「質問! ドバイミーティングを終えた後、君たちはどうするのか!?」
ドバイミーティングこと、ドバイワールドカップを終えた後、テレビ電話でサードに彼女は質問してきた。
「何も」「何も考えてなかったぞ」
「諮問! ……どういうことだ水橋君!」
「え? 彼女たちのこれからは知りませんよ」
「あれが彼女たちのエンディングです」
「ふむ……」
理事長は”納得!!!”の扇子を広げて応える。
「ならば、エンディングを迎えて、引退するというのならば、こちらから頼みがある」
「帰国後、代理から指示があるはずだ、それに従ってくれ」
その通り、帰国後、理事長代理から呼び出しがあった。
「はっきり言うと、これは依頼でしかありません、二人には以後の活動を選択する自由があります」
「……依頼とは?」
サードディグリーは代理に聞く。
「よく言えばウマ娘の監督」
「悪く言えば、子どものオモリか」
「まぁ、そうです」と代理は答える。
「やらないというなら構いません、何もしなければ、彼らはじきに学園に見切りをつけるでしょうから」
「はぁ」とサードはため息を吐いた。
「”おかしな旅の誘いは、神の授けるダンス・レッスンである”」
サードは何かを引用するように答える。
「まぁ、やることもないしな、後輩の面倒を見るのもいいだろう」
ロードも同様に答えた。
「アタシは~?」
水橋トレーナーも興味があるようだ。
「水橋さんにも、次年度が始まるまで、彼女らの監督が必要ない場合は他の子のサポートに当たっていただければ、と思っています。」
「あと、水橋さん」
「にゃんですか」
「……苦情が来ているので勤務中にお酒を飲むのはお控えください」
「えへへ~」
水橋の息からはアルコールの匂いがする。
「さて」
代理は顔写真付きの資料を手渡してきた。
「誰から当たりますか」
サードは適当に引き抜き、ロードは一通り見終えて数枚引き抜く。
水橋は残りの資料を引き取った。
「では、彼女たちをお願いします」
代理のその言葉は、彼女らの肩に重くのしかかった。
「あ、僕ハズレ引いたかも」
サードはつぶやいた。
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サードは考えていた。
面識があるらしいシンボリルドルフ氏に聞いてみたところ、彼女はゲームセンターに居るらしいと聞いて辟易とした。
トレセンは上澄みの学校とはいえ、不良くらいいる。
サードは今回の子の事を、そう認知していた。
事実、目の前のサードの目に映る彼女も、不良っぽかった。
こんな深夜に遊んで歩いているのだから、不良だろうと思っていた。
でも顔は良いな……。いやいや、そんなことを考える必要はない。
彼女はクレーンゲームの景品をキャッチして小さく歓喜の言葉を呟いていた。
クレーンに揺らされる景品に衝撃が伝わる。
隣の台の男が、思い切り台を揺らした。
「……おい」
彼女は怒りの表情で男に向かう。
「流石に台パンは駄目だろ」
見てみると、叩かれた筐体のガラスにひびが入っている。
「店員呼んでくっから」
その瞬間、男が彼女に殴りかかった。
その拳を抑え、彼女は叫ぶ。
「……どーなっても知らねーからな!」
彼女はその男を殴り飛ばす。
サードは思った。だめだ、殴り返してはいけない。
サードは彼女らの間に走った。
その瞬間、バチンと彼女の放った拳が当たった。
サードに。
「ちょっ! 急に向かってくんな!!! びっくりするだろうが!!!」
サードは顔をさすりながら言い放つ。
「……あの」
「何だよ」
「喧嘩は善くないですよ」
「知ってるよ」
店員が騒ぎを聞きつけてやって来る。
店員が来たと知って男は去っていく。
「あの、すみません、お客様」
「以後入店をお断りさせて頂きますので」
店員は彼女に向けていった。
サードが、「それは誤解です」と言う前に、彼女は去ろうとしていた。
「あっそ」
「じゃあもういいわ、来るなって言われたら来ねーよ」
彼女は店から去っていく。サードは彼女と並走しながら話しかけた。
「いいんですか? 弁明しなくて」
「……いいんだよ、どうせ聞いてもらえねぇ」
「やさぐれちゃ駄目ですよ」
「うるせぇ、部外者の癖によ」
「じゃあ、ナンパしていいですか?」
サードはコミュニケーションが苦手だった。
「は?」
「だから、ナンパするからついてきてほしいなって」
「ワケわかんねーよ、逆ナン? いや、ただのナンパ? というか女にするわけじゃねぇだろ、お前は見たところイイ女だけどよ」
サードはにやりと笑った。
「イイ女はレズなんですよ」
サードの顔面に拳が入った。
「前が見えねぇ」
「はぁ…… じゃあいい、腹減ったし、アンタの知ってる一番うまいラーメン屋を教えてくれるんだったら、ついていってやる」
サードは鼻の頭をなでながら、答えた。
「いいですね、ちょうど、この近くにありますよ」
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「一番うまいラーメンってよぉ」
彼女がラーメンをすすりながら聞く。
「カップラーメンじゃねぇかよ」
「事実です」
「……世界で一番うまいラーメンがカップラーメンだったら、一番売れてるものがうまいことになっちまう」
「多い方が正しいなら、地球はまだ平らなままだ」
「誰の言葉ですか?」
「知らねぇ」
彼女らは地面に座り込みながら、ラーメンを啜っていた。
「そういえば自己紹介してなかったですね」
「サードディグリーです」
「去年の有馬記念の勝者だろ、知ってるわ」
「オレはセツナ…… まぁ、悪い意味で有名かもしれないけどな」
「知りませんでしたよ」
サードは嘘を吐いた。彼女の名前は資料に書いてあったし、素行不良についても書いてあった。
「うめぇけどよ」
「なんか足りねぇんだよ、インスタントとか、コンビニのメシって」
「何が足りねぇんだろうな」
「ラブでは」
サードは素っ頓狂に答えた。
「フン、ラブかぁ」
「そういうのもあるのかもな」
そう答えた後、サードに短い電話がかかってきた。
セツナの先ほどの喧嘩について、トレセンに誤解を詫びる電話がかかってきたようだった。
「どうやら、先ほどの誤解は解けたみたいですよ、もう一度行ってみては」
「別にいい」
「いいんですか?」
「ツキが落ちるわ」
「ラーメンごちそうさん」
そういってセツナはどこかに歩いていく。
「じゃあな! ケツデカ女!」
サードは小さく手を振って送った。
セツナは鼻歌を歌いながら、街頭の向こうに去っていく。
その歌を聞いて、「ブルーハーツ?」と小さく呟いて、サードはセツナの背中を見送った。
ブルーハーツ - 終わらない歌