憶持のオーバーロード   作:wash I/O

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第7話 白綿の盾

「……と、ここまでの経緯はアルベド、デミウルゴスから説明があった通りだ。」

 

 ナザリック地下大墳墓第十階層玉座の間。

 

 ここに至る一連の顛末を……無論、アインズが初めて英語で<伝言(メッセージ)>を飛ばしてどぎまぎした、などという枝葉末節(しようまっせつ)は省きつつ、ではあるが……守護者統括(アルベド)参謀(デミウルゴス)に命じて下僕(しもべ)たちに説いて聞かせたアインズは、この未曽有の事態の究明に乗り出すことを宣言した。

 

「この世界に渡り来てより百余年、我々は様々な問題を乗り越えて来た。

 今回のこれはその中でも最大級の難事となるだろう。

 

 しかし!

 オレはおまえたちが共にある限り、為し得ぬ事などない、と考えている。

 

 ここに、ナザリック地下大墳墓史上最大の作戦の開始を宣言する!」

 

「「「アインズ・ウール・ゴウン様万歳!」」」

「「「死の支配者(オーバーロード)に栄光あれ!」」」

 

 万雷の歓声に応え、アインズはスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンの模造品(レプリカ)を掴んだ右手を高らかに突き上げた。

 

 

 

「単騎出陣の許可?」

 

 興奮冷めやらぬままに(みな)がデミウルゴスとパンドラズ・アクターの下知に従ってそれぞれの持場へと歩み去りつつある中、蟲王(ヴァーミンロード)コキュートスが、(あるじ)の裁可を得るべくただ一人アインズの前に進み寄った。

 原則としてアインズが狩りに出る際の近衛を務めることが多く、またその火力がこの世界の存在に対して過剰に過ぎるコキュートスには今回の作戦ではたちまちには役割は与えられず、アインズ自ら出御に及ぶ場面に至るに備えての待機が命じられたものだが、本人には何やら別の考えがある様子。

 

「アベリオン丘陵ニ()カウ許可ヲ(いただ)キタク(ぞん)ジマス。」

 

 アインズにはたちまちにはコキュートスの意図がわからない。

 

(おのれ)(はか)ラズモ()イタ(たね)カラ()イタ(はな)ヲ、見届(みとど)ケタク。」

 

 コキュートスは淡々と自身の考えるところを語った。

 

 

 

 彼は、自身がローブル聖王国の人々から御蟲様(おむしさま)を送り名され、正義の神として信仰の対象となっていることにどこかの時点で気づいていた。が、何故そういうことになったのか、わからぬままにいた。

 ある日、いつものように第九階層(ロイヤルスィート)バー・ナザリックにて盟友デミウルゴスと(グラス)を傾けていた折、コキュートスは何という気はなしに、デミウルゴスに自身がそうなっていることの背景がわかるかを尋ねた。デミウルゴスはそのうち何かのついでに調べておこうと請け負い、その約束は、問うた本人が問うたことをすっかり忘れ去ったつい先日になって遂に果たされた。

 

 曰く、百余年前、アインズが自身が<アインズ・ウール・ゴウンの日誌(ログブック)>から顕現した存在であると宣言する以前の話になるからほとんど転移直後の逸話(エピソード)となるが、ローブル聖王国に隣接するアベリオン丘陵で催されたアインズの狩りに近衛として同行したコキュートスは、興が(こう)じたアインズが狩りの獲物となった愚将が引き連れた兵を皆殺しにしそうになったところを、あわやのところで制した。

 コキュートス自身はこのことを、アインズの(めい)に忠実に従ったものであることは承知しつつも、主の心趣くままの殺戮に冷や水を差した無粋であったと随分と気に病んでデミウルゴスにその葛藤を打ち明けたりもしたものだが、とまれ、このとき一命を救われた兵の中に居た一人の少女ネイア・バラハ、後に<顔なしの伝道師>の二つ名で呼ばれる人間が、コキュートスを正義の神、御蟲様として弘めて歩いた張本人である。

 

 デミウルゴスは人間社会の動向調査を兼ねて、本人が語りもせぬ神託(メッセージ)をコキュートスから受け取ったと信じた()()のその後を追跡調査(トラッキング)していた。

 彼女は、一般にローブル聖王国の人間とアベリオン丘陵の亜人種連合の間に信義を打ち立てた人物、と認識されており、デミウルゴスもそこには疑義を(いだ)いてはいない。一方でデミウルゴスは、何故(なにゆえ)に彼女は、いずれ崩れ去るに違いない相容れない種族の間の信頼関係の構築、などという無駄な試みに自身の儚い一生を捧げたのか理解不能だという見解を示し、最後にこう付け加えた。

 

「まぁ、稀にみる高貴な魂の持ち主、ではあったのだろうね。

 キミが励起せしめた魂でさえなければ、暇潰しに堕落させてやったものを。」

 

「……(わたし)ガ、励起セ()メタ?」

 

「おや、気づいていなかったのかね?

