山籠もり開始から数日が経った夜、男子組が使っている部屋で不意に誠二が尋ねてきた。
「なぁ今回の結婚騒動って悪魔的にはどういう意味があるんだ?」
「? 急にどうしたんだよ?」
「いやさ、俺らって部長からしか今回の結婚騒動について聞いてないだろ? 第三者から見ると今回の婚約にはどういう意味があったのか知りたいんだよ。あんたは冥界で『女王』同士の寄合に参加しているって聞いたから、こういう情報も入ってくると思ってさ」
この言葉に死んだように寝そべっていた兵藤と木場も体を起こす。さすがに疲れているからと無視できるような話題ではなかったか。
まぁ断る理由もないし、原作の事件が終わってからも悪魔としてやっていくなら知っておいた方が良いことなので教えてやるとしよう。
「一言で言うと、グレモリー卿がリアスさんのことを親バカ全開で甘やかしつつ、名家同士の関係にも若干配慮した結果だな」
「ちょっと待て! 結婚無理強いするのが部長のためにしたことだって言うのかよ!?」
兵藤うるさい。近いんだから叫ばなくても聞こえる。てか元気だな。明日はもっとしごくようにリアスさんに言っとくか。
でも一言にまとめたんじゃ実際何もわからないか。現状と真逆の事を言われて混乱してしまう気持ちもわからなくはない。
「落ち着け、始めから順を追って話してやる。まず聞くがリアスさんの兄については知ってるか?」
「部長、兄妹いたのか?」
「いるよ。部長のお兄さまはサーゼクスさまと言って、今は亡き魔王に代わってその名を受け継いだ魔王ルシファーなんだ」
「んなッ!? マジかよ!?」
木場が兵藤と、ついでに誠二に、現在の悪魔のトップについて説明する。こういう時にそこそこ物を知ってて補足してくれる奴は便利だな。
「でだ、そのサーゼクスさまはリアスさんと同じ『滅びの力』で魔王になったわけだが、その魔力ってどの家系に伝わっていた力かは知ってるか?」
「知んないな。グレモリー家じゃないのか?」
「バアル家だよ。元72柱1位の、魔王に次ぐ権力を持つ大王家だ。部長のお母さまがバアル家の出身で、そっちに部長達は似たんだよ」
「その通り。じゃあ次の質問だが、自分たちが代々引き継いできた魔力を他家に盗られて、おまけに自分より上の地位に立たれたバアル家はそのことをどう思ってると思う?」
「それは……」
「まぁ当然恨むわな」
元から知っていた誠二と木場はそうでもなかったが、これには兵藤もさすがに黙った。努力の成果を根こそぎ奪って、それで相手を下せばとんでもなく恨まれるのは当然だろう。端からだと貴族たちの支配権はバアル家が握ってるように見えるので初代当主だけは不満はなさそうだが、まぁそれはあくまで例外だ。
「それもサーゼクスさまはバアル家の血の結晶とでもいうべき生まれながらの強者だったからな。同じ力を扱うだけあって、抵抗できる相手ではないって理解できたんだろう。だからそこまでの実力はない――将来的には最上級悪魔級って言われてるけど、元72柱のトップであるバアル家からすれば成長しきっても平均程度だからな―――リアスさんに矛先は向いたわけよ。「リアス・グレモリーを『滅びの力』を受け継いだバアル家の次男に嫁入りさせ、バアル家に『滅びの力』を返却しろ」ってな」
「え、部長の婚約者ってフェニックスだろ!? なんでそうなるんだ!!??」
「兄さん、落ち着けって。で、続きは?」
「ああ、それでな、グレモリー卿はどうにかして断ろうとしたんだよ。悪魔の名門としては応じるべきなんだが、バアル家はグレモリー家大嫌いだから、嫁入りなんかしたらどんな目に遭うかわかんねぇし。それでリアスさんの希望にできるだけ沿わせた婚約を進めて、「もう優秀な純血悪魔の婚約者がいるから無理」って返事することにしたんだよ。その相手がライザー・フェニックスだ。さすがに「娘が嫌がってるんで嫁入りさせたくないです」とは言えんかったらしい。力で脅されてとはいえ、バアル家がサーゼクスさまの言う通りに貴族派の奴らを抑えていてくれてるおかげで悪魔は内乱で滅びずに済んでるっていうでかい恩もあったからな」
「……部長の親はライザーが部長にふさわしいって言うのかよ」
