「
二十余名の法服姿の隊員達を前に、
彼らの纏う魔法の込められた法服は、この大陸では決して彼ら以外には容易に手に入れることの叶わない稀な代物であることは疑いないが、最後に手入れがされたのはいつであったか、ショーエンを含め誰のそれもあちらこちらが綻び汚れが目立つ。込められた魔法の効果は変わらないのではあろうが、この姿で街を歩けばおさおさ粗略な扱いを決して受けることのなかった彼らが、かつての威勢を知らぬ者が見れば物乞いの集団と見間違えられそうな
「これより挑むは、神の威光を取り戻す長い歩みの第一歩となる……」
ショーエンは敢えて言葉を切って
辛うじて、
無論、ショーエンの檄に応じてのことではない。
事ここに至っては、彼らには他にどう応じようもないゆえだ。
「……聖戦である!」
言葉こそ勇ましいが、彼らがこれから臨まんとしているのは、実のところ略奪である。
故国スレイン
糊口をしのぐ残された最後の手立ては、彼らが長く下等人種と蔑み続けてきた森妖精の村からの略奪以外にないことは明らかだ。
ショーエンは苦々しくもここへ至る一年余の道のりを顧みる。
ただただ忌々しいのは国家転覆の反逆者、神殺しの“人の子”を自称する汚らわしき
今ではシロクロ、と名乗る彼女が突如の
ショーエンは、上司が殺害されたこと自体にはさして感情を動かされなかったが、いつか自分が就くはずであった法国における至高の地位と、火滅聖典を支えた潤沢な予算措置が不条理にもすべて奪い去られたことに対しては怒り心頭であり、今この瞬間もこれを思い出せば手の震えが止まらなくなるほどだ。
さらに彼を苛立たせたのは、火の神官長と共に自身の上司となる光の神官長を煽ってシロクロの戦鎌の前に立たせたのが、かつての同輩、陽光聖典隊長ハチグン・ルーインであったことだ。
シロクロの王位僭称時点、たまたま神都に居合わせたルーインは、たちまちにシロクロに反抗する術を持たなかった六神官長に対し、味方することを約す
何のことはない、ルーインは
帰国して事態を把握したショーエンは、命の危機を覚えて敢えて神殿には出頭せず、反新体制の同志を募るべく火の神官所縁の町々を巡り、直属の部下や
辛うじて麾下に、今ここにある二十余名の
誰も彼もがルーインに倣い、仲間を売って反逆者に取り入ることを良しとしたがゆえだろうか。神への信仰心で結びついた法国の
にも増して、かつてショーエンたちに敬意の眼差しを欠かすことのなかった
聞くところによれば、反逆者シロクロが権力奪取後最初におこなったことは、国税に加えて課されていた六大神に対する貢納廃止の宣言であったらしい。六色聖典の直接の財源でもあったそれが廃されたことにより、国民の負担は突如かつての七分の一に減じられた計算となるが、その一事を以て全国民が一息にかの簒奪者へ靡くほど、自分たち六色聖典は法国の民の支持をいつの間にやら失っていたものだろうか。我々は法国の崇高な使命に殉じる英雄として、尊敬されていたのではなかったか!
