第50話
グリゴリから帰ってきた後で、報告も兼ねてシトリー眷属一同は会議を開いていた。
場所は駒王学園ではなくシトリー家の屋敷。駒王学園での会議だと生徒会会議っぽくなるからこっちでやる方が俺としてはありがたいんだよな。
「というわけで俺はまだ強くなれそうです。現時点でもアザゼル総督に『
「それは良かった。これまで以上に頼りにさせてもらいますよ。で、匙はどうなのです? 無茶な改造はされていませんか?」
ソーナ姉さんは心配そうな表情で匙に尋ねる。
今は収まっているが、検査に行く前は周囲にいる者から少量ながら力を吸い続けてしまう状態だった。ヴリトラ曰く「生態のようなもので、吸う量を加減することはできるがやめることはできない。止まるとすれば一度死んで復活するまでの間くらい」とのことだ。
そして今、ソーナ姉さん達には匙の近くにいるのに力を吸われている感覚がない。これからアザゼル総督が何か手を打ったのは分かるのだが、あの人こういうことでは全く信用がないからな。なんか余計な改造されてるんじゃないかと心配になってしまうのは仕方ないだろう。
「大丈夫です。体の中に残ってた神器の残骸を吐き出すの手伝ってもらって、日常生活用に『ドラゴンを封印する』効果を持った人工神器貰っただけですから。俺自身はいじられてません」
「……神器の残骸? 壊れていたんですか?」
「いや、ヴリトラが神器から俺の体に引っ越したんで、抜け殻みたいになってたみたいです。なんか引っかかってるみたいで違和感あったんですけど、大分よくなりました」
「ただ神器の残骸は半分もってかれましたけどね。あそこまで綺麗に封じてた魂が抜けただけの神器は堕天使も見たことがなかったそうですから、いい研究試料になるんでしょう。別の魔物の魂を詰めて人工神器を作るのも割と簡単にできそうでしたし、元は向こうの物とはいえちょっと惜しかったですね」
神器が壊れる時は基本的に所有者も死んで修復された状態で転移するので、壊れた状態と言うのはまずない。封じられたドラゴンの魂だけが抜けたモノとなればなおさらだ。そのためソーナ姉さんでもすぐには信じられなかったみたいだな。
なお神器は匙への移植の時点でシトリー眷属の物――つまりソーナ姉さんの物となっているが、ソーナ姉さんは価値を理解しきれていないので全部渡しかねなかったからな。現に今も魂を込めれば簡単に人工神器を作れるって言ってるのに、どんなのが作れるかとか聞いて来ないし。だから爺さまに連絡を取って持って行かれる量を半分まで抑えた。
あと研究試料分を除く抜け殻の大半はソーナ姉さんの指示があるまで倉庫に眠らせておくつもりだ。魂を込めて人工神器を作るのは簡単でも、この抜け殻状態に戻すのは無理そうだからな。
「まぁ問題がないようで安心しました。では次の話題に移りましょう」
そう言ってソーナ姉さんは俺と匙に改めて視線を向けた。
「ジョージと匙に昇格の推薦がきました。これで試験に受かればジョージは上級悪魔に、匙は中級悪魔になれます」
「ッ、マジっすか!」
「これだけ功績たてたんですから、順当なところですね」
匙は驚き喜びの表情を浮かべるが、俺は平然としていた。推薦を出さないという選択肢はないくらい成果を上げているからな。後ろ盾も立派なのがいるし、推薦してもらえない方がおかしいのだ。事前に推薦を受けた後の事も魔王さま方やアザゼル総督と相談済みである。
一通り他の同僚から祝いの言葉を貰った後で、匙が何かやばいことに気付いたみたいな顔になった。
「……そういえば、お前英雄派に対する囮の役割どうするんだ? 何の役職もない悪魔だから英雄派は行動が制限されてたのに、土地持ちになっちゃダメじゃね?」
真っ当な指摘である。だからこそ対処法はもう見つけている。
