「あ、そろそろ時間ですね。ちょっと用事済ませてきます」
リアスさん達が吸血鬼の国に向かった数日後、学園の仕事を片付けている途中で俺は席を離れた。
転移魔法陣を展開し、学園内の新校舎に転移する。
「よっと」
「へ?」
生徒を人質にとり、ギャスパーと塔城を脅して拘束しようとしていた魔法使いたちを切り捨て凍らせる。
次に困惑するギャスパー、塔城、一般生徒を放置して、華宮に連絡を取る。
「こっちは成功したぞ。そっちはどうだ?」
『問題ありません。シトリー眷属、グレモリー眷属のご友人と裏の関係者は守り抜きました』
「よし。なら警戒はそのまま続けてくれ。俺はこれからソーナ姉さんたちに説明をしに行く」
通信を切り、一般生徒を昏倒させつつギャスパーたちの方に向き直る。
「作戦会議しにいくぞ。魔法使いどもが攻めてきた」
「学園の破損個所はこれより修復します。侵入してきた者たちについては、この地で活動している三大勢力のスタッフが足取りを追っています。ただ生徒たちですが……」
作戦会議の司会をすることになったソーナ姉さんが口ごもる。代理で俺が言うことにした。一番把握してるのも俺だしな。
「裏に関係ない生徒が32人さらわれた。人質のつもりだろうな。これについては俺の方から補足がある」
会議室に動揺が広がる。まぁ一部を除いて元一般人だからな。今までの敵はいい意味でも悪い意味でもそこらの民衆を気にかけるような奴らでもなかったし、こんな経験ないもんな。
だが騒がれては説明できないので、でかい音を鳴らして静まらせる。
「まずはこいつを紹介させてもらう。俺の『僧侶』の
魔法陣が輝き、中から一人の少女が現れた。
全体的に白っぽい衣装をまとい、ショールの付いた帽子をかぶった、結構スタイルのいい少女だ。なお、まだ中学生である。
彼女も他の眷属同様他作品の主要登場人物だ。その作品は『魔法少女おりこ☆マギカ』だ。そこでラスボスっぽい主人公をやっているのが彼女である。
この世界でも表社会での立ち位置は変わらず、不正疑惑が持ち上がった政治家の娘。まだ父親が自殺はしていない時に発見できた。
その時に「疑いを晴らすかわりに織莉子自身を捧げる」と言う契約を交わした。他の物は全て三国家の物であり、織莉子の物ではなかったために捧げられなかったからな。
それ以降は彼女の持つ特殊技能もあって、俺の切り札としてつい最近まで温存していた。なお能力の重要性から裏社会関係の荒事に親類を巻き込むのを防ぐため、人間界での織莉子の記録、記憶は彼女の承諾を得たうえで削除済みである。
なお彼女との契約についてだが、彼女の父は実際に疑惑だけで不正はしていなかったので簡単に事態は片付けられた。まぁ疑惑を苦に自殺するような人が不正はやらんわな。不正するような人なら言い逃れするだろうしな。
「初めまして。織莉子と申します。得意とする魔法は未来予知です」
「未来予知? 占術じゃなく、具体的に知ることが出来ると?」
「はい。そちらもできますが、起こる事象を視ることも出来ます」
「それはすごい。人の持つ力としては破格のものですね。よく『僧侶』一駒で転生させられたものです」
織莉子の自己紹介を聞いて、ソーナ姉さんが称賛する。
この世界だとぼんやりと抽象的な未来を占うのが限界だからな。転生前の世界で未来を見通す、もしくは教えてくれるとか言われてる人外種も、この世界だと情報収集能力が高くてそこから推測できるって言うのになってるのが大半だし。具体的にいつ、どこで、何が起きるか知ることが出来る織莉子の力はすごく希少だ。
「欠点もそれなりにあるんですよ。内容までは言えませんけどね」
魔法力の消耗が激しく戦闘に割ける魔法力の量が少ない。未来を知った事で自分や他人の行動が変わり、予知の結果が参考程度にしかならない。「条件が揃ったら事件を起こそう」と考えている敵がいる場合、条件が揃って決行する気になるまでその未来は見えない、もしくは見るのが困難。戦闘で活用にしようにも、織莉子の地力はそう高くないため動きを読めても押し切られることが多い。などなど。
こんな感じで単独だと未来が見えても望んだ方向に変えることが出来ないと言うのが一駒で済んだ理由だ。
「話を戻すが、織莉子が三日前にした予知で今日、この時間に襲撃が来ることは知っていた。ただ最初の予知ではさらわれるのはギャスパーと塔城で、宣戦布告の意味も兼ねて塔城は救出に来た俺らの前で殺されるはずだった」
「は?」
「で俺がそれを防ぎに行った未来を予知すると、今度はシトリー眷属とグレモリー眷属のクラスメイトが数名さらわれ、やっぱり助けに来た俺らの前で殺される。それも防いだ場合起こるのが今回の生徒の無差別な誘拐だ」
