転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第64話

 生徒を拉致したはぐれ魔法使いどもが冥界に繋がるトンネルのある駅で発見された。普段は魔法陣で移動しているため、新しい眷属ができたとき以外使われることのない施設だ。中に入る者を見張る外からの監視はいるが、内部に監視はいないため知らない間に利用されていたようだ。なお他にも利用頻度が低すぎるせいで乗っ取られてしまっている施設はあり、駅に警備をつけるとそっちにはぐれ魔法使い達は移動する。そこについての情報は流しておいたので適当に対処してくれるだろう。

 駅周辺の包囲が進む中、俺たちは突入メンバーの選定を行っていた。

 まず指揮官に俺。こういう時に指揮を執りたがるアザゼル総督は吸血鬼に探りを入れてるヴァーリと情報交換するため街を離れているし、空間攻撃魔法には耐えれるとはいえソーナ姉さんが前線に出るのはリスクが大きすぎるからな。姫島さんに指揮を任せる気にはなれないし、順当な役割だと思う。

 次に突入部隊だが、シトリー眷属からは匙が、グレモリー眷属からは塔城が、そして支取眷属からは華宮が出ることになった。一人を除いて空間攻撃魔法に素で耐えられるメンバーだ。例外は華宮で、ある役目のための人員として連れている。コストの問題で全員に持たせることはできないが、一人だけなら空間攻撃魔法を防ぐ道具を持たせなれるからな。

 で残りのメンバーが駅の外で起きる問題への対処だ。突入に人数が多すぎると逆に動きづらくなるし、出来るだけ多くの被害を出すことを目的に向こうは動くからな。むしろ外の方が多くの人手を要する。障壁を突破できるだけの魔法力を外から供給してやれば、待ち構えた相手に対して有効なギャスパーを突入部隊に配置しなかったのはこのためだ。

 とりあえずこれで配置は決まった。包囲が完成するまで待機だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から突入だ。準備はいいな」

 

「問題ありません」

 

「大丈夫です」

 

「……………………」

 

 華宮と塔城はよどみなく答えた。

 塔城は元々人間ではなかったこともあって学園の人間とは距離をとっていたし、なにより悪魔業界の常識をある程度だが理解してるからな。庇いきれない一般人は見捨てる、と言う行為にもたいして抵抗はないんだろう。

 華宮は冥界の住人で、危険な魔物が出て領主の対応が間に合わず仕方なく少数を切り捨てる、というのはたまにあることなので当然の事として受け入れており普段通りだ。

 逆に匙は無言だ。感情は些細な言動で変化するし、予知も参考くらいにしかならないからな。現在だけじゃなく、未来においても影響力の大きい匙がどういう精神状態か気にかかる。

 

「おい、匙?」

 

「なぁ譲治、最後に聞かせてくれ。本当にさらわれた生徒たちは助けられないのか? 本当に、一人も?」

 

「ああ、無理だ。確かに空間攻撃魔法なら重傷覚悟で敵を無視して守りに行けばいくらかは助けられる。でも予知じゃ助けた連中は魔法的な爆弾が埋め込まれてたり、呪詛が仕掛けられてたりするんだよ。俺らに隙をつくるための物なんだろうが、そんなことをされて数時間も生き延びれる生徒はさらわれたやつらの中にはいない」

 

「……そうか。わかった。勝手なことはしないから安心してくれ。俺も準備は出来れるし行こうぜ」

 

「おう」

 

 んー、やっぱ落ち込んでるっぽいな。これはちょっと悪い方向行ってるか? 少なくとも予知の中の最善ではないな。だが最悪でもない。下手な干渉は避けるべきか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、制圧完了。はぐれ魔法使いの氷像の回収要請出しとくぞ。事件の損失の補填に当てる。華宮は準備を頼む」

 

「わかりました」

 

 十分に魔力を練ってから突入し、初手で待ち構えていた魔法使い百名強とそれぞれが連れていたキメラやゴーレムを氷漬けにした。

 対策はとっていたが、俺はその内容を織莉子の予知で知っていた。なのでその対策ごと一気に凍結させられる出力で攻撃したのである。これが一番単純で失敗しづらく早い。

 華宮にはここに残って施設自体に仕掛けられた空間攻撃魔法を解除してもらい、三勢力のスタッフが入れるようにするために連れてきた。解除に失敗すれば、氷像を回収に来たスタッフに被害が出るうえに氷像も回収できず大赤字だからな。だがそれなりに優れた魔法使いの魂が百も回収できれば、被害者家族の記憶操作や建築物の修復などの費用を大目に見積ってもどうにか赤字は避けられる。そのために優秀な解析要員が必要だったのだ。

 

「さー次だ。一気に進むぞ」

 

 奴らが用意していた転移型の魔法陣を乗っ取り、安全を確認してから転移を行う。

 転移した先はひたすら白い広大な空間。

 そこで待ち構えていたのはローブで姿を隠した奴が二人と、純白の翼を持った見慣れた連中だった。

 

「嘘だろ? なんで天使が!?」

 

「天界の『システム』がある以上、天使のまま三大勢力の同盟での決定には逆らえないはずでは……。一体どうやって?」

 

 匙と塔城が驚愕する。

 なにせ塔城が言った通り、天使は天界の意向に逆らう行動を取ろうとすると堕天する。ゆえに天使である以上裏切っている心配はないとされて、重要なポジションを任されていた。それが覆されたのだ。驚愕して当然である。が今は敵陣にいるんだ。念話で声をかけ落ち着かせる。

