転生して会長の甥っ子   作:ぬがー

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第68話

 市街地の様子の確認と脱出ルートの確保、それと色々な下準備を終えた俺たちは、ツェペシュの城の一室に転移魔法で移動した。

 ただしメンバーはゴンドラ乗り場で分かれたときから一人増えていて、カーミラ派のエルメンヒルデが加わっている。

 計画に賛同できない者の密告によりツェペシュ側が行動を開始すると知ったので、それを俺たちにも伝えに来たらしい。城への侵入ルートを決めかねている時に遭遇し、用意してあった転移魔法陣を一緒に使うのを認める代わりに下準備に少し協力してもらったのだ。

 前々から潜入していた工作員のフォローがあるとはいえ、単独で敵対派閥の本拠地に侵入しようとしていただけあってすごく有能で助かった。『僧侶』に空きがあればスカウトしていたところだ。

 

「ごきげんよう皆様。お元気そうで何よりですわ」

 

 この世界では死神の転移魔法で来たのではないため、人外の身体能力を持ちながらしりもちをつくと言ううっかりをしていないエルメンヒルデがカーミラ派の得た情報をリアスさんに伝える。

 ヴァレリー・ツェペシュから聖杯を取りだし死なせようとしていること、取り出した聖杯でツェペシュ派の領域に住む全ての吸血鬼に改造を施そうとしている事を聞いて、当然のようにリアスさんたちは怒り出した。

 なんでもツェペシュ派の宰相は「少し待ってもらえればヴァレリーを解放する」とギャスパーと約束していたらしい。その解放の意味が「聖杯を取りだし殺す」ことだったことに怒っているようだ。

 俺からすれば「解放」の定義を決めておかなかったギャスパーに問題があるし、聖杯(大事なもの)が紛失しないよう別の入れ物に移したい宰相の気持ちも分かるのでリアスさんたちの怒りには全く共感できないんだがな。悪魔には昔から人間との契約の時にわざと条件を曖昧にしたり、逆に複雑にしたりして騙し合いを行う娯楽文化もあったし、冥界の住民に感想を聞けば俺と同じような意見が大半を占めるはずだ。

 だからと言ってツェペシュ派の好きにさせてやる気はないけどな。向こうが「解放」の意味を好きに定義しようとするなら、こっちだって勝手に定義する。そしてこっちの定義した約束を破ろうとしているなら、暴力を振るって無理やり守らせてやればいい。

 幸いなことにギャスパーさえ居ればカーミラ派からの要請によって「犯罪者退治に協力しただけ」って暴力を振るうための大義名分もあるしな。好きにやっても周りに迷惑かけない状況なんだから好きにすればいいんだ。

 他の奴も同じ結論になったようで、すぐにヴァレリーを奪取すべく行動することになった。

 作戦会議の途中で大規模な魔法陣が突然発生し、ヴァレリーから聖杯を取り出す儀式が始まったことも含めて予知の通りにことは進んでいる。ここからも波乱は起きないと助かるが、どうなることやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰とも遭遇することなく地下の祭儀場へと駆け続ける。

 兵士を避けるようにルートを選んで進んでいたとはいえ、ここまで誰もいないと完全に異常だ。なにせ、兵隊を配置できそうな開けた場所にすら誰もいなかったからな。

 そのことに焦るギャスパー以外の誰もが警戒心を強めていたが、結局一度も妨害を受けることなく祭儀場へたどり着いた。

 ようは警戒しながら走らせる程度で時間稼ぎとしては十分だったから何もなかったわけだ。予知でこの話をすると罠がないと知ったギャスパーが全力で走り始めて、不意打ちくらって瀕死になるので言わなかったが。

 

「ヴァレリィィィィィィィッ!」

 

 普段とは比べ物にならない走力を発揮し先頭を走っていたギャスパーが結界の張られた扉を腕力任せにこじ開ける。

 祭儀場には儀式を行う多数の吸血鬼たちがいて、床には巨大な魔法陣が描かれており、その中央に女性が寝台に寝かされ苦痛で叫び続けていた。あの女性がヴァレリーか。

 

