憶持のオーバーロード   作:wash I/O

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第6話 悪魔(デミウルゴス)の告白

(……あれ?

 始まらないんだけど……)

 

 ナザリック地下大墳墓第九階層(ロイヤルスイート)のアインズの私室。

 いつものように三賢者会議(トリニティ)の面々が(つど)っている。今回の議題が、エリュシオンからもたらされた世界の異変を紐解く情報についての検討、であることは論を待たない。

 

 が、会議が始まらない。

 転移以来、開会の挨拶を引き受けていたデミウルゴスが一言も発しないからだ。

 

 突然英語で<伝言(メッセージ)>を寄越した彼らへの対応を協議したときもそうだったが、デミウルゴスの様子がこのところおかしい。エリュシオン訪問から戻るまでは、慣れない英語に頭が一杯で放置していたアインズではあるが、転移以来デミウルゴスがこんな(ふう)になってしまったことは一度たりともなかった……はずで、常日頃頭の切れ過ぎる参謀に振り回されうんざり気味であり、それを思えばたまにこんなことがあってもいいんじゃないか、と身勝手にも思う半面、流石に不安になってもくる。

 

「アルベド、パンドラズ・アクター。

 悪いが一旦席を外してくれるか?」

 

 他の下僕(しもべ)が同席したままだと話し(づら)いこともあろうかと、アインズはらしくない気遣いを見せた。アルベドはいささか不満気(ふまんげ)な様子ではあったが、結局はしぶしぶ従って二人ともに退席し、今は簡易玉座に腰掛けたアインズと、長椅子(ソファー)の真ん中で項垂れたまま沈黙するデミウルゴスだけで向かい合っている。

 

「なぁ、デミウルゴス。」

 

「……はぁ、アインズ様。」

 

 一拍遅れて溜め息混じりの応答。

 やはりおかしい。

 

「いったいどうしてしまったんだ?

 オレはおまえの相談相手としてはいささか()不足かも知れんが、何か悩みだとか、そういうのがあるのであれば話してくれないか?」

 

 アインズとしては精一杯の下僕への愛情を込めて歩み寄ったつもりではあるが、デミウルゴスは合わせた両手に俯き加減の(ひたい)を載せたまま、こう応えるのみ。

 

「……アインズ様。それをおっしゃるのであれば()不足で御座います。」

 

 ムム……言っていることはまったく正しいが、やはり常のデミウルゴスではない。

 

 常のデミウルゴスであれば、オレの言葉の誤用を指摘するにしても、もっと(なん)と言うか、想像の(なな)(うえ)の切り返しをしてくるはずだ。たとえば、

 

「ご下命いただければ、アインズ様が只今お定めになられた新たな語法を世界に広めてご覧に入れましょう!」

 

とか。

 

「なるほど、そういうことで御座いますね。」

 

とその場ではしれっと流して、黙ってそれを実現してしまうとか。

 

 いや、ひょっとすると憶えていないだけで、既にそういうことが過去百余年のうちには二度や三度はあったかも……

 

 いかん、いかん!

 おかしな考えに取り憑かれて目下の問題から目を(そら)してしまった。

 

 仕切り直しだ。

 

「なぁ、デミウルゴス。」

 

 問われた本人は相変わらず「はぁ」と気の抜けた返事をしつつ、視線は落としたままだ。

 

「オレとおまえは主従だ。これはもう定められたことで今更変えようもない。

 が、それ以前に、オレたちはナザリックの仲間だ。違うか?」

 

「……ありがたくも仰せの通りです、アインズ様。」

 

「おまえは最も頼りになる部下であると同時に、かけがえのない友でもある。

 オレは至らんところの多い(あるじ)だから、何とかしてやる、と約束はしてやれないが、何か抱え込んでいることがあるのなら、とりあえず(はな)してみないか?」

 

 しばしデミウルゴスは黙考していたが、やがて意を決したようにアインズに向かい合った。

 

「実は……(わたくし)は今回の事態は早い時点で気づいておりました。」

 

 だろうな、とアインズは思う。

 

 ピーたちから聞かされた異変の日が正しければ、その二日後にデミウルゴスは非常勤政治顧問としてスレイン報国を訪ねていたはずだ。この事態が世界全域に普遍的なものであるならば、デミウルゴスは教え子となる人の子シロクロとの会話に難儀しなかったはずはない。

 

「ご報告を怠ったことは大変申し訳なく思いますが、これは(ひとえ)に、その時点では私の個人的な問題と認識しておりましたが(ゆえ)異心(いしん)あってのことでは御座いませんので、お許しいただけますと幸いです。」

 

「許すも許さないも、まったく前例のないことに対して正解はないだろう?

