「あー、ようやく終わった。どうだった、そっちは?」
「筆記はどうにか。実技の方は問題なかったけど、ちょっと兄貴がやり過ぎてな……」
俺と匙、そしてグレモリー眷属受験組―――兵藤兄弟、木場、姫島さんの四人―――は試験を終え、他のメンバーが待つ貸し切りのレストランに来ていた。
レストランにはシトリー、グレモリー眷属が全員集まり、普段は食べられない高級な食事に舌鼓を打っている。保護者枠で参加したアザゼル総督は監督を放棄して浴びるほど酒を飲んでいた。変装したオーフィスもデザートに夢中だ。
例外は塔城とギャスパー。仙術で気配を偽装して飯を食ってる黒歌とルフェイを睨み殺す勢いで警戒している。ギャスパーはそれを見ておろおろしてるな。
実害はないしほっとこう。黒歌が何かやらかす前に殺しておきたいのは俺も同じだが、今黒歌を殺せばヴァーリの作戦の邪魔になって報復が来るだろうし、曹操との戦いでの戦力が減る。
「周りが異常なうえに赤龍帝としては成長遅い方だしな。自分が同期の連中からは飛び抜けて強くなってるなんて言われても信じられなくて、加減ミスるのは仕方ないだろ。繰り返さなけりゃ特に罰則とかはないだろうから心配しなくても大丈夫だぞ」
「そうか。それならいいんだ。で、この後の事なんだが……」
「曹操か。まぁ来るって考えといた方が良いんじゃないか? ヴァーリが連れてる方を襲うか、両方同時に来るって可能性もあるが、備えておいて損はないだろ」
「だよなぁ。だから俺、使い魔の皆も連れて来たかったんだけど、止めらちゃったんだよ。正直不安だ」
「ああ、そういやお前精霊使いだもんな。俺だと魔法具全部なしみたいな状況か。そりゃ不安だわ」
レーティングゲームでは特別ルールを除いて『一定以上の強さを持つ使い魔』は連れていけないのと同様に試験でも本人の実力を見るって形式だったし、宴会で剣を振り回すのがマナー違反なように使い魔を大量に連れ込むのもマナー違反だ。それで止められたのか。
そのうえ精霊は魔剣のように亜空間にしまっておくわけにもいかない。
そのせいで誠二は戦力がた落ちだ。不安になるのも仕方がないか。
「ま、大変なところは兵藤に押し付ければいいだろ。あいつなら大抵の事はどうにかするさ」
「それが嫌だから何かしたいんだがなぁ……。だけど無茶して逆に兄貴に迷惑かけるのも嫌だし、援護に徹するか」
「そうしとけ。余程切羽詰ってなければ全力が出せないときや相性が悪い相手の時は誰かに任せて、有利な相手の時だけ戦えばいいんだ。それがチームワークってもんだろ」
「そういうもんか」
「そんなもんさ」
その後は日々のたわいもないことを話しながら飯を食っていると、ぬるりとした気配と共に辺り一面を見覚えのある霧がつつんでいった。
「隔離されたな」
「だな。曹操が俺らを遠ざけるとは思わなかったから油断してた。意地張って罠とか張らずに来ると思ってたぜ」
霧が晴れると俺と誠二は『絶霧』で複製されたホテルの駐車場に転移していた。他のメンバーは見当たらず、壁や天井や床は霧で覆われて補強されており、出入り口も霧で塞がれている。これでは邪魔がなくても脱出にはかなりの時間を要するだろう。
で眼前には大量のアンチモンスター、そしてそれを率いる巨漢が一人現れていた。英雄派のヘラクレスだ。
兵藤たちと同じ空間に転移させられるようだし、距離があったせいでオーフィスの転移を阻害することもできなかった。だから抵抗せずに転移させられたんだが、もう少したいさくはうっておくべきだったか。
「ようゲオルギウス。雪辱戦に来させてもらったぜ」
「手下大量に連れてか?」
「こいつらは露払い用だ。そっちの坊主には用はないからな」
