転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第59話

 空気にだって抵抗があり、柔らかい地面で走れば土が跳ねて力が逃げる。

 これらは一般の人間でも実感できることであり、人外種の場合だとエネルギーのロスも尋常じゃなく大きくなる。特にスピード特化で頑丈さのない木場のような奴の場合、もろに空気抵抗を受ければミンチになる可能性すらある。まぁそれ以前に空気が邪魔で加速しきれない程度で収まるだろうけど。

 ゆえに大抵の人外種は「空気抵抗を無視できる」「地面を踏み砕かずに走れる」等の現象を無意識かつ適度に起こす生態をしている。これは悪魔も例外ではない。

 だが今回俺は自己暗示によって「適度に」の部分を狂わせた。そのついでに魔力の制御も若干狂わせ、行動すべてに過剰に魔力が乗るようにする。

 その結果がこれである。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

 声を出すだけで周囲の物は凍てつき砕けて吹き飛んでいき、剣を振るえば衝撃波と共に吹雪が生じ、一歩進めば地面が砕けて礫が飛び散り霜に覆われていく。辺りの気温は一気に下がり、神の血も流れていない人間相手に活躍した英雄の末裔ごときでは対策なしだと即氷像になる環境へと変化した。

 仲間も巻き込むため連携が取れなくなり、速度も落ち、動きの精度も悪くなり、一撃の威力もガタ落ちするとデメリットだらけの戦い方だ。素の耐久力の高いサイラオーグさまやヘラクレスを相手にする場合は間違いなく悪手だろう。だが衝撃波や冷気が絶えず敵を襲うため一発当たれば沈む曹操と一対一で戦うのには適している。

 なによりこう言った技術も戦術もなく暴力を叩きつけるだけの戦闘スタイルは『怪物』っぽくて、『英雄』になれるだけの力があったか試したい曹操には最適の障害だと思うって言うのがこれを選んだ最大の理由だ。害獣ならともかく客相手なら気を使うんだ、俺は。

 

「……! …………! ………………!」

 

 俺が適当にまき散らした魔力に遮られて良く見えないが、曹操のいたあたりがぼんやりと光り続けているのでまだ生きているようだ。聖愴の力を使って球形の防壁でも張って、その中に籠っているっぽい。

 とにかく今は耐え、どうにか隙を見つけて致命の一撃を叩き込むつもりなんのだろう。俺は手札を最低五枚伏せているから間違った手ではないし、まさしく『怪物』に挑む『英雄候補』の図でいい感じだ。

 なら俺も怪物役らしく出し惜しみせず全力を出そう。

 ヘラクレス戦でも使った『棺』で『龍の籠手』と『龍の光翼』の禁手を発動。出力が四倍になり、それを突破したとしても俺へのダメージが8分の一分になった。

 次に光を吸い取る闇を生み出す属性攻撃系神器―――これも例のごとく堕天使から買った―――を埋め込んだ魔法使いが入っている『棺』を起動させる。まき散らされる冷気や氷塊に闇が混ざるようになり、曹操は絶えず防壁を補修し続けなければならなくなった。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

 さらに俺自身の禁手(バランス・ブレイカー)聖馬守護する自己領域(エリア・オブ・マイン)』を発動。俺の魔力が散布された一帯を『俺』にする。俺から離れれば多少はマシになった冷気が、最も過酷な環境で均一化された。

 加えてユーリの固有時操作の神器を発動。俺の内部の時間を操り、領域内に時間が早く進む場所とゆっくりしか進まない場所をランダムに作成した。考えなしに進めば体は超高速で進んでいるのに首はゆっくりとしか進めず千切れる、なんてことも普通に起きる環境だ。

 最後に堕天使キメラが入った『棺』をバッテリーとして使用し、これを曹操が死ぬか氷漬けになるまで叩きつけ続ける。

 さぁ曹操よ、英雄に足るだけの力があると言うのならこれを乗り越え俺に刃を届かせて見せろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――曹操 side ―――

 

 最初の一撃で殺しそこなった。

 この戦いが始まって、最大の失敗がそれだ。

 俺はもう立場に縛られ行動を制限されはしない。それゆえ怪物退治において基本である一撃必殺を狙ったのだが、左腕を犠牲に防ぎきられてしまった。今では聖なるオーラが付着した部分も切り離され、完全に元通りになってしまっている。

 そこから先は一方的だ。一撃でも貰えば死にかねないレベルの暴威が絶えず襲い掛かってくる。

 だから今は防戦に徹する。迂闊に反撃しようとすれば防御が甘くなり、ゲオルギウスにたどり着く前に死ぬだろうからな。隙を見つけ、倒せる状況に持って行くべきだ。

 幸い俺の禁手はこういった状況にも対応できる万能性を持たせている。

 自在に巨大化、分裂、変形可能な将軍宝(パリナーヤカラタナ)に攻撃を受け流す珠宝(マニラタナ)を組み合わせて攻撃を受け流す防壁を球形に展開。居士宝(ガハパティラタナ)で人型を作り、馬宝(アッサラタナ)で転移させて安全なルートを調べつつ象宝(ハッティラタナ)で飛んでいく。

 進みながら分かったことだが、この攻撃には癖がある。本人的にはランダムのつもりなのだろうが、常に全力で叩きつけているためにリズムのようなものが出来てしまっているのだ。単調と言ってもいい。

 これを完全に見抜ければ、一気にゲオルギウスの元まで飛んでいくことが可能だ。だがリズムに気付いていることを気づかれてしまうと違った行動をし始めるだろう。特に動き回られれば槍が届く距離に入ることすら難しくなり、無理に届かせようとすれば守りが緩んで氷像になるか体が千切れる可能性が高い。出来ればその手段はとりたくないな。

 気づかれないよう慎重に進み、間合いに入れば即座に仕掛けるのが最善だ。最高のタイミングを見計らうなどしていれば先に仕掛ける体力も無くしてしまいそうだし、賭けに出るしかないだろう。

 

 じりじりと距離を詰めていく。攻撃はまだやむことなく続いている。ペースが落ちすらしないスタミナは脅威だが、リズムが狂うことなく続いているため今回ばかりは助かったと言えるな。

 耐えて、耐えて、耐えながら進み、ようやくゲオルギウスを間合いに収める目前まで来た。力は予想よりも残すことが出来たし、これで賭けに全力で挑むことが出来る。

 ゲオルギウスを間合いに入れた瞬間、瞬時に動き出す。

 

「ッ!」

 

 馬宝(アッサラタナ)で安全なはずの位置に転移して、同時に人型を別の場所に転移させる。この時点で自分の体と人型に損傷はない。第一段階クリアだ!

 ゲオルギウスの性格からして攻撃のため穴だらけになるとはいえ、自分の周りには時間を停滞させた空間を他より多く設置して防御しているはず。それに遠距離からの狙撃では即死させなければ聖なるオーラが付着した部分を切り離して即座に修復する。ならば大火力で空間ごと吹き飛ばすのが最善! 

 

「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

 全方位から時間停滞空間や吹雪の隙を突いた砲撃を全力を込めて放つ。これが決まれば俺の勝ち、決まらなければ負けだ。

 ま、結果は目覚めたとき分かるだろう。

 もう地面に落ちたとき死なない程度の減速するのでげんk……………………………。

 

 

 

 

―――曹操 side out ―――

 

 

 

 

 

 

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