「そうだな。だから今回の試験は滑るつもりだ。ただ『悪魔の駒』は今後の戦力増強の為にほしいから、領地運営に関するテストだけめちゃくちゃ低い点を取る予定だな。それで他は高得点をとれば土地はまだもらえなくても、事前の功績と合わせて昇格と『悪魔の駒』の授与くらいはしてもらえるし」
「えっと、そう言うのってありなのか? 悪魔のルール的にも、英雄派の行動制限的にも」
「ありだぞ? 土地は持ってないけど上級悪魔で眷属持ちって、要はソーナ姉さんやリアスさんと同じ状態になるだけなんだよ。領地を継げない第二子、第三子のために、土地は申請しとけば試験に受かったときに魔王さまから下賜してもらえる制度もあるから問題ない。英雄派についても自由に動けるほどの階級でもないから大丈夫だ。神々ぶっ殺すって息巻いてるのに、このレベルの相手にそんなことやってたら神器に愛想尽かされて禁手すら使えなくなりかねないからな」
ついでに言うと、土地貰えるまではアザゼル総督経由でこっそり金もらえることになってるから財政的な問題もない。眷属に土地を分けてやれない分の金銭を支払うのには全く問題ない額だからな。
説明を聞いて納得したのか、話題が別の事に移る。
「ていうか受かるの前提で話してるけど、試験は大丈夫なの? 実技だけじゃなく筆記もあるし、上級は勿論だけど中級だってかなり難しいんでしょ?」
「うげ、そうだった……」
「俺は余裕だ。難しい方の領主としての能力試験は落とすつもりだし、レーティングゲームの試験って書いとけば正解な試験だしな」
「え、上級への昇格試験って中級と違って戦術とかの問題も出るって聞いたんだけど、レーティングゲーム絡みの問題ってそんなに簡単なの?」
ソーナ姉さんの夢であるレーティングゲーム学校の設立、俺以外の全員がそれに賛同しているだけあってこの話題には食いついてきた。
俺の知り合いの昇格試験合格者曰く「レーティングゲームの結果が出世にかなり影響する現状だと、割と多くの受験者が引っかかってしまう罠」らしいしこいつらもそうだったってことか。
「簡単って言うか、正解がないって感じだ。一応定石みたいなものはあるってことになってるんだが、チームの構成や敵チームとの関係、その日の体調、気分、その他色々な要素で取るべき戦術は変わるからな。傍目には愚策にしか見えなくても、本人とその眷属にはぴったりな戦術って場合もあるし。だからレーティングゲーム絡みの問題は、眷属もいない現時点では勉強とかするだけ無駄なんだよな。ぶっちゃけ受験者に無駄な勉強させるためのひっかけ問題だ。
あとはまぁ、上級悪魔にとってレーティングゲームの腕ってそこまで重要なことじゃないんだよ。だから少々成績が悪くても問題視されなくて、書いとけばOKみたいになった」
「でもレーティングゲームの順位が上下関係とかにかなり影響してくるって聞いたんだけど……」
「確かにそうだが、それだけで関係が決まるわけじゃないしな。あくまで評価要素の一つってレベルだ。戦闘能力は自分の領地―――つまり有利に戦えるよう準備できる場所で領民の手にはおえない害獣とか犯罪者をどうにかできるだけのものがあれば、他のフィールドでは全然勝てなくても職務に問題はないわけだし。攻めるのはそう言うのが得意な少数精鋭に任せた方が効率的だから下っ端の上級悪魔にはそんな仕事回ってこないしな」
「なるほど。それじゃあ確かに重要とは言えないわね」
全員納得してくれたようだ。レーティングゲーム学校の無茶苦茶さについてもこれくらいの理解をしてくれれば楽なのになぁ……。
ま、その辺は置いとこう。もういっそのこと一回やって派手に失敗するのも必要かと思えてきたしな。
「だけどやる気はある、悪魔のルールに従って生きていくつもりもあるってアピールは必要だからな。試験勉強は真面目にやらないと駄目だ。つーわけで匙、これから『魔王少女レヴィアたん』一期から全部見るぞ」
「それいるのッ!?」
「必須だ。自分の主の家系が輩出した魔王が手掛けた作品だからな。ここ落すと大幅減点もありうる」