「そんだけわかっててなんで報告して対策取らなかったんだ!? 三日あれば追加の人員を呼べただろッ!?」
事件が起こることを理解したうえでスルーした俺に兵藤が噛みつく。実際学園を守れるほどの増員がきつくても、沖田さんのように一人で大人数と同じ働きをする人は冥界や天界にはそれなりにいるし、俺が上役に相談すればそう言う人を融通してもらえた可能性は高い。噛みつかれるのも仕方ないことだろう。
「その場合はこの街の民衆で代用だ。基本的にこっちが守りを固めるほど、被害に遭う人は関係性が薄くなる代わりに数が増えていくと思っていい。親しい人が死ぬのは嫌だが、被害者が増えるのも困る。その辺を考慮してこれで妥協した。周りに相談しなかったのは妥協点を決めるのでグダグダになって予知が役に立たなくなるのを防ぐためだ。事件直前に身内とガチバトルすることにでもなったら目も当てられん」
反論を聞いて兵藤が黙った。全員守ることを目指して大きく行動しようとする兵藤と、事件を起こさせて被害を最小限で抑えようとする俺の諍いは起こりえたからな。今話を聞いて噛みついてしまったところだし、反論しづらかったんだろう。
それに黙ってくれるのは好都合だ。話を続けよう。
「で敵の目的だが、現『禍の団』トップからのメッセージを伝えることだ。そのために拠点が見つかった後は人質使って俺らを呼びだして来るが、そいつらの要求呑んで俺ら全員で行くと何人か死ぬ」
『『ッ!?』』
全員の顔が驚愕で固まる。今までも死にかけるようなことは原作の事件以外でもあったが、死人が出たことは一度もないからな。気付かない内に死にかけていたとか信じにくいだろう。
「正確には防御力の低い連中が何人か、だな。立てこもってる施設自体に空間攻撃系の魔法が仕込まれてて、魔法防御力の高いメンバーと俺が空間遮断系の魔法で庇ったやつ以外が死ぬ。メッセージの内容は「これからは俺らも鑑賞はやめて参加する。で、ダークファンタジーらしく弱いやつも無視せず、犠牲者は敵味方両方から出すようにしていこうと思う。頑張って防いでくれ」だから、これもメッセージの一環なんだろうな」
俺が伝えた敵からのメッセージに全員が戦慄する。
今までの敵は自分の力に誇りを持ち、格下を一々相手にすること自体を恥としていた。それゆえにこうしてシトリー眷属、グレモリー眷属は勿論、争いのすぐそばにいた民衆からも大きな被害が出なかったが、それが無くなるのだ。今までのようにただ敵に向かって突っ込んでいけばいい戦いではなくなるだろう。これもまた当然の反応だ。
俺がこの内容を予知で聞いたときは別の事を思ったけどな。
だって言い方からして現『禍の団』のトップ、明らかに転生者だし。それも「俺ら」っていってるから複数で、そのうえ争うこと自体が目的な愉快犯の可能性がある。俺や誠二クラスの連中がこれと言った目的もなく敵対してくるなんて、なにか厄い目的を持って行動されるより厄介だ。
そんな状況であらゆる場面での対応能力の高い木場やデュランダルを扱う適性なら俺より上のゼノヴィアとかを死なせるわけにはいかない。こいつらは代えの効かない人材なんだから。
「それで俺からの提案なんだが、こういうやつらに人質が有効だと思われると厄介だし、少数精鋭でメッセンジャーやってる奴殺しに行こうと思う。理由はメッセージを聞かないと繰り返しそうで面倒だし、俺らに人質を一人も救出させないレベルの敵を確実に消せる。そして人質としての価値がないのを示すことで、これ以降民衆が狙われる可能性を減らせるからだ。異論があれば具体案と共に発言してくれ」
具体案なんて誰も出せるとは思ってないけどな。なにせ敵がどうやったって犠牲の出る手段をとってきてるせいで、人質を救出できる可能性はないんだから。それなら被害を抑えられる方法をとるしかない。
まぁそれ以前にこいつらは敵対した奴ならどんな相手か考えもせず、一切のためらいなく殺害できるんだ。なら「同じ学校に通ってるだけ」の奴らなら必要があれば斬り捨てられるだろう。反発は起こらないはずだ。少なくとも未来予知では問題なく進行したしな。
「……異論はないようですね。私としても救出が不可能と分かっているのであれば決行はできません。ジョージの案を採用します」
ソーナ姉さんの決定が下り、俺の案は採用された。
多少不安そうな顔をしているが、それはたぶん匙たちのやる気についてだろう。実際意気消沈しているし、感情が戦力に直結する神器所有者たちが普段通りのスペックを発揮するのは不可能だ。下手をすればグレンデル一体に蹂躙される可能性すらある。だがそれは俺も分かってるし、不足分を埋められるだけの戦力は俺が用意してある。
さぁ予定を消化していくとしよう。