 まぁ、一言相談してくれてもよかったんじゃないか、と思わないでもないが、それは今後気をつけてくれればいいことだ。」

 

 このように応じつつも、やはりアインズの中ではデミウルゴスの言い様が常の彼と大きく異なることへの違和感が拭えない。

 たしかにデミウルゴスには秘密主義的な傾向が少なからずあり、本人に悪気がないのはわかってはいるが、何やかやと内緒に進めて後戻り出来ない既成事実を積み上げてから、アインズの事後承認を求めてくることがしばしばある。だが、これはもうずっと昔に割り切ったことだ。

 

 と言うか。

 

 デミウルゴスの創造主であるウルベルト・アレイン・オードルがまさにそうであり、それと同じだと諦めていた、と言った方が正しい。

 

 それにしても、だ。

 

 そのウルベルトにしても「個人的な問題」だから相談しない、という態度を取ったことはなかったように思う。

 無論、ウルベルトの現実(リアル)における私生活(プライベート)の問題に求められてもいないのに踏み込んだことは一度たりともない。これは、ウルベルトに限らず、少なくともギルド、アインズ・ウール・ゴウンにおいては不文律とされていたことだ。

 が、ユグドラシルの中での出来事については、これを個人的な問題として他のギルメンから隠すということは……るし★ふぁーの()を逸した命に関わる悪戯(いたずら)を例外とすれば……なかったはずだ。

 

 ……いや、タブラさんのデータクリスタル蕩尽の謎が解けた今、それも怪しいものだが。

 

「個人的な問題……と言われると踏み込むべきでないのかも知れないが、それでもオレは、おまえの(あるじ)、としてではなく、友としておまえの抱える問題に耳を傾けたいと願うのだが……話してもらえるか?」

 

「聞いて……いただけますか?」

 

 俯き加減のままデミウルゴスはそう応える。

 

「おうよ、()かいでか!」

 

 これに対し余裕綽々の態度で応じたアインズであるが、追って自身の判断が軽率であったことを痛感する羽目になる。

 

「あの日……シロクロを訪ねてすぐに、あの(もの)の言葉がわからぬことに気づきました。」

 

「ふむふむ。」

 

 アインズは下僕(しもべ)たちの行動を逐一把握しているわけではないが、朧気に記憶しているところでは、あの日のデミウルゴスは出掛けてから半日は戻らなかったはずだ。言葉も通じないのに何をしていたんだろう?

 

「こちらの言葉もそうなる可能性を鑑み、一言も発さぬままにあの(もの)を犯しました。」

 

「ふむふ…………はぁ?」

 

 パカリ、とアインズの骨の顎が開いた。

 

「かの(もの)はいささか歪んだ性癖を有しており、このような倒錯的な性技(プレイ)を好む()が御座います。過日も、達する直前にアインズ様がかの(もの)の父、森妖精(エルフ)の王を屠った旨を告げたところ、常よりも深い絶頂(エクスタシー)に至った(よし)。」

 

 ……な!

 

 (なに)やってんだ、おまえ?

 

「あの日も、一言も交わさぬまま(たっ)すること七度(ななたび)に至り、意識を失いましたのでそのまま放置して帰って参りました。」

 

 ……え、何これ?

 オレ、いったい何を聞かされてんの?

 どーすりゃいいの、これ?

 

「あまりにも(つら)くて……」

 

「……はぁ?」

 

 アインズは自分で聞き出しておいて、猛烈にそのことを後悔しつつある。

 話のエゲつなさもさることながら、とにかくワケがわからない。

 

 百歩譲って、シロクロがデミウルゴスの仕打ちがあんまりだ、と訴えてくるのであればわからなくもない。が、今の話にデミウルゴスが(つら)く感じる部分が、少なくともアインズにはまったく見当たらなかった。

 

 ……と言うか、聞かされてるオレが(つら)いわー!

 

「まさか、おまえ……」

 

 ひょっとして。

 

 そんなことはあるまい、と思いつつもアインズは一つの仮説を思い立つ。

 

 シロクロと事に及ぶに当たってナーベラルを練習台にさえしたデミウルゴスに限ってそんなことはない、とは思うが、逢瀬を重ねるうちに情が移って、デミウルゴスは心底シロクロを愛するようになってしまったのではないか?

 

 一方で、デミウルゴスにはこの情事を、スレイン報国をナザリックの利益に叶うよう誘導するための手段、と考える意識が根強くあることは疑う余地もない。突如言葉が通じなくなり、さりとてシロクロの前では万能を演じている……いや、実際シロクロからしてみればデミウルゴスは神の領域の存在だとは思うが……デミウルゴスはそれを正直に伝えることも出来ず、心ならずもシロクロの体のみを満足させてその場を凌いではみたものの、後から(かえり)みて愛する者に対する自身のあまりの行為に自責の念を感じ、とはいえそれが最上位悪魔(アーチデヴィル)であるその本性と真正面から衝突(コンフリクト)し、身が裂かれるような苦しみを覚えているのではないか、と。

 

 もしそうであるとしたら、最も信頼する部下であり友であり、親友の忘れ形見でもある者に、随分と酷いことをやらせていることになるのではなかろうか?