いらだたしげに返事をしてくる。真っ向勝負を挑む度胸がないと言ったともとれるこちらの反応が気にくわないようだ。
おそらくヘラクレスは自身は純粋に雪辱戦目的で来ているのだろう。こいつは曹操とは違って「英雄ならばこういうことをしなくては」とか「英雄になるならこれはしてはいけない」とかめんどくさいことを考えるタイプではない。やりたいことをやりたいようにすることこそ英雄の末裔にふさわしい振る舞いであり、だからこそ借りを返さなくては気が済まないってタイプな気がする。それを曹操が俺らを遠ざける言い訳に使ったってところか。
俺個人としてはありがたい展開だ。一番目と二番目の強敵が俺の対処を嫌がり、三番目くらいの奴と戦うのでよくなるなら楽でいい。
それにアンチモンスターの壁の向こうからミサイル乱射されたら厄介だからな。この囲まれた空間だと躱しづらいし、時間もかかる。職務的にも乗って問題はない。
その分兵藤の負担はでかくなるが、まぁあいつの事だからどうにかするだろう。サマエルに関しては完全に運任せだが、一応対策はたてた。オーフィスにプレゼントしたヒュドラの毒入りペンダント、あれが役に立ってくれることを祈るばかりだ。
「もっと言うならそこの転生者が観客に徹するならこいつらも何もさせねぇし、向こうの増援にも行かせねェ。見かけは普通のと同じだがこう見えて上位神滅具を組み合わせて造った特別製だ。こいつらの対処はお前らでも万が一があるし、確実に足止め出来るんだ。悪い条件じゃねぇだろ? かわりに勝負がついた時の言い訳は絶対に認めねぇ」
ヘラクレスは完全な勝利が望みか。英雄派としても誠二が暴れずアンチモンスターを倒さなければレオナルドが減った戦力を補填する必要もなく、この後で別の任務にあたることが出来る。ヘラクレスを上手く使ってやがるな曹操の奴。
「なぁ譲治、俺は受けるのがいいと思う。時間的にもこっちの方が早く済みそうだし」
誠二はヘラクレスの誘いに乗ることを提案してきた。ならもう何の問題もないな。
「よし。ヘラクレス、お前の提案に乗ろう」
「それでいい。ならさっさと武器を構えな。俺も準備があるし、ここまでやっといてそんな妨害したりはしねぇからよ」
そう言ってヘラクレスは首筋にピストル型の注射を打った。原作知識通りなら「
ヘラクレスの体が脈動し、かなりデカかったとはいえ人間サイズだった体が人間とは言えないモノになっていく。
身長は4メートルを超え、獅子のような頭部になり、全身に棘が生えた怪物のような姿になっていく。おそらく全身の棘は禁手状態でのミサイルだろう。変身中に攻撃しようものなら大爆発を起こして良くて相打ち、悪けりゃこっちだけがやられそうな予感がする。あと頭部の形から察するに、『獅子王の戦斧』同様に遠距離攻撃の無効化能力とかも持ってそうな気がする。気がするだけだと思いたい。
見てばかりもいられない。こちらも戦闘準備を整えなくては。
まずいつも通りデュランダルと聖槍を構え、腕が四本生えた鎧を纏い、そこに四本の魔剣を握らせる。ベイにも馬鎧を着させる。
次に『棺』だが、今回は間合いが狭く、ヘラクレスの元の能力的に広域攻撃と耐久力が高いのは予想できるから、時間操作を生かせそうにない。よってユーリの棺はなし。
摩理の『棺』も万が一壊されるようなことがあってはならないから使えない。
となると使いこなせる数は現時点では三つが限界なので、堕天使キメラの『棺』に加えて、ヘラクレスの対魔力でも貫けるように威力重視のを一つ、防御のためのを一つ出すとしよう。
「そっちも準備は済んだみてぇだな。それじゃ、始めるとしようかッ!」