「兵藤、お前はライザーさまはリアスさんにふさわしくないって言いたいのか?」
「当然だろうが! あんな種まき野郎が部長にふさわしいもんか!!」
「……悪魔は出生率が低いから、強い男が女を何人も囲って強い子供をたくさん作ることはむしろ推奨されてるんだぞ? それでもか?」
魔力や魔法力は遺伝する。だから合理的な思考をする悪魔はほぼ確実に力を引き継いでいる純血を尊重し、強い子供が多く生まれるように強い男がハーレムを形成することを認めているんだ。個体差が少なく、種が絶滅の危機に瀕していない普通の人間の常識で考えるべきじゃない。
「つーか、お前らライザー・フェニックスについてろくに知らないだろ。そんなんで批判するのはやめとけよ」
「ぐっ……」
「なら教えてくれよ。どんなやつなんだ?」
テンションの浮き沈みが激しい兵藤と、冷静なまま話を聞く誠二。対照的な兄弟だなぁ、と苦笑する木場を余所に今度はライザーの説明を始める。
「まず強いな。不死身のフェニックスだからなのは勿論だが、レーティングゲームでトップ10入りする兄と比較されたうえで「フェニックス家の才児」と言われるだけの才能はある。今は誠二でも戦闘になるし、聖なるオーラを使える俺なら倒せるレベルだが、サーゼクスさまの眷属にしごかれればあっという間に最上級悪魔級、もしかしたら魔王級やそれ以上になれるかもしれないほどだ」
「う……」
才能がない兵藤が呻く。それを無視して説明を続けた。
「次に金持ちだ。ソーナ姉さんやリアスさんみたいに家が裕福なだけじゃなくて、本人がな。『フェニックスの涙』は高額で売れるから家から離れても金には困らないんだよ。グレモリー家も販売ルートを作れないわけじゃないからな」
「ぐっ……!」
一般家庭の生まれの兵藤が悔しそうにする。それを無視して説明を続けた。
「あと、頭がいい。悪魔政府の上層部に『王』として期待されているだけあって指揮官や戦術家としての能力はすごいぞ。不死身って言う特性任せのゴリ押しじゃ高評価は得られないから、これは当然お前もわかっているだろうけど」
「クソッ!」
指示通りに動くことしかできない兵藤が悪態をつく。それを無視して説明を続けた。
「最後に、眷属一同を見れば分かると思うが自分の女は大切にする人だ。リアスさんと結婚すれば良い夫婦になろうと努力してくれるだろう。たぶんこのレーティングゲームも、お前らに時間を与えただけじゃなく自分たちも辛勝を演出できるように調整してんじゃねーかな? 負けるわけにはいかないけど、圧勝してリアスさんの顔に泥を塗るわけにはいかないから」
「マジか……」
愕然とする兵藤。うなだれて動かなくなった。
しばらくそのままで、俺達が「寝てんじゃないか?」と思い始めたころになってようやく動き始めた。
「なんだその完璧超人はッ!? 俺の印象と全然違うじゃねーか!!」
「そりゃ親バカのグレモリー卿が選んだ相手なんだから当然だ。半端な相手を選ぶわけないだろ」
兵藤は叫び、誠二は改めて確認したライザーさまの凄さに驚き、木場はリアスさんがそんな優良物件を蹴って、はぼ間違いなく冷遇されるであろう相手との婚約を断る口実を手放そうとしていたのかと事実に気づき戦慄していた。
そして俺はリアスさんの婚約者の凄さを解説したことで空しさに襲われていた。シトリー家の次期当主であるソーナ姉さんの婚約者はここまでハイスペックではないからだ。凡庸な上級悪魔というのがぴったりな人である。シトリー家とグレモリー家の社交界での扱いの差をここでも実感できてしまった。同じ魔王を輩出した名家だと言うのに、うちは凡庸な婚約者しか見つからず、もう一方はたくさんいる中から最高の人材を選べるとか。あまりの差に涙すら出ないほどだった。
「まぁライザーさまがどんな人であれ、お前らはリアスさんに恥をかかせないために全力を出すしかないんだ。分かったらさっさと寝ろ。明日も特訓はあるんだからな」
余談だが、この日以降兵藤と木場は特訓に身が入らなくなり、それを問い詰めた塔城とアーシアも次いでそうなった。この調子じゃ「特訓で強くなったグレモリー眷属に辛勝できる」ように調整しているフェニックス眷属には勝てないだろうな。ま、他人事だしどうでもいいけどさ。