 

「お察しの通りで御座います、アインズ様。」

 

 え、マジでそうなの?

 

「デ……デミウルゴス。おまえには申し訳ないことをしたな……」

 

 アインズは心の底からそう感じ詫びの言葉を口にしたのだが、対するデミウルゴスは、さきほどまでとはまた別の意味で妙な具合である。

 

「……は?

 いえ、もったいなくもアインズ様にお詫びいただくようなことでは……」

 

「いや、いいんだ。おまえの気持ちに気づいてやれず済まなかった。ナザリックの(あるじ)として、おまえたち下僕(しもべ)のそういったことにも、責任を負っていることは重々承知している。

 

 そうだ!

 こういう事態の最中でもあるから今すぐ、というわけにもいかないが、落ち着いたらナザリックにシロクロを呼んで大々的に挙式でも挙げるか!」

 

「……はぁ?

 

 申し訳御座いません、アインズ様。

 何の話をしておいでなのでしょうか?」

 

「……いや、おまえとシロクロの結婚式をだな。」

 

「は?」

 

 あれ?

 何か噛み合ってなくないか。

 

 どこからずれたんだ?

 

「すまん、デミウルゴス。途中から話がわからなくなってきた。

 改めて聞くが、(つら)いんだな?」

 

「はい、(つろ)御座(ござ)います。」

 

「……(なに)がだ?」

 

「ですから、お察しの通りで御座います。」

 

 あぁ、またいつもの悪い循環(ループ)に陥っているぞ!

 

「デミウルゴス、その『お察し』はやめにしないか?

 オレが何か勘違いしていることは、おまえも薄々気づいてはいるんだろ?」

 

「……」

 

「気づいてるよな?」

 

「……」

 

 デミウルゴスは俯いたまま答えない。

 

「何が(つら)いんだ?の問いに、答えてくれないのは……何故だ?」

 

「……もう少し。」

 

「もう少し……何だ?」

 

 俯いたままのデミウルゴスの薄い口角が微かに吊り上がる。

 

「……もう少し引っ張った方がお楽しみいただけるものかと。」

 

 ……は?

 こいつ……わかってて空惚(そらとぼ)けているのか!

 

「デミウルゴス、言葉遊びは終わりだ!

 オレの神経が擦り切れる前に、何が(つら)くて調子を崩していたのか包み隠さず正直に答えよ!」

 

 さきほどまでの部下思いの(あるじ)は何処へやら、アインズはスッといきり立ち骨の人差し指を屹っとデミウルゴスに突き立てた。

 

 ややあって俯いたままのデミウルゴスがポソリと一言(ひとこと)

 

言葉責(ことばぜ)めが……」

 

「言葉……()め?」

 

「私は言葉で人を惑わし、縛り操る悪魔に御座いますれば、言葉責(ことばぜ)めが出来ないことが(つら)くて(つら)くて。」

 

「……はぁ?」

 

 漸く顔を上げたデミウルゴスは、整った髪を振り乱しながら諸手を振って(あるじ)に訴えた。

 

「シロクロの体をいくら責め立てましても、あの(もの)は高らかに歓びの声を上げるばかりで、楽しくも何とも御座いません。私には……私にはあの(もの)の心を(えぐ)る言葉が必要なので御座います!」

 

 嗚呼……。

 

 デミウルゴスでなかったら、<心臓掌握(グラスプハート)>でブチ殺してやりたい!

 

「ですが、所詮これは私の趣味の話に過ぎません。そんなことでアインズ様のお耳を煩わせるわけには参りませんので、敢えてご報告は致しませんでした。」

 

 ……筋は(とお)っている。オレに気を(つか)ってのことだ、ということもわかる。

 わかるが……あいも変わらず理解困難な思考だ!

 

 というか、そんなことに気を(つか)ってくれるのなら、もっと他に気を(つか)って欲しいことは山程あるのだが、コイツにそんなことを求めるだけ無駄なんだろうな……。

 

 考えてみれば、だ。

 

 デミウルゴスの言っていることがすべて本当で、シロクロを言葉責(ことばぜ)め出来ないことに他者には思いも及ばないほど苦しみ悶えているのだとしても、コイツはその程度のことで狼狽えて自身の不満をオレに悟らせるような(たま)ではないはずだ。

 話はまったく逆で、デミウルゴスは自分がこの状況を不満に感じていることをオレに気づかせ、本来デミウルゴスの問題であるそれをオレの問題だと誤認させて、オレがオレ自身の意思と決断で解決に乗り出すよう誘導すべくこれをやっているのだろう。

 最早問い糾す気力も起きないが、オレが森妖精(エルフ)の王と対峙し必殺技(コンボ)をかます羽目になったのも、コイツがシロクロの性癖を(くすぐ)るネタにすべく誘導したものに相違あるまい。

 

 何故そんなことがわかるかって?

 

 何度もウルベルトさんに同じ手口で()められたからに決まってるじゃねーか!