結局彼らは、まだ中央の政変について詳しく伝わっていない周辺へ、周辺へと追いやられる形で南下を続け、三ヶ月ほど前にこの兵站村に至った。
同様の道程を辿った者は彼らのみではなかったようで、最初のうちこそ数こそ多くはないが続々と合流する同志に心を励まされはしたものの、やって来るのは身も心も疲れ果てた逃亡者ばかりで、しかも何の物資も帯同していない。日に日に備蓄された糧食は
法国の倫理観においては、建前上は地位の高いものほど質素倹約を要求されるため、ショーエンを含む幹部層はここしばらく野草の類しか口に出来てはいない。それも季節が冬に転じれば尽き果てるのは明らかで、しかも、僅かながらも今なお敗残兵の流入は続いている。
ここに至ってショーエンは、活路を求めて森妖精の国への戦端を開くことを決断した。
六大神の定め給うところによれば、人間種こそが神に選ばれた優良種であり、エイヴァーシャー大森林に住まう森妖精の
思えば、反逆者に追い詰められた我々の目前に、豊かな食料を貯め込んだ森妖精どもがあることこそが、神の御導きなのではないか。かつてのスレイン法国の黄金の日々にあって、大森林が労働奴隷、性奴隷の一大供給地であったように。
だがしかし。
飢えに怯える略奪者へ身を
*
「あ……アレじゃないでしょうか?」
どうしたことか、彼は女物の真っ白な
「どうやらアイツらのようですねェ、アイン……おっとォ、失礼しましたァ!」
もう一人の人物を挟んで反対側にいた、こちらも短金髪の
こちらは対照的に男物のやはり白い
そして、いささか倒錯的ながらも、でありながらこの世の者とは思えぬ美を誇る二人に挟まれ、その中央に屹立するは、漆黒の
一体どのようにして用いるものか、自身の背丈に届かんとするほど長大、かつ、斬撃器と呼ぶよりはむしろ粉砕器の呼び名が相応しく感じられるほどに重厚な
「あぁ……ベラ。まだ構わないぞ。」
甲冑は、口にせぬと約した真名を危うく口に出しそうになって慌てた
「改めて言っておくが、戦略目標は連中を撤退させることで殲滅ではない。おまえたちの仕事は
「はィ!」
「は……はい!」
三人は、ここを越えれば
(数人ぶった斬って逃げ去ってくれれば御の字か……)
不似合いな甲冑の中に収まる我儘な骸骨、アインズ・ウール・ゴウンは、いささか自分らしくないな、と思いつつもそんなことを考えていた。
が、死の支配者モモンガであると同時に、ユグドラシルプレイヤー鈴木悟とその友であった至高の四十一人の記憶から顕現した存在であるアインズは、少なからず
元より、政権を簒奪した新たな支配者に直接戦いを挑むでもなく、格下に見ている
(デミウルゴスの口車にまんまと乗せられた感もあるが……あいつはあいつなりにオレのことを思ってやってくれていることでもあるしな。)
この場でスレイン報国を追われた物乞い集団を待ち受ける
デミウルゴスは満面の笑みを浮かべながら「かの
ペカー!
そうこうするうちに、物乞いの……くたびれているだけで彼らからすれば列記とした
彼らの編成が、切り込み隊となる少数精鋭の先頭集団に、追って面制圧に加わる雑兵が続いたものであることは見るからに明らかだ。アインズは、即時戦闘となるにせよ
三百人を超える軍団の前に一人……実際には三人だが……立ち塞がる者があるとすれば、数の差を埋めて余りある何らかの対抗手段を有しているものと考えるのは当然で、これを数を頼みに多勢で囲い込むと、即時退却しなければならない状況となった場合、大混乱に陥る危険性が高い。
そんなことは集団戦のイロハのイだ、と少なくともアインズはそう考えているが、一旦歩みを止めたに見えた軍団は、何やら鬨の声を上げた後はさきほどまでと同じ調子で進軍を再開したものだから、否応なくアインズは深い溜息をついた。
(こちらの世界の
ユグドラシルからの転移者の宿命として短期記憶を維持し続けることが出来ないアインズは、おそらく以前から自分は同じ疑問を
もしその答えが既にわかっているものであれば、繰り返し浮かび続けるそうした疑問に対しては、そこに意識が囚われすぎることのないよう何らかの対策……今回のような
とまれ、
「何だぁ、貴様は?」
軍団の先頭に立っていた男から浴びせられた第一声は、過分に礼儀を欠く口調のものだった。礼法など期待していたわけではもちろんないが、相手の力量も把握しないままこういう態度を採る輩の思考回路がアインズにはまったく理解できなかった。
この世界に恐れる相手などいようはずもないアインズですら、事前にナザリックの目、ニグレドを通じて目前の烏合の衆の値踏みを終え、さらに周囲数キロ以内に別動隊がいないことまで確認した上で事に臨んでいると言うのに。
「おまえたちのような……無辜の民からの略奪を試みる恥知らずが嫌いな者、とでも言っておこうか。」
アインズはさらりとそう答える。
ズバリを突かれたがゆえか、一瞬男は言葉を詰まらせたが、すぐにその瞳に無駄に濃い闘志をたぎらせてこう応じる。
「振るえもせん
(は?)
