グレモリー対フェニックスのレーティングゲームの数日後、リアス・グレモリーとソーナ・シトリーは生徒会室でお茶会をしていた。
「それにしても良かったですね、リアス。この学校を離れずに済んで」
「ええ、正直、意外だったわ。お父さまからの許可は前から出ていたとはいえ、まさかライザーが許してくれるとは思わなかったもの」
この会話からも分かることだが、レーティングゲームはフェニックス家が勝利した。わざと隙を作り、リアスさんに有利な状況を作ることで「眷属はほぼ全滅させたけど、不死身を倒しきれず敗北」というリアスさんにとって今後の為になる決着にしようとしたようなのだが、兵藤たちがふがいなさ過ぎて圧勝してしまったのだ。
それでレーティングゲーム後、即挙式となったのだが、婚約が結婚済みになっただけで何も変わらなかった。
リアスたちは予想外だと言うが、端からみると分からなくはない事である。グレモリー家の御家問題(バアル家からの嫁入り要請)も解決したので、これからは焦ることなく良好な関係を結びたいと思ったのだろう。なにせこれから一万年以上にわたって夫婦としてやっていくのだ。たかが数年我慢すれば相手の踏ん切りがつくと言うのなら喜んで待つだろう。
「理解のある旦那さんで羨ましいことですね。聞けば結婚初夜はレーティングゲームのことで一晩中語り合ったとか。ライザーはリアスの気持ちを考えてそうしてくれたんでしょうね。結婚前に「『グレモリー家のリアス』ではなく自分のことを愛してくれる人と一緒になりたい」と相談を受けましたが、果たして相手のことをどこかの家の誰かとしか見ていなかったのは誰なんでしょうか」
「それは言わないでッ!! 我ながらバカなこと言ってたなって自覚はあるのよ! もうこれ以上いじめないでちょうだい!」
顔を真っ赤にして叫ぶリアス。それをソーナはくすくすと笑いながら眺めている。しばらくこんな感じでリアスを弄って遊んでいたが、これ以上はヤバそうだと判断したソーナはすぐに話題を切り替えた。
「まぁ、羨ましいと言うのは本当ですよ。今日だって眷属の皆を鍛えてくれているんでしょう?」
「……ええ、いくら私のためを思ってとはいえ、あんまりなゲームだったから。一人で大暴れしていたセージ以外は全員鍛えてもらってるわ。ライザー本人はたまたま手が空いてたセカンドにしごかれてるみたいだけど。……本当は私がしないといけない事なんだけど、私の伝手じゃいい教師役が見つけられなくて困ってたから助かったわ」
「改めて思い返してみると、私たちって冥界での行動範囲って狭いですものね。十数年しか生きていないのに、そのうち何年も人間界で過ごしているから仕方ないことなんですけど。私も譲治が色々と補佐してくれなかったらもっと苦労していたでしょうね」
「確かに。『女王』同士の私的な寄合なんて私たちは気づきもしなかったもの。あなたもいい『女王』を持ったものね。
……そういえばセージはジョージに連れられてシトリー領に行くって言っていたんだけど、ソーナはなんで行くか聞いていないかしら?」
「? 確かに譲治の領地を案内すると言うのは聞きましたが、理由までは聞いていませんね。他に用事もありませんでしたし。リアスは理由も聞かずに許可を出したんですか?」
「一応聞いたわよ。使い魔を探しに行くって言ってたけど、それは建前で私には言いたくない本音が別にあると思うのよ。だって使い魔の森には一度連れて行ってあげたもの」
「ふむ、それは確かに不自然ですね。わかりました、私の方から譲治に探りを入れておきます」
「ありがとう。いずれお礼はするわ」
「なら兵藤君の成績が下がらないように指導してあげてください。ここの所欠席ばかりですからね」
「……できるだけ善処するわ」
「本当にここにいるんだろうな?」
「当然だろ。こんなことで嘘は言わねぇよ」
俺、支取譲治は兵藤誠二を連れて森を歩いていた。
正直なところ俺は学校生活に使う時間以外はゴグマゴグの解析に使いたかったのだが、こいつがどうしてもと言うので時間をかけて列車で冥界まで来てからここに来たわけだ。
そして歩き始めから十数分、ようやく目的地である湖に到着した。
「ここにまとまって住んでるんだ。おーい! 皆ちょっと出てきてくれー!」
『はーい。どなたですかー?』
『あ、ジョージさま! お久しぶりです!』
『今日はどうなさったんですか? 水の供給は問題ないはずですが……?』
俺の呼び声に応えて、湖からたくさんの人影が現れた。いずれも美しい水色の髪を持ち、密度が高ければ悪魔にとって毒となる精霊の力を纏った美女、美少女たちだ。決して筋肉の塊のようなモンスターではない。
「これだ! これだよッ! これこそがウィンディーネだッ!! あんな格闘家かゴリラみたいなのはウィンディーネじゃない、こっちが正統だ!!!」
誠二は涙を流して大喜びする。念願の清く美しい乙女なウィンディーネを見て感極まってしまったようだ。
「まぁ正統かどうかはともかく、昔からいたのはこっちだな。湖が小さくなって一つの湖に住める数が減っていったり、汚染されたせいで住める湖の数が減ったりしたせいで生き延びるために筋肉が発達したらしい。種族的な特性のせいで攻撃性の乏しいウィザードタイプじゃ、縄張り争いに勝てないからだそうだ」