 

「ふふ……」

 

 思わずアインズは笑いを(こぼ)す。

 

 ウルベルトの手口を百も承知していたのにいつもいいように操られていたのは、結局のところモモンガ、すなわちオレにとって、それこそが居心地の良い立ち位置(ポジション)であったからに(ほか)ならない。

 

 ウルベルトさんにも困ったものだなぁ。

 

 いい加減にしてくださいよ、ペロロンチーノさん!

 

 口ではそう言いながら、オレは確かに、仲間たちに唆されていることを承知しつつも、それにギルド長としての自身の(せき)で一身を賭して取り組む、そんな自分が好きだったんだ!

 

 デミウルゴスはそんなオレをよくわかっている。

 オレの期待に、最も深い意味で応えてくれている。

 なにせ、あのウルベルト・アレイン・オードルの生まれ変わりなのだから!

 

 だがしかし。

 

「……デミウルゴス、おまえの考えはよくわかった。

 もとより、言葉が通じなくなった問題については、おまえに何を言われなくとも()()に乗り出すことは既に決めていたことだ。」

 

「アインズ様!」

 

 デミウルゴスは両手を胸の前に握り合わせ、口は三日月型に笑っている。

 真意を隠したいのか隠す気がないのか、どっちなんだオマエは?

 

 いや、違うな。

 これもデミウルゴスはオレの好みに応えてくれているんだ。

 だって、文句なしに楽しいもの、このデミウルゴスの反応!

 

 だが、それとこれとは話が別だ。

 オレにはオレで、譲れないもの……はある。

 

「だが、言っておくがオレが決めているのは究明までだ。

 この異変の原因が明らかとなり、仮に元通りにする方法がわかったとしても、だ。」

 

 ここでアインズは一旦言葉を切った。

 不意に真顔に戻ったデミウルゴスの視線がアインズに突き刺さる。

 

「元に戻すかどうかは……オレの心一つだ。

 

 わかるか?

 

 わかるよなーーー!」

 

 アインズの恫喝にデミウルゴスはしばしそのまま固まっていたが、ややあって陶酔の……この事態が始まる以前の彼らしい陶酔の表情を取り戻し、深く礼を執ってただこう答えたのである。

 

「すべては我らが至高の主、アインズ・ウール・ゴウン様の思し召しのままに!」

 

 

                    *

 

 

「それでは、記念すべき第千九百回、三賢者会議(トリニティ)を開催いたします。」

 

とデミウルゴス。ぱらぱらと拍手

 

 とんだ寄り道をしてしまったものの、アインズはアルベドとパンドラズ・アクターを呼び戻し、本来議すべきところへ話を戻した。

 

「まずはアルベドから、エリュシオンのNPC(しもべ)たちより進言のあった件について報告を。」

 

 どのような理路によるものか今ひとつ納得がいかないアインズではあったが、デミウルゴスはすっかり普段の調子を取り戻した様子。ほんと、どういう神経をしているんだか。その図太さ、ちょっと分けてもらえないものだろうか。

 

「では、掻い摘んで。」

 

 アルベドは、エリュシオンのポールとマリアから聞かされた彼らが気づいた異変……ある日を境に原住民の言葉がわからなくなり、同じ現象が原住民同士の間でも少なからず起こっているらしいこと……について、さっとまとめて説明した。

 

「これについては、恐怖公に命じて眷属が展開している範囲で再確認(ベリファイ)を致しました。観測範囲内において現象は普遍的に発生しているもの、と思われます。」

 

 デミウルゴスがそう補足する。

 

 恐怖公の眷属、すなわち彼の手足となって行動するゴキブリは、北はアーグランド評議国々境(こっきょう)、西はローブル聖王国、東はバハルス帝国全域、南はスレイン報国を越えて竜王国まで生息範囲を広げており、食料確保の問題から人口密集域を選んで分布しているため稠密でこそないものの、すべてで例外なく同様の現象が確認されるということは、問題が世界級のそれであることを示している、と、この場の誰もが納得している。

 

「前回の会議においても、以前にデミウルゴスがおこなった考察について共有がなされましたが、改めてこれを確認いたしますと、我々ナザリックの者にすべての原住民の言葉が日本語に翻訳されて聞こえていた現象は、正しくは、この世界においてすべての言語を操る存在は、会話相手の発言が自身の母語によってなされたかそうでないかを問わずその意図を自身の母語として聞いていたものであり、その何らかの作用が、今から半月ほど前に突然消失した、というのが、現在わかっている今回の異変の実態、ということになりましょうか。」

 

 アルベドはここで一旦言葉を切って(みな)の様子を伺った。愛する(あるじ)を含め、誰も異議はないようである。

 

 そして、ここからが核心だ。

 

「エリュシオンのマリア・デルカはこう申しました。

 

 この<翻訳>の力が、我々より遥か昔にこちらに転移してきたユグドラシルプレイヤーによってもたらされたものであると仮定した場合、おそらくその(もの)たちは日本語話者ではないはずだ、と。

