吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第四楽章

 遠い世界に在る『グリーンスリーブス』という曲についてトットムジカが知っている事は少ない。

 

 弾きやすく指で覚えやすい綺麗なメロディは物悲しく重い。それだけだ。歌らしいが、歌詞は知らず、作曲者も分からない。古い言い伝えのように受け継がれてきた民謡の類なのだろうか?

 

 己はどうなのだろうとトットムジカは思う。

 

 遠い世界の知識を持つが故、トットムジカは知らず知らずのうちに己を物知りだと思うようになっていた。己のこともまるで分かっていないというのに。

 

 ルフィとの邂逅でトットムジカはそれを自覚した。

 

 知っているようで知らないこの世界。確かめなければならないこと、実際に見聞きしたいことがたくさんある。

 

 ウタと共にエレジア島で演奏するだけで満たされていたトットムジカは海の向こうにも意識を向けるようになっていた。

 

 

「ムジカも色々できるようになったね」

 

 ドドンとドラムを鳴らして答えたトットムジカは今までやらなかったことを少しずつ試すようになり、様々な楽器を具現化して奏でるようになった。

 

 その様はまさに一匹音楽隊。否、パンチとモンスターもいるので異種ブレーメンの音楽隊だろうか。

 

「まー、私ほどじゃないけど」

 

 そして、それはウタの歌唱力を伸ばすと同時にウタウタの能力の習熟度を引き上げることとなり、それによってトットムジカもより己の力を引き出すことが出来るようになる。そしてまた、という循環が生まれていた。

 

「四人共、素晴らしい演奏だった!」

 

 拍手を送りながらもゴードンは悩んだ。

 

 国王としてはトットムジカが力を取り戻すような事態は避けたい。だが、音楽家としては才を伸ばす上で歓迎すべき相乗効果である。そして、一人の個人としても彼らの演奏に魅了されていた。

 

 ゴードンはウタの歌が人々を幸せにすることが出来ると信じている。だが、彼女らに比喩誇張抜きに世界を変える力があることも知っていた。だからこそ迷うのだ。

 

「!? 全員伏せろ!」

 

 何かを察知したパンチが声を上げてから数秒後、外から爆発音が響いてくる。

 

「何事だ!?」と電伝虫に問いかけるゴードンに『海賊です。砲撃を受けました!』との答え。

「ゴードンさん! ウタを頼む! 出るぞモンスター!」

 

 外へ飛び出したパンチとモンスターを見送りつつ、ゴードンはすぐさまその場の人々に指示を出し、避難を始めさせる。

 

「ウタ。君も早く避難しなさい。もしも君に何かあれば、私はシャンクスに顔向けできない」

「う、うん」

 

 一先ずは言われるがまま避難を始めたウタ。だが、時間が経つに連れてこれでいいのかと思うようになる。

 

 ウタはこれまで一度たりとも戦ったことがない。有事の際はいつだって船番だった。争いごとが好きなわけではない。ただ、皆が戦っている中でなにもしないことに不満がないわけではなかった。特にここ最近で出来ることが増えたウタはよりそう思うようになっていた。

 

「私だって赤髪海賊団の音楽家なんだから、パンチとモンスターに任せてばかりじゃダメ」

『!?』

「なに? 分かってるのよ。あなただって本当はもっと強いって。なのに何もしないままでいいの? エレジアのみんなを助けたいって思わないの?」

『……』

 

 トットムジカは決意した。

 

 

 

 

 

 

 パンチはモンスターと連携して飛んでくる砲弾を防いでいた。斥候として上陸していた海賊たちは島の兵たちと協力して既に制圧済みであり、残るは海上の三隻のみ。仲間のライムジュースのように空中を自在に跳び回ることが出来れば攻め入ったのだが、今は気にしても仕方がないと切り替える。

 

 相手の規模は中々のものだが、彼からすれば数が多いだけの雑魚の集まりでしかない。ただ砲弾を防ぐ上で散開されると厄介だが、島の兵たちの砲撃による牽制がそれを未然に防いでくれている。音楽の島だけあって、こちらの意図を汲んで合わせるのが上手いとパンチは舌を巻いた。

 

 砲弾が無限にあるわけもなく、大所帯で略奪目的となれば物資に余裕もないとみえる。時間をかければ海軍が駆けつけることも考えれば持久戦は向こうも望まないはず。そうなると、このまま相手の砲撃さえ防ぎ続ければ、いずれ痺れを切らして島に取り付いてくるだろう。その後はただ蹴散らしてしまえばそれで終わる。

 

 なんとかなりそうだとパンチは安堵した。そんな彼の目に飛び込んできたのはトットムジカと共に海賊船へと向かうウタの姿だった。

 

