アルバムサイズド   作:Avigale

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幸せ者 - ボウハツフンジン

「「うわっ」」

 

身体がぶつかる音がする。

 

倉橋が顔を上げると、そこにはウマ娘がいた。

 

「わ、すみません……」

 

「気を付けてください」

 

この子の名前を、倉橋は覚えていた。

 

「ボウハツフンジンさんじゃないですか? どうしてこんな遅くに事務室に?」

 

「……外出届を忘れてて」

 

「あ、はい、じゃあ、受け取りますね」

 

「……あ、でも」

 

「今受け取ったんじゃ、処理するのは明日だから、結局怒られちゃいます……」

 

アセアセと倉橋は目に見えて焦りだした。

 

「……怒られてもいいですよ、別に」

 

「うーん……」

 

そんななか、倉橋はポンと何かを思いついたようだ。

 

「書類の日付変えちゃいましょうか?」

 

「駄目に決まってるでしょ、事務員が書類を不正にいじったら」

 

「はい……」

 

ボウハツフンジンは知っていた。この倉橋という事務員が、学園で最も不甲斐ない事務員であることを。

 

「やっぱり、倉橋さんって変ですね」

 

「へ、変ですか? 何か、臭いとかしますか……?」

 

「いえ、匂いはしないんですけど」

 

「うわ〜! やっぱりだめです~! 毎日お風呂入ってるのに~!」

 

びーびーと倉橋は泣き出してしまった。

 

ボウハツフンジンは、彼女が泣くのを見るのは3回目だった。

 

「チッ」と彼女は舌打ちをした。

 

「……でも」と思い出した。

 

この人が最初に泣いたのを見たのは、初めてG1を制覇したときだったはずだ。

 

事務室にその知らせを持ち込んだとたん、応対していた彼女は泣き出したのだ。

 

それはもう驚いた。

 

「また人に嫌われてしまった……」

 

と倉橋は涙を浮かべている。

 

「はぁ」とボウハツフンジンはため息を吐いた。

 

「あなたの事は嫌いではありません、あなたがいい人だということは知っています」

 

「うぅ~」

 

「だから泣かないでくださいよ、警備員さん来ちゃいます」

 

倉橋は持っていたハンカチで涙を拭いた。

 

「そうですよね、ごめんなさい、取り乱しちゃって」

 

「とりあえず」

 

倉橋は落ち着いて、口を開いた。

 

「明日怒られるときは、一緒に怒られましょう」

 

ボウハツフンジンは彼女の笑顔を見た。

 

彼女の力のない誘いに、ボウハツフンジンはなんだか魔法をかけられた気になった。

 

___________

______

____

 

「まったく」とエアグルーヴは憤っていた。

 

「倉橋、貴様は何度失敗すれば学んでくれるのだ」

 

「すみません、エアグルーヴさん」

 

エアグルーヴは彼女の事が嫌いだった。

 

彼女は自分の意志で人生を歩めないタイプの人間であり、自意識が虫以下だった。

 

エアグルーヴは虫が嫌いだった。

 

「フンジン、貴様も貴様だ、連勝しているからといえ、書類は期限通りに出せ」

 

「ルールが無ければ獣と一緒だ」

 

エアグルーヴはそう告げて、彼女らを生徒会室から放り出した。

 

「……怒られちゃいましたね」

 

倉橋は申し訳なさそうにボウハツフンジンを見る。

 

「ふぅ」とボウハツフンジンはため息を吐いた。

 

これで何度目になるのだろう。

 

ボウハツフンジンは思っていた。

 

意外と、ため息や舌打ちを吐きながら生きるのも悪くないのかもしれない、なんて。

 




A-Ⅱ - 幸せ者
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