「それで使い魔の森のはあんなに筋肉質だったのか」
「そういうこと。だけどこの土地はシトリー家が長年守ってきたおかげでそんな変化とは無縁だったから、こうして昔の姿を残してるんだよ。ま、守ってるなんて言っても彼女たちの協力があってこそなんだけどさ」
『ジョージさま、私たちの力など、守っているうちに入りません。確かに私たちは清らかな水をこの森に与えられているでしょう。ドライアドだって周囲の木々が病に侵されないように努力しています。獣人や亜人、魔物たちも生命の連鎖が正しく行われるような暮らしを心がけています。ですがこれらは外の者が遠慮なしにとっていけばすぐに壊れてしまう物なのです。そうならないように代々力を尽くしてくださったのはシトリー家。もう少しご自身の家の事を誇ってくださいませ』
「……シトリー家も森からとれる薬草や魔獣とかから利益を得てるし、そのほうが長く稼げるってだけなんだけどなぁ。恩に感じ過ぎだと思うよ?」
『承知の上でこのように申しているのです。それで、今日はどんな用件でいらっしゃったのですか?』
「おお、そうだった。誠二」
「ひょ、兵藤誠二だ。リアス・グレモリーさまの『戦車』をやってる。誰か俺の使い魔になってくれる人はいないかな?」
「こいつは転生者だから魔法力は豊富だし、戦闘の才能もあるから将来有望だぞ。ただ他にも美人な使い魔を持ちたいらしいから一番は難しいかもな」
これが今回ここまで来た目的『美人で有能な使い魔の確保』である。ここのウィンディーネの皆は言うまでもなく美人だし、現代で一般的なウィンディーネが筋肉の代わりに失った、強力な精霊の力を持っている。自身が前に出て戦うタイプの誠二にとってはかなりいい使い魔になるだろう。そういった情報をこぼしてしまったがために森を案内することになったのだ。
誠二の言葉を聞いてウィンディーネたちは集まって相談を始め、そのうちの何人かが前に出て誠二と交渉を始めた。全員がこの湖でも特に高い精霊の力を持ち、外への興味が盛んな年若いウィンディーネだ。
普通、精霊や魔獣と契約する際はその扱いや報酬などで話し合いを行うのだが、今回は違っていた。手を出したら最後まで責任はとるだとか、出さないなら早めに言ってほしいだとか、その場合は恋愛自由だとか、そんなのばっかりだ。
要は使い魔としての契約は、ウィンディーネにとっては婚活のようなものなのだ。伝説で人間に恋をしていたように相手は同種である必要のない精霊にとって、将来有望な眷属悪魔である誠二はかなりの好物件なのである。貴族に成り上がる可能性は普通の悪魔に比べてずっと高いし、俺が連れてきたんだから変な相手ではないと思っているからな。使い魔として近くにいれれば、アピールするチャンスも増える。手を付けてもらえなくても、この湖にずっといるよりいい男に巡り合える機会は増えるだろうし、ぜひとも契約を取りたいのだろう。少々騒ぎ方が異常な気もするが、まぁ大丈夫だろう。
そんな交渉が数十分続き、ようやく終わった。
最終的に選ばれたのは、契約に積極的だった子らと同年代の、アピール合戦を止めて交渉の進行を務めていた子だった。精霊の力は他の子と同じくらいだが、補佐役に回ってもらうので自己主張の強くない子が良かった、と言うのが誠二の意見だ。もちろん誰も信じていない。ウィンディーネたちは「現代の元人間の男はああいうのが好みなのかーッ!」って叫んでるし。
「んじゃ、次行くか? ドライアドたちに順番に挨拶したり、ハーピーやラミアの巣を訪ねたりさ」
「……いや、今日はもうやめとくわ。また今度頼む。その時も同じだけ対価は払うからさ」
「どうした? 精霊たちの肉食系な面を見てハーレムは無理って思った……わけじゃによな。また頼むって言ってるし」
「ああ、契約の対価に魔法力を供給することになったんだけど、それが意外ときつくてさ。何人も囲うとなると戦闘スタイルも変えないときついし、もう少し強くなるまで何人もと契約するのはやめとこうかと思って」
対価は魔法力にしたのか。魔力や魔法力は精霊にとってはエネルギー源になるから妥当なとこなんだが、こいつの魔法力の量でもきついってどれだけ支払ってるんだ。報酬の交渉は誠二が提示した条件で即決していたので、常識的に考えればありえない条件だったに違いない。
「理由は分かったが、本当にいいのか? 魔物とかは金銭でもいけるんだぞ?」
「そっちは将来に備えて溜めておきたいんだよ。少なくとも上級までは成り上がるつもりだしな」
「そういうことか。じゃあさっさと戻ろう。このあと兵藤たちと合流するんだろ?」
「ああ、そうしよう。兄さんがどんな反応するか楽しみだ」
こうして誠二の使い魔探しは波乱もなく終わった。誠二は良い使い魔を見つけられ、俺は意外と研究の合間のいい気分転換になったと割と上機嫌でそれぞれが所属する家まで帰った。
……その後の質問攻めで俺はかなりストレス溜まったけどな。筋肉のないウィンディーネなんか欲しがる人がいるわけないと現代の悪魔は思っているから説明しても全然信じてもらえず大変だった。今度からは他にも人間視点で意見してくれる人がいる時に説明をするようにしようと思う。