 

「我らが指名したよりも少数ですね。他の者はどうしたのですか?」

 

「連れてくるわけねぇだろ。アホか」

 

「そうですか。人質としてただの一般生徒では不十分だったようですね」

 

 代表で声をかけてきた天使は、さらっていた生徒たちの意識を戻した。人質としての価値がない以上、抱えてても邪魔なだけ。始末するのも面倒だし、仕掛けた罠が使えないのももったいない。そんな理由で解放したのだろう。自由に動ける状態で戦いを始めれば、生徒は顔を知ってるこちらに助けを求めて近づくからな。

 

「まぁ話が聞ける者が来ているのならそれで構いません。団長からの伝言を伝えます。『これからは俺らも鑑賞はやめて参加するから。で、ダークファンタジーらしく弱いやつも無視せず、犠牲者は敵味方両方から出すようにしていこうと思う。頑張って防いでくれ。楽しみにしてるぜ』とのことです」

 

「あっそ。話はそれだけか? なら後は研究所で体に聞かせてもらう」

 

「もう一つあります。表にいた彼らもそうだったのですが、今の『禍の団』には強者と戦いたいとわがままを言う者が多く在籍していまて。皆様にはそのガス抜きに付き合ってもらいたいのです」

 

 言葉と共に魔法陣が深緑の光を放ち始める。

 紋様からしてドラゴン専用の転移魔法陣、龍門(ドラゴンゲート)だな。この辺は予知通り原作と変えるつもりはないか。

 

『グハハハハハハ! 久方ぶりに龍門を潜ったぜ! さーて、俺の相手はどいつだ? いるんだろう? オレ好みの玩具がよぉっ!』

 

 龍門から十数メートルほどの巨人型のドラゴンが現れた。原作通り「大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)」グレンデルだ。

 得意な力は持たず身体能力とタフさに特化した邪龍で、単純ゆえに破りづらい敵だ。が、何でもありなら倒せない相手ではないな。

 匙の影から人間大の黒い蛇が現れ、久しぶりに声を発する。

 

『グレンデルか。初代ベオウルフに完膚なきまでに滅ぼされたと聞いていたが、どうやって蘇った?』

 

『根暗のヴリトラか。自前の体はねぇみたいだが、まぁ起き抜けの相手にはちょうどいいか。つーか蘇ったってなんだ? そこは生きていたのか、じゃねぇの?』

 

『貴様のような馬鹿が生きていて目立たず過ごせるわけがあるか。音沙汰なかったということは死んでいたに決まっている』

 

『はっ! そりゃ違いねぇなッ!』

 

 そう言ってグレンデルは天使の方に向き直った。

 

『あいつは俺がもらうぜッ! 文句ねぇよな!?』

 

「ええ、どうぞご自由に」

 

『わかってんじゃねぇか。それじゃ、とりあえずお前ら邪魔だから死ね』

 

 グレンデルの尾が一般生徒たちを叩き潰した。言葉の通り、気持ちよく戦うのに邪魔だったから殺したんだろう。

 その拍子に爆弾や呪詛が発動するが気にもかけず、むしろ飛び出しかけた匙に反応した。

 

『お、なんだ? ヴリトラ宿してるガキはこの連中が大事なのか? ならこうすりゃもっと楽しめそうだなッ!!』

 

 グレンデルが生き残った生徒たちを出来るだけ怯えさせながら、一気に殺さず一人ずつ潰していく。隙があれば突くが、グレンデルは元々防御に意識を割くような奴ではないらしいので今攻撃しても意味はない。逆に邪魔になる爆弾をあいつが処理してくれているんだから静観すべき場面だ。

 匙もそれをわかっているのか、血が流れるほど拳を固めてはいるものの飛び出して行ったりはしない。

 

「………………なぁ譲治」

 

「なんだ?」

 

「一個だけ頼みがあるんだけどよ、あいつは絶対俺がぶっ殺してぇ……ッ! 悪いけど全力で暴れさせてくれッ!!」

 

「いいぞ。塔城、後ろに乗れ巻き込まれる」

 

「え、どういう―――」

 

 俺が塔城を引っ張り上げ、障壁で守られたのを確認した直後、匙の体が黒炎へと変化し膨張する。

 模るのは東洋系の龍の姿だ。いつもとはレベルの違う呪いと乾きをまき散らしながらグレンデルに向かって直進する。

 

『グルアアアアアアアアアァァァァァァアァアアァアァァッ!!!!!』

 

『ギャハハハハハッ! なんだおい! やりゃあできるじゃねぇかクソガキッ!!!』

 

 邪龍同士の激突が始まる。

 天使どもは予想をはるかに超える余波で何人か死に、慌てて匙とグレンデルをどこかに飛ばすことで難を逃れた。

 一方俺はと言うと、かなり喜んでいた。

 これは予知にあった最高の展開。匙は守ることを捨て憎悪をまき散らしながらも、味方まで焼かないよう我慢する理性を残していた。つまり真に『龍王』ヴリトラの半身として覚醒できたということだ。こうなればグレンデルには負けないし、絶対に自力で帰ってくる。

 グレンデルが一般生徒をなぶり始めたときは、制止も聞かず暴れ出して敵味方関係なく怒りに任せて焼き尽くす『邪龍』ヴリトラの半身として覚醒してしまうかと心配だったが、杞憂だったようだ。

 

「じゃこっちもやるか。振り落とされるなよ塔城!」

 

 

 

 

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