 何故ならば、ユグドラシルにおいて多数派(マジョリティ)であった日本語話者はそのような翻訳の力を用意する必要がなく、一部の例外を除いて多数派は日本語を(かい)さない少数派(マイノリティ)を無視していたのであり、そういったプレイヤーがこちらの世界に渡って来たとしても、この世界に適用すべき<翻訳>の魔術など手元になかったはずだ、と。」

 

 うんうん、とパンドラズ・アクターと、意外にもデミウルゴスまでもが頷きつつ耳を傾けている。

 

「加えて申しますには、<翻訳>の力が、辞書的な逐語訳としておこなわれているのではなく、発話者の意図を読み取って聴取者の母語として聞き取る力として作用しているように見えることもこれを裏付ける、と。

 何故ならば、日本語は内包する含意(ニュアンス)までをも含めて他言語に辞書的翻訳をおこなうことが突出して困難な言語であり、ユグドラシルに没入する少数派非日本語話者プレイヤーからすれば、日本語話者(マジョリティ)の脳内に形成された感覚質(クオリア)から直接自身の母語へ()()する力は、喉から手が出るほど欲されたものであると考えられるからだ、と。」

 

 一緒にこの説明を聞いていたはずの自分であっても、一瞬振り落とされそうになるややこしい話になってきたな、とアインズは内心苦笑するが、パンドラズ・アクターもデミウルゴスも、やはり頷きながら続きを促している。

 

 えっ!

 振り落とされそうなの、オレだけ?

 

「よくわかったよ、アルベド。

 で、彼らは件の『ユグドラシル・リーダーズ・ギルド・レビュー』を詳細に調べ直したのだね?」

 

と口を挟んだのはもちろんデミウルゴス。

 

「流石ねデミウルゴス、その通りよ。

 そしてこれが、鍵になると思われる記事の複写(コピー)を収めたデータクリスタル。」

 

 アルベドは自ら緑白色(りょくはくしょく)に光り輝く結晶を指先に摘んで皆に示す。

 

 英字電子誌『ユグドラシル(Yggdrasil)リーダーズ(leaders')ギルド(guild)レビュー(review)』、頭文字を取ってYLGR誌は、非日本語話者向けに発行されていた情報誌で、主に勢力上位(リーダー)ギルドの攻略情報を扱っていたものだ。ピーたちエリュシオンはアインズに戦いを挑むにあたり、同誌に連載されていたギルド、アインズ・ウール・ゴウン特集を参考にしていた。

 

一足(ひとあし)お先に最古図書館(アッシュールバニパル)で一通り目を通させてもらったわ。」

 

「あー、ちょっと待った。」

 

とアインズ。

 

「一緒にエリュシオンで話を聞いていたオレが言うのもおかしいが、そこで話がその何とかいう雑誌にいくのがよくわからない。オレはともかくパンドラズ・アクターが話について来れないかも知れないから……」

 

「いえ、父上。私なら大丈夫ですが。」

 

 屹っとアインズがパンドラを睨みつけ、さしものパンドラも父の意を察する。

 

「……いやぁ、父上のおっしゃる通りです!

 守護者統括殿、今一度その雑誌の下りをもう少し噛み砕いていただけますでしょうか。」

 

 アルベドは、一瞬躊躇うかのように()を置いてから、改めて滔々と語り始めた。

 

「YLGR誌の記事の大半は当時日本語で書かれていた我らがナザリック地下大墳墓を含む主要ギルド拠点についての攻略情報の英訳になりますが、独自の記事として、ユグドラシルの非日本人プレイヤーの取り組みを紹介する連載(コーナー)があり、そこに問題の人物が取り上げられておりました。」

 

「当ててみせよう、フランス人かね?」

 

 涼しげにデミウルゴスがそう問うと、アルベドは即答した。

 

「ご明察!」

 

 ……ついていけないから助け舟を求めたのに、さらに突き放されてしまった。

 ポカンと口を開けているアインズに気づいたアルベドが、優しい笑みを浮かべながら愛する(あるじ)に声をかける。

 

「ご不明な点があれば、パンドラズ・アクターなどを出しにせずともご下問くださってよろしいのですよ。」

 

 真を射抜かれてアインズは呆然とするが、不意に、エリュシオンでポール・ダラムなるNPCから語られたことが頭をよぎった。

 

 会話内容の一部なりとも理解できたり伝わったりすることを喜ぶことはあっても、一部が理解できなかったり間違って伝わることを恐れたり忌んだりすることはない。

 

 日本語を話す者同士の相互理解が完全である、とはまったく信じない。

 

「ふふふ……」

 

 思わず自嘲の笑いが(こぼ)れる。

 

「アインズ様?」

 

「……アルベド、まったくおまえの言う通りだ。

 オレはおまえたちをこの上なく当てにしているのだから、何を今更遠慮することなどないよな。

 

 話の腰を折って悪かった、続けてくれ。

 あ、出来れば、なぜフランス人ということになるか、の説明も加えて、な。」

 