我ながらいささかハッタリ感を醸す出で立ちである、と考えなかったわけでもなかったが、よもや本当にただのハッタリだと解する
本来
アインズの
さりとて、旧スレイン法国の狂信者たちに付き纏われるのを厭うて絶死絶命改めシロクロに「神殺し」を送り名し新生スレイン報国を押し付けて間もない今、これまでと変わらず能天気に骸骨姿で狩りに出かけるほどアインズは身勝手ではなかった。シロクロの寿命が尽きるか、せめて次代へ実権を譲るまでくらいは髑髏様の
一方で、
ユグドラシル以来、紛うことなき
と意を決するが早いか、たちまちにこの両手剣を両の手に携えた漆黒の全身甲冑姿が具現化されたのは、存外アインズは以前から……ひょっとするとユグドラシル時代、まだ人間鈴木悟であった時分から……成れるものであれば一度はこう成ってみたい、と願い続けていたのかも知れない。
とまれ、名を問われたとき咄嗟に、ホニョペニョコ、などと後々困ったことになる無茶を口走ってしまわぬよう、元の
が、とは言え、この一事を以て切れ散らかすほどアインズは
「……試してみるか?」
アインズは左足を一歩踏み出すと共に、左手の剣を正眼に、右手のそれを上段鳥居に構える。常人からすれば、この得物をそのように構えられること自体が常識外れ甚だしくもあるが、食が足りず既にまともな思考が回っていないのであろうか、対する男はなおも怯まなかった。
「大した自信だが、我々をスレイン法国火滅聖典と知ってのことか?」
ハッタリではないものをハッタリと思い込まれ、ハッタリにならないハッタリをかまされる……アインズの存在しない脳内でハッタリが
「今なら、その分不相応に引き連れた性奴隷二人で手を打ってやってもいいぞ。」
そのときアインズは、耳元で妙に幼く、でありながら色っぽい女の煽り声を聴いた。
(サトルくん、
その後はいささか記憶が曖昧だ。
ユグドラシルの
確かめる術はないが、たとえば、ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの内のみならずユグドラシルにおいて近接戦最強の一人と自他ともに認めた
対して、目下彼が試みているところの魔法詠唱者でありながら剣戟を振るう
(想像していた以上に面倒臭いな……)
アインズは自身が周囲に巻き起こす血
只今百レベルのモモンガの肉体の力に任せて演じているところの
「ナカナカ
との部下の褒め言葉が、世辞に過ぎぬことがわからぬほどアインズは阿呆ではない。実際、アインズの魔法と
だがしかし。
アインズが記憶している限り、鈴木悟にスポーツを
一方で、いざ実戦となれば話はいささか異なってくる。
そもそもユグドラシル時代のモモンガ、そして転移後のアインズの意識は、
また、ナザリック地下大墳墓の運営の視点においては、大方針を示した後は細部に口を出さず、原則として
言いを換えれば、アインズは物事を大雑把に捉え、大抵のことは力づくで解決してしまう決断主義の結果指向を常としている、ということでもある。本人の自覚の有無を別にして。
対して、今おこなっているような無理繰りの肉弾戦は、そうした普段の彼の意識とは真逆の方向性を示す。
相手の能力においてまったく回避不能な一振りであっても、そもそも誰もいない場所へ振るえば何も
並みの精神であれば耐え兼ねる仕儀であろうが、幸か不幸か種族特性で疲れをまったく知らぬアインズは、本人にその気がある限り機械であるかの如く黙々とこの作業を繰り返すことが出来た。ただただ面倒臭い、と感じ続けることを別として。
疲れることも倦むことも飽きることもない殺戮。
一度シズに、長期休暇でもくれてやるべきだよなぁ。その間に調べ事の必要が生じても、
で、次はどいつだ?