「えええェェェ! お、お頭ァ! はっ、こういう時こそ電伝虫を」

『おう、ウタ! あれ? 何も映らないな?』

「ルフィじゃねェか!? お頭はどうした!?」

『その声パンチか! シャンクスが港を出る時に、ウタがシャンクスじゃ全然でないからってくれたんだ』

 

 実際の所は寂しそうにするルフィを不憫に思ったウタがてきとうな理由をつけてシャンクスに電伝虫を渡すよう頼んだのだった。

 

「そういやそうだった! くそ! 海賊が来てウタがやべぇのに!」

『うえええェェェ!? ウタが!?』

 

 その時、バカ野郎とばかりモンスターはパンチを殴り、腕を振りかぶってスローイングの構えを見せた。

 

「な、そうか! モンスターいくぞ!」

 

 モンスターを掴んだパンチは全力で駆け出し、大きく跳躍。その剛腕でモンスターを力の限り投げつけ、モンスターはタイミングを合わせてパンチの手を蹴った。

 

 そして、投擲の勢いに乗って飛び出したモンスターは見事空中を移動するトットムジカに激突して掴まった。

 

『!?』

「わっ!? モンスター!?」

 

 トットムジカは多少体勢を崩したものの、海に落ちることもなく、中にいるウタも無事だった。予定にはなかったが、接敵前に防御に問題がないことを知れたのは良い事だと、トットムジカは飛行を続ける。現実とウタワールドからの同時攻撃でないとダメージはないという知識はあっても、バグのような現状でどこまで有効か不安だったのだ。

 

 じきに海賊船の上空へと辿り着き、銃撃を受けるがトットムジカには通用しない。さらにトットムジカから飛び降りたモンスターが船上で暴れ回り、海賊たちを次々と倒していく。そのおかげか初の実戦を前に緊張していたウタも大きく深呼吸をして調子を整えることが出来た。

 

 そして、海上に美しい歌声が響き渡る。

 

 その歌声は海賊たちを魅了し、その意識を彼女の世界へと誘う。はずであったが、一時気を逸らしただけで、すぐに銃撃などが再開される。

 

「あれ? なんで?」

 

 どうやらトットムジカが出現している間は相手をウタワールドに取り込むことが出来ないらしい。

 

 これは本人たちも知らぬことであったが、現在のトットムジカの形態は力を抑えたい、ウタに負担をかけたくないという願いがバグとなって生まれた省エネ制限モードである。体力の消耗が抑えられ、トランス状態になることもない代わりに、ウタウタの能力とトットムジカの力は制限される。そして、ウタが眠るまで解除は出来ず、モードチェンジには『トットムジカ』を歌う必要があった。

 

 なんにせよウタの歌声で一息に制圧する作戦は失敗。であればどうするか?

 

 トットムジカは腕を伸ばして殴りかかることにした。どうせ相手はこちらの防御を抜けないのだから攻めるのみである。しかし、バグって弱体化している今の形態ではそこまでパワーも出ないため、攻めあぐねてしまう。

 

 それでも、モンスターの補助兼盾としては十分だった。その船の制圧が終われば次の船へとモンスターを運び、また同じことを繰り返す。ウタの初めての実戦は彼女にとって不完全燃焼な形で幕を閉じようとしていた。

 

「ふわ、なんか眠くなってきちゃった」

『!?』

 

 最後の一隻に移った際、ウタはあくびをしながら告げた。

 

「大丈夫、心配しなくてもまだ寝ないから。でも、眠気覚ましに気合入れて歌うから早めに倒してね」

 

 実のところウタは『トットムジカ』について大して知らされていない。分かっていないことが多いのだから仕方のないことではあるが、実物が無害にしか見えないこともあって認識が甘くなっていた。精々赤髪海賊団で言われていたように刃物や銃が危ない程度のものだろうと。『トットムジカ』についても、これを歌えばトットムジカがパワーアップするという認識しかなかった。

 

 故にウタはこの戦いを巻きで終わらせるため、極めて軽い気持ちで『トットムジカ』を歌い始めてしまった。

 

「ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ !! ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᛏᚨᚲ ᛒᚱᚨᚲ !!」

 

 トランス状態となったウタの歌声が響き渡ると共にトットムジカの身体は巨大化し、発生した衝撃波が船を割る。伸びた二本の腕は他の二隻の海賊船を容易く貫き、持ち上げられた船体がバラバラに崩れ落ちてばら撒かれた。

 

 己の中で荒れ狂う負の感情を抑えながらトットムジカはモンスターの安否を確認する。どうやら船の残骸にしがみついて無事だったらしい。だが、衝撃波により遠くへ吹き飛ばされてしまったようだ。

