「それで曹操たちには逃げられちゃったの?」
「はい。匙の話しでは命を削る勢いで『絶霧』を使ったみたいです。俺に使われたわけじゃありませんし、そこまでされると止めようがありませんでした」
英雄派との戦いの後始末を増援連中に任せ、俺はセラフォルーさまとアザゼル総督、遅れてきた孫悟空相手に報告をしていた。なおシトリー、グレモリー眷属は観光に戻っている。
結局あの戦いは、ゲオルグが英雄派主要メンバーを強制的に転移させ逃がしたことで終了した。
なんでも俺たちが曹操たちと戦っていた裏で、監視を送り込まれたことにキレたヴァーリがレオナルドが造り溜めしていたアンチモンスターをルフェイとゴグマゴグに一掃させていたらしい。そのせいで造る速度が倒される速度に追いつかなかったことに加えて、孫悟空も到着したので時間稼ぎすら不可能になったので撤退を決めたようだ。
原作ではヴァーリによる仕返しは曹操に直接行われていたが、こっちの方が効果的と思ったのかこの世界ではレオナルドに仕掛けたのがこの結果に繋がったと言えるだろう。
「だがまぁ九尾の姫は無事だし、犠牲者はゼロじゃろ? 能力も一部だが判明した。上々な成果だとは思うぜぇ」
「そう言って下さると助かります」
ぬけぬけと言い放つのは孫悟空。
この猿がアンチモンスター退治に加わらず、姿を隠して異空間に侵入し俺たちの方に加勢していればそこで英雄派は壊滅させられたんだ。ただでさえ優勢だった外の戦闘に加わって撤退を決めさせたこいつには言われたくない。
帝釈天が裏で英雄派を支援している関係上倒さないように指示されているのかもしれないが、どうしてもそう思ってしまう。
この苛立ちは見抜かれているだろうな。原作知識で裏で繋がっているのを知っているからではなく、空間に穴を開けて位置が分かるようにしていたのに来なかったことに苛立っているのだと思ってくれると良いんだが。
「それよりも確認しときたいことがあるんだが、お前ら最初に英雄派の連中を一回倒したってのはマジか?」
「そうですけど……それがどうしたんですか?」
「なら決まりだな。今後英雄派と戦うことになりそうな場合、お前ら四人は参加してもらう。その方が対処が楽だからな」
「……予想はしてましたけど、やっぱりそうなりますか。個人的にはあんな危険な仕事できるだけやりたくないんですけど」
あの戦いでもそうだったが、魔術師であるゲオルグと英雄とか関係ないレオナルド以外の英雄派にとって『英雄っぽくあること』はかなり大事なことだ。そんな奴らからすると『一度負けた相手は避けて他を狙う』ことはできない。
非効率的な行動だとしても『本当に自分はあいつらに怯えてるんじゃないのか。だから効率を言い訳に避けているんじゃないのか』って思ってしまうくらいはするだろうからな。そうなった状態で他を狙いに行けば、もう『英雄』としての気概は折れたも同然だ。強いやつを何人か送り込めばそれだけで倒せる程度の脅威にはなるだろう。
こっちを狙ってきたとしても、俺たちのような『小物』相手に卑怯な手段は使えない。戦う場を整えるために『絶霧』で拉致くらいはするだろうけど、倒し方は真っ向勝負だけだろう。原作ではヘラクレスがシトリー眷属相手に人質とって戦ったりもしていたが、あれは『雑魚を使って遊んでいる』だけだったからであって、『小物に恥をかかされた汚名を返上するための戦い』でそんなことはできないはずだ。
ただいるだけでこれだけ厄介な敵の行動を制限できる駒、使わないわけがないよな。俺らがいないと向こうは「いないやつとは戦えないな。仕方ないから効率重視で動こう」って好き勝手出来るようになるし。
「俺らも責任のある立場にいるからな。やれって命令しないことはできねぇ。できるのは精々強くなるチャンスを作ってやることくらいだ」
「そういうわけでシトリー眷属対バアル眷属のレーティングゲーム、前倒しにしといたから! 日付は冥界の時間で―――よ! 頑張ってね☆」
「準備期間がなくなると、俺と匙以外の眷属は死にかねないんですが。いいんですか?」
冗談抜きに現在のシトリー眷属とバアル眷属じゃ力の差が大きすぎるからな。向こうは加減したつもりでも、あいつらにとっては致命打なんて十分にあり得る。
なにせ向こうは血筋の問題などをある程度無視し、才能と意志だけを見て選りすぐったエリートたちを、実力主義を押し通せるよう凄まじい量と密度の訓練で鍛え続けている。
逆にシトリー眷属は「弱者にもチャンスを与えよう」という平等主義の元、誰に度も使える技術を指導できる人員を集めた結果、『一族の人間だけが使える高等技術』とかを開発できていない家系の凡才ばかりが集まった。そのうえ訓練も学校の授業や生徒会の仕事が終わってから少しする程度。
おまけに訓練の内容も、基礎となる身体能力や魔力量が違い過ぎるからシトリー眷属の訓練はバアル眷属の準備運動以下だからな。
才能も努力も決意も遥かに向こうが上。これでソーナ姉さんに恥をかかせないよう試合するとなると、命を捨てた特攻くらいしかない。
それでも時間さえあれば今回ゲットした魔剣―――ほぼ俺の功績なのでグラム以外はこっちがもらった―――を一時的に使用できるようになる魔法具(消耗品。費用対効果無視)とか作ってどうにか見られる程度にはできたんだがな。だがこれだけしか時間がないともう無理だ。
「いーのいーの! 私にとって可愛いのはソーナちゃんだけだし! 事故って欠員出たらソーナちゃんにあげようと思ってる子もいるしね☆ 一押しの子はね、なんと高名な魔女の人狼のハーフなんだよ!」
「この試合でソーナ姉さんが才能の壁を理解するの前提の人選ですね。いや、まぁこの試合で理解してくれなかったら困るんですけど」
つかルガール、セラフォルーさまの推薦だったのか。駒王学園大学部にいたのもソーナ姉さんに渡すための準備か?
まぁ原作でも後の方になって才能の壁にぶつかると、ルガール以外に最上級死神・オルクスの娘ベンニーアなど優れた血統のやつも眷属にしていた。一度認識を改めさせてしまえば、さほど引きずることなく方針を変えてもらえるだろう。そう考えるとありがたいことだな。
「あの嬢ちゃんの頭は悪くないんだ。しっかり現実みせてやりゃ大丈夫だろうさ。それよりジョージ、この試合で一番頑張らないといけないのはお前だぞ?」
「俺ですか?」
「おー、そうじゃのう。お前さん歳の割に戦績は凄いのに、戦士には全く見えんからな。かといって寿命がある魔法使いたちのようにがっついた知識欲なんかがあるわけでもない。精々危険な作業をやっている、くらいじゃな。そんなんじゃヴリトラが憑いとる小僧に置いて行かれるぞ? スポーツやってる程度の感覚で構わんから、「負けてたまるか!」って思って戦ってみな」
「……善処します」
やっぱり歴戦の方々からだと俺はこういう評価になるのか。
確かに自分でも覇気の薄い方だとは思うし、五年もこの業界に関わり続けて未だに禁手化できないからな。後先考えず全力を振り絞ったこともほぼない。才能が防御系に偏り過ぎて全力を出そうが結果は変わらなかった弊害だと思う。
とりあえず今度の試合では、倒れるまで全力出して戦ってみよう。何か新しいものが見えるかもしれない。