第60話
冥界の魔獣騒動が解決してから数日たったある日、俺たちシトリー眷属は駒王学園の生徒会室で会議と言う名の雑談をしていた。
現在の話題は俺と曹操の戦いについてだ。
「いやー、曹操は強敵でしたよ。まさかランダムに設置したはずのトラップや適当に起こしたはずの吹雪に規則性を見つけてそこを突いてくるなんて。最後の一撃を撃たれるまで見抜かれてることに気付けなかったし、あれが当たってたらと思うとぞっとします。あいつ、時代が違えば本物の怪物退治の英雄になれてたと思います」
「そんなにですか」
「ええ、あれで運さえよければ今の時代でも英雄に成れたでしょうね。いくら集落に籠って中華系の英雄の血を混ぜながら高めてきたとはいえ、人間相手に活躍した程度の英雄の末裔って侮ってました。なんなんですかね、アレは」
今回の戦いは本当に運よく乗り切れたって感じだったからなぁ。
いくら武器が強力とはいえ、ヘラクレスと違い肉体的には脆く軽い一撃でも当たれば死ぬような相手。仲間の心配をする必要のないあの環境なら、最初の一撃さえ凌ぎきれば圧殺できると思っていた。範囲攻撃を一瞬しかできず、動きを止める手段のない兵藤だから苦戦したんであって、そこをどうにかできる俺なら相性の差で押し切れるってな。
で、実際ふたを開けてみるとあの様だ。
『棺』を五つ制御するのは結構厳しいが、あれだけやれば圧殺できると思っていたのに見事に突破された。『
この手は直前でデュランダルをエクスカリバーと交換できていなかったら使えなかったし、振り回すのに違和感がないようデュランダルと同じ形にしてなかったら曹操もエクスカリバーの能力を考慮して動いただろうからああはいかなかっただろう。
あとアーサーが気まぐれに『支配の聖剣』を無償でゼノヴィアに渡すこと自体、常識で考えればまずありえない事だからな。俺は原作知識で予想できたとはいえ、曹操にしてみれば完全な不意打ちだ。
結論、俺が今回勝てたのは曹操の不運さのおかげ。
原作ボスキャラの凄さを思い知らされたぜ。これからはもっと裏方に徹さないとな。
「ま、勝てたんだから良かったじゃねぇか。報酬もかなり出たんだろ?」
「お前はこういうとこはお気楽だな。ドラゴン宿してるだけあるわ。それに報酬も善し悪しだよ。下賜される土地が良い土地に変わることになったけど、選定し直しになったからな。こっちは早めに渡してほしいってのに」
「譲治はこの間、上級悪魔になって『悪魔の駒』を下賜されましたからね。眷属候補も昔から集めていましたし、資金が手に入るのが遅れるのは痛かったんですね……。お父さまに相談はしましたか?」
「いえ、契約用の書類を書き直せば貯金で一応どうにかできるのでそこまではする気ないです。『兵士』は自分が治める土地の民から何人かは選びたいって思ってたので、眷属の選別が遅れるのが嫌だっただけですから」
冥界に住んでる部下がいれば、原作の事件の時にそっちの問題解決に先んじて呼ばせてサボる、とかできかもしれないたから早めに欲しかったんだよなぁ。それが駄目でも人手が増えればそれだけやれることも増えて、安全性が上昇したと思うし。
なおわざわざ領民から選ぶ理由は、領主のいない土地だと民の中でまとめ役みたいなのがいるから、その一員を眷属として抱え込みたいと言うものだ。
事務仕事用にシトリー家家臣団から何人かについて来てもらうつもりだけど、土地による特色の差が人間界より遥かに激しいからな。その土地の民衆をまとめ上げるノウハウを知ってる彼らを逃したくはない。
それに『悪魔の駒』は「強いやつを部下にする道具」じゃなくて、本来は「戦力に数えられない人員を精鋭に変える」道具だからな。何でもできないといけない『女王』や戦闘担当である他三種はともかく、雑務担当の『兵士』ならそこまで厳選する必要はない。使い勝手重視だ。
「ただ書類の準備に手間取ってますんで、お披露目はまた今度ってことで。それより次の話題に移りましょう」
「そうですね。私の『戦車』もまだ契約は完了していませんし、次の機会でいいでしょう。で次の話題ですが、ジョージは分かっているでしょうが、不安な子もいますからおさらいから始めるとしましょう。サジ」
「は、はい!」
「もうじき『魔法使いとの契約』期間に入ります。悪魔がわざわざ魔法使いと長期契約を結ぶ理由はなんですか?」
「えーと、魔法使いに研究させてその成果を回収するため、です。時間がいくらでもある悪魔がだらだらするより、制限のある人間がした方が熱心に取り組むんで効率がいいから、って理由だったと思います」
躓きながらもどうにか答えた。匙は、というか俺と真羅さん以外は魔法使いとの交流がほぼないからな。堪えられなかったら超スパルタモードの勉強会が開催されただろうし、答えてくれてなによりだ。他も連中もこれに続いてくれ。
