思想が強すぎる単独強襲刀剣無双リコリス【完結】   作:難民180301

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カットしたちさまじ休憩シーン


おまけ

 延空木、第二展望台。銃声と爆音が響き、夕日に染まる首都を一望する展望ガラスに亀裂が走った。

 

 大胆にグレネードを放った真島は、手すりから爆煙を見下ろしてほくそ笑む。しかし赤い人影が煙を飛び出し、展望ガラスの曲面を駆け抜けて再び足場に舞い戻ってくる。

 

 その人影は千束だった。ファーストリコリスの赤服をまとい、特徴的なコンペンセイターを取り付けた愛銃を油断なく真島に向ける。真島は口角を吊り上げ、歯をむき出しにして短機関銃を千束へ照準。両者引き金を引くと同時に動き出し──

 

「うおおっ!?」

「うわっ!」

 

 バランスを崩した。

 

 第二展望台は肉塊、臓物、血液、吐瀉物に塗れている。二人はかつて人体だったそれらに足を取られたのだ。

 

 千束はマシな方で、汁気のある脳漿と思しき物体を踏みつけ滑るも、どうにか手すりにしがみついて転倒を回避した。

 

 一方、真島は悲惨だった。強い腐臭を放つ大腸らしき褐色の何かを踏み、転倒。運悪く転んだ先にリコリスの吐瀉物があって、片方の腕が汚物に塗れた。

 

 互いに転ぶタイミングが違えば容赦なくそのスキを突いただろう。だが図ったように同時だったので、事態のバカらしさも相まって緊張感が薄れた。どちらともなく笑い出す二人。

 

「ぶっ、あっはっはっは! きったなー、ゲロまみれじゃん!」

「うるせー。お前だって靴に脳みそついてんぞ」

「うおマジか怖っ!?」

 

 真島は汚れたジャケットの上を脱ぎ捨て、千束は誰かの脳みそっぽいペーストを床にすりつける。延空木が目前のテロリストに爆破される瀬戸際だというのに、緊迫した気分が削がれてしまった。

 

 それは真島も同感だったようで、近場の自販機を無造作に撃つ。取り出し口に缶が溢れ出し、一つを千束に投げ渡した。

 

「休憩だ」

 

 二人は奇跡的に汚れていない一画を見つけ、並んで腰を下ろす。嗅覚疲労で悪臭はほぼ感じない。展望ガラスから見える空は橙色から徐々に藍色に染まりつつある。

 

 ジュースのプルタブを開けながら、千束は何気なく聞いた。

 

「お前結局何がしたいの?」

「これだよ」

「どれだよ」

「命がけの勝負。俺が初めて恐怖を感じたやつとのな」

 

 真島は十年前、かつてのランドマークである旧電波塔を巡るテロで千束と対峙、敗北している。その因縁に拘りがあるだけで、延空木の破壊自体は目的ではないという。

 

 爆破はブラフかと千束の頭によぎるが、そうでなかった場合の被害が大きすぎる。起爆装置になっているスマホの奪取はやはり必要だろう。

 

「俺は世界を守ってるんだぜ? 自然な秩序を破壊するお前らからな」

 

 真島はなおもうそぶく。DAによって維持される偽りの平和と秩序に立ち向かう。秩序に排除された弱者、すなわち反体制側の味方をすることでバランスを取るのだと。

 

「あんたですら自分を良い者だと思ってるのね。ほんとの悪者は映画の中だけか」

「だから映画は面白いんだろ? 現実は正義の味方だらけだ。良い人同士が殴り合う、それがこのクソッタレな世界の真実だ」

「みんな、自分の信じたいいことをしてる。それでいいじゃん?」

「ハハッ、あの忍者女みたいにか?」

「あー……それは……」

 

 痛い指摘だ。千束は言葉に詰まった。

 

 良い人同士が殴り合うことがあっても、それぞれ信念があって行動するならもうそれでいい。

 

 とはいえ、何事にも限度はあるだろう。あの後輩の信念と思想は強すぎる。

 

 真島は心底おかしそうに笑う。

 

「あの女は傑作だよ。あんだけ真っ直ぐに歪んでるやつは見たことねえ」

「ちょーいちょいちょい、人の後輩を傑作とか言うなし」

「言わせろ、そのくらい。あの女、純粋な善意で殺しにかかってきやがった。仲間が五十人近く殺されたんだぜ。まったく傑作だ」

「……悪気はないのよ、あの子」

「だから尚更歪んでんだよ……うめえなコレ」

「マジ? よこせ」

 

 真島の缶を奪って呑んでみると、確かにうまい。

 

 その間に真島は続ける。

 

「アレは俺と同類だ。人の死の重みを取り返そうとしている」

「ふーん?」

「この前聞いてみたんだよ。死んだ俺の仲間のこと覚えてるかって。そしたらアイツ──」

 

『名を知ること叶わずとも、命を忘れることはない。一人目は延髄への刺突、二人目は鎖骨下動脈切断及び腹部大動脈へ九ミリの刺突、三人目は大脳、小脳、脳幹の切断、四人目は四肢の動脈切断、五人目は肝臓への貫通創、六人目は袈裟斬りにて脊髄、肺、心臓の切断、七人目は──』

 

「全員分はっきり答えやがった。たしかに命を大事にしてるよ、気持ち悪いくらいにな」

「まあ、田中だからなぁ……」

 

 千束は何気なく、第二展望台を見渡した。数時間前まで生きた人間だった肉塊が散乱している。その元になった一人ひとりのことを、田中は必ず記憶しているのだろう。

 

 リコリスは皆死を受け入れている。犯罪者へ銃口を向けることにも、引き金を引くことにもためらいはなく、失われる命をずっと引きずろうなどとは誰も考えない。そんなことでは心が保たないから、ドライに切り替えて次の仕事にかかる。

 

 だから田中は異端扱いされる。誰よりも命を大切に思い、その重さを残虐な死で自分と周囲の記憶に刻みつけようとするから。

 

 自然な秩序の破壊に抗う真島と、死の重さを取り戻そうとする田中。現行の流れに逆らう点で言えば、二人は確かに同類だった。

 

 しかし一つ、重大な違いがある。

 

「たしかに、ちょっと似てるとこはあるな」

「だろ?」

「でもめっちゃ大きい違いがある」

 

 千束は意地が悪そうに口元を緩める。

 

「あいつはかわいい後輩だ。でもあんたは物騒なテロリスト。月とすっぽんじゃん?」

「ハハハッ、そりゃそうだ!」

 

 千束はこの後、変わらない良さを説いた。今の流れに抗って世界を変えるのは立派だが、変えなくても世界には大切なものが溢れている。自分にとってはそれで十分なのだと。どちらともなくリロードして、戦いを続けた。

 

 その戦いの後、大切なものの一つであるかわいい後輩が、割腹自殺で世界から欠けようとするなどとは、このときの千束は夢にも思わないのだった。






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