第5話
「え、兵藤眷属になっちゃったのか?」
「ああ、堕天使の襲撃とか関係なくな。どうするよ、これ」
誠二が眷属になって十数日後、兵藤一誠までリアスさんの眷属になっていた。
誠二の話によると、どうも特に理由とかはなくなんとなく欲しくなったので悪魔について説明し、眷属にしたらしい。
なんじゃそりゃ、と思ったがなってしまったモノはしょうがない。例によって例のごとくリアスさんの驚異的な引きの良さが顔を出しただけだろう。深く考えるだけ無駄だ。
「これじゃあアーシアが仲間になるかわかんねーぞ。ならなかったら俺ら、原作の事件で負けそうなんだけど」
「治療役は地味に重要だからなぁ。ま、別にいいじゃねぇか。堕天使には影響出てないはずだから、この街には来て原作の事件を起こすだろしな。そん時神器だけ貰って、その辺の下級悪魔にでも入れて眷属にすればいい。リアスさんのとこのなりたいって領民は腐るほどいるだろ」
回復だけで戦闘能力を期待してないなら、神器を埋め込んだせいで魔力が使えなくなっても問題ないしな。それに埋め込んだ後で『僧侶』を使って転生させれば、その状態に体が馴染んでまた魔力を使えるようになるかもしれない。そうなれば狭い場所でも自衛ができて回復力も十分な、アーシア以上に使い勝手のいい人材にできるはずだ。
「そりゃそうだろうけどさ。それだとアーシア死んじゃうじゃんか」
「それは仕方ないと割り切るしかないだろ。だって元聖女なうえ堕天使といたんなら、普通は悪魔の敵だし。真っ当に対処したら堕天使ともども殺さないといけないんだぞ?」
「うぇ、マジで?」
「ああ、堕天使の支配下にある神器持ちって、裏切り対策に大抵改造されてるからな。説得とか普通は不可能だよ。殺さずに捕まえられたとしても、トロイの木馬な可能性が高いからまず殺すし。あらかじめ接触して、改造前だと分かってないと助けるのは無理だ」
「……ならしょうがないか。兄さんが偶然遭遇する可能性に賭けるとしよう」
「それが一番可能性があるだろうな。厄介事を引き寄せる赤龍帝に、異常なほど引きのいいリアスさん、ドラゴンに異常に好かれるアーシアが揃えばどんなことが起きてもおかしくないし。案外原作通りに行くかも」
原作通りに行ってました。
「マジか……」
「ジョージッ!? 悪いけど助けてくれ!」
街を歩いてたら妙な気配と音がしたので覗いてみると、兵藤に美少女シスター、はぐれのエクソシストっぽい白髪神父、あと惨殺死体がいた。
こんな場面、どっかで聞いたことあるなーと思いながら家に入る。
「兵藤、お前ボロボロじゃんか。どしたの?」
「ぐっ……それが――」
「いきなり出てきてな~に俺のこと無視してやがるんすかねぇ? なめた真似してるとぶっ殺しちゃいますよっと!!」
白髪神父が光の弾丸を撃ってくるが、俺には通じないので無視する。『戦車』の特性も十分引き出せてる『女王』相手にその程度の攻撃は通じないぞ。防御する必要すらないわ。これならこいつに光力を与えている堕天使のレベルもたかが知れてるな。
「でもお前にとってはヤバい状況だったみたいだな。とりあえずオカ研部室までは転移させてやろうか?」
命に別状はないだろうし、後遺症もまずないだろうが、光でやられた傷なら早めに治しておいた方が良いしな。自然治癒じゃあなかなか治らないから。
だが兵藤はすぐには応じず、美少女シスターの方を心配している。
「アーシアも一緒に頼めるか?」
「ん? なぁお嬢さん、あんたもこいつとオカ研部室まで行きたいか?」
「え、えっと、はい、行きたいです!」
「だーかーらー、俺の事無視すんなって言ってんじゃねぇですかこのクソ悪魔が!」
キレた白髪神父が斬りかかってくるがやっぱり皮膚で弾かれる。いい加減ウザくなったので適当に蹴飛ばしておいた。もう起き上がらなくなったし、奪えるようなものも持ってなさそうだから放置でいいな。
さて話の続きだ。そう思いアーシアの方を見ると、兵藤の治療をやっていた。
「今すぐ治療をしなくても別に問題ないぞ。それより話の続きだ。オカ研部室までの転移の対価だが――」
