「「「
俺が三人に指示を出し終る前に、ゲオルグを除く英雄派の三人が一斉に禁手化をする。
一度死にかけたせいか、原作や昼の時とは全く違う必死な表情だ。
そのまま曹操は匙に、ヘラクレスは兵藤にミサイルを放ちつつ接近し、ジャンヌは木場に聖剣のドラゴンをけしかけ、そしてゲオルグは俺に霧を飛ばしてくる。
これが英雄派にとって最も勝率の高い分担なのだろう。実際この組み合わせで分かれて戦うと、匙が初手で大怪我を負い全力が出せず、そこでゲオルグと交代され確固撃破される可能性が非常に高い。
だがこちらの思惑にそちらが乗る気がないように、こっちもそっちに合わせる気はない。
「オラァッ!」
霧を無視して曹操に斬撃を飛ばす。
曹操はこちらを向くこともなく、球体を三つこちらに飛ばしてきた。
そのうち一つから人型があふれ、飛ばした斬撃の盾になる。
残りの一つは俺に、もう一つはデュランダルと共鳴させている槍に向かってくる。
槍に飛んできているのは武器破壊能力のある
ついでに曹操の強みはいくつある能力のうちどれを使ってくるか見分けられない事だ。そこも潰させてもらおう。
時間操作を発動させ、対処に動ける余裕を作る。
「凍れッ!」
槍に『凍結』の魔力を込めて球体に叩きつける。
球体は槍に触れる前に魔力に触れ、機能ごと『凍結』され打ち返された。
これ、地味ではあるが一応俺の切り札的な技能で、神器のみではなく魔法具、魔力、魔法力その他なんでも『凍結』させ停止させてしまう技だ。
名前を付けることでイメージが固まり威力が増大することは実証されているので、前世の漫画から『
消耗が激しいが全身に纏えば圧倒的な大火力を持ってくる以外の方法ではやられなくなるし、神滅具や格上相手でも収束させて使えば今回のように機能停止にできる。表面だけでなく機能まで凍結させられるようになるのには苦労したが、単純なだけに伸び代が大きく破りにくい能力になったと自負している。
「こっちもだ!」
俺に向かってきている球体は任意の対象を転移させる
そう思ったのだが予想外の事態になった。
「ッ!?」
何の抵抗もなく球体が二つに分かれ、即座にくっついて障壁を突き破り肩に直撃したのだ。そのせいで腕ごとデュランダルを落としてしまった。
「クソがッ!」
痛みをこらえ、オーラの操作や共鳴が途切れる前に聖なるオーラを氷球に集めて曹操に向かって思いっきり蹴飛ばした。
槍の持ち手でガードされてしまったが浮かすことはできた。さらに槍を全力で振って突風を起こし、吹っ飛ばして距離はとらせた。
匙も八坂姫の解放を優先させることでゲオルグに防戦を強いているし、兵藤と木場もヘラクレスとジャンヌを上手く釣って距離をとらせているので、分断はこれで成功だ。
フェニックスの涙で未だに聖なるオーラで焼かれている傷口を癒し、変身魔法の応用で腕を生やす。デュランダルも回収して時間操作を切った。
「今ので決まると思ったんだが……さすがは化け物。一筋縄ではいかないか。君は戦い方が基本の発展系でしかないから有用なデータはとれそうにないし、リスクばかりが大きいから早めに片づけて起きたかったんだがな」
「俺らみたいな役職も持たない小物狙って来る超小物に殺されるかよ。自惚れんな」
平然と返したつもりだが、動揺が表に出ていないだろうか。かなり不安だ。
曹操はこの世界に転生して初めて『原作知識、神話知識から予測できない力』を使ってきた。こうなると他の球体の能力も原作知識が役に立つか怪しいな。おそらく俺が把握できていない転生者―――可能性が高そうなのはヴァーリの関係者?―――の影響だろうが、それはあまり関係ない。
肝心なのはこいつが俺にとって『完全に未知の強敵』となったことだ。
自慢には全くならないが、俺の強敵と言える相手との戦闘経験は事前に情報を仕入れてからだけだ。デュランダルを手に入れるまでは防御特化だったせいで、格下は攻撃を一切受け付けないため敵とすら言えず、格上や同格相手だと弱点を調べてからじゃないと勝ち目がなかったからな。
知人への手助けで搦め手が厄介で強敵だと他の奴は思った敵と戦ったりはしたが、俺の
デュランダルを手に入れてからも、戦うのは原作知識と神話知識で手の内が分かってるやつばかり。
要は未知の敵の能力を探りながら戦うことに慣れていないのだ。というか、もしかすると初かもしれない。
そこに一人でも欠ければ確固撃破される状況であるため、逃走不可なことを加えれば確実に初だろう。
おまけに聖槍の傷を癒せるフェニックスの涙も使用してしまったので、もう後がない状況だ。
ここで曹操たちと戦うのをやめてしまえば八坂姫は再び操られ実験が再開してしまうので、逃げることもできない。
まさしく転生して以来最大のピンチと言えるだろう。
出し惜しみして切り札抱えたまま死ぬとか笑えないな。他の転生者が見てるかもしれないが『氷碧眼』以外の切り札も切ってしまおう。
新たに棺を二つ取り出し接続。
さらにユーリと戦った時の急造の物とは違う、特別製の氷の鎧を亜空間から召喚してベイと共に装備。さらに背中から生えている第三の腕にも自作の聖なる槍を持たせる。第四の腕は自作の氷製拳銃持って曹操に向けた。こっちも常時魔法力を消費する設計なんで奇襲時にはつけなかったが、正面戦闘をする今なら役立つはずだ。
「うっし、準備完了。つーか意外だな。てめーらみたいな超小物がわざわざこっちの準備整うまで待つとかさ。余裕見せて相手の全力受け止めるのは大物の特権なんだぜ?」
「こっちも英雄の末裔としての意地があるんでね。この時点でそこまでなりふり構わない行動は出来ないのさ」
動揺を誤魔化すために発した挑発には曹操は乗ってこなかった。
だが返答に嘘はなさそうだ。曹操の行動するうえでの制約が見えて来たな。
英雄というのは強大な敵を倒すのが仕事だ。
そして『強大な敵』というのはドラゴンだったり、怪物だったり、敵国の英雄だったりするが、基本的に手段にはそこまでこだわらない。騙し討ちや他力本願はよくあることだ。
ただしそれは敵が普通に戦っても勝つことはできないほど強大な存在だからこそ許されている。自分より劣る相手にすら臆して卑怯な手段をとるやつを英雄とは言わないからな。むしろやられ役の悪党っぽいだろう。
そして俺たちはここ数ヶ月多くの功績を挙げてはいるが、まだ百年も生きていないような『小物』だ。神話で例えると、赤ん坊のヘラクレスの元に送り込まれたヘラが放った蛇とか、ジークフリートに滅ぼされたニーベルンゲン族、そして三国志の曹操にとっては黄巾賊とかその辺だろう。
だから英雄の末裔として人間がどこまで行けるか試したい曹操は、俺たち相手に採れる手が制限されている。こんなところでなりふり構わず行動しているようじゃ、行けるところなんてたかが知れているからな。実際原作では兵藤一誠相手にメデューサの『
まぁなんにせよここで倒してしまえば関係ない話だが、一応なりふり構わず行動するほど追い込まないように攻め、隙を突いて殺す方向で行こう。