転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第39話

 ホテルを出て、京都駅のバス停に向かう。

 そこに用意してある特殊な機能が多数搭載されたバスに乗って二条城まで行く予定だ。

 予定時刻より早めに来たのでバスを待っていると、厄介事の種がやってきた。

 

「悪魔たち! 私も行くぞ!」

 

 次代の九尾の姫、九重だ。裏京都での待機するよう言われたはずなのに一人で出てきやがった。

 

「おい、九重。どうしてここに?」

 

「私も母上を救う!」

 

「ッ!? 危ないから待機してるよう、うちの魔王少女さまや堕天使の総督から言われただろ?」

 

「言われた! じゃがッ! 母上は私が……私が救いたいのじゃ! 頼む! 私も連れて行ってくれ! お願いじゃ!」

 

 ふざけたことを言う九重と、それに対応する兵藤。

 つーか悪魔のオフェンス部隊の指揮官は一応俺ってことになってるのに無視して話すな。ただでさえ面倒なことをやらかしてくれてるって言うのに。

 勝手に兵藤が九重に同行の許可を出そうと口を開きかけたので殴って止めようとしたとき、足元に薄い霧が立ち込め始めた。

 それと同時に昼間も感じた生ぬるい感触が全身に広がっていく。

 英雄派のゲオルグの『絶霧』だ。

 

「はぁッ!」

 

 亜空間からデュランダルを取りだし、霧に込められた転移の力を切り裂く。いくら神滅具といえど、複数人を対象に遠隔地からの干渉ではデュランダルで防げないほどの出力を発揮するのは無理だ。いると分かっている状況じゃなおさらな。

 役目を終えた霧が晴れ、後には俺と九重、その中間にいた兵藤だけが残された。

 

「な、なんじゃ!? あやつらはどこに行ったんじゃッ!?」

 

「今の『絶霧』かっ!? クソ! 早くアザゼル先生に連絡を!」

 

 九重が慌て、兵藤はアザゼル総督に通信機で呼びかけている。通話は出来ているのでアザゼル総督は転移されていなかったみたいだな。

 だが俺は今それどころじゃない。

 転移させられなかったのは分かったのだろう。立て続けに転移効果を持った霧が発生しようとする。

 今度は人数を減らし、転移後ばらけさせる機能も無くしたのか、構成が強固で斬りづらい。とは言え斬れないほどじゃないけどな。

 発生しては斬って拡散させを繰り返し、向こうもいつまでやっても直接出て来るくらいしなければ無駄と察したのだろう。霧が発生しなくなった。

 次は移動だな。

 

「九重さん、移動しましょう。兵藤! お前も警戒は怠るなよ!」

 

「ちょ、ちょっと待て! 他の者はどうするんじゃ!? それに私は母上を救いに!」

 

 不意打ちを受けたばかりだと言うのに、その場から移動することもなく質問をしてきた。まだ子供だししょうがないのか? 悪魔も子供のうちは人間と同じ速度で歳をとるし、妖怪もそうだとしたらだが。

 

「他の者は英雄派に連れていかれました。説明は後でします。とにかくここにいると敵にばれているので早急に移動をすべきです」

 

「……わかった」

 

 うん、素直でよろしい。これ以上だだこねられたら説得してる間に先に転移させられた連中が全滅しかねんからな、納得してくれて助かった。

 

「兵藤、九重さんは俺がベイに乗せる。お前も後ろに乗れ。さっさと向かうぞ」

 

「お、おう」

 

 この状況だと魔法を使って転移したら、それに干渉されて異空間に連れて行かれかねないからな。認識阻害の魔法を使って、空路を全力で走っていくのが正解だろう。この距離なら全力疾走でも疲れないし、普通の移動手段では一直線に音速超過で移動はできないからな。

 本来向かうべきところは裏京都なのだろうが、九重がここに一人で来たことを考えるとそこは酷いことになってそうだ。脱走する九重を止められないよう、何らかの攻撃を受けそちらの対処に精一杯になっていたであろうことは想像がつくからな。預けるならセラフォルーさまが正解のはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず安全域までは来れましたね。じゃあ九重さんが八坂姫の救出に参加させられない理由でも話しておきましょうか。どうせすぐに英雄派のとこに殴り込むのは出来ませんし」

 

「頼む」

 

 悪魔陣営の陣地で九重の事を報告後、俺たちは待機室で話を始めた。戦力を小出しにして確固撃破されるのを防ぐため、同行するメンバーを連れてくるのに時間が多少かかりそうだからだ。セラフォルーさまが強権を発動して決めてくれるから直ぐに決まるだろうが、今やってる作業の引き継ぎとかがあるからな。

 

「ではまずは確認から。九尾の狐が京都妖怪の中心として認められている理由はなんですか?」

 

「京都全域の気脈の流れを司っているからじゃろう?」

 

「その通り。『禍の団』がわざわざ八坂姫を誘拐したのも、その特性があるからこそです。―――では九重さんが八坂姫を助けに行ってどちらも死んでしまった場合、どうなるか理解していますか?」