 (カルマ)というものは、望むと望まざるとに関わらず、ある種の感受性を有する者の間では伝播していくものなのだよ。この場合、キミの気高い心に、彼女に潜在した何かが共鳴したのだろうね。」

 

「ソノ(むすめ)ハ……ソノ()、ドウナッタノダ?」

 

「さぁ、どうだろうね。和解のためにその命を自ら捧げたとも、亜人たちに混じって末永く幸せに暮らした、とも伝わっているが、実のところは私も承知はしていない。人間種の寿命を思えば、故人であることは間違いないだろう。」

 

「ソウカ。

 ()(はなし)()カセテクレタ、感謝スル。」

 

 コキュートスのこの答礼をデミウルゴスはいつものように思惑有りげな薄い笑みを浮かべて聞いていたが、席を辞した後、感じるところのあったコキュートスはこの話を自身の甲殻の一部に刻み、忘れまいと誓ったのだった。

 

 

 

「言葉ガ(つう)ジナクナッタコトニヨリ、アベリオン丘陵ニ一触即発ノ気配ガアル(よし)(もと)ヨリ、人間、亜人(ども)ガドノヨウナ命運ヲ辿(たど)ロウトモ、(わたし)ノ関知スルトコロデハ御座(ござ)イマセン。」

 

 アインズは興味深くコキュートスの語るところに耳を傾けている。

 

(わたし)見届(みとど)ケタク(おも)イマスノハ、デミウルゴスガ(もう)ストコロノ、(わたし)ヨリ励起サレシ高貴ナ(たましい)、トヤラガ、(いま)コノ(とき)モソノ余韻ヲ(のこ)スモノカ、ハタマタ、直接ニソレヲ()ケタ、ネイア・バラハ、ナル(もの)()(とも)ニ雲散霧消シタモノカ……ニ御座(ござ)イマス。」

 

「敢えて問おう。

 言葉も通じぬこの状況下において、コキュートスは如何(いか)にそれを見届ける?」

 

 コキュートスは、ナザリックの鍛冶(かじ)長と談じてそのために特別に(あつら)えた武具を、言葉を発さぬままにアインズに示した。その数四つ。

 

 たちまちにその意を察したアインズは、只今自身が抱えている葛藤に通じるものをも感じ取って深く感嘆した。

 

「コキュートス、おまえこそ、まさに武人建御雷(ぶじんたけみかづち)さんの高貴な魂を継ぐ者だ!

 その波紋の広がる末を、自ら見極めて来るがいい。」

 

有難(ありがた)(しあわ)セ。」

 

 背を向けて歩み去るコキュートスを見送りながら、アインズは独り考える。

 今このときにこういったことを見せられるのは、果たして偶然なのか、それとも必然なのか、と。

 

 

                    *

 

 

 帝国自由都市エ・レエブルは、ちょっとしたお祭り騒ぎになっている。

 

 北方の伯国(はくこく)侯国(こうこく)で同時多発的に生じた動乱から逃れた難民が日に日に押し寄せて来たからだが、当初エ・レエブルの支配層は、冒険者を動員して北へ繋がる街道筋(かいどうすじ)を堅め、難民の流入を防ごうとした。平時のことであれば露知らず、今は言葉が通じるかどうかもわからぬ者を無分別に受け入れる余裕は、エ・レエブルと言えども持ち合わせてはいない、という具合に。

 が、<(あけ)薔薇(ばら)>に代表される名の通った上位冒険者たちは、これが悪手に過ぎることに当然気づいていた。今のところは臨時で街道に設けた関所での炊き出し等で難民の不満を封じてはいるものの、このまま流入が続けば何処かで破綻に至るのは目に見えている。一度(ひとたび)暴動にでも至ろうものなら、これを鎮圧するべくリキウス・アインドラやガ・ギンといった腕に覚えのある冒険者に、難民を殺して歩くという最悪の役回りが巡ってくるのは明らかだ。

 

 そこでリキウスとギンは一計を案じた。

 

 彼ら自身がそうであるように、冒険者たちの出自は様々だ。リキウスとギンは、たちまちに連絡のつく信頼のおける冒険者たちを訪ねて歩き、互いの言葉の通じ具合を丹念に調べた。その結果わかったのは、大局的(マクロ)に見たとき出自階層による断絶があるのは否めないが、局所的(ミクロ)に見ていけば二つ以上の階層を跨いでいる者が少なからず存在する、という事実だ。

 ギンが、違和感を覚えつつも旧王国領識字層の発話を何とか理解できるように、ある者は農村の言葉を母語としながらも町の人間と辛うじて意を通じることが出来たし、ある者は商人と都市労働者の双方とほぼ完全な会話をこなすことも出来た。

 

 リキウスはこれを一覧(リスト)にまとめ、<朱の薔薇>に軽率な判断を諌められて借りを感じており、自身、複数の階層との会話を辛うじてこなしたビョルケンヘイムを味方につけて市参事会へ持ち込んだ。

