―――獅子堂春人 side ―――
アニメのラスボス戦みたいな戦いだった。
一発でも直撃を受ければ即アウトな巨大なドラゴン相手に足止めを行い、その間に全員で囲んで移動しないようにする。
その途中で『僧侶』が飲まれたのも作戦通りだ。どちらかがわざと飲まれ、内部から魔力で炎を乱し剥がれやすくなるよう手を加えていく手筈になっていた。
限界まで炎を乱したところで、炎の外装をはぎ取りにかかった。これは俺の役目だ。
禁手『
意識を神器の深奥に潜らせておけば気配を限りなく薄くすることもできるので、近くまで運んでもらった後はギリギリまで隠れておき、強大な打撃力を伴う指向性の咆哮『獅子吼』にて外装をはぎ取った。
そこからは『僧侶』コリアナ・アンドレアルフスによるバフを受け、全員後先考えず全力の一撃を叩き込んでいく。
『騎士』ベルーガ・フールカスと愛馬アルトブラウによる、炎をランスの先端に集中させて放つ刺突。
『騎士』リーバン・クロセルによる込められるだけの魔力を込め、超重力により最大限に加速させた斬撃。
『戦車』ガンドマ・バラムによる大威力と共に、匙を絶好の位置へと弾き飛ばす拳打。
『戦車』ラードラ・ブネによる全ドラゴンのオーラを右腕へと集中させた、破城鎚じみた一撃。
そして俺―――『兵士』獅子堂春人が戦斧の面の部分を使い、レグルスの衝撃音も乗せて欠片も残さず消滅させるような止めを放った。
前世であった魔法少女アニメのフルボッコに匹敵するラッシュだったと思う。飛び切り頑丈なはずのフィールドが壊れて、亜空間が見えているくらいだ。ゲーム開始前に何故かやってきたアザゼル総督から「お前らじゃ倒せはしても殺すのは無理」って言われてなきゃここまでは出来なかったな。
全員が渾身の一撃を繰り出し、しばし動きが止まった。
「……やったか?」
「わからん。だがこの威力だ。やつもただでは済むまい」
「お前らフラグ立てんな!」
私生活では割とノリのいいリーバンとベルーガが俺の教えた漫画で覚えたセリフを言う。
まぁシリアスな空気を続けたくなくなる気持ちも十分にわかる。
こいつらも嫌でも感じ取っているのだろう。匙をフルボッコにした直後から、どんどん禍々しいドラゴンの気配が増大していくのを。
「…………」
「コリアナ、背に隠れろ。お前の補助が我らの生命線だ」
高い対魔力をもつガンドマが翼を広げて攻撃に備え、完全龍化したラードラがコリアナを背に庇う。匙の呪いに対抗できる『僧侶』を守るための布陣だ。普通攻撃に備えて護衛に着くのは反射速度の高い『騎士』の仕事だが、『騎士』コンビじゃ逃げは出来ても守るのは出来ないからな。普段は全く使わない陣形だが、このゲームの為に特訓した。
だがそれは、完全に無駄に終わったようだ。
「「「――――――――ッ!?」」」
木々が枯れ、土が乾き、崩れかけていたフィールドは大穴があき、対魔力の弱い者も干からびていく。コリアナはギリギリで自身の魔力を高めて防いだが、耐え切ることは出来なかった。倒れた者たちの体が光に包まれて消えていく。
『ソーナ・シトリー選手の『戦車』一名、『騎士』二名、『僧侶』二名、『兵士』一名、リタイアです』
『サイラオーグ・バアル選手の『騎士』二名、『僧侶』一名、リタイアです』
見てないところでシトリー眷属までリタイアしてる。ひょっとして匙のやつ暴走してんのか?
そう思いつつ観察していると、空中を漂っていた黒い火の粉が炎になり、中から人型が現れた。肌が黒く、目が黄色くて、白い牙が生えているが、アレはおそらく匙だ。気配はかなりヴリトラのが強くなってるがな。
「……それって禁手か? 状況的にはそれしかないはずだけど、なんか違う気がするんだが……?」
「ちげぇよ、ただの肉体のドラゴン化。力を引き出す代償に体を差し出したなら、誰にでも起きてる事だ。それがさっき粉々にされた肉体を再構築したときに完了したってだけだ。ここまで宿ったドラゴンの性質を引き継いで、全身がドラゴン化したのは俺が初めてだろうけどな」
「……心当たりあるかラードラ?」
当たり前のことを説明するように匙が言うが、現実を受け入れきれない。ドラゴンを司るブネ家出身のラードラにさらなる説明を求めた。
「確かにドラゴンに限らず、封印系の神器すべてに言えることだ。封じられた魔物の力を借りる代わりに、肉体を差し出す。一度差し出せばそれ以降は魔物に肉体を浸食され死に至ると言うのは。だが全身がドラゴン化するまで生き延びたなど聞いたこともないし、もしそうなれば肉体の制御権も乗っ取られるだろうと言うのが通説だ! こんな風になるはずがないッ!」
『そんな常識、こいつに通じるわけがなかろう。ただの神器所有者ではない、我が「半身」と認める相手なのだぞ? この程度できて当然だ』
俺同様困惑が隠せないラードラに対し、ヴリトラは呪いの炎で体を作って言い返す。
『まぁ周囲に食糧が少なかったせいで、我と半身の二体分の体を構築することは出来なかったがな。赤龍帝が呼び寄せる騒動に巻き込まれていればじきに復活は出来るだろうが、それだけは残念だ』
「ヴリトラ、仲間を食い物扱いするな。さすがに怒るぞ」
『そうは言うがな、我にとってあれらは仲間には思えん。いくら対策を持たずに近くにいたとはいえ、体を再構築するために少々大きく息を吸っただけで致命傷を負いかけるような有様ではな。力の差が大きすぎる。せめてそこにいる者達程度は頑丈でないとな』
「人には得手不得手があるんだから無茶言うなよ……」
全くだ。俺もそう思う。
今「大きく息を吸った」と言っていたが、たぶん一定以下の対魔力を持たないモノから力を吸い尽す攻撃だったのだろう。だから防御力の高い『戦車』と鎧を纏った俺は助かった。
だがその『一定』って言うのが高すぎる。コリアナ達だって大人の悪魔を含めても上位の対魔力を持ってたんだぞ? それでもダメとか感覚狂い過ぎだろ。
そう思いながら隙を窺うも、全然見当たらない。周囲から吸い上げ続けているせいで気配が外に漏れず、どちらからの攻撃を警戒しているのかさっぱり読めない。どう攻めればいいんだこれ。
『そんなことより我が半身よ、お前はまだ力の制御がなっていない。そこにちょうどいい練習台がいるのだから戦ってみろ』
「そうするか。つーわけでちょっと付き合ってもらうぜ」
「「「…………」」」
「ん? どうしかたか?」
「やっべぇ――――――ッ! 完全に未知の敵だこいつ! どうすりゃ勝てるんだろうなッ! 楽しそうじゃねえかッ!!」
「ありえん事態に動揺してしまったが、今回のゲームは完全に訓練のための物。おあつらえ向きの状況になったと言えるだろう。この壁を越えたとき、我らの手には何かが掴まれているはずだ」
「……相性が悪かった連中には申し訳ないが、こいつは我らだけでいただくとしよう」