その災厄は全世界同時的に、かつ唐突に始まったのであるが、事の性格上、まったくそれに気づかなかった人々も少なからずいて……否、この世界において極々標準的な牧歌的な暮らしをしていた人々には事変の発生を知る機会すらなかったろうから、気づかなかった人の方が多数派であったやも知れない……しかも、それは極めて主観的な体験であって銘々によってその受け取り方も様々であったろうから、なかなかに第三者的な目線でこの出来事について語ることが難しいものであった。
ここでは、その日の朝の<
ん?
ギンは、定宿のいつもの給仕が頼まずもがなに淹れてくれる朝食前の一杯の茶を待ちつつ、読みかけの本に視線を落としていたので、見る者を恐れさせる真紅の角膜を隠す
ので。
違和感を表明すべく見開かれたその赤い目は否応なく目立った。
ところが、その目線を送られたリキウスはリキウスで、驚くのはオレの方だと言いたげに目をまん丸に見開いていた。
そもそもギンが驚いたのは、彼に少し遅れて食堂に姿を現したリキウスが、旧王国領で書き物一般に用いられるところの文語調で朝の挨拶をしてきたからである。
「
なんの……冗談だ、コレは?
なのでギンは、
「ドウシタンダ、リキウス。ソノ
と問うたのだが、問われたリキウスは目をまん丸にしつつこう答えたのである。
「
あん?
リキウスの表情に、驚きのみならず困惑と、それ以上に彼らしくもない狼狽を感じ取ったギンは、どうやらこれは冗談ではないようだ、と判じた。さて、どうしたものかと一瞬考えた後、手にしていた書物に今一度目線を落とす。
読める。
意味がわかる。
パンパン!
唐突にギンは柏手を打った。ややあって厨房の方からいつもの給仕が姿を現す。
「
……こちらもこちらで妙な具合だ。
ギンは、右手を高く挙げて中空に文字を書くような
「待て、行く、すぐ!」
ややあって、給仕は画架に支えられた黒板と天然石灰の
<我が言葉、
ギンは、帝国自由都市風の書き言葉で問いたいことを黒板に書き込み、リキウスに白墨を手渡す。厨房の辺りから「何やってんだ?」と言いたげに顔を半分覗かせる給仕の気配を感じるが、今は相手にしている余裕がない。
<粗雑に過ぎ、書き下す
なるほど、少なくとも旧王国語を用いての読み書きには問題がないようだ。
ギンは、帝国の初等学校に学び、加えてリ・エスティーゼ王国に長く暮らした母ガガーランからも手習いを受けたため、
試しに、ギンは帝国風の書法で同じことをしてみる。
これは彼にとっての口語に近い。
<わいのべしゃり、どないきこえよん?>
<
心穏やかに聞くに耐え
これは!
ギンは幼少の砌、父に聞かされた御伽噺そのままではないか、と驚く。
ここではないどこか遠くの国でのお話。人々は自分たちは何でも出来るのだと思い上がり、天まで届く高い塔を建てることを思いつく。その大工事が果たせるかな雲に届こうかとした頃、天に住まう神々はこれに一計を案じ、人々の言葉を乱し相通じることを封じた。途端、互いに意を解することが出来なくなった人々は大混乱に陥り、ほどなくして塔は崩れ去ったという。
その塔の名は、バベル。
父ゴ・ギンによれば、この物語は今から三百年ほど前、
<バベルの災厄>。
この日始まる異変が、誰からともなくそのように呼び習わされることになるのはそのような背景があってのことになるが、その含意を解することが出来た者は、ギンを含め決して多くはなかった。
極端に異なる出自を有する父母の元に生まれ育ち、また、父母共に聡明で読み書きにも通じていたギンは、国や種族が異なれば用いる文字が異なることに幼い時分から気づいていた。ふと湧いた興味から、父に尋ねたことがある。
「父上ハ帝国ノ、母上ハ王国ノ言葉デ
ギンは、自身が
「
これを横で聞いていた母ガガーランは、
「そういうアンタも私からすりゃ
そこはアンタ似で、ガガーリンの武辺は私の子だからさ!」
と突っ込みを入れ、父母は顔を見合わせてガハハハと笑ったものだった。
こういった
一方、これらを鮮明に思い出せるということは、武辺一辺倒に見えた父は、存外知識の詩を
おっと、思い出に心囚われて目下の問題を見失ってしまった!