 難民流入阻止は愚策に尽きる。そこまで恐れずとも、この一覧の人材を活用すれば何人(なんにん)か越しであっても意を通じることは叶わなくはない。難民たちがエ・レエブルに不信感を(いだ)いて暴発する前に、これを活用して取り込むことを目指すべきだ、と。

 この大胆な提案に参事会は一時混乱に陥ったが、提案者に他ならぬ<朱の薔薇>のリキウス・アインドラとガ・ギンが名を連ねていること、さらにはロフーレ商会の息がかかった議員たちがある時点から一気に賛同に動いたことから採用の運びとなり、ビョルケンヘイムが市の難民対策全権として指揮を執ることが合意されるに至った。リキウス、ギンが、実質その頭脳(ブレイン)として組織を運営(ドライブ)することになったのは言うまでもない。

 

 かくして街道の封鎖は徐々に解除され、難民の、ある者はエ・レエブルに(とど)まり、ある者は市に従属する小さな町や村へと差配された。ビョルケンヘイムは職業柄、域内の町や村がどのような人員を潜在的に必要としているかに通暁しており、たとえば農村出身の難民を耕す者のいなくなった休耕地を抱える村に紹介することが出来た。ロフーレ商会が難民の信用保証と当座の生活資金のために幾許(いくばく)かの出資をすれば……無論、追って収穫物を割安で仕入れる権利を彼らは得るのである……体制は整う。

 一度(ひとたび)これが算盤(そろばん)に叶う、と分かれば話は早い。ロフーレ商会を始め、帝国自由都市を跨いで商売をする人々を介してリ・エスティーゼ、リ・ロベルにもたちまちにこの取り組みは伝わり、それぞれの土地柄に応じた変奏(アレンジ)を加えて根付いていくのは、帝国自由都市群のお家芸だ。

 

 自分たちの采配が思いの外うまくいき、それどころか想像していた範囲を越えて広がっていく(さま)に、リキウスは満足を覚えながらも、実のところ彼自身は、出来るものであれば北辺へ撃って出て、不良貴族を駆逐し新たな政体を確立する戦いに身を投じたかったくちではある。

 

 これを思いとどまらせたのは、問うまでもなく師父ガ・ギンの言葉だ。

 

<君子たる(もの)(おのれ)のみに()()ることに一身(いっしん)(ささ)(たてまつ)()しと(おぼ)(そうろう)。>

 

 ギンは、明示的に「あれをせよ、これをせよ」と示唆したわけでは決してない。

 が、この言葉の意味するところを取り損ねるほどリキウスは愚かではなかった。剣を振るい魔法を詠唱するのみが冒険であるわけでもなし。それは、それのみが取り柄の脳筋(のうきん)にでも任せておけばよい。俺は、俺たち<朱の薔薇>はそんな安っぽい冒険者(チーム)ではない、との矜持(きょうじ)がリキウスには既に宿っている。

 

「しかし……我ながらエラいことを始めてしまったものだな。」

 

 難民の流入はなお続いており、その需要(ニーズ)に応じる通訳者……当初こそ不測に備えて自ら状況の悪化に対処可能な冒険者に求められたが、平和裏(へいわり)に進むことが明らかになれば人選に困ることはなかった……の抜擢も順調に進んではいるものの、どこまでこれを維持し続けることが出来るかはまだまだ心許ない状況だ。

 

 が、考えようによっては、まさにこれこそが、彼が望んで止まない未知への冒険、ではあるのかも知れない。

 

 

 

 未だに何が言葉交わされているかを知る(すべ)がないながらも、何が起こっているのかについてはキーノも概ね理解はしている……つもりだ。

 

 都市に危機をもたらした者が強大な化け物の類であるならば、これに対するに自分の右に出る者はエ・レエブルには居まい、と彼女は自負しているが、只今の状況に彼女は何ら寄与する(すべ)を持たず、むしろお荷物と化していることは承知している。難民の集団に不穏の空気が生じた際は、種族技能(スキル)の<魅了の魔眼>で急を凌ぐ、といった点では貢献はしているものの、それは彼女自身の望む在り方では決してなかった。

 

 言葉がまったく通じない、という点では彼女と同様のクゥイア、クゥイナの双子忍者は、何を考えているのかは知らないが常にギンに着いて歩き……というか、いつものようにその両肩にちょんと乗って……ときに荷物運びを手伝ったり、ときに怪しげな動きを見せた難民を制圧したりしているようだが、そのあっけらかんとした調子が彼女には羨ましかった。自分もあのようであれたならば、と思わないでもないが、それは頭の中をすっからかんにするのと同じであるようにも思え、俄に真似る気にはなれない、と言うか、彼女にそんな芸当は無理だ。

 

 参事会やビョルケンヘイムを始めとする有力商人の間を飛び回って調整に明け暮れるリキウスとギンを尻目に、今日も一日暴動の芽はないかと市中を見廻って過ごした彼女は、とりあえず飽きた、という理由から取る必要もない休息を取るべく定宿の自室に戻った。

