吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第十一楽章

『私は赤髪海賊団の音楽家ウタ。み~んなが自由になれる新時代を歌で作る女よ』

 

 いつかのフーシャ村での宣言。

 

「……ばかみたい」

 

 甲板に置かれた積み荷の影でウタはうずくまって顔を伏せた。

 

「私は歌っちゃいけなかったんだ」

 

 その時、小さく駆けるようなテンポの足音が徐々に大きくなって止まる。

 

「そんなわけねェ!」

 

 それはとても、力強い音だった。

 

「……ルフィ」

 

 顔を上げたウタは弱く呟く。

 

「お前は! 赤髪海賊団の音楽家だろ! そんなこと言うな!」

「でも、私は……」

「新時代を作るって言ってたじゃねェか!」

 

 ルフィは言い淀むウタの手を取って無理矢理立たせる。

 

「何も知らないくせに!」

 

 だが、ウタはその手を振り払った。それでもルフィはウタの肩を掴む。

 

「そんなの知らねェ! おれはお前の歌が聞けないのはイヤだ!」

 

 論理なんて微塵もない感情的な言葉。何故だかウタは涙が出てきた。納得できたわけじゃない。何も解決していないというのに。

 

「もしも、また私とムジカがおかしくなったら……」

「おれが止める。何やってでも止めてやる」

「えっ」

「ん?」

 

 二人の動きが止まる。

 

「微笑ましいな」

 

 そこへやってきたドラゴンは顔をボコボコに腫らしていた。

 

「おっさん、顔が……」

「この程度、バルティゴへ飛ばされることに比べたら安いものだ」

 

 ウタは呆れながらも背筋を伸ばす。自分がしっかりしなければと思えた。

 

「それでルフィ。止めると言ったか?」

「おう!」

「お前がトットムジカ暴走の一端を担っていることは分かるな?」

「待って! ルフィは何も悪くない!」

「違う! あれはおれが弱かったからだ!」

「……ああ、そうだな」

 

 そう言ってドラゴンはルフィを掴み上げた。

 

「おわっ!? なにすんだ!?」

「ちょっと、おじさん!?」

 

 ドラゴンは二人の制止もきかずに船の縁まで移動し、ルフィの体を海上へと突き出す。

 

「うえェ~! 止めてくれェ~! おれは泳げないんだ~!」

「何のつもり!?」

 

 ウタの前にトットムジカが現れるが、今の彼女にはそれを歌う勇気が出ない。

 

「……少しは自分達の危険性を理解したとみえる」

「ッ! ムジカの力を借りなくても普通に歌えば……」

 

 ウタは大きく息を吸い込んだ。そして、一瞬で移動したドラゴンに口を塞がれる。

 

「さあ、どうするルフィ?」

「ちくしょー! ウタを離せ!」

「それは出来ないな。トットムジカがなくともウタの能力は脅威だ。だからこそ、今回の事件を機に政府も海軍も海賊たちも躍起になって探している。あの赤髪海賊団でも守り切れるとは限らない。これから先、この子と共に生きるというのなら世界を相手にする覚悟が必要だ。未だ弱いお前にその覚悟があるか?」

 

 ドラゴンは覇気を込めてルフィに問いかけた。ルフィはその圧に寒気を覚えながらも必死にもがく。

 

「世界が何だ! おれは世界一の財宝を見つける男だ! もっともっと、おっさんよりも、シャンクス達よりも強くなって、海賊王になってやる!」

「……海賊王か。それもいい」

 

 ドラゴンはルフィを船上へ放り投げる。

 

「うわッ!」

「ならばお前の可能性を見せてみろ。でなければこの子は世界のためにも海の藻屑と消えてもらう」

「させねェ!」

 

 立ち上がったルフィはがむしゃらにドラゴンへと突進した。それをドラゴンは覇気を用いた拳で弾く。

 

「ぐわッ! おれゴムなのに痛ェ」

「お前の祖父の拳骨も痛かっただろう?」

「そういえば」

「これが覇気と呼ばれる力。覇気のない者は強者たり得ない。世界を相手取るつもりならば、ゴムだから効かないなどという慢心は捨てろ」

「まんしん?」

「……油断するなということだ」

「よく分かんねえけど、行くぞおっさん!」

「来い」

 

 そうしてルフィは幾度となくドラゴンに立ち向かっては迎撃されて転がされる。

 

 一方でウタはといえば、「あれ? これ茶番?」と思ってからは抜け出そうともしていない。明らかに加減していることが分かる上に、口下手な助言を挟むので稽古にしか見えないのだ。しかし、覇気を伴った反撃は少しずつ確実にルフィをボロボロにしていく。そうなるとさすがにウタも冷静ではいられない。だが、抜け出そうにも力と体格が違いすぎる。黙って見守ることしかできなかった。

 

「もう終わりか?」

「ハァ……ハァ……まだだ」

 

 ルフィの息は荒く、立つのもやっとな有様だった。

 

「……そうか。ならばこれが最後だ」

 

 ドラゴンはウタの口を塞ぎながら顔を掴んで持ち上げ、海上へと突き出した。ウタがくぐもった悲鳴を上げる。

 

 ルフィは全身の血が上るのを感じた。

 

「止めろ!」

 

 ルフィの怒号と共にビリビリとした覇気がドラゴンに伝わる。

 

「覇王色。……そうか。お前もまた……」

 

 その時、ルフィの前にトットムジカの楽譜が現れた。

 