 

「あ……」

 

 これだけで言いたいことに気付けたようだ。兵藤は未だにきょとんとした顔をしているというのに、察しのいい子供だな。

 

「事件を解決したとしても京都の気脈は乱れ、そこらじゅうで怪奇現象が多発します。溢れた力に当てられて、理性を失い暴れ出す妖怪も多く出るでしょう。途方もない量の被害が妖怪や神、人間に出るのは確実です。こう言った事態を防ぐために、貴方にはこっちにいてもらわないといけないんです」

 

 あとは英雄派の実験が危険な内容であり止められなかった場合の保険というのもある。現状では力が集まり始めた段階でそんなに量は多くなく、危険なことに使おうとしても大した被害は出ない程度だが、危険域に差し掛かれば八坂姫を切り捨てて気脈の制御権を九重に移すことで集まった力を拡散させ実験を止めるのだ。英雄派が九重も異空間に連れて行こうとしたのはこれを防ぐためだろう。

 この手段をとると八坂姫は英雄派にとって価値がなくなり殺される可能性が跳ね上がるのでできるだけ取りたくない手ではあるのだが、京都妖怪たちを守るにはこれ以上に確実な手なんて無いからな。

 言ったら八坂姫の切り捨てを決行させないため、なんて理由で九重が飛び出していきかねないので口には出さないが。

 

「……そうじゃな。慕ってくれとる京都の皆を見捨てるわけにはいかん。私はここで報告を待つ」

 

 涙目で弱弱しい声ではあるが、心配する気持ちを押し殺して答えてくれた。

 立派だな。八坂姫の教育が良かったのかな? 爺さまやグレモリー卿もこれくらいきちんと育ててくれたらよかったのに。 

 

「なぁ譲治。今の話聞いてすぐになんだが、俺は九重にはついて来てもらった方が良いと思うんだ。気脈を司る力があるんなら状況をリアルタイムで見て行動してもらって方が良いだろうし、最悪を恐れて被害出すより最善を目指すべきじゃないか? 九重のことなら俺が責任もって守るからさ」

 

「………………何余計なこと言ってんだお前」

 

 九重がせっかく覚悟決めたのに引っ掻き回しやがって。根拠なしに自信満々、覚悟決めたら止まらない暴走と紙一重の一直線さが赤龍帝の強さの根源とはいえ、今それを発揮しやがって。そんなんだから原作で上級悪魔に即昇格じゃなくて、実際の権限としては下級悪魔とほぼ変わらない中級悪魔にしかならせてもらえなかったんじゃねぇか?

 

「いや俺は良かれと思って……」

 

「九重さんに単独で気脈を操れるだけの力量があればこんなに気配が弱弱しいわけがない。非常時に管理を引き継ぐって言っても天狗の長なんかの協力があって初めてできるんだよ。今連れて行っても切り札どころか足手まといにしかならん」

 

「え」

 

「そうじゃな。それができるだけの腕があればおぬしらに同行しようとせず、一人で駆け出しておったじゃろうし」

 

 辛そうな声で九重が肯定する。

 ああもう、なんで俺がこんなことを言わなきゃならんのだ。この部屋で警備しながら待機するよう言われたから一旦席を外して九重がいないとこで話すこともできないし。

 これ言ったんだし、この際だから言いたいことは言わせてもらおう。

 

「それにお前の役目は先陣切って突撃することだろうが。譲渡も直接触らなきゃ発動できないし、誰かを庇いながらだとお前も足手まといになるぞ。突っ込んでいって暴れない兵藤なんぞいない方がマシだ。守れもしないのに余計なことを言うな」

 

「うぐっ。確かにライザーさまともそういう訓練はしてない……」

 

「大体責任取るってどう取るつもりなんだ。大失敗で終わって京都が壊滅、住民は当然全滅し向こう数百年は生き物が住めない土地に。そんな事態になることもあり得るんだぞ? 魔王さま達だって責任取れないぞ。それを何の権限もない下級悪魔のお前がどう責任取るつもりだったんだ?」

 

「それは……」

 

「お前ら天龍に魅了された連中は短絡思考過ぎて作戦たてるのには向かん! 指示された通りに暴れるだけしてろ! いいな!」

 

「……うっす」

 

 凹んだ様子で兵藤が返事をするが、間違いなくこの場限りだな。この世界観で他人に叱られた程度で行動方針を変えるような精神では主役は張れない。今凹んでいるのだって先に九重を連れて行く意味がないと知ったので反論することがないからであって、言ってなかったら自分の考えを変えず「九重の意思を尊重すべきだ」と言い続けただろう。

 確実に直ぐに調子を取り戻す。

 具体的には同行者と合流して二条城に出発した辺り。場面が変われば簡単に意識を入れ替えられる奴だからな。それまではこの居心地の悪い空気も我慢するとしよう。

 

 

 

 

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