吸血鬼との会談が行われることになった。
吸血鬼は結界に籠り、他の種族との交流をほぼ完全に断っている種族だ。そのうえ人間に追いやられ結界に籠るしかなくなった反動か「自分たちが一番偉い。他種族は自分より下」と思見下さずにはいられない連中だ。
はっきり言って放置していれば『禍の団』の傀儡にされ、騒動を起こすだろうと考えられているのが吸血鬼だ。武器や技術を「献上」されれば疑うことなく使うだろうし、それで強くなれば調子に乗って暴れはじめるだろうからな。実際原作ではそうなってたし。
だが和平を各勢力に訴えている現状では、先手を取って倒しておくと言う手段はとれない。なので交渉を打診し続けていたのだが、今まで無視されてきていた。
それに変化があったということは、吸血鬼の内部で何か起こっていると言っているのと同じだ。ゆえに、アザゼル総督を筆頭にグレモリー眷属全員にシトリー眷属からソーナ姉さんと真羅さん、支取眷属として俺と華宮、そして天界側からガブリエルに『
「しかしあれですね。こうして会談の場で席が用意されてると、出世したんだなって気がしますね」
「そうですね。あなたは今まで、こういう場では私の後ろに立っていましたから。私もこんなに早く並んで座ることになるとは思いませんでしたよ」
「いきなり世界規模で問題が噴出してきましたからの出世速度ですからね。こんなの誰も想像できませんって」
ソーナ姉さんと駄弁りながら吸血鬼側の使者の到着を待つ。
兵藤たちグレモリー眷属は天界から派遣されたシスターのグリゼルダさんと話をしていた。確かゼノヴィアの元上司だったか。今まで逃げ続けていて、ついに捕まったって感じだったはず。
そんな感じで時間を潰していると、ようやく吸血鬼の気配が感じられた。使者が到着したのだろう。招かれないと建物には入れないため木場が迎えに行った。
少しして、やってきたのは女の吸血鬼が一人と護衛らしき吸血鬼が男女一人ずつ。いずれも死人のような顔色で、生物らしさが感じられない。
英雄として産まれそこなった結果、生物になることもできず数々の不具合を持ちながらどうにか動いている死体、と言うのが俺の吸血鬼への印象だ。吸血鬼は種族的に生命力的な力を全く持っていないので的外れな印象ではないと思ってる。
「ごきげんよう、聖書の勢力の皆さま。特に堕天使の総督さまに、魔王の妹君お二人にお会いできるなんて光栄の至りです」
丁寧ではあるが全く光栄には思っていないのが伝わるあいさつを使者が言う。
こちらはアザゼル総督が挨拶を返し、対面の席に座らせ会談を開始した。
「私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」
「……カルンスタイン。確か、吸血鬼二大派閥の一つ、カーミラ派のなかで最上位クラスの家だったな。久しぶりだな、純血で高位のヴァンパイアに会うのは……」
エルメンヒルデがこの場で一番えらいアザゼル総督に話しかけたが、アドバイザーとして同席してるだけなので自分ではなく全員に話しかけたと判断し、ついでに独り言と言う形で情報を伝える。
吸血鬼は女の始祖を尊ぶカーミラ派と、男の始祖を尊ぶツェペシュ派があり、長年対立し続けている。これくらいは原作知識なしでも手に入る情報だが、どんな家がどちらの派閥についているかを知るのは難しい。なにせ悪魔は吸血鬼とお互いの領域を荒らさないようにしてたから、接点がほぼないからな。天使や教会の戦士は発見し次第殺すし、多少なりとも知っていたのは堕天使だけだ。
事前にどちらの派閥でどの家の誰が来るかとかの連絡もなかったし、種族の代表という程の地位ではないリアスさんが聞けば吸血鬼最高な思想のこいつは理不尽にキレる可能性があったので多少強引ではあるが教えてくれたのだ。
挨拶をすかされたエルメンヒルデが不満を隠しながら席に着き、リアスさんが率直な質問をする。