「ムジカ?」

 

 ルフィの問いかけに応えるかのようにトットムジカは妖しく輝き、ルフィの中へと消えた。すると、ルフィからドンドットット♪という音が漏れ聞こえてくる。これにはドラゴンも狼狽えた。

 

「これは……心臓の鼓動か?」

 

 ルフィの色が変わっていく。髪も服も体も白くなっていき、風袋のような白い雲を纏う。

 

「あっひゃっひゃっひゃ! さすがに早すぎだろ、ムジカッチャン! めっちゃ小っちぇや! えっ、なんで知ってんのかって? 忘れた!」

 

 笑い声が響く。超人系の悪魔の実ではありえない動物系のような変身。それも気になるが、最も重要なのは明らかにルフィとは別人なことだった。

 

「……何者だ?」

「おれはニカ! たぶんな! ムジカッチャンに起こされなきゃ完全に『ルフィ』だったのか? まあ気にすんな! あっひゃっひゃっひゃ!」

「悪いがそうはいかない」

 

 突如として発生した下からの衝撃に小さなニカの体が空高く舞い上がる。

 

「ああああああ、吹き飛ばされる~!」

 

 声を上げたまま空中をぐるぐると回り始めるルフィ。そして、空を自由に飛べるのかと観察するドラゴンの元へ急降下した。それを難なく避けたドラゴンだったが、ニカが激突した箇所を中心として船がゴムのように歪む。

 

 ドラゴンがゴムゴムの覚醒かと思う間もなく反発した床が三人をまとめて海上へと弾き飛ばした。さらに反発を利用したロケットのような体当たりを受けたドラゴンもまたゴムのようにその体を歪める。結果、その手から離れたウタは空中で悲鳴を上げた。その隣をニカも笑いながら落ちていく。

 

「何笑ってんの!? ルフィは!?」

「あっひゃっひゃっひゃ! 心配すんな! このまま船に戻れば……」

 

 ウタを掴んだニカは突如動きを止める。

 

「何!? 飛べるんでしょ!? 早くしないと」

「わりィ! もう寝るわ! あっひゃっひゃっひゃ!」

「はぁ!?」

 

 白くなっていた体が元に戻り、ルフィが目を覚ます。

 

「んあ? うえェ!? 落ちてる~!?」

「あ~もう! ガーザンターク! あれ? 出ない? え、うそ~!?」 

 

 悲鳴を上げる二人をドラゴンが抱きかかえ、船へと戻る。

 

「おっさん。悪いやつになったんじゃなかったのか!?」

「さすがにそれは気付くでしょ」

「済まなかった。何か異常はあるか?」

 

 先の失敗から反省したドラゴンは二人にしっかりと頭を下げた。

 

「? なんかあったのか?」

「ルフィの中にムジカが入って、そしたらなんか姿が変わったの。白くなって空飛んだりしてた」

「えええ~!? そうなのか、おっさん!?」

「ああ。だが、詳しいことはおれも分からん。トットムジカであれば何か知っているのかもしれんが」

「でも、ムジカ出て来なくなっちゃった」

 

 三人は首を傾げて沈黙する。

 

「……懸念事項こそ増えたが、ルフィ。お前の覚悟と可能性は見せてもらった。可能な限りお前たちの力になることを約束しよう」

「本当か! よろしくな、おっさん!」

「単純過ぎ」

 

 ウタはそう言いつつも心持ちが軽くなったような気がしていた。ドラゴンのことも不器用ながらルフィの手助けをしようとする所はシャンクスのようだと思う。

 

 そんな折、慌てた様子の船員がドラゴンの元へやってくる。

 

「総司令大変です! 後方から赤髪海賊団の旗を掲げた船が近づいてきます!」

「むっ」「あっ」「ん?」

 

 ドッキリのことなどすっかり忘れていた三人はそれぞれ呆けたように声を上げた。

 

「……いや待て。一体どうやってこちらの位置を把握した?」

 

 その時、復活したトットムジカが現れる。

 

「えっ? なんか電伝虫を繋いだ時に一枚だけ向こうに行ってたみたい」

 

 実は連絡を取った際に、港で待ち合わせをするのは危険と知ったトットムジカが気を利かせて楽譜の一枚をシャンクス達の元へ送っていたのだ。その一枚はさながらビブルカードのようにウタ達の場所を指し示し、シャンクス達をこの場に導いた。

 

「これがドッキリ。なるほど。冗談では済まないのも頷ける」

「半分ぐらいおじさんが悪いと思う」

「そういやドッキリはどうなったんだ?」

「「「……」」」

 

 ルフィの疑問に答える者はいなかった。

 

「まずは……謝罪だ。協力を頼みたい」

「うっ……はい」

「いいぞ?」

 

 ウタは肩を落として諦め、ルフィは疑問に思いながらも気軽に了承した。

 

 だがしかし、船を凄まじい覇気が襲ったことで事態は急変する。報告に来た船員だけでなく実力者を除いた全ての船員がその場に倒れた。

 

 ルフィとウタも気を失い、倒れゆく体をドラゴンが慌てて受け止める。その背後へ一人の男が降り立った。

 

「おれの娘と友達が世話になったな、ドラゴン。二人を返してもらおう」

 

 ドラゴンが振り返れば、そこには愛剣であるグリフォンに手をかけたシャンクスの姿が。

 

「……パ」

「ぱ?」

「パーレイ」

 

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