えー、もうそれはいいじゃん。みたいな顔をする兵藤とアーシア。甘いな、悪魔にお願いしといて「やっぱなし」が通じるとでも思っているのか。話の場を整えるだけさせといて、それで本来の用が済んだからと追い返すような真似を許していれば悪魔の仕事が成り立たなくなるんだ。だから今さらだろうと願いはかなえるし、対価も相応の物をもらうぞ。当然『命が危険な状況から安全な場所に運ぶ』ことに釣り合う対価をな。
そのことを説明するために口を開こうとしたとき、唐突に魔法陣が現れた。これはグレモリーの魔法陣だな。
「遅いっすよ、リアスさん。兵藤、死ぬとこでしたよ?」
「それは大丈夫よ。少し前には気づいてたし、さすがに死ぬ前には出てくるつもりだったもの」
「そっすか。なんですぐ来なかったか聞いても?」
「悩んでたのよ、そこのはぐれエクソシストやその仲間の堕天使をイッセーの踏み台にできるかもって考えて。大切な友達のためなら神器を使えるようになるかと思ったのよね。だけどそのためにはセージにはどこかに行っておいてもらわないといけないし、相手の戦力をイッセーの敵にふさわしい程度に分散させないといけないし、割と面倒なのよ。ここまで労力を払わなくてももっと楽で確実な方法もあるんじゃないかって思えてね」
やっぱり原作の裏ではこういったことがあったのか。ただこの辺は俺たちのせいで若干変わってしまった、と。
事件に巻き込まれて死亡し悪魔に転生、ではなく、悪魔に転生してから事件に巻き込ませるというのは確かに無理があるもんな。だって眷属として事件に関われば兵藤が活躍するまでもなく他が活躍して終わるし。主の制止を振り切って向かうにしても弟である誠二がいては『兵藤への試練』にはならないしな。今後のことを考えるとその場にいたなら協力させないわけにはいかないし、協力させたらやっぱり兵藤は何もしなくてよくなっちゃうから。
「なるほど。でもこいつの前で話すってことはもう諦めたっていうことでいいんすか?」
「ええ。私たちだけの問題ならともかく、シトリー家まで関わってきちゃ絶対に割が合わないもの。とりあえずそこの子の対価は私が立て替えておくわ。その子から私への対価はイッセーの治療と言うことで」
「了解です。じゃ、先にこの子はオカ研部室に送っときますね」
状況の変化に付いて行けてなかったアーシアの足元に転移魔法陣を展開する。アーシアは驚く暇もなく飛んで行った。
「じゃあ私たちもイッセーを連れて戻るわね。対価は後で、って、あら?」
「堕天使ですわ。ここに近づいてきてます。数は4、この街にいる堕天使全員ですね」
誠二に兵藤を助け起こさせていたリアスさんが怪訝な顔をし、姫島さんが即座に探知の魔力を放って事態を探る。どうもおバカな下っ端堕天使たちは既にいないことも分からずにアーシアを回収に来たようだ。
兵藤は敵の接近に怯えるが、リアスさんたちは全く動じず俺に依頼をしてきた。
「私たちはイッセーの治療があるから任せていいかしら? 対価はイッセーの治療分と合わせて支払うわ」
「雑魚の掃除するだけだから別にいいっすけど……依頼人殺されてんのに自分で始末つけなくて大丈夫なんすか?」
「いいのよ。だってその人、ここの所対価が支払われてなかったもの。お得意様だからツケも認めてたけど、払えなくなったのなら取り立てるしかないわ。彼だって契約違反で魂をとられて擦り切れるまで労働させられるよりは、はぐれエクソシストに殺されて生まれなおした方がマシでしょう?」
「それならいいんす。じゃ、後は任せてください」
「ええ、よろしく」
それだけ言ってリアスさんとその眷属一同は去っていった。これで堕天使に包囲された家の中には俺が一人いるだけだ。
「周りに人がいないと対象を選ばなくていいから楽だな。とりあえず氷漬けにでもしとこう」
研究試料ゲット。これだけで依頼の元は取れたな。
この後のグレモリー眷属については俺はノータッチだったのだが、原作通りアーシアはリアスさんの『僧侶』になったらしい。回復役ができた! と誠二は喜んでいたが、俺としてはアーシアを部室まで運んだ報酬を上乗せしてもらえたのが嬉しかった。これでさっそく手に入れたばかりの試料を調べることができる。