 

「ん?」

 

 ふと見れば、足元に一匹のゴキブリがいる。

 以前であれば悲鳴を上げて逃げ惑ったものだが、ナザリックの紳士、恐怖公の眷属と知ってからはそのように振る舞うこともすっかりなくなった。いや、今でも嫌なものは嫌だが。

 

「おまえ、私の言うことがわかるか?」

 

 馬鹿げているな、とは思いつつもキーノはゴキブリに話しかける。

 もちろん、返事はない。

 

 恐怖公の眷属は人語を解し、話しかけてもきた。

 もっともそれは、<朱の薔薇>がバハルス帝国から受け取ったド・クロサマー王国調査の報酬の分け前、金貨百九十九枚をこの部屋で数えて悦に浸ったあの日、一度きりのことだ。

 

 はて。

 自分はリキウスやギンと会話が通じなくなったが、あの想像の埒外の化け物集団、ナザリック地下大墳墓の連中はどうなのだろう。

 

 帝国の方から噂で聞こえてくるところによれば、どうもこの異変は世界全体を覆ったものらしく、その点ではあの連中も例外ではなかろう、と思う一方、あの強大な力を有する者たちであれば影響を受けていないか、あるいは独自に問題を回避する方法を見つけているかも知れないし、そもそもこの事態の裏で糸を引いているのが連中だ、ということだって大いにあり得る。

 

 ふと、キーノは思い出す。

 

 あの日……ただ一度ゴキブリの方から彼女に語りかけてきたあの日、恐怖公の使いだと名乗ったゴキブリはこう言ったのではなかったか。

 

 恐怖公におかれてはキーノに大変目をかけておいでで、もし今後キーノがお困りの際にお求めあれば、たちまちにシルバーを駆って馳せ参じる、と。

 

 今がそのときではないのか?

 

 目前にいるゴキブリは声をかけても何も応えてはくれないが、こちらの話は聞いているのかも知れない。彼……彼女かも知れないが……に、キーノが恐怖公の助けを求めている、と訴えれば、シルバーとやらに跨った恐怖公が……あまりその見た目(ヴィジュアル)を想像したいとも思わないが……駆けつけて、ナザリックの者たちの有する強大な力を行使し、キーノが今陥っている窮地から救い出してくれるのではないか。

 

「そこのおま……」

 

 再びゴキブリに声を掛けようとしてキーノは思い(とど)まった。

 

 いや、間違っている!

 

 今ここで恐怖公に助けを求めることは、いつかギンに遠回しに諭されたように、かの強大無比な骸骨、アインズ・ウール・ゴウンに庇護を求め、その支配に甘んじることだ。

 

 他ならぬ恐怖公が私に言わなかったか?

 

 アインズ様は我らナザリックの者の(あるじ)であって、キーノの(あるじ)には成り得ません。

 此処(ナザリック)貴女(あなた)にとっては仮初(かりそめ)の場所であって、本来あるべきところではないでしょう、と。

 

 ああ、危うく私は再び道を誤るところだった!

 

 キーノは独り赤面する。

 そして、その恥ずかしさを誤魔化すかのように、愛用の肩掛け鞄(バッグ)に手をいれてゴソゴソと中を探る。案の定、行軍中のおやつにしようと潜ませた乾酪(チーズ)の欠片、の残骸……ほとんど屑に近いそれを見つけた。私には屑だが、彼……彼女かも、だが……にはこれで十分だろう。

 

「そこのおまえ、お役目ご苦労だな。

 これは私からの心尽くしだ。」

 

と、その乾酪(チーズ)の屑をそっとゴキブリの(そば)に置いた。彼女が近づいた瞬間、ゴキブリはハッとその場を一旦離れたが、ややあって戻って来て乾酪(チーズ)の屑を(かじ)り始める。

 

「何をやってるんだ、私は……」

 

 あの日話し掛けてきたゴキブリは、自分の寿命はあと二週間ほどで、以降は後任が引き継ぐのだと言っていた。きっと目の前にいるゴキブリは彼……あれも彼女だったかも知れないが……の何代か後の子孫だか親戚だかに当たるのだろう。ゴキブリの系譜になぞ興味はないが、思えば恐怖公からの言伝(ことづ)てを届けてくれたアイツに、直接おやつを分けてやらなかったのは悪いことをした。

 

「さて、私に出来ることはと言えば……」

 

 机を寝床(ベッド)(そば)に引き寄せた彼女は、慣れない手付きで羽筆(ペン)を取る。

 羊皮紙の切れ端に書いた言葉はこうだ。

 

<話し言葉を教えて頂きたく御願(おんねが)(たてまつ)(そうろう)。>

 

 

                    *

 

 

 アベリオン丘陵の西端、かつてローブル聖王国の東の端を南北に貫いていた長城の点在する()()が辛うじて望める辺りに、幾群かの軍が展開している。

 