 

 ウタのトランス状態を解けば、彼女はすぐさま眠りに落ちてこの形態も消えるだろう。しかし、今解除すれば彼女が海に落ちてしまう。悪魔の身の能力者は泳げない。このままでは彼女は溺れてしまう。せめて、船の残骸の上にでも下ろしたいが、今も発生している衝撃波のせいで近くに残骸が来ない。

 

 既に眠気を感じていたウタのトランス状態も長くは保たず、なにより限界を強いるため負担をかける。

 

 どうしたものかと悩むトットムジカの目に小舟でこちらへ向かってくるパンチの姿が映る。彼と視線を合わせたトットムジカは大きなメトロノームを出現させ、それだけでパンチは意図を読み取った。

 

 パンチはトットムジカが伸ばした鍵盤の腕の上を走り、振れる針と音に合わせて跳躍した。同時にウタのトランス状態を解いたことで彼女は眠り始め、足場になっていた腕が消え、発生し続けていた衝撃波も消える。

 

 そして、本体も消えるという所で鬼神の如き形相で飛び込んできたシャンクスの剣により、トットムジカは大きく身体を弾かれて消え去った。

 

『!?』「えええェェェ!? お頭ァ!?」

 

 後に残ったウタを颯爽と抱き抱えるシャンクスを見て、トットムジカとパンチは釈然としないものを感じた。

 

 

 

 

 

 

「だっはっは! いやー悪いな、パンチ! 良い所とっちまったみたいで! まァ、ウタも島も無事だったわけだし気にするな!」

「へい(気を遣われてんのか、煽られてんのか分かんねェ)。しかし、お頭も大分焦ってたみてェですけど? すげェ覇気でしたよ」

「いや、あれは焦るだろ」

 

 シャンクスからすればウタを迎えにきた所、馬鹿でかくなったトットムジカの中にウタがいるだけでも焦るというもの。さらに突如として巨大なメトロノームを出現させたのだから、大技の予兆かと見紛うのも無理はなかった。傍から見れば終焉のカウントダウンさながらの光景だったのだから。

 

「済まない。指揮を優先してあの子から目を離した私が悪いのだ。任されて置きながらこの体たらく。君たちにはなんと詫びたものか」

「よしてくれゴードンさん」

「だが、彼女らの関係を壊したくなくてトットムジカの危険性を説かなかったのは私の判断だ。そのせいであの子と島を危険に晒してしまった」

「それは違うな。トットムジカがなければ海賊の手にかかって、ウタも島の奴らも助からなかったかもしれない。だからお礼を言うのはこちらの方だ。俺達の娘が無事だったのはあんたとその一族がトットムジカを残していてくれたおかげだ」

「―ッ! すまない! ありがとう!」

 

 涙を流し、礼を言うゴードンにシャンクスの方が困ってしまった。

 

「もうじき海軍が来る。もしもトットムジカについて訊かれたら赤髪海賊団が奪っていったと伝えてくれ。実際、間違っちゃいないからな」

「いや、きっとトットムジカもあの子と共にあることを望んでいる。どうか色んな世界を見せてやってくれ」

 

 ゴードンはウタとトットムジカが時折海の向こうを眺めているのを知っていた。その度に彼女らは一つの島に収まっているようなものではないと思っていたのだ。

 

「この国を代表し、改めて礼を言わせてもらう。ありがとう、この国を救ってくれて。どうかまたあの子たちの演奏が聞ける日が来ることを祈らせてもらう」

「こちらこそ、ウタの面倒をみてくれてありがとう。もっとも、ウタのやつは頻繁に電伝虫を鳴らすかもしれないから覚悟しておいてくれ」

「フフッ、そうか。いつでも歓迎すると伝えてくれ」

 

 こうしてウタが眠っている間に彼女はレッド・フォース号に乗せられ、シャンクス達はエレジア島を出航する。後に目を覚ましたウタによってゴードンたちと別れの挨拶が出来なかったことを怒られるのだった。

 

 

 




「浮かない顔してどうしたパンチ? まだウタを戦わせちまったこと気にしてんのか?」
「それもあるんだが、なんか忘れちまってるような気が……」
「おいおい、忘れ物かよ。さすがにしばらく戻れねえぞ」
「そうじゃねェ。うーん、モンスターは分かるか?」

 モンスターはバナナを咥えながらモンキーポーズをとった。

「なんだそれ? 大量にバナナもらえたからってはしゃいでんのか?」

 モンスターはバナナの皮をパンチの顔に投げつけ、それをゴングに喧嘩が始まる。




 その日、モンキー・D・ルフィは電伝虫を手に眠れぬ夜を過ごした。 
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