と視線を走らせるが、視野の中で動く者は最早満面の笑みで拍手喝采を送る闇妖精双子のみ。
「……え?」
ようやくアインズは、考え事をしながら剣を振り回しているうちに三百余人いた物乞い集団を皆殺しにしてしまったことに気づく。もっとも、半数近くは密集隊形のまま乱戦に陥ったがゆえの同士討ちや圧殺によるものだが、アインズが齎した死であることに違いはない。
等しくすべて同じ死だ。
ただ、
(ぶくぶく茶釜さん……お気持ちはわかりますけど、こういう煽りは勘弁してくださいよぉ。)
殺戮へ没頭する直前に確かに聴いた内なる声に、アインズは独りしても仕方のない抗議をし、その己の行為に自らフフフと笑い、そしてすぐに、改めて意識を集中させた。
彼の鋭敏な知覚が、期待していた
「
不意にアウラがエイヴァーシャー大森林の方へ振り返り大きな声を上げた。
「皆さんの村を襲おうとした不埒な輩は、漆黒の英雄モモン様が成敗しましたァ!」
「み、皆さん。も、もう出て来ても大丈夫ですよぉ。」
マーレもおどおどと姉に続いて声を上げるが、たちまちには何の反応もない。
が、ややあって、
元よりアインズたちも彼らの存在を承知していて、むしろこちらこそが本命だ。
森妖精たちは姿を現した後もしばらく遠巻きにアインズたちの様子を窺っていたが、ようやく意を決したのか一角の小集団の
「キミは耳を切られてはいないようだけれど、奴隷ではないのかい?」
問われたマーレはたどたどしくも即答する。
「ボ、ボクはアイ……モモン様の
嗚呼、この手の
「こんにちわァ!私たちは漆黒の英雄モモン様の従者です。
モモン様は、私たちと同じ
事前に取り決めていた筋書きとは言え、あまりに
「モモン……というのは、あちらの甲冑の?」
「モモン様!……です!」
森妖精には甲冑を纏う習慣がないため、問うた男は火滅聖典をただ一人で殲滅した剛腕の戦士は、少なくとも同族の森妖精ではない、と判断しており、ゆえに敢えて敬称を用いなかったが、そこが気に入らないアウラは火でも噴きそうな剣幕でたちまちに訂正を求めた。
「……で、では、モモン……
気押された男は、違和感を覚えつつも素直に従う。
曲がりなりにも会話が成立したことに安心したのか、後ろから続々と森妖精たちが合流してきた。皆、まだ警戒感があるのか強いてアインズには近づこうとせず、まずはマーレに近づいて行く。
アインズは事前にデミウルゴスから、当地の森妖精が典型的な男尊女卑社会を構成しているとの調査結果を聞かされていたので、なるほどそういうものか、と得心していたが、同じ話を聞かされつつも心に落ちていないアウラは、マーレの周りにばかり森妖精が集っていく様に納得がいかないらしく、やや頬を膨らせて不満気だ。
そうこうするうち、武装していないやや高齢の森妖精が人だかりに加わった。マーレを取り囲んで品定めをしていた弓手たちが自然と道を譲るところを見ると、結果的に窮地を脱した村の指導者だろう、とアインズは判断する。
「あなたはトブの大森林の
やはり声をかけた相手はマーレだ。
マーレも、自分たちはやや侮蔑的に
「しかも、その
高齢の森妖精がマーレの顔を覗き込みながらそう言うと、周囲の戦士森妖精たちから「おぉ!」とどよめきが起こった。
「闇妖精の王族は随分と昔に絶えた、と伝え聞いていたのだが、あなたはその生き残りなのかね?」
どう応じていいものやらわからず、見る見るうちに表情が曇っていくマーレに、アインズはそろそろ限界だろう、と意を決し、手にした二本の大剣を地面に突き立てて手放してから、マーレを取り囲む森妖精の輪へと歩み寄った。やはり自然と道が譲られるが、その理由は高齢の森妖精のときとはいささか異なるものだろう。
「ベロは私の従者であり……友でもある。」
途端にパァとマーレの顔が明るくなるが「いや、おまえにそういう顔させたくて言ったんじゃねーよ」と内心アインズは毒づいた。
同じ
「従者であり友?