 ローブル聖王国の人間種とアベリオン丘陵の亜人連合の間に歴史的和解が成立して数年後、聖王国側から信義の(あか)しとして長城をすべて撤去したい、との申し出が亜人側になされた。突然着手しては返って疑念を煽るものと気遣ってのことであったが、亜人側からは「歴史の記念碑として部分を残置するが妥当」との返事があった。以て長城は、特に歴史的価値や美観著しい部分を保存し、他の部分は突き崩されて現在に至る。

 

 ローブル聖騎士団およそ二百騎は、この点在する長城遺構を背に横一文字に展開している。丘陵の亜人たちが急に言葉を返さなくなって(はや)一月(ひとつき)何々時々(いつなんどき)変事があってもたちまちに遊撃せんと待機しているものだ。

 どちらが先に布陣したかは既に明らかでないが、その全容を見下ろせる丘の上に獣身四足獣(ゾーオスティア)の一団が見える。その(かず)三十余。一般に獣身四足獣は人間の騎兵四騎にも五騎にも拮抗すると言われるので戦力はほぼ互角だ。

 そこから沢を一つ隔てた丘に布陣する山羊人(バフォルク)の一軍があり、その数およそ百。だが、彼らが睨みを効かせる相手は聖騎士団のみではない。獣身四足獣の一団もまた監視対象だ。言葉が通じない、という点においては、彼らからみて人間と獣身四足獣にさしたる違いはない。

 同様の集団が、ほかにもちらほらと見える。いずれも、自分から仕掛けることは辛うじて自重してこそいるものの、疑心暗鬼に発する緊張はこの対峙が始まって以来積もり上がるばかりで、いよいよ限界に達しようとしていた。

 

 そのとき!

 

 各集団の戦力の重心に当たる地点に、何やら禍々しい気配が立ち上ったことに誰しもが気づく。誰からみてもそれは仮想敵の方向で起こった変事であり、構えを解いて休んでいた者も俄に得物に手をかけていざ突撃の備えを採った。

 

「……なんだ、あれは!」

 

 そんな声があがったのは聖騎士団からであったか山羊人からか、あるいはすべてから同時であったか、戦場候補地のほぼ中央に、白銀の鎧を纏った武者が居ることに誰もが気づいた。

 

 すわ、聖騎士団が魔法で呼び出した使い魔か!

 

 最初に動き出したのは獣身四足獣の一団であったか、疾風の如く白銀の武者に駆け寄るや研ぎ澄まされた爪が襲う。が、その連撃は武者の胴から生え伸びる四本の腕、その先にしっかと掴まれた四枚の円形の盾(ラウンドシールド)に悉く(はじ)かれた。

 その奇妙な手応えに奇異を覚えた者が、今度は様子見に軽く一撃離脱を試みるが、武者に意図を見抜かれたものか自ら間合いに入るよりも前に一歩突出した武者の、やはり盾によってはたき飛ばされた。そのあまりに鮮やかな逆撃に、盾の表面に(スパイク)か何かが仕込まれていて致命傷を負ったものかと慌てて自身の体を見回すが、目立った傷はない。そうだ、奇妙な手応えは盾の表面の素材だ。弾き飛ばされた瞬間、彼は確かに(おのれ)(まなこ)に焼き付けたのだ。

 

 円形の盾が一面純白の真綿に覆われていることを。

 

 前方で騒乱が起きたことに気づいた聖騎士団が続いて馬上槍(ジャベリン)を引っさげて突入する。それを自身への突撃と誤認した山羊人の一団も新月刀(シャムシール)を抜刀して駆け出した。

 

 二軍から挟撃される(てい)となった武者に慌てる様子はまったくない。襲いかかる相手の得物が自身の間合いに至る僅かな時間差を利用して、すべてを盾で受け止め同時に跳ね飛ばす。乱戦は混迷の()を増し、やがて半人半獣(オルトロウス)の一団が加わり、石喰猿(ストーンイーター)が加わり、魔現人(マーギロス)が加わる。

 最早(みな)狂乱の内にあるのみで、一体全体自分が何者と戦っているのか認識できている者はいない。ただはっきりしているのは、武者の間合いに踏み入ったが最後、とてつもなく迅速、恐ろしく強力、でありながら優しい一撃で排除される、ただそれだけ。

 一騎、または一人、と乱戦から脱落し、立っている者の方が少なくなってくると、闇雲に突進する者は居なくなり、遠巻きに武者と睨み合う形となった。それでもその総数は百は下らない。

 

 ここに至り、白銀の武者は右上腕の盾を手放し、所持品(インベントリ)から長得物を取り出した。

 

 だが、それは武器に(あら)ず。

 

 長柄の先に備わるは刀身ではなく、ネイア・バラハが御蟲様の象徴として常に手づから掲げて歩いたロレーヌ(縦一本横二本)十字!