「よろしい。では次に魔法使い側が研究成果を開示してでも悪魔と契約する理由について。
「まずもめ事になった際に後ろ盾になってもらえるっていうのがありましたよね」
「で次に冥界の技術や知識、道具なんかを求めてですね。悪魔から直接買えば末端価格よりはずっと安くなるって聞きました」
「他にも色々あったはずですけど、大きいのだと悪魔と契約すること自体が魔法使いのステータスになるからって言うのだったはずです」
三人がよどみなく答えた。匙が修行に使ってる分の時間を勉強に使ってるし、これくらいは問題ないな。
「正解です。ではジョージ、協会から届いた私たちのデータを」
「はい。これがシトリー眷属への協会の評価です。まぁ俺は上級悪魔に昇格したので評価し直し、契約も先送りとなったので記載されてませんけど」
ソーナ姉さんの指示を受け、モニターにシトリー眷属の評価を表示させる。
ソーナ姉さんの評価は魔力が制御能力と合わせて飛び抜けて高く、身体能力が平均的な中級悪魔程度。
真羅さんは全体的に中級悪魔の平均より高く、鏡魔術に対する適性が高く評価されている。
他の女性陣は下級悪魔平均より少し上あたりでうろうろしているな。
で匙の評価はと言うと、とびぬけて優秀と言えるソーナ姉さんと比べてすら異常な事になってる。
魔力関係は中級悪魔の平均より少し上程度だが、身体能力は上級悪魔と比べてもかなり高く、特に耐久力はSS評価―――原作で無限と夢幻の力を分け与えられた兵藤のパワーと同等の評価―――を得ている。原作の兵藤のようなマイナスイメージを抱かれるような行動もしていないし、宿った龍王ヴリトラに「我が半身」と認められていることも合わせて、とんでもない高評価を受けている。
「このデータから、一番人気は匙、次にソーナ姉さんで、他は団子状態って感じで指名が来ることが予測されます。セラフォルーさまの逆鱗に万が一にも触れたくないって言うのもデカいですが、何より先にヴリトラを確保して、ダメなら主を経由。他はよくいる眷属悪魔クラスなんでそれなりに、といった具合ですね」
「何と言いますか……これを見ているとうちの眷属の問題点が丸わかりですね。ジョージとサジに頼りきりです。私たちももっと頑張らなくては……!」
「そこは追々解決していけばいいんじゃないですかね? 少数のエースを他がサポートするタイプの眷属なんて珍しくないんですから。今はまだ賑やかしレベルですけど、そっちに専念すればそこそこはいくでしょうし。むしろソーナ姉さんは前に出ちゃダメな立場ですから、理想的な構成とも言えます」
サポートに専念させるにしてもこの世界では人工神器を貰ってないんで能力的には微妙だが、まぁその辺はソーナ姉さんが上手く運用してどうにかするだろう。元々そういうのが得意な人だし、俺みたいに戦力をただ叩きつけるだけの奴とは頭の出来が違うからな。冥界から離れて過ごしすぎたせいで常識はアレだが、能力はガチだ。
「そう言う考え方もありますか。……ならもう少し魔法具を提供してくれませんか? あれがあれば作戦の幅が広がります」
「原価もただじゃないし、人手も時間もいるので契約で決まってる分以上はさすがに無理です。普通に購入してください」
「ですよね……。こういうときは次期当主という立場が面倒です。決まった額の資金をもらえるだけで、必要な時に追加で稼ぐことが出来ない」
俺ら眷属はシトリー家から土地を分け与えられてるが、ソーナ姉さんはいずれ全部を継ぐ立場とは言え小遣いと眷属への給料支払いの肩代わりだけだからな。はぐれ悪魔を狩ったときの報酬も他以上に眷属に分配しちゃってるし、買うのは無理なのは知ってた。
ここで他の連中が気づかないと話が終わってしまうんだが、心配する必要はなかったみたいだな。
「なら私たちが買うと言うのはありかしら? 譲治君の助言通り貰った土地に代官を派遣してもらっていたから、知らない内にかなりの額が溜まってたの。金額的には足りると思うわ」
「ありです。俺としてもシトリー眷属全体の戦力の底上げは歓迎ですしね。転売禁止、貸出禁止、解析禁止等の条件が付きますが、身内価格で売らせてもらいます」
真羅さんが言い出したのを皮切りに、他の連中も購入を申請してきた。原作のグレモリー眷属のように眷属悪魔の主な収入源である土地から目を逸らして、給料だけで過ごしていたら買えなかっただろう。助言を聞いていてくれて何よりだ。
この日の会議は女性陣から要望を聞き、次回までに造ってくると話がついたところで終了した。
在庫で対応できないのも何個か依頼されたし、さっそく冥界に戻って造ってくるか。