いったい何が起こっているのか。
このような生い立ちであるギンなればこそ思い当たることがある。
この世界の住人の大半の者は、一つの文化圏に生まれた後はその文化圏を離れることなくその内部で生涯を終える。だから、自分の見知った文字や習慣とは異なるそれが、存在することを想像したことすらない者も多い。
さらにその傾向を後押ししているのが、誰もそれがいつからそうであるのかを知らず、そもそも天地開闢以来ずっとそうであった可能性すらあるが、この世界においてはすべての言語を操る者同士の会話は、望むと望まざるとに関わらず勝手に翻訳されて聴こえてしまう、という
歴史上のどこかの時点で発生しそれぞれの文化圏において継承されてきた各々の言語の間に、会話が成立してしまうにも関わらず実際には大きな差異があることについては、特に声高にそれについて語られることはほとんどないものの、ある程度の見識を備え異文化圏との交流のある生活を営む者であれば、気づかない者はおそらくいない。聞こえてくる音声と、会話相手の口の動きにあからさまなずれが生じるし、源流を
一方で、会話能力を身につけた文化圏でその一生を終える……極々ありふれた普通の……人々にとっては、たまたま出会って会話した異文化圏出身者の発する言葉が、実は未知の力によって翻訳されて聴こえているのだ、と自覚するきっかけはまずない。それは、丸いものが丸く見えるのと同様に、主観体験としては自然極まりないもので、今この世に生きる者すべてが生まれた日から
例外的に、これを強く自覚させられる一連の人々がいる。
一つはガ・ギンがそうであるように、異なる文化圏に出自を有し、かつ、読み書きに通じた父母を有する
そしてもう一つは
ところが
魔法詠唱者たちはこれを、世界を貫く翻訳の力が位階魔法本来の真名に働いて自身の意識と接続されるもの、と解しており、彼らが魔法
<俄に信じ
ギンはリキウスに自身の気づいた事態の実相を伝えようとそのように板書してみたが、リキウスの表情から狼狽の色はたちまちには消えなかった。
信仰系魔法詠唱者であるリキウスは、自身が魔法発動に際し<異言>を発していることに気づいていないはずはないが、混血児の場合とは異なり、こちらについては「それはそういうものだ」という浅い理解で済ませている者が大半であることは想像に難くない。非日常の体験である魔法詠唱と、日常の会話に生じた異常をいきなり関連づけて考えろ、と求めるのは無茶振りに過ぎるだろう。
「
雄弁ではあるが筆まめでないリキウスは、筆談がもどかしいようでそう尋ねる。思わずギンは、
「
と口頭で返事をしかけるが、あからさまにリキウスが不快そうな表情を浮かべるので、
<
と板書する。
これは、地味に大騒ぎになるのではないか、とギンは溜息をついた。
自分たち<朱の薔薇>は銘々過分に来歴の異なる
自身と同じ出自集団の中で会話している限り異常に気付かず、そこから一歩出た途端にこの異常に気付かされるのだとすれば、部分的に意味が通じなくはないとは言え、その社会的影響は決して小さくはないはずだ。
ことによっては
そして、それはそれで心配ではあるが、まずは何より自分たち<朱の薔薇>の意思疎通が問題だ。何か起こるにせよ起こらぬにせよ、仲間
ギンとリキウスの間ですらこれほどの違和感があるのだから、三百年以上の
食堂から発せられる何やら不穏な気配に気づいたのか、キーノとクゥイア、クゥイナが
「
「「……エッ?」」
ギンとリキウスは、キーノから発せられた言葉……であるに違いないのだ……に顔を見合わせて絶句した。言葉が通じていてすらどこか通じていない感がなきにしもあらずの彼女と、これでやっていけるのだろうか。
「キーノ
駄目元でギンは問いかけてみるが、彼女にはどのように聴こえたものか、
「
と大きな声を上げて顔を真っ赤にしている。
どうやらキーノは何が起こっているのかわかっていない……というよりも、おかしなことが起こっていることにまだ気づいてすらいないようだ。これは説明に骨が折れそうだ。
と思いきや、続いてクゥイアから発せられた言葉はより深刻であった。
「
最早ギンもリキウスも声を発することすらなかった。まだ音韻的に自分たちとの共通点を微かながらも感じなくもなかったキーノの言葉に対し、クゥイアの発言は、むしろ
軽く曲げた両手を左右に開き手の平を上に向ける
(コイツハ……
ギンは、とまれ腹拵えが必要だ、と再び柏手を打ち、給仕の視線を捉えて食事の手振りを見せた。
*
この顔ぶれであんなに気まずい食事をしたのは初めてのことだな、とリキウス・アインドラは嘆息した。
