吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第五楽章

「うえぇ~ん! ウダぁ~! いぎででよがっだァ~!」

「もうっ。泣かないの。私はこの通りなんともないし。まったく子供なんだから」

「すまねェなルフィ。すっかり忘れてた」

「ウダがぶじだっだがら、ゆるず!」

 

 ゴードンたちへの別れの挨拶を終え、船上で行われたウタの復帰を記念する宴。そこで久々に赤髪海賊団の前で歌うことになったウタはルフィにも聞かせてやろうと電伝虫をかけた。

 

 するとルフィは電伝虫に出るなりウタの姿を確認して号泣。ようやくルフィに連絡していたことを思い出したパンチは頭を下げたのだった。

 

「しょうがないわね。特別に新曲を聞かせてあげるからいい加減泣き止みなさい。心配しなくても大丈夫。『私は最強』なんだから! ムジカ! 準備は良い?」

 

 トットムジカはジャッジャッとギターを鳴らした。

 

「さあ、怖くはない♪ 不安はない♪ 私の夢()みんなの()()♪」

「歌唄えば♪ ココロ()()♪ 大丈夫よ♪」

 

「私が最強~♪」

 

 尚、この新曲を聞かされたトットムジカは『私は最強』ってこんな負い目を感じさせない唯我独尊な歌だったかと首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 幾ばくかの時が経ち、赤髪海賊団は再びフーシャ村に船を寄せた。

 

 そして、再会したルフィとウタは以前のように勝負だと言って遊んだ。

 

「ルフィ、見~っけ! はい、これでかくれんぼ勝負は私の勝ち~!」

「ずりぃぞ、ウタ! 電伝虫鳴らすなんて!」

「出た~、負け惜しみ~!」

「ズルしたから俺の勝ちだ!」

 

 言い合う二人。ちなみに公平を期すため楽譜状態のトットムジカとしてはかくれんぼで電伝虫を鳴らすのはアウト判定である。そんなことを繰り返すと緊急時の連絡に差し支えるかもしれないからだ。

 

「じゃあ、次は鬼ごっこ勝負ね。私が鬼で10