 意が伝わったことを知ったアルベドは、再び優しい笑みを浮かべて言葉を継ぐ。

 

「それはこうで御座います。一般にフランス人は仏語を至上のものと考え、外来語を取り入れる際もその音韻をそのまま借用することなく独自の新語を創ることを好む、とされます。デミウルゴスは、もしユグドラシルにおいて、そこに要する労力や費用(コスト)を度外視して他者の脳内を直接自身の母語で理解することを敢えて試みる非日本語話者がいたとすれば、それはフランス人であろう、と推察したもので御座いましょう。ね、デミウルゴス?」

 

「アルベドの申します通りで御座います、アインズ様。」

 

 同様の推論から、アルベドは不明なままであったピー、ことデイヴィッド・ホーソンの現実(リアル)における拠点が、おそらくはオーストラリア東部のリベラルな都市(アーコロジー)であったろう、と結論していた。NPCたちが英語話者でありながら必ずしもそれが意思疎通の万能の道具でないことを認めていたこと……イギリスやアメリカの出身者であれば英語の通じぬ相手に異なる評価を下すだろう……何より特有の母音(ぼいん)の発音がそれを証ししていると。

 

 とまれ、ようやくアインズにも話の筋が見えてきた。

 

 ユグドラシルからこの世界に渡って来た者は、ユグドラシルで用いていた力を発現することはあっても、こちらに渡ってから以前にはなかったまったく新しい力を手に入れることはない。なぜなら、我々はその存在を<ギルドの日誌(ログブック)>なりフレーバーテキストなりに規定された者であり、それらのテキストは最早不変だからだ。

 そして、こちらに渡ってからこの世界に<翻訳>をもたらした者が過去にいたのだとすれば、その者はユグドラシル時代からそうした力を何らかの方法で手に入れていたに違いなく、非日本人プレイヤーによって為され、かつその他の非日本人プレイヤーにとって興味深かろうその試みはYLGR誌によって捕捉された可能性が高い……ということか。

 

「その人物はエドモン・ウェルズと名乗っており、目下私どもが話題にしておりますところの<翻訳>を、領域(フィールド)効果として発現する魔法の品(マジックアイテム)を自ら開発し所持していた(よし)。」

 

 エドモンなる錬金術師(アルケミスト)現実(リアル)においては在野の脳神経学者であったようで、ユグドラシルの運営に働きかけ、自身の開発した<翻訳>をユグドラシル全域の標準機能として採用するよう訴えていたらしい。

 使いようによっては現実(リアル)のプレイヤーの秘密(プライバシー)侵害を招きかねないこと、それ以上に、運用するために莫大な電脳資源を浪費することが(あだ)となって運営には相手にされなかったようだが、それでもこの人物と友好関係にあった日本人プレイヤーを招いておこなわれた実働試験においては、被験者の誰もが舌を巻く好成績を収めたと記事はまとめていた。

 

「名付けて<ロゼッタの石碑(ピエール・ド・ロゼッタ)>。外見は高さ3メートル余の花崗岩の石碑であり、装備して歩ける代物ではないようです。」

 

 なるほど、とアインズは頷く。これをロゼッタ(ストーン)とは洒落た命名だ……と感じることが出来るのは、タブラ・スマラグディナの蘊蓄話からの受け売りにはなるのであるが。

 

「しかしアルベド。この記事によればユグドラシルにおける稼働試験においても、<ロゼッタの石碑>はユグドラシル外部の力の支援を要した、とあるようだが、こちらの世界でその能力を発揮したなどということがあるものかね?」

 

 アルベドにより抄訳され羊皮紙にまとめられた報告書に目を通しつつデミウルゴスが疑問を呈する。件の稼働試験では、エドモンは運営の許可を得て自費で調達した外部電脳集合(クラスタ)支援接続(アドオン)したらしい。

 

「私もそこは疑問に思ったのだけれど、それについては共に記事の分析に当たった司書長ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスが興味深いことを言っていたわ。」

 

「この世界の月の軌道は、もしそれが既知の現実(リアル)における物理法則に支配されているのであるとすれば、およそ安定し得ない真円を描いている。太陽然り、星々然り。意味するところ、これらの天体は物理法則によってかくあるのではなく、かくあるべくしてそうあるものである。

 ユグドラシルから渡ったすべてのものも同じく。それらはそうあるべきと定められた通りにそうあるのであって、それを必然()らしめる共通の基盤、一意の法則を必要とはしていない。でなければ、他ならぬ我々の存在と力の説明がつかないではないか。

 されば、ユグドラシルにおいては外部からの助力を必要とした<ロゼッタの石碑>が、こちらの世界に持ち込まれて以降は、かくあるべしと定められた通りの力を単独で発揮したとて驚くには(あたい)すまい。」

 

 話が一気に宇宙大にまで広がって、アインズは軽い眩暈を覚えた。

 