「やめてっ! これ以上ヴァレリーをいじめないでッ!」

 

「ええ、だから約束通り『解放』してあげようとしているのですよ。ほら、もうすぐ彼女の心身を蝕んでいた聖杯が取り出せます」

 

 苦痛の叫びがさらに大きくなり、ギャスパーがヴァレリーを助けるために術式を叩き壊そうとし始める。

 俺と誠二は二人がかりでそれを止めた。腕力が上がり過ぎていて、一人じゃ傷つけずには止めれないからな。

 

「なんで止めるんですかッ!?」

 

「下手に術式中断したら逆に死ぬぞ! アザゼル総督が解析してくれてるからちょっと待てって!」

 

 誠二の言葉を聞いてギャスパーが少し大人しくなり、アザゼル総督の方に視線を向けた。

 だがギャスパーが期待するような返事は聞けそうにない。アザゼル総督は困惑の表情を浮かべていた。

 

「なんだこの術式は……! 聖書の神の物に似てはいるが完全に別物だ! なんでこんなので不具合なく機能してやがる! これもリゼヴィムからの情報提供なのか!?」

 

「ええ、彼らは様々な情報や知識、技術に物資を提供してくれました。おかげで聖杯の研究も大幅に進み、こうして無事取り出せましたよ」

 

 魔法陣が輝きを増し、ヴァレリーから聖杯が取り出された。

 それと同時に魔法陣が消え、ギャスパーがヴァレリーに駆け寄る。マリウスっぽいのにとって大事なのは聖杯でヴァレリーはどうでもいいようであり、素通りさせた。

 そこからは原作通りの流れだ。聖杯を手に入れた喜びでテンションが上がってるマリウスが吸血鬼至上主義な思想を語り、キレて覚醒したギャスパーがそれをあっさりと打倒する。

 ここまでは予知と同じだ。ギャスパーの精神状態によっては呆然自失状態になり覚醒しない可能性もあったが、その可能性は低かったし波乱は起きなかった。

 問題はここからだ。

 ここからは予知が役立つ場面は最初だけだ。

 

「聖杯を戻すぞ。半吸血鬼の不死性があれば、これで意識が戻」

 

 聖杯をアザゼル総督が回収しようと触れた瞬間、空間が歪み砲撃が飛んできた。

 俺はそれを見てから氷の砲弾を放ってアザゼル総督を吹っ飛ばして回避させる。この時見るより先に行動すれば向こうに対応される。アザゼル総督が戦闘不能になるが、立場があるので元々前に出て戦うわけにはいかないし他のメンバーが傷を負うよりはマシだ。

 そしてこの時、欲をかいて聖杯を拾ってもいけない。ギャスパーが取りに行かないよう氷羽子にこっそり邪魔をしてもらう。あれはもう敵の物だから危険なのだ。

 

「惜しい、躱されちゃったか。でもまぁ、その怪我なら大した障害にはなりそうにないし予定通りかな?」

 

 砲撃が飛んできたときと同じように空間が歪み、奥から二人の少年と少女が一人、おっさん一人が現れた。

 それに合わせ、聖杯が弾けるようにヴァーリに似た顔立ちの少年の手元に飛んでいく。なお未来視では誰かが聖杯を握っていた場合、持っていた奴の腕を吹き飛ばしていた。悪魔や堕天使なら聖杯の持つ聖なるオーラで焼かれ、人間なら失血で死ぬ。向こうとしては仕掛けたつもりもないのだろうが、聖杯自体が即死トラップになっていたのだ。

 

「あー、でもヴァーリたちはまだ来てなかったか。特に妨害はしてないし、ここまで来るうちに合流してると思ったんだけど。……ま、いいか。そのうち来るだろ。

 じゃ、自己紹介から始めようか」

 

 

 

 

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