「エルメンヒルデ、いきなりで悪いのだけど質問させてもらうわ。―――私たちに会いに来た理由を教えてもらえるかしら? 今まで接触を避けてきたカーミラの者が突然グレモリー、シトリー、アザゼル総督の元に来たのはなぜ?」
「―――ギャスパー・ヴラディの力を借りたいのです」
「へ?」
リアスさんが困惑して妙な声を出す。他の皆も似たような反応だ。
なにせこの世界では兵藤がサマエルの毒を受けていないので、ギャスパーの力は未覚醒だからだ。ゆえにわざわざ借りに来るなど想定外で、こんな反応をしてしまったのである。
このままだと双方の認識がすり合わせられず、グダグダになりそうだったのでアザゼル総督が助け舟を出した。
「率直な質問に率直な答え。それはいいがそれだけじゃ内容が全然わからん。すまんが、順を追って説明してもらおう。―――吸血鬼の世界で何が起きた?」
アザゼル総督の問いに、エルメンヒルデが順に答えていく。
内容は原作とそう変わらず、ツェペシュ派に神滅具の一つ『
「……それはギャスパーがヴラディ家の―――ツェペシュ派の吸血鬼だったことと関係があるのかしら?」
「それもあります。けれど本当に私どもが欲しているのは、ギャスパー・ヴラディの力です。そちらにも把握している者がいるとの話でしたが、リアスさまはご存じではないので?」
リアスさんが全員を見渡す。つい誠二が眼を逸らした。
「セージ! あなた何か知ってるの!?」
「えーと、その、それはですね……」
「あーちょっとすみません。俺も心当たり有ります」
誠二がいきなり話を振られて慌てだしたので、フォローをする。普通なら知るはずのない原作知識を問題なく伝えるために色々準備はしてきたからな。とはいえ説得できるだけの物的証拠を揃えることは出来なかったが、他から話が振られたなら感覚的にわかったってことで話を進めよう。
「俺も誠二も元死人の魂を引き継いでるんですけど、ギャスパーもそんな感じがしたんです。ただ俺らよりもヘラクレスに近い―――というかヘラクレスに感じた差をさらに大きくした感じですので、完全に人とは違う生き物の魂の欠片とかを引き継いでるんじゃないかと。証拠もないし、引き継いでる魂の影響とかもなかったので報告は先送りにしとこうと考えてました。誠二もそうだよな?」
「あ、ああ。そんな感じだ」
「そう。吸血鬼側の認識もこれであってるかしら?」
「ええ、それと同程度の情報は得ています。ですが詳細を知る者が語ろうとしませんので、それ以上の事は不明です」
この程度の情報で吸血鬼が動いたのか。情報源は俺らと同じ特別な転生者だろうが、前例からして人間の血が混じってるだろうに。悪魔とは比べ物にならないレベルで純血主義の吸血鬼を動かせるとかどんな立ち位置なんだそいつは。異様過ぎてアザゼル総督も怪しんでるぞ。
「そして、問題の聖杯についてですが……」
そこからは原作通りのことを言ってきた。吸血鬼側の転生者の影響だろう。この辺からは原作知識とか当てにならないと思ってたのにほぼそのまんまな展開になってやがった。
要約すると
聖杯の所有者はギャスパーの幼馴染のヴァレリー・ツェペシュ。そっちとしても助けたいだろ?
だけど悪魔や堕天使どもが来るのは嫌。ギャスパーだけよこして黙って見てろ。
この話に乗れば和平には賛成してやる。立場上嫌とは言えんよな?
となる。
まぁそれをそのまま飲んでやる必要は欠片もないので、アザゼル総督―――は立場上不味いのでバラキエルさんとリアスさん、誠二の三人が先に交渉しに行き、グレモリー眷属がもう何人か行けるよう交渉し情報も集めてからギャスパーの貸し出しについては検討することになった。エルメンヒルデは不満げだったが、使者に選ばれただけあって勢力としての差を把握できないほど吸血鬼の常識で凝り固まってしまっているわけではなかったようだ。
まぁエルメンヒルデから聞く限り、俺や匙クラスのが付いて行くのは無理そうだったけどな。そこなもう諦めた。政治的な問題は個人ではどうしようもない。兵藤が主人公力でどうにかすることに期待しよう。