 

 白銀の武者、コキュートスは、対峙する(みな)の目によく留まるよう、得物をゆっくりと高く振り回した後、恐るべき速度で地面へズンッと突き立てた。その場に居たもので、大地が震えたかの如き錯覚を覚えなかった者は一人としていない。

 

(コレデ(わか)ラヌナラ……鏖殺(みなごろし)()()シカ。)

 

 ふしゅー、とコキュートスは冷たい溜息を吐いた。

 

 そのとき!

 

 ゔぁーみん……

 

 コキュートスは何処からか微かな祈りの声を聴いた。

 否、同じ声は四方八方から聴こえてきており、最初まばらであったそれは、時を追う毎に数と密度を増し、いつの間にやら大唱和へと至っていた。

 

 御蟲(ヴァーミン)

 御蟲(ヴァーミン)

 御蟲(ヴァーミン)

 

 コキュートスの真綿で包んだ盾に跳ね飛ばされた者たちはそこかしこに転がっている。刀創(かたなきず)を負った者は誰一人としていないが、打ち身、捻挫は当然として、中には骨折して動けない者もあった。

 

 ふと見れば、一人の人間が傍らに倒れた山羊人に肩を貸して助け上げている。

 あちらでは山羊人が獣身四足獣を。

 半人半獣が人間を。

 

 口々に御蟲(ヴァーミン)と唱えながら。

 

 この祈りの言葉は、ネイア・バラハが悟りを開いた折に霊感を得た異言であり、誰にとっても母語ではない。そして、言葉が通じぬ(いま)このときにあっては、アベリオン丘陵周辺に住まうすべての者にとって、唯一共有された音韻でもあった。

 

 嗚呼(ああ)(なんじ)至誠(しせい)

 (つう)ズルヲ見極(みきわ)メタリ!

 

 改めてコキュートスは、ふしゅー、と感嘆の冷たい息を吐いた。

 

 そのとき、コキュートスは確かに幻視したのである!

 

 自身の右上腕が大地に突き立てたロレーヌ十字を掲げた長柄に、

 透き通る手を共にかけ、物言わず隣に佇む女の影を!

 

 その者から、

 微笑みと共に自身に向けられた視線を!

 

「ネイア・バラハ……(ひど)目付(めつ)キダ。

 ダガ……ソコガ()イ。」

 

 そう呟いたコキュートスは、所持品から青白く輝く小さな珠を取り出し握り割った。

 たちまちに生じた<転移門(ゲート)>に呑み込まれ、御蟲様はその姿を信徒たちの前から消した。

 

 そこには、コキュートスが手放した真綿で表装した円盾が一枚、

 返り血一つない純白を保ったまま遺されたのみ。

 

(あと)ハ勝手ニスルガ()カロウ。)

 

 アベリオン丘陵の者たちの行く末に、コキュートスは一片の興味もない。

 

「コキュートス。

 おんしは何をしに出掛けておったのでありんすか?」

 

 その巨躯の回収に当たった中華服(チャイナドレス)を身に纏う少女吸血鬼(シャルティア)が、見上げるようにして蟲王(ヴァーミンロード)に尋ねた。

 

武人(ぶじん)ノ自己満足ヨ。

 (わら)ワバ(わら)ウガヨカロウ。」

 

「笑いどころがわからんでありんす!」

 

 フフフ、とコキュートスは嘲笑(わら)い、以降は固く大顎を閉ざした。

 後日、この場所に彼が遺した円盾を聖遺物(レリック)として祀る小さな霊廟が建立されるに至るが、最早それはコキュートスの関知するところではなかった。

 

 

                    *

 

 

「……とまぁ、大仕事になるが、おまえとその眷属にやってもらいたいことは以上だ。」

 

 ナザリック地下大墳墓第二階層黒棺(ブラック・カプセル)。玉座の間に全員集合がかかった際も、当地の住人が招かれることは通常ない。それを受け入れることが叶わない(おも)に女性NPCが少なからず存在するからだ。

 

 なのでアインズは、玉座の間にて作戦発動を宣言した後、単身ここへ転移して恐怖公に自ら指示を与えた。

 

「確かに承りました、アインズ様。」

 

 高らかに振り上げた右上腕を胸元に軽やかに振り下ろす礼を執って、恐怖公は応えた。

 

「眷属たちの寿命を思えば、道半ばで散っていく(もの)たちもいよう。そんなおまえたちに酷な仕事を押し付けることになって申し訳ないのだが……」

 

 その(あるじ)の言葉を敢えて遮って恐怖公は言う。

 

「何をおっしゃいます、アインズ様。

 (わたくし)の眷属は、(みな)限られた命をアインズ様の御為(おんため)に捧げることに無情の歓びを覚えることこそあれ、お恨み申し上げることなどあろうはずも御座いません。否、むしろ与えられた短い時間を崇高な使命に費やすことこそがその本分。どうか、無用のお気遣いはなさいませぬよう。」

 

 思えば不憫なものだ。

 