辛うじて意図が通じなくもないリキウスとギンを除き、<朱の薔薇>は意思疎通を封じられた状態だ。元より、リキウスを除いて口数の多い面々ではないが、それでも食事どきにはあれやこれやと雑事を言い交わしたし、最近ではキーノが不意に昔話をしてくれることも増えてきていたように思う。疎ましく思わなくもなかったクゥイアの歯に衣を着せぬ物言いも、こうなってしまえば喪失感を覚えずにはいられない。
気まずい黙食を終えた後、ギンが
ともかく市中を
街では目立った混乱は起きてはいないようだが、そこかしこから不穏な空気が漂っていた。
ギンが事前に予測して見せた通り、貴族家の末であり体系的な教育を受けた経験のあるリキウスと、エ・レエブルの支配層に当たる参事会議員の豪商たちが交わす会話には、まるで何事もなかったかのように支障はなかった。ギンも、混乱を避けるため自身が発言することこそ憚ったが、意識を集中して聞いてさえいれば話にはついてこれているようだ。
これが<朱の薔薇>の普段のお得意先となる中間層の商人相手となると、予めギンに強く注意を促されていたにも関わらず、リキウスはギンに対してそうであるように、商人たちの発言に対してもたちまちには不快な表情を隠すことが出来なかった。商人たちの
リキウスは、自身を正義の人、無私の人、と思い込むほど幼くはなかったが、自分なりに公明正大で偏見のない人間だ、とは考えていた。貴族家の血を引きながらも町衆に対して傲慢に振る舞ったことは一度たりともないし、並の
が、ここに至ってリキウスは、そういった自己評価に揺らぎを生じさせている。
今起こっていることが、ギンが主張する通り大昔から変わらず存在したとされる<翻訳の神秘>の力に何らかの理由で生じた異変であるのか、について、リキウスはギンほどに確信を抱いているわけではない。が、仮にギンの言う通りなのだとすれば、彼は生まれて初めて周囲の人々の意図、ではなく、生の声を聞いていることになるのだろう。
そして、理性の部分が如何に「これは何らかの異常によるものだ、銘々の人々に悪意などあろうはずもない」と訴えていても、感情の部分が、彼からすれば濁り整わぬ音韻と洗練されない言葉遣いに、育ての親であるガ・ギンに対してすら本能的な悪感情を
だがしかし、それは他ならぬギンも同様のようだ、ということにも彼は気づいている。
そういったことを内省しつつ、同時にリキウスは危惧もしている。
エ・レエブルの住人の中ではかなり理知的な部類に入るであろう自分たちですらこうなのであるから、都市の支配層と中間層、被支配民の間に、何か適当な火種さえ放り込まれれば
「……そういう次第ですのでビョルケンヘイムさん。不安な気持ちはわかりますが、館の護衛の話は受けられませんし、他の
エ・レエブル参事会の一人で、彼同様に古い貴族家の血筋を引く豪商に、リキウスはそう釘を刺した。
<朱の薔薇>は市中の様子を確認するとともに、不測の事態の発生に備えて市の有力者の館を廻り、彼らが理解しているところの状況を伝えて決して軽挙妄動しないように、と説いて歩いた。
多くの有力者はそもそも事態の発生に気づいておらず、リキウスの語りに訝しく耳を傾けつつも、あの<朱の薔薇>がわざわざ説いて歩くほどのことなのだから協力はすべきだろう、という態度を示した。
例外的だったのが
以て、<朱の薔薇>が館を訪ねるや彼らが話を切り出すのを待たず、渡りに船とばかりに「都市に不穏の動きあり!」と館の警備の依頼を自ら申し出たものだ。意を尽くして説明すれば、すぐにビョルケンヘイムは自身の判断を恥じ入って協力を約したが、リキウスは自分たちの懸念が決して杞憂ではなかったことを思い知らされた
ビョルケンヘイムが決して軽率な人物ではなく、むしろ普段から積極的に幅広い階層の人々に直に接し、エ・レエブルの明日を真摯に考えている有志であることを<朱の薔薇>はよく承知している。無論、そこには市民の支持が自身の政治力の裏付けとなるがゆえの打算がまったくないわけではないだろうが、彼の活動が、参事会が見落としがちな下層市民に潜在し放置すれば揉め事の火種となりかねない種々の要求を、市政に反映する一助となっているのは紛れもない事実だった。
その彼ですら、まずは<朱の薔薇>を囲って自身の安全を確保せねば、と考えたところに、リキウスは自身内省したところに重なるものを感じ、複雑な思いを
師父ガ・ギンはこの事態を<地味なれど騒動に至るものと恐れ居り
最初に聞いた……厳密には板書されたものを読んだのだが……時点では意味がよくわからなかったが、今はリキウスもまったく同意だ。言葉が相通じるということに、これほどの重みがあることに、今日の今日まで気付けなかったとは……
「これは……本当に大変なことになるな。」
思わず漏れた言葉に師父が応える。
「ダヨネー、
……駄目だ。
わかっていても、イラッとする!