奴隷ではなくて?」
アインズに道を譲って距離を置いた兵士たちとは異なり、高齢の森妖精はマーレの
「無論だ、こちらのベラも同じくな。」
アインズは、人だかりからあぶれて憮然とした表情のアウラにも森妖精の注意を喚起した。
そして、まだ何か言いたそうな高齢の森妖精が口を開くよりも前に先手を取って気勢を制する。
「従者であり友、が理解できないとは、おまえたちは伝え聞いていたよりも卑屈な民なのだな。」
そう言いながら歩み寄るアインズの左右にアウラとマーレがひょいと居並ぶ。高齢の森妖精はたちまちに返す言葉がない様子だ。
「ベロが何者であるか、奴隷であるのかないのか、よりも前に、言葉が通じる者同士、せねばならんことがあるのではないか?」
更に詰め寄る漆黒の甲冑に、高齢の森妖精はハッと我に返った。
「仰せごもっとも。礼を失する振る舞いはお詫びしたい。
我らの村の火急をお救いいただいたことには、深く感謝申し上げる。」
アウラとマーレは胸を張って、うんうん、と頷く。
アインズはと言えば「おまえら結局役に立ってねーじゃねーか!」と脳天気な双子に突っ込みたい気分でいっぱいではあるが、よくよく思えば、種族が近いだけで、ユグドラシル産の二人はこちらの森妖精と文化背景を共有しているわけではないのだから、そもそも双子に森妖精への橋渡し役を期待したこと自体が
敢えてそこには触れずにグッと飲み込む。
「何か謝礼を差し上げるべき、とは思うのだが……」
と高齢の森妖精は言い淀んだ。
森妖精たちは、小綺麗にこそしているものの決して豊かな生活をしているようには見えない。
デミウルゴスの内偵で、エイヴァーシャー大森林を支配する森妖精の王が、おしなべて支配下の民の保護に関心が薄く、外縁の村の防衛については各地の自助努力に任せていることは事前に把握済みだ。つまるところ、彼ら自身も食いつなぐのがやっとで、村を救った恩人とは言えたちまちに謝礼を差し出せる余裕など持ち合わせてはいないことをアインズは承知している。
「元より、友であるベラとベロに請われておこなったこと。
報酬など期待してはいない。」
とアインズは言い切る。この態度は森妖精の兵士たちにも感銘を与えたようで、まばらにではあるが周囲から「おぉ!」と唸る声が聞こえた。
「だが!」
と、アインズは続けた。
やはり何か要求されるのか、と森妖精たちの表情がこわばる。
「……敢えて礼をしたい、と言うのであれば、村の火急を救った義勇の士として、おまえたちの王に引き会わせてもらいたい。」
途端、その場が静まり返った。
あの……あの王との会見を望むとは、どういった了見からくるものか!