 恐怖公の眷属を始めとして、至高の四十一人の露悪趣味を受けて同じNPC(しもべ)たちからも必ずしも歓迎されない容姿、嗜好を備えた者たちが、少なからずナザリックには存在している。がアインズは、彼らもまた、そのことに愚痴一つ零すことなくナザリックに忠誠を尽くす、かつての仲間たちの子どもであることをよく知っていた。

 

 恐怖公の言う通り、無用の気遣いは返って彼らに対して礼を失するものであるかも知れない。

 

「……そうだな。おまえたちの決して報いられることのない無償の愛、ありがたく頂戴しよう。」

 

「もったいなき仰せ、眷属一同、なお一層の忠誠をアインズ様に捧げるもので御座います。」

 

「しばし探索は全方位的におこなわざるを得ないと思うが、何か手がかりが見つかって範囲を絞り込めそうであれば、何はさておき、おまえに知らせることを約束しよう。」

 

有難(ありがた)(しあわ)せで御座います。」

 

「では、よろしく頼むぞ。」

 

「……しばしお待ちを、アインズ様。」

 

 <アインズ・ウール・ゴウンの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)>の力で<転移>するかに見えたアインズを、恐怖公は呼び止めた。

 

「ん、何だ?」

 

「……あ、いえ。何でも御座いません。お呼び止めしてしまい、失礼致しました。」

 

「いや、気にする必要はない。同様に、どんな些細なことであっても眷属たちが得た情報に気になる点があれば、遠慮なく知らせてくれ。エントマと眷属通信網(ネットワーク)は繋がっているのだろう?」

 

「はい、そこは滞りなく。必ずやご期待に沿う働きをば!」

 

「うむ、眷属たちにもオレからの謝意を伝えておいてくれ。

 ではな!」

 

 先程までアインズが立っていた位置に深々とお辞儀をしながら恐怖公は(ひと)()ちる。

 

 思わずお呼び止めしてしまったが、おそらくアインズ様はかの(もの)のことなどご記憶に留めてはおられまい、と。

 

 恐怖公の言う、かの(もの)、とは、このナザリック地下大墳墓第二階層の食客として逗留していた現地産の真祖吸血鬼(トゥルーヴァンパイア)キーノ・インベルンのことだ。専属の眷属を配し監視している都合上、ナザリックの誰もが既に失念して久しい彼女のことを、ただ恐怖公だけは今も覚えている。

 

 そのキーノが、先日おかしな行動を見せた。

 

 それまで眷属(ゴキブリ)に見向きもしないか、ときには逃げる素振りさえ見せていたのに、目下の<翻訳>の問題で何を言ったかまではわからないものの、眷属に対して話し掛けてきたのみならず、自身の食事を分け与えすらしたことが報告されたのだ。

 

 これを変事としてアインズに報告すべきか……恐怖公はしばし頭を捻った。

 

 ナザリックの者のご多分に漏れず、恐怖公とてナザリック外の存在に対しては基本的に関心はない。が、短からぬ期間同じ釜の飯を……第九階層(ロイヤルスイート)の食堂から遠路キーノの食事を配送していたのもまた、恐怖公の眷属であった……喰った仲であり、また、闇に生き、己の意が何処にあるかを問わず(せい)ある者から疎まれる存在としての共感(シンパシー)を少なからず抱いていたことは否めない。

 事実、恐怖公は眷属を使いに立て、新たな道を歩み始めたキーノに祝福を言伝てするのみならず、何か事あれば馳せ参じよう、と……これは過分に社交辞令の一面がなきにしもあらずではあるが……約しさえした。

 

 はて。

 

 言葉が通じなくなったのは、どうやらキーノも同様の様子。これに苦悩したキーノは、恐怖公に助けを求めたものであろうか。眷属に分け与えられた乾酪(チーズ)は、その謝礼の前払いであったろうか。

 

 それにしては。

 

 眷属の目を通じて垣間見た……恐怖公は配下のあらゆる眷属が見たものを、己が目の(ごと)く覗き見ることが出来るのだ……キーノの表情は、助けを求めるそれ、というよりかは、何かこう、新しい挑戦に意を決したもの特有の、期待と不安の()()じった初々しいものであったかのようにも思われる。

 これをアインズに報告し何らかの先手に打って出ることは、過保護の誹りを受けるもので、他ならぬキーノに対しても礼を失するものやも知れぬ……そもそもアインズにキーノの存在を思い出させるところから始めるのは存外面倒だ、というのももちろんある……と、恐怖公は思い(とど)まった。

 

 とまれ。

 

 至高の主より大命を承ったからには、有象無象の存在に気を取られている場合ではない。誰にもそうと認められることは、アインズが気遣ったように決してないことは承知しているが、自分たちこそがナザリックで最も有能で機動力に優れ、勤勉かつ(かず)の暴力に任せて何事であろうとも為し得ぬことなき忠義の士団であることには深い自負がある。

 

「さて、忙しくなりますぞー。」

 

 恐怖公は己の念を眷属情報網(ネットワーク)に接続し、差配を開始した。

 

 

                    *

 

 

「えっ!