*
キーノは、すっかり変わって見えてしまっている日常の風景の中、仲間たちの背を見ながらついて歩いている。
昨日までは、雑踏の中で聞こえてくるエ・レエブルの人々の十人十色の声に耳を傾けながら、自分は自分の出来ることを一つ一つ積み上げて、この世界における自分の居場所を踏みしめ続けていくのだ、と強く誓っていたつもりだったが、儚くもその思いは潰えそうなほどに萎んでしまっていた。
誰の声も聞こえない。
否、何か聞こえてはいるが、まったく意味がわからない。
三百年を越える歩みの中で、孤独を感じることは一度や二度ではなかった。どんなに親密になった友であっても、
が、今感じているほどの孤独を……人集る雑踏の中を歩いているにも関わらず、自分だけが言葉の通じぬ
この先これがずっと続くとしたら……
いやいや、悪い方へ考えるのはよそう。思えば、十三英雄と共に旅した時代、世界を遍く絶望へ突き落とした魔神たちを前に、自分たちは決して諦めなかったではないか。生存そのものが深刻な危機に直面したあの時代のことを思えば、乗り越えれないことなど決してない。ないはずだ……とキーノは自分に言い聞かせてはみる……ものの、やはりそれとはまったく異質に思える今の状況に対する不安を拭い去ることは出来ない。
今の今まで考えたこともなかったが、そもそも<翻訳の神秘>とは何であるのか?
同様にこの世界の住人がその存在を疑いもせず受け入れている<位階魔法>について、これが当初はこの世界には存在しておらず、キーノがこの世に生を受け真祖吸血鬼として覚醒して永遠の時の旅人となるずっと以前、
ということは、<翻訳の神秘>も元々はこの世界には存在しなかったもので、どこかの時点で八欲王のような何者かによってもたらされたものなのだろうか。だがしかし、キーノの知る限り最も長い時間を生き続けているツアーですら<翻訳の神秘>は当然のものとして受け入れていたように思われ、その由来について言及したことはない。
ツアーは、決して知識を出し惜しみする者ではなかったが、さりとて、然るべき段階に至っていない者に知識を押し売りして後進の自ら学ぶ機会を奪うような者でも決してなかった。なので、ツアーはその由来を知ってはいたが、少なくともキーノに対してはそれを語らなかった、という可能性はある。
逆に、ツアーですらその由来を知らないのだとすれば……少なくともキーノがツアーから漏れ聞いた六大神との関わりには、ツアーが六大神との会話に困ったような下りはまったくなかったように思われる……ツアーが生まれたであろう七百年前には、<翻訳の神秘>はこの世界の住人に極自然なものとして受け入れられていたことになる。
それが、今この時に突如失われるとは!
