「ダァっ! クソ! 何で勝てねぇんだよ!」
「……」
ロードは少々この子を見くびっていたようだった。
考えても見てほしい、先月のダート最強バ決定戦、つまるところドバイワールドカップを戦ったロードオブウォーについてこれるほどのウマなのだ、この子は。
ロードには、気になる点があった。
「サジンアルファ」
ロードは彼女の名を呼ぶ。
「ハァ…… なんだよ」
「少し横にならないか?」
「……いいぜ、俺はもう今日は走りたくねェ」
サジンアルファとロードオブウォーは、競技場の縁で横になった。
「サジンよ、貴様の走る理由はなんだ?」
「教えられるほど簡単な理由じゃねェ」
「勝てば気持ちいいからか?」
「それも一つの理由だけどよ」
「……貴様に言いたかったのは、走る使命というものを得なければならないということだ」
「アンタさ、急すぎるよ」
サジンアルファは起き上がろうとした。
「そういうのは…… え?」
「ワガハイの走る使命を見せてやろう」
サジンアルファが居る場所は、既にトレセン学園ではなかった。
トレセン学園ではない、ここは違う。
何か、強大な力にぐちゃぐちゃにされ、滅んだ街のような。
「サジンアルファ、”ドバイへようこそ”」
「結局のところ、これはウマソウルが見せる幻影でしかない」
「ワガハイの心に残っている幻影だ。ワガハイはこれに呪われていたと言っても過言ではない」
「じゃあ、今はどうなんだよ」
「未だに呪われているのかもな」
サジンアルファが見るところ、全てに砂があった。
砂、砂、砂。
全てが砂によって浸食されていた。
サジンアルファは知っている。ドバイは富裕層の街で、煌びやかな、ガラスのビルが立ち並ぶ街だということを。
だが、ここは違う。
「あれを見ろ」
ロードが指さしたところは、何か、塹壕のような溝が掘られていた。
「あそこでワガハイの父は100人以上の民間人を殺したらしい」
「……何も言えねえ」
「その向こうにある電波塔、メディアタワーだな。あそこで父はラジオのDJを殺害した」
「降伏しているのにもかかわらず」
サジンは遠くに人影を見た。
土嚢に座って、茫然としているように見える。
「見えたみたいだな」
「あれが私の父だ、このドバイで、殺戮を繰り返した、悪魔だ」
「彼奴のせいで、ワガハイの家は、もはやドバイには帰れなかった」
「だが、名誉を取り戻す方法が一つだけあった」
「日本にはいい言葉があるな?”故郷に錦を飾る”だ」
サジンは気づいた。
「それが、ドバイワールドカップがお前の走る理由だってことかよ」
「それだけではない」
「ワガハイは父も母ももう居ない」
「父はドバイで、母は日本で死んだ」
「分かるか? ワガハイの走りは弔い合戦なのだよ」
「弔いねぇ」
どこからか、歪んだギターのリフが聞こえてくる。
また、逆さまの星条旗がはためいているのが見えた。
「あ」
サジンはその傍の下にキラリと輝くものが見えた。
その瞬間、ロードの体が何かに貫かれる。
「ワガハイは」
遅れて、銃声がする。
「果たせなかった」
轟々と、砂嵐が2人を襲う。
サジンは目を覆った。前が見えなくなった。
_________
______
____
「目が覚めたか」
「眠ってしまったから、起こそうか迷っていたぞ」
「……夢か」
「ああ、夢だ」
「悪い夢も、良い夢も、全て貴様が望んだものだ」
「だとしたら」
サジンアルファは立ち上がった。
「俺の夢は、反発、反抗、反撃だ」
「このまま負けてられっかよ」
ロードはフッと笑った。
「では、反撃開始といこう」
サジンアルファは歩き始めた。
ロードオブウォーは追わなかった。
暑い日差しが照っている。
小さな砂嵐が、競技場に舞っていた。
ハヌマーン - 反撃開始