフェンスには回らせてもらえないのか?」
なるほど。妙に自信がありそうだと思ってたが、教会からエクスカリバーもらってたのか。原作では渡してもらえたのはデュランダルを活用するためだったと思うが、こっちでは『禍の団』相手に成果を上げたからとかそのへんか?
「ダメだな。まだ渡されたばかりで使いこなせているとは言い難いし、技術を伸ばしたと言っても攻撃系ばっかりだ。ほとんどエクスカリバーの能力を活用することはできないだろ。おおかた、他のエクスカリバーの聖なるオーラを『破壊の聖剣』に回して使ってる状態なんじゃねーのか? ジョージがそれとデュランダルを交換してくれたら、伸ばした技術もフル活用できて戦力としてカウントできるんだがそれじゃあ無理だな」
「そうですか……。わかりました、アーシアの護衛に徹します」
ゼノヴィアはこちらに一瞬視線を向けた後、アザゼル総督の指示を受け入れた。交換してほしいと思ったが、無理だろうと考え言い出さなかったみたいだな。
大正解だ。『支配の聖剣』抜きのエクスカリバーにデュランダルと釣り合う程の価値はない。無駄な問答を省けて良かった。
「でこれはあまり良く無い知らせだ。―――今回、フェニックスの涙は二つしか支給されなかった。普段から一人ひとつは持たされてるグレモリー眷属にはわかりにくいかもしれんが、テロのせいで需要が急増して品薄状態だからな。これはオフェンスチームに一個、サポートチームに一個支給する。誰が持つかはそっちで決めてくれ」
「わかりました」
俺が代表してフェニックスの涙を受け取る。
「俺は京都の上空から奴らを探す。各員一時間後までにはポジションについてくれ。怪しいやつを見つけたら、即連絡をとれ。作戦は以上だ」