 だが、筋は通っている。ティトゥスの言う通り、たとえばアインズ自身、百余年に渡って食事はおろか睡眠すら取ってはいないのに、淀みなく活動し続け規格外の魔法を発揮し続けている。その源泉たるMP(魔力)はユグドラシルにおいてかくあるべし、と定められた通りに一定時間で回復し、逆に定められた再充填時間(リキャストタイム)を待つことなく発揮することは叶わないのであるから。

 同時にこれは、恐ろしい含意を持つ。ユグドラシルの種々多様な力には、突き詰めればゲームバランスを保つために課せられた制約があるに過ぎず、ゲームバランスを無視して構わないのであれば、実際の実行に外部電脳の支援を要した<ロゼッタの石碑>のようなケースを除けば、それらの制約を()(ぱら)うことに何の枷もなかったはずだ。

 つまり、もしユグドラシル時代に、それが運営の気紛れであれプレイヤーによる不正行為(チート)であれ、ゲームバランスを崩壊させる何かが定義さえされていれば、それをそのままこちら側の世界へ持ち込んで来る転移者が今後現れる可能性は否定できない。

 

 ゾッとしない話だな……。

 

 そんなアインズの困惑を余所に、アルベドはひたすら今回の事態を理知的に捉え議事進行を続けていた。

 

「そこで、次いで疑問となるのが、<ロゼッタの石碑>の効果範囲は設置場所から半径二百メートルほどであった、とされている点になります。」

 

 考えても仕方のないことに心を囚われるよりも、今は目下の問題に集中すべき、か。

 

「ふふ。」

 

とアインズは、ようやく自分の出番が巡ってきたな、と北叟笑む。

 

「デミウルゴスではないが、今度はオレがエドモンとやらがユグドラシルのどの<世界(ワールド)>の住人だったか当ててみせよう。

 

 ミズガルズだな……違うか?」

 

 三人の下僕が一様に目を見張る。

 

「ご明察の通りですが……どうしてそれが?」

 

 えっへん、とアインズは胸を張った。

 振り落とされそうにはなったが、ちゃんとついていけてるぞ!

 

「これはプレイヤーとしてユグドラシルを経験していなければ知りようもないことだから、おまえたちが驚くのも無理はない。」

 

 アインズは、かつてギルメンたちの間で話題となり、円卓の間で語られたがゆえにアインズの記憶に鮮やかに残っているミズガルズの異変について語る。

 

 ユグドラシルはナザリック地下大墳墓が鎮座したヘルヘイムを含む九つの<世界>から構成されていた。その一つとなるミズガルズは、そもそも人間種プレイヤーの多い<世界>だったが、ある日突如として異形種が立ち入ることが出来なくなってしまった。

 これは(ルール)作法(マナー)としてそうなったのではなく、ミズガルズに向かって転移門(ゲート)を開いた異形種が悉くその発動を(はじ)かれる、というものであったことから、何らかの領域効果によるものであることは早くから推察されていた。

 ギルド、アインズ・ウール・ゴウンの面々が真相を知ったのはこの制約が解除されてからのことで、解除のきっかけはミズガルズ内部のギルド間抗争でとある人間種至上主義甚だしかった中堅ギルドが大敗北を喫したことによる。戦利品を求めてギルド拠点に立ち入った征服者たちが発見したのは、<異形種立入禁止の標識>とそこに恭しく貼り付けられた恐ろしく上質な光り輝く羊皮紙だった。

 

「オレも実物を見たことはないが、世界級(ワールド)アイテム<巫女(ヴォルヴァ)の布告>。これを添えた領域効果を持つ魔法の品の効果範囲を、呆れたことに<世界>全域まで拡張する()()の逸品だ。」

 

「<鍵盤打楽(ガムラン)人形>と<淑女の日傘(プライバシーパラソル)>、で御座いますな、父上?」

 

 森妖精(エルフ)の王の王宮から接収された、ニグレドの探査の目を広範囲に及んで阻んだ品にパンドラズ・アクターが言及する。

 アインズ自身も、一見奇妙に思われたあの組み合わせは、存外()()()の組み合わせを参考に苦し紛れに試みられ、デケムへ代替わりした後は含意が伝わらぬまま放置されたものであることを今は疑っている。

 

「その後の行方については知られていなかったと思うが、世界級アイテムを<世界>を越えて持ち出すと特有の瑞祥(イベント)が発生して目立ったから、それが話題になっていないということはミズガルズにそのままあった可能性が高い。ユグドラシル終了時点でエドモンの手元にあった、と考えればすべて辻褄が()う……とまぁ、そういうわけだ。」

 

 一つ一つの要素は、今回の事態に紐付けるには牽強付会にすら思われる細事であるが、それらがかくも繋がりを見せることは偶然とは考えにくい。

 

「駒は概ね出揃ったように思う。

 そのエドモンというプレイヤーは、六大神よりも以前の時代にこちらに渡って来て、<ロゼッタの石碑>と<巫女の布告>を組み合わせ、<翻訳>の力をこちらの世界に加えたのだろう。」

