外を眺めている。
花の茎に、何かの繭がついていた。
「ベアーフルーツ君……」
保健教諭の式部は少し言いづらそうに話しかける。
「はひ! なんでしょうは?」
ベアーフルーツはモソモソとバウムクーヘンを食べながら答える。
「確かに相談室にはいろいろとお菓子を置いているがね」
「流石にそんなに食べては体重に響くぞ?」
「大丈夫れす! ちゃんと走ってますから!」
「糖分は体重の敵だから、気を付けたまえ」
式部は腕を組みながら、そう呟いた。
モグモグとバウムクーヘンをつまみながら、それをゴクンと飲みこんだ。
「まぁ」
式部が彼女の目を見る。
「ここに来たのはお菓子のためじゃないんだろう?」
「……」
ベアーフルーツはお菓子をつまむ手を止める。
「実は、ですね」
ベアーフルーツは静かに、相談をし始めた。
__________
______
___
「……彼女らも本格化の時期か」
「はい、なのに、私だけ本格化が来ていないんです」
「友達と、一緒に走ろうと決めてここに入ってきたのに……」
「ふむ」と式部は頷いた。
「もしかして、私はもう友達と一緒に走れないんでしょうか?」
「そう考えると不安で……」
式部は答える。
「トレセンには才能のある子しか入れない」
「君も、トレセンに見初められたということは、何かの才能があるということだ」
「……」
「才能がいつ開花するかなんてわからない。もしかすると、走る才能ではないものが開花するかもしれない」
「ウマ娘は蝶だ、多くは走りという花の元で羽化する」
「しかし、稀に羽を開けない子もいる、いろいろな事情がある。君のように、本格化のタイミングが悪い子、走りを好まない子、走りよりも得意なものがある子。色々いる。」
「世の中はそんな子をあまり好まない。ウマ娘と言えば走り、蝶と言えば美しいと思っている物ばかりだ」
ベアーフルーツは静かに聞いた。
「もしかすると、羽を開けない子は蝶ではないのかもしれない、そんな子は蛾のように邪険に扱われるかもしれない」
「だがね、蛾と蝶の違いというものはそんなにないんだ」
「世の中が勝手に、美しいものを蝶、美しくないものを勝手に蛾と呼んでいるだけだ」
「私は蛾の方が好きだ」
「だから、こんなところにいるのかもしれないな」
式部は顔をあげて彼女を見た。
彼女は、頷きながら残りのバウムクーヘンを口に運んでいた。
「……今はそれでいいんだ。いつか気づくはずさ」
「でも! 先生の言葉はここに響きましたよ!」
ドンと胸を叩き、むせるベアーフルーツ。
「大丈夫かい」
「大丈夫です!」
ケホッと咳をするベアーフルーツ。
「つまり、私が羽化するまで、我慢しなさいってことですよね?」
「我慢、というかそのままでいいというだけだよ」
「君が輝くときは必ず来る。だから、それを待って日々を積み重ねていけばいいんだ」
ベアーフルーツは目を輝かせた。
「はいっ! じゃあ、残りのお菓子ももらっていきますね!」
「私が繭を割るために」
式部はその言葉に笑みを浮かべた。
「持っていきたまえ、お菓子目当てに来るのは君くらいだ」
「はい!」と元気よく返事をして、ベアーフルーツはお菓子を抱えていった。
「この世には、羽化できない蝶も蛾も沢山いる」
「君が羽化するためなら、私は何でもしようじゃないか」
「ありがとうございます! 先生!」
そういって、笑顔でベアーフルーツは去っていった。
式部は外に咲いている花を眺めた。
繭は、いつの間にか割れており、中に居た存在は、既に飛び去っていたようだった。