そして、キーノの頭の片隅を離れないのは、キーノにとってもツアーにとっても実に長い時間の流れの中で、<翻訳の神秘>が失われるなどという考えもしない事態が今生じたことと、キーノの知る限りにおいて歴史上最強最悪の存在であろう傲慢な骸骨、アインズ・ウール・ゴウンが、今このときもこの世界で誰に知られることもなく我儘気儘に暗躍している事実は、果たして偶然なのだろうか、という疑問だ。
「偶然……なわけないよな。
今度は何をやらかしたんだ、アイツは?」
言語的立場はキーノと似た位置にいる双子忍者がキーノが思わず漏らした独白に反応してキーノに視線を向けるが、
「
と、わけわからん、の
だがしかし。
ともすれば<神隠し>によるものだと
*
我らが
これは、ナザリックの面々が基本的にはナザリック外の出来事にあまり重きをおいていないゆえであるが、おそらくデミウルゴスあたりは、発生直後から何かあったことには気づいてはいたのだろう。が、さほどこれを重要視しなかったのか、はたまた何か他の思惑あってのことか、アインズに報告されることはなかった。
そしてこの凶報は、思いもしなかったところからアインズにもたらされたのである。
そのときアインズは、簡素な部屋着を纏って自室のすこぶる座り心地の良い
<
それはわかる。
たとえ何をしているときであっても、アルベドとお楽しみの最中であっても、アインズに対する緊急連絡については何ら躊躇う必要はない、と常々
なので、今回もそれか、とアインズは一瞬思ったのだが、やはりそれでもおかしい。
と言うのも、アインズに<伝言>してくるのは、基本的にはアルベドの姉であるナザリックの目ニグレド、外征部隊の助手を務める
しかも。
(......
え……英語!
ユグドラシルにおいては非公式ラスボスの二つ名を
二十二世紀に至っても、悲しいかなほとんどの日本人は外国語に滅法弱かった。ましてや、日本人の知性平均に対してかなり下位に位置した最終学歴小学校卒業の鈴木悟については何をか言わんや。
「アインズ様……いかがなさいました?」
たちまちに我が身に貪りついてくるものか、と期待していた愛する至高の
(
「ウガァーーーー!」
緊張が振り切れたアインズが頭を抱えて叫んだため、慌ててアルベドは
「大丈夫ですか、アインズ様!
どうか、お気を確かに!」
「ア……アルベドォ!
あ、頭の中に……頭の中に……」
アルベドは両の手でアインズのこめかみをわしっと掴み頭蓋骨の中を覗き込むが、常と変わらずそこは空虚な空間だ。
「え……英語が聴こえてくるんだ!」
「……は?」
金色の猫の瞳がまんまるになる。
「ど……どうすればいいんだー!」
「I'll call you back later と。」
「……え?」
「ですから、
「あ……あ……」
「
「あ……あいる?」
「
「……こ?」
「
「……こーる。」
「
「ゆー、ばっく……」
「
「れいたー。」
(OK, Ainz-san.
ぷつり、と<伝言>が切れるのを感じてアインズは安堵の溜息をついた。が、同時に疑問が次々と波のように押し寄せて来て、がらんどうの頭蓋骨の中は大混乱だ。
オレに<伝言>してくるなんて、誰なんだ?
なんで英語なんだ?
いったい何を言ってたんだ?
辛うじて聞き取れたオーケー、からすると相手は納得して切ったようだが……いったいオレは何と答えたんだ?
そして最大の疑問は!
「ア、アルベドォ!」
「はい!アインズ様!」
名を呼ばれただけで声が躍るアルベドは、いまだ全裸のままアインズの頭を胸の谷間に抱え込んでいる。常のアインズであればそれだけでしどろもどろになりそうなものだが、今はそういう感性が働く余裕もない様子。
「おまえ……英語がわかるのか?」
「はい。ご存じありませんでしたか?」
「ご存じ……も何も。
……フレーバーテキストにはそんなことは一言たりとも書いてなかった……と思うぞ。」
アルベドを含むすべての
「お忘れですか?
そんなことよりも、アインズ様のお言葉で『こちらからかけ直す』と応じたからには急ぎませんと。」
「……かけ直す?
オレ、そんなこと言ったの?英語で?」
「はい。」
「……でも、誰に<
「それは、シズ・デルタにご下問あればたちまちにわかりましょう。」
とにこやかに答えながら、アルベドの表情がみるみるうちに蕩けていく。
あぁ!
英語で話しかけられただけでこんなにテンパッちゃって……
もー、かわいいんだからぁ、
そして不意に真顔に戻る。
あら、
未だ胸の谷間に顔を埋めて驚嘆の視線を自らに注ぐ
<次話予告>
「まさか百年以上経って、こんな真相を知ることになろうとは……」
英語で<
「オレが……日本人だから、だと?」
そして下された決断とは?
「
憶持のオーバーロード第5話『どぎまぎの初体験』
「