アルバムサイズド   作:Avigale

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時の河 - ミカワグレイ

「ああ、居た居た」

 

ミカワグレイは水橋に声をかけられた。

 

「ミカワグレイちゃんだよね~」

 

「そうですが、何か」

 

「うーん? 悩み事があると聞いてきたんだけど」

 

「そんなもの、私にはありませんが」

 

「いや、あるね」

 

「悩み事のない人間なんていないよ、大きい悩みほど見つけられないものだよ」

 

「エレファント・イン・ザ・ルーム」

 

ミカワグレイはポカンとした。

目の前のウマ娘がトレーナーのバッジをつけていること。

彼女が非常にラフな格好であること。

勤務時間中なのに酒を飲んでいること。

 

「意味わかる?」

 

「分からないわ」

 

「みんな知ってるのに誰も口に出さないってこと」

 

「立ち話も難だし、カフェテリアにでも行こうよ」

 

「君の中の象を見つけたげる」

 

_________

______

____

 

ミカワグレイは緑茶を、水橋は持ち込んだ酒を飲んでいる。

 

既に水橋からはヒト気が無くなっている。

 

「アタシがなんでお酒飲むかわかる?」

 

「好きだから?」

「違う、一人になれるから、環境的にも、心情的にも」

 

「アタシうるさいのきらいなの~」

 

「では、一人になればいいんじゃないかしら?」

 

「それは寂しいからいやなの~」

 

「当ててあげよっか、君が何を悩んでいるのか」

 

水橋はうーんと唸って考えている。

 

「そう、簡単に当てられたら悩みと言えるの?」

 

「みーんな持ってる、小さい悩みがあるもんだよ。抱えてるもんがない人なんていない。重りが積まれない船は、どっか流れて行っちゃうから」

 

「時間という川の流れに流されてどっか行っちゃうからさ」

 

「あ、分かった」

 

水橋は指を立ててミカワを差した。

 

「君、自分がウマ娘であることに悩んでるでしょ」

 

「……」

 

「沈黙は肯定だよ~?」

 

「まぁ、それは自分が人間であることについて悩むようなもので、皆が抱える疑問だと思いますけどね」

 

「何言ってんの、随分大きな象じゃないか、誰も指摘しない」

 

「だからアタシが指摘してあげる、オカシなひととしてね」

 

「集団には異端が必要なんだよ。それを許容できなければ、排斥するようになってしまったら、多分、ゴロゴロと川に流されて行って、削れて、無くなっちゃうんだ」

 

「船頭多くして船山に登るという言葉もありますが」

 

「それはリーダーが居ないから、その集団がバカなだけ」

 

「結局意思決定っていうのは一人の人間に任されちゃうんだよね~、皆、肩に歴史を背負ってるんだよ、その自覚がないよね~」

 

「その意見には、少々同意しますわ」

 

「ムーちゃん先生が言ってたわ、そんなこと」

 

「誰ですか? それは」

 

「アタシの親友のトレーナー、歴史好きなところとか君と似てる」

 

「いつかあってみたいですね」

 

「だめだめ、あんな人と会ったら、脳みそ食べられちゃうよ」

 

「あの人はおかしい人だから」

 

「あなたの親類というのなら、おかしい人であることも同意できます」

 

水橋は酒に口を付けた。

 

「でさ」

 

「君はウマ娘であることに悩んでるんでしょ?」

 

ミカワグレイは沈黙した。

 

「やっぱり黙った。沈黙は肯定なんだってば」

 

「悩んでいいよ~ いっぱい悩んで、いっぱい考えよう」

 

「どんどん悩んでいいんだ」

 

「でも、これだけは忘れないで」

 

水橋トレーナーは真面目な顔をした。

ミカワグレイには、彼女が少し不気味に映った。

 

「周りにみんながいること、皆が君の舵に、錨に、竜骨になっていること。人生は雄大な川下りなんだ」

 

「いつかみんなで、海に行こう。君という船で、海に出て、遠くまで一緒に行こうよ」

 

「歴史の河は、だれにも止められないのさ、流れていくしかない」

 

「ならばせめて、皆で流れていこう」

 

ミカワグレイはその話を聞いて、ため息を吐いた。

 

「それが、私の悩みを解決してくれる、と?」

 

「多分ね」

 

ミカワグレイは考える素振りをした。

素振りをしただけで、答えはもう決まっていた。

 

「川の流れは、いつか必ず、大河になり、そして海に出ます」

 

「私もいつか、雄大な歴史の流れとなって見せましょう」

 

「その時はアタシにも見せてよ、君の雄大さ」

 

「それは考えておきます」

 

「いいよ、考えておいて」

 

ミカワグレイは緑茶を飲み終えて席を立った。

 

水橋は席を立たずに、外を眺めた。

 

時の流れに身を任せる、船頭のように。

 




FENCE OF DEFENCE - 時の河
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