 もう見つけちゃったの?」

 

 作戦開始を宣言してから幾日も経ていない昼下がり、執務室でアルベドと現下の総動員体制下のナザリック内政上の調整事をおこなっていたアインズは、満面の笑顔で駆け込んで来たデミウルゴスの報告を受けた。

 

 ナザリック史上最大の作戦、などと大見得を切ってしまった手前、いささかアインズはばつが悪くついつい言葉遣いが子どもっぽくなっている。

 

「読み通り、網を張っておりましたバハルス帝国帝都アーウィンタールの来歴いかがわしい品々を扱う道具屋に、最優先目標(プライマリターゲット)と思しきものを持ち込んだ者が御座います。」

 

 それは、種明かしされてしまえば至極当然に思われる話ではあった。

 

 デミウルゴスは転移直後の早い時期から、こちらの人間国家で法的に禁じられているか、禁じられてこそいないものの倫理的に怪しい品々を扱う者たちを一覧化し、定点監視していた。そもそもの着想は、今は亡きリ・エスティーゼ王国を裏から牛耳っていた犯罪組織、八本指の存在に気づいて殲滅した折、そこから芋づる式に狩りの上等な獲物候補を大量に釣り上げたことに由来している。

 

 <巫女(ヴォルヴァ)の布告>をあるべき場所から持ち去った者は、間違いなくその価値に気づいてはいないだろう、という点で(みな)の見解は一致していたが、デミウルゴスはそこから一歩進めて、であるならば、犯人はいち早くその換金を試みるだろう……無論、これは彼が想定した多数のあり得る選択肢の一つに過ぎない……と読んでいた。

 これを換金する側も、正しくその価値を解するとは思えない。であるならば、可能な限り多額の金員を引き出すには、首都級の都市にある盗品呪物(なん)でも御座(ござ)れの古物商へ向かうのは当然至極で、デミウルゴスは配下の影の悪魔(シャドーデーモン)の一部を割いて、アーウィンタールを始めとする主要都市の以前から監視下においていた店舗に張り付かせた。

 そして昨夜、帝都のそういった店に三人組の風体宜しからぬ男が手ぶらで来店し、何やら図像(イラスト)を描きながら交渉をおこなったことが確認された。影の悪魔はその図像もしかと検めており、それはご丁寧にも輝線が描き加えられた巻物(スクロール)で、指の動きで交わされた価格交渉が金貨一千枚に達したことからほぼこれで間違いあるまい、と断定されたものである。

 

「……オレが行こう。」

 

とアインズ。チラと愛しき片腕に視線をやれば、あらまぁ、と呆れ顔。

 

「モノは世界級(ワールド)アイテムで下僕(しもべ)に回収を任せられる(たぐい)のものではないし、曲りなりにも人間たちの首都であれば、穏便に回収するに越したことはない。

 

 それが出来るのは……オレだろ?」

 

 自分で言っておきながら、穏便にならなかったことがつい最近あったような気もするし、実際、アルベドもデミウルゴスも見るからに疑いの眼差しをこちらへ投げつけているような気がしなくもないが、至高の主が言い出したことを彼らが敢えて止めようとはしないのは承知の上だ。

 

 二人の返事を待たずにアインズは行動を開始する。

 

「<伝言(メッセージ)>!

 

 あ、パンドラ?

 オレ、オレ。

 

 ほら、何かのときに使えるかと……そうそう。

 あぁ、流石察しがいいな。

 

 そうだな、四箱ほど用意して。

 運ぶのは……セバスとユリにでも任せるから。

 

 そうそう、とりあえず宝物殿からは出しといて。

 よろしく!」

 

 アルベドが「本当にこの人ときたら困ったものだわ」と、趣味に走って我を見失う夫をそれでも愛して止まない妻の視線、を送って来ているが、それもアインズにとっては心地よいもの。

 

「アルベド。

 セバスとユリ・アルファを呼んでくれ。

 

 出陣だ!

 

 <上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>!」

 

 颯爽と漆黒の英雄(モモン)に衣替えしてみたものの、転移門(ゲート)を開く前に着替えてしまったためそれが出来なくなり、さりとて今更着替えるのも面倒、というか恥ずかしいので、慌ててシャルティアを呼んでアーウィンタールへの道を開いてもらったのはご愛嬌だ。

 

 そして案の定……穏便に済むはずがないのである。





<次話予告>

「僅かでは御座いますが……竜の気配がいたします。」

 執事(セバス)が脅威の接近を感じ取る。
 漆黒の甲冑(モモン)の中でアインズは苦笑いを浮かべる。

 想定していた中でも最悪の事態(ケース)……の類似といったところか。

「<伝言(メッセージ)>!
 シャルティア、今すぐオレの横に来い!」


 憶持のオーバーロード第8話『炸裂!モモンガ(キャノン)


 そして、満を持してあの(ひと)登場。

「おんやー。
 殺したくなるような可愛いお嬢ちゃんだねー、どちたのかなぁー?」
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