吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第三楽章

 フーシャ村。辺境と言われるような小さな村に一隻の海賊船がやってくる。翻る海賊旗を見て、恐れるでも怒るでもなく、喜びと興奮を露わに港へ駆ける少年が一人。

 

 まだ幼いルフィにとって海賊は自由の象徴であり、特に赤髪海賊団は憧れであった。加えて村にはいない同年代の友達が船には乗っているのだ。一人でいるのが嫌な少年には数少ない楽しみでもある。

 

「シャンクス~!」

「おー、ルフィ。毎度、出迎えご苦労さん」

「……? なんかみんな元気なさそうだけど、どうしたんだ?」

 

 ルフィにはいつも賑やかな赤髪海賊団が心なしか静かで疲れているように見えた。

 

「今回の航海はちょっと強行軍だったからなァ」

「きょーこーぐん?」

「お~悪い。ガキには難しすぎたか」

「ガキじゃないっ!」

 

 そこでルフィは再び辺りを見回す。

 

「あれ? ウタは?」

「あァ、ウタは今エレジアって音楽の島で修行中だ。パンチとモンスターも一緒にな」

「えっ!? じゃあ、いないのか!?」

「なんだァ、寂しいのか?」

「そうじゃねェ。ただ勝負の途中なんだ」

「へー、でもまァウタはかなり腕上げてるからもう勝てないかもしれないぞ」

「おれだってすっげーきたえたんだ。それに今はおれの183連勝中。次も負けねェ!」

「よし、じゃあ、ちょっと待ってろ」

 

 そう言ってシャンクスが取り出したのは電伝虫であった。

 

「なんだそれ?」

「こいつを使えばエレジアにいるウタとも話せる代物だ」

 

「へー」とルフィは目を輝かせている内に、電伝虫が繋がってウタの姿が映る。

 

「おおっ! ウタだ!」

『……シャンクス? と、ルフィ?』

「おう。調子は……」

『ねえ、なんで出なかったの? 何度もかけたのに。それになんでルフィが? 次の航海は私にはまだ早いとか言っておいてフーシャ村にいるの?』

 

 ウタの機嫌はすこぶる悪かった。電伝虫の先からパンチとモンスターの溜息まで聞こえてくる。

 

 シャンクスの頬を冷や汗が伝った。

 

「あ、いや、それはだな。あくまでちょっと補給に寄っただけだ。これでも急いだんだ。今回頑張ったんだぞ俺達? そうだろう、みんな!」

 

 しかし、船員たちは君子危うきに近寄らずとばかりに目を逸らし、笑いをこらえて口を噤む。

 そこで空気を読まないルフィが口を出す。

 

「なァウタ。お前、どうしてそんな機嫌悪いんだ?」

『別に悪くない』

「シャンクス達に置いてかれて拗ねてんのか?」

『置いて行かれてない! これは、あくまで別行動なの! 少しの間だけ!』

 

 子供らしい言葉の応酬にシャンクスは光明を見た。風向きが変わったと。

 

「(よくやった、ルフィ。ウタの相手は任せた。俺は酒の補給やらなんやらまだやることが残っているからな)」

 

 小声でルフィに語り掛けつつ電伝虫を渡して、さり気なく立ち去ろうとするシャンクス。

 

『聞こえてるよ、シャンクス』

「げっ!?」

 

 何故バレた、とシャンクスは焦る。いくらウタの耳が良いといっても電伝虫越しでは聞こえないよう声を抑えたはずだった。

 

「(し、しまった! そうだ。あれは最新式の映像電伝虫! 並みの電伝虫とは物が違うんだった!)」

 

 映像電伝虫。その名の通り映像を映すことに目が行っていたが、音楽の島エレジアで使われている電伝虫である。当然、音質、集音機能ともに最高峰。シャンクスの姑息なこそこそもはっきりと拾っていた。

 

「ふーん。そういうことするんだ。それなら……」

 

 大きく息を吸い込むウタ。それで全てを察したシャンクスはその場で大の字になって寝そべった。それをルフィが不思議そうに見やる中、電伝虫からウタの歌声が響き渡る。

 

 そして、世界が変わった。

 

「すっげー!? なんだこれ!?」

 

 ルフィからすれば歌に合わせて周りの景色が次々と塗り替えられていくように見え、あっという間に辺り一帯が見知らぬ街の中。

 

「驚いたか? これがウタの能力だ」

 

 辺りを見渡していたルフィが振り返ると、シャンクスは空中に現れた譜面へ磔にされていた。

 

「それもウタがやったのか?」

「ああ、どうやら歌姫を怒らせちまったらしい。お前、ドレミ読めるか? 助けろ」

「どれみ? なんか今日のシャンクスかっこわりーぞ」

「そう思うのはお前がガキだからだ」

「だからガキじゃねェ!」

 

「いつもならそういう格好悪い所も可愛いって言うんだけど、今日はダメ! シャンクスはそこで反省して」

 

 翼をつけたウタが空から降りてくる。シャンクスを見下ろす目は冷たく厳しい。

 

「あっ! ウタ!」

「久しぶりねルフィ」

「お前、すっげーこと出来るようになったんだな!」

「でしょ? でもまだまだこんなもんじゃないんだから! 来て、ムジカ!

 

 そう言ってウタが手を振り上げると古びた楽譜が現れた。

 

「そっちじゃなくて、いつもの姿で出てきなよ。恰好つかないじゃん」

 

 トットムジカはしょげた様子でへにょりと折れ曲がった。

 

「えっ、歌わないとダメなの? どうせ出だししか歌わせてくれないのに? 分かったわよ。あっ、そういえば途中だけ歌ったらどうなるんだろう?」

『!?』

「お、おい待てウタ! 早まるな! いつも通りでいいんだ!」

「シャンクスは黙ってて」

 

 慌てて抜け出そうとするシャンクスだったが、虹色の五線譜で顔をグルグル巻きにされてしまう。

 

「ᛗᛁᛖ ᚾᛖᚷ ᛟᚾ ᚷᛁᛖᚲ ᚷᛁᛖᚲ こんな感じ?」

 

 そうして現れたのは小さな二本の足のみ。

 あっこうなるんだとウタとトットムジカは思った。

 

「お~! なんか出てきたッ!」

「……微妙。やっぱりなし! 一回消えてムジカ!」

『!?』

「えー、眠らないと消えないの? じゃあ、タッ ᛏᚨᚲ ᛒᚱᚨᚲ」

「おっ、こんどはウデが出てきた! おもしれェ!」 

「……まぁ、これならいっか。あの頭変だし」

『!?』

 

 ショックを受けたトットムジカはガガガーンチャララララーラーンと鍵盤を鳴らして崩れ落ちた。

 

「お前、大丈夫か?」

 

 ルフィはそう言って地面に転がるトットムジカに手を差し伸べた。

 

『!』

 

 その手を取って浮き上がったトットムジカは感動したとばかりに握手した腕を振り、どこからか骨付き肉を取り出してルフィに差し出した。

 

「肉くれんのか!? ありがとう! お前、いい奴だな!」

「私、ルフィの好物がお肉って話したっけ?」

 

 嬉しそうに肉に齧り付くルフィを見ていると、トットムジカの中にミーハーな感情が生まれてくる。

 

 この世界において『ルフィ』が将来的には大海賊として名を上げることは知っている。しかし、遠い世界では違う形で名を馳せていたのだ。そんな人物に出会ったことを実感し、トットムジカは失った思い出を取り戻したかのような心地になった。

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