 

 かの白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)ツアーは、位階魔法が今より遡ること六百年前、現在八欲王の名で知られるユグドラシルプレイヤーによって持ち込まれたものであることをアインズに語った。アインズはこれを、やはり世界級アイテムの中でも寄りすぐりの<二十>が一つ、<五行相克>が用いられたものと考えているが、そのツアーですら、この世界の種族や国が異なる者たちの間で会話が成立することをさも当然のように振る舞っていたのもまた、この考えを裏付ける。

 

「そして今、その効力が失われた。

 最も単純な考え方をすれば両方、もしくは一方の品が破壊されたということになるが、世界級アイテムを破壊する方法は事実上存在しないし、<ロゼッタの石碑>はどう小さく見積もっても伝説級(レジェンド)以上だろうから、破壊には<上位道具破壊(グレーター・ブレイク・アイテム)>を要し、こちらの世界の魔法詠唱者(マジックキャスター)には為し得まい。

 もちろん、我々が存在を確認していない百レベルに達した未知のユグドラシルプレイヤーによってそれが為された、という可能性もなくはない。

 が、そういう存在が仮にいたとして、そいつは<道具上位鑑定(オール・アプレイザル・マジックアイテム)>を使えないわけはないだろうから、それが何であるかを知った上で破壊しようはずもなかろう。

 

 となれば、残る可能性はただ一つだ。」

 

「たまたまそれらを発見した原住民が、<巫女の布告>のみをそれが何であるかを知らぬままにそこから持ち去った……アインズ様はそのようにお考えなのですね?」

 

 デミウルゴスが薄い笑みを浮かべながら問う。

 

「よもや<ロゼッタの石碑>を容易に運べる者がいるとも思えないから、当然そういうことになるだろうな。物は光り輝く羊皮紙だ。それが何かわからなくとも何やら曰くあるものだ、ということは無知の者でも理解できるだろうし、逆に花崗岩の一枚岩に価値を見出す者はそうは居まい。」

 

 アインズはその考えを追認する。

 

「オレは方針を決した。」

 

 三人の下僕が(あるじ)の続く言葉を聞き逃すまいと注目する。

 

最優先(プライマリ)標的(ターゲット)は<巫女の布告>だ。

 ここまでの推理からすれば、その価値を知らぬ者が今なお持ち歩いている可能性が高い。これをどうにかして発見、確保する。よもや発動することはないと思うが、世界全域に影響を与え得る品で、しかも世界級アイテムだ。捕獲に当たっては細心の注意を要するものと心得よ。

 

 言うまでもなく<ロゼッタの石碑>も捜索する。

 こちらはほぼ間違いなく固定目標であり、さらに位置が特定できれば<巫女の布告>の存在可能範囲が限定されるという特典付きだ。こちらについてはその捜索方法にオレに一案があるので任せてもらおう。

 

 何か異存はあるか?」

 

「「「あろうはずも御座いません!」」」

 

 三人の下僕が一斉に立ち上がり、声を揃えて応じた。

 

 こいつらもこいつらなりに高揚を覚えているのだろう、とアインズは内心微笑む。

 オレ自身、いつになく心が踊っているのだから無理もないことだ。

 

「アルベドに命じる。

 ガルガンチュア、ビクティムを除く全階層守護者、(ほか)(おも)だった面々を玉座の間に集めよ。久々のナザリック地下大墳墓の総力を挙げての探索(クエスト)を、オレ自ら宣言する!

 デミウルゴス、パンドラズ・アクターには先に告げた大方針を実現するための作戦指揮を命じる。可及的速やかに布陣を完成せよ!」

 

「「「ははっ!仰せのままに、アインズ様ァ!」」」

 

 勢いよく退出していく下僕たちを見送りながら、アインズは深く溜息をついた。

 

「いよいよ後戻り出来んところに迷い込みつつあるよなぁ……。

 

 ま、いっか。

 細かいことは後で考えよう!」

 

 アインズがその内に大きな葛藤を抱え込んでいることに気づく者は、今のところ誰一人としていない。





<次話予告>

「オレはおまえたちが共にある限り、為し得ぬ事などない、と考えている。
 ここに、ナザリック地下大墳墓史上最大の作戦の開始を宣言する!」

 失われた<翻訳の神秘>を求めて地下大墳墓(ナザリック)が動き出す。
 ただ一人、武人の誇りに突き動かされるかの下僕(しもべ)を除いて。

「アベリオン丘陵ニ向カウ許可ヲ頂キタク存ジマス。」

 蟲王(コキュートス)が丘陵で幻視するものは何か!
 アインズたちは幾百年の時を超えた真実に迫ることが出来るのか?


 憶持のオーバーロード第7話『白綿の盾』


「さて、私に出来ることはと言えば……」

 真祖吸血鬼(キーノ)は慣れない手付きで羽筆(ペン)を取る。
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