吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第十楽章

『……ドラゴンと革命軍。俺の娘と友達を脅しに使おうってんなら命を懸けろよ』

 

 映像越しでも覇気が伝わるような威圧。通信室の緊張が一層高まる中、ドラゴンは「愛されているな」と笑みを浮かべる。その強面で不敵に見える笑みに革命軍の同志たちは戦慄した。

 

 一方でウタは満足していた。大満足な反応過ぎて吐きそうである。思っていた以上にシャンクスたちが怒ってくれたことを嬉しいと思う反面、ネタバラシをした後に怒られることを思えば体が震える。一刻も早くネタバラシをしなければと焦った。

 

「むぐっ!(しまった! 口が塞がっててネタバラシ出来ない! 手足もまるで動かせないし、ふりなのにきつく縛り過ぎィ!)」

 

 そこでウタに天啓が下りる。ゴム人間のルフィであれば縄抜けも無理なく出来るのではないかと。だがしかし、横に目を向ければルフィは縛られたまま気持ちよさそうに眠っていた。お腹いっぱいになったからかもしれない。獣かよとウタは心中で毒づいた。ついでに転がって体当たりしたが、ゴムなので無効。目を覚ますこともない。

 

 シャンクス達はドラゴンの後ろでじたばたするウタを不安に思いながら、それを顔に出さないよう表情筋を硬化して見ていた。

 

 そんな思いとは裏腹にウタは狙いを変えてドラゴンの足へと体当たりを始める。

 

『(ウター!? 頼むから大人しくしてくれ! 何されるか分からん!)』

「む? 赤髪、お前の娘は元気がいいな。(必死に何かを訴えるような形相。もっと赤髪に圧力をかけろということか?)」

「(あっこれ伝わってない。おじさんじゃダメだ。誰かァー!)」

 

 ウタは周りの人間に目配せをした。どこか悲痛な顔で目を逸らされた。

 

「(えっ、これもしかしておじさん誰にもドッキリって伝えてない? なんでだよ! こんなのもう逆ドッキリだよ!)」

 

 そんなウタの前に任せろとばかりにトットムジカが現れる。だが、その伝達能力の低さを知るウタからすればまるで期待できない。案の定、なんの意思も伝わることなく、トットムジカはドラゴンに摘まみ上げられた。

 

「頼みの『トットムジカ』も口を塞がれてはどうにもならんらしい」

『何が狙いだ?』

「……なにも。強いて言うならお前達の慌てる様が見たかったという所か」

「(確かにそうだけど! 間違ってないけど!)」

 

 ドラゴンの真摯な対応にシャンクスたちは怒気を膨らませ、ウタは狼狽える。

 

「だが、そうだな。引き渡す前に忠告をさせてもらおう。お前たちは甘過ぎる。このままだとまた同じことが起きるぞ。再び『トットムジカ』が暴走すれば次は国一つで済むとも限らない」

「(えっ?)」とウタは放心した。

『待てドラゴン! それを聞かせるのまだ早い!』

「それが甘いと言っているのだ。それこそお前の娘とトットムジカにより世界が滅ぶことになりかねん」

 

 ウタは自分とムジカが世界を滅ぼすなんて考えもしなかった。だというのに、ドラゴンとシャンクスはそれが事実であるかのように話している。

 

「たしかに暴走状態でありながら人命を気遣う意思があった。そうでなければおれもあの場で死んでいたかもしれん。結果として明確な死者もいないようではある。それでも物資などの被害は甚大だった。人が争いを起こすほどにな。

 もっともゴア王国出身の者として、あの国の壊滅は半ば自業自得であったことは認めよう。いらぬものを淘汰し続けて生まれた不満が反乱を起こし、窮地にある国に止めを刺した。いつかは似たようなことが起きて同じ結果を生んだだろう。……こうなる前に国を変えたかったが……それは、もう仕方あるまい。

 だが、今の世界にはそのような火種がいくらでも転がり、くすぶり続けている。今のお前の娘とトットムジカはそんな火薬庫の中でそれと知らずに火遊びをしているようなものだ」

 

 その時、ウタの脳裏にあの時の記憶が戻ってくる。酷い目に遭わされたルフィを見て、怒りに我を忘れて『トットムジカ』を歌い上げた。そして……。

 

 それから先の記憶がトットムジカを通して断片的に頭に浮かぶ。

 

「ドラゴン。ウタを外すか黙れ。俺達と全面戦争がしたいというなら相手になろう」

「……分かった。今、東の海では厳戒態勢が敷かれていることはお前たちも知っているだろう。二人を引き渡す場所と日時はまた連絡する。少しお互いに頭を冷やすとしよう」

 

 やり過ぎたかと思いながらドラゴンは電伝虫を切った。

 

「だが、ドッキリとしては成功だろう」

 

 ドラゴンの発言に通信室が困惑で包まれる。

 

「(ドッキリ? 今、ドッキリって言った?)」

「(さすがに冗談だろ。今のをドッキリとかありえねェ)」

「(あの総司令が冗談なんか言うか?)」

「(それ言ったら、あの総司令がドッキリなんかするか?)」

 

 彼らが小声で話す中、ドラゴンはそれを気にも留めずにルフィたちの縄を解いていく。

 

「寝ているのか? 起きろ、ルフィ。ドッキリはもう終わりだ。次の連絡でネタバラシをするぞ」

「(やっぱりドッキリって言った~!?)」

 

 通信室を走り抜ける驚愕を余所に、縄を解かれたウタは無言で部屋から飛び出した。

 

「ふが! ん? ウタはどうしたんだ?」

「分からん。ドッキリは上手く、ぶべらッ!?」

 

 突如としてドラゴンの横っ面を熊の如き大きな手と肉球がはたき、彼は勢いよく壁に叩きつけられた。

 

「ドラゴンのおっさん!?」

「気にするな、少年。お前は今すぐにあの少女を追うべきだ」

 

 ルフィは突然のことに驚くも、何かあったらしいウタの後ろ姿を頭に浮かべると、追いかけることを決めた。そんなルフィの前をトットムジカが通り過ぎ、部屋の外へと向かっていく。どうやら案内するつもりのようだ。

 

「分かった。案内してくれムジカ!」

 

 ルフィが部屋を出るのを見送った大柄の男、バーソロミュー・くまはドラゴンの方へと向き直る。

 

「先ほどのドッキリというのは正気か?」

「ああ、あの娘に頼まれてな」

「なぜそれを我々に話さなかった」

「ドッキリだからな」

「あれがドッキリで済むならば、我々の革命もドッキリで済まされる」

「それは……困るな」

「赤髪海賊団に頭を下げて謝罪すべきだ」

「革命軍の総司令として軽々しく頭を下げて良いものか」

「でなければ人として頭が空ということになるぞ」

「……そもそもドッキリだったでは許されないのか? 元々あの娘の提案だぞ?」

 

 フゥー、とくまは大きく息を吐いた。そして、腕を構える。

 

「旅行するならどこに行きたい?」

「待て。おれが悪かった」

 

 くまは無様な姿を晒すドラゴンから視線を外し、幼い二人の行く末を心配そうに見守った。

 

 

 

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