辛うじて高齢の森妖精だけが、半ば義務感から言葉を返す。
「それで……それで
しかし、漆黒の甲冑は森妖精の忠告を意に介さない。
「それはおまえたちの王が決めることであって、おまえたちが気にすることではあるまい。」
もしや、と。
この
が、それを口にする者はいない。漆黒の甲冑の真意が何処にあるかは未だ計り知れず、仮に王族の血筋にあると思しき二人をかの暴君に献じることが目的なのであれば、ここでそういった期待を言葉にすることは、どうにかしてここまで生き永らえた寿命を縮めることになりかねない。
「では、手筈を整えさせていただきますので、しばしお待ちくだされ。
誰か、モモン様と友のお二人を村へご案内せよ。」
高齢の森妖精は深々と礼を執った後、
対するアインズは、
(いささか不穏な空気が漂ってはいるが、ここまでは計画通りだな。)
と。
*
結局アインズたちは、そのままこれと言って何もない村に五日ほど
その間、アインズはアウラとマーレに「
そうこうするうちに、村の者たちよりは少しだけマシな恰好をした
(アインズ様、間もなく問題の領域に入ります。)
今この瞬間もアインズ一行の周囲を監視しているナザリックの目、ニグレドから届いた<
「今日はいい天気だな。」
生憎の小雨の中を進んでいたので、漆黒の甲冑の独り言に気づいた先頭を歩いている森妖精が振り返って怪訝な表情を見せるが、そもそもこの人物はあの王との面会を求める変わり者なのだから自分たちとは価値基準が異なるのだろう、と勝手に自己解決して再び進行方向へ視線を戻す。
エイヴァーシャー大森林の一部に、ニグレドの
ニグレドの
「明日もいい天気であればいいが。」
監視と<伝言>の終了を命じる符牒を口にしたアインズの耳元に「どうぞご武運を」との、いつものニグレドの返答が届き<伝言>が途切れた。ここからは、自身の索敵能力が頼りだ。もっとも、その点においてはナザリックでは並ぶものの居ないアウラを同道していることもあって、さほど心配しているわけではない。
むしろ、今この瞬間のアインズの懸念は、これだけの手間をわざわざかけたからには、森妖精の王とやらが、せめて腐れ縁の
「ベラ、ベロ、森妖精の王の前では、失礼のないよう大人しくしているんだぞ。」
と、アインズは念を押す。
「おまえたちにして欲しいことがあれば、ちゃんと伝えるからな。」
とも。
出撃前の
森妖精の王の
とは言え、戦端を開いた瞬間だけは不利な状況となることはわかっている。アインズが恐れるのは、その不利な状況そのものよりも、それを知っているがゆえにアウラ、マーレのどちらか一方であってもアインズが想定する範囲を逸脱する行動を先んじて取られると、その瞬間のアインズが彼らを抑える力を欠くがゆえに思いもよらない混乱に陥ることの方であった。
「わかっています、モモン様ァ!」
「か、勝手なことは、決してしません!」
うーむ、どうにも不安が拭い切れないのは、一点の曇りもない愛と忠誠を捧げ続けてくれているこいつらに対して失礼だろうか。あるいは、オレの
そうこうするうちに一行は、王宮、という言葉が思い浮かべさせるそれとはいささか趣の異なる空間へと足を踏み入れた。
逗留した村もそうだったが、森妖精たちに人間のような建築物を造る習慣はないようで、根を張って生きている植物をそのまま編み上げた構造を住居としているようだ。王宮もその延長線上にあるが明らかに規模が異なり、それはさながら生きた城塞、とでも呼ぶべきものだ。
加えて、それと関係があるのかは不明だが、ニグレドとの<伝言>を切った時分から
アインズは興味深くそれらを見聞しつつ進んだが、ややあって、やはり植物を編み上げた
(まさかこのまま、また五日待たされたりはしないよなぁ……)
思わずアインズは深い溜息をついたが、そう時間を置かずに一行からみてほぼ真正面の、やはり植物が編み上げられた壁が音もなく左右に開き、その中から、絹であろうか光沢を有する豪奢な装束を纏った、村の指導者と思われた人物よりもさらに高齢に見える銀髪の森妖精が姿を現す。
彼が森妖精の王……なのだろうな。
シロクロの
とまれ、いささか
「<
「……は?」
<次話予告>
「あ……アタシィ?」
「おまえ以外に誰が居る。
着いて参り、
アウラに迫る貞操の危機。
(サトルくん、
内なる声に耳を澄まし、
今だ、出すんだ、必殺技♪
「冥途の土産に出血大サービスだ。
<
憶持のオーバーロード第2話『
「そんな大きな悲鳴をあげて、流石のキミでも父の死の報は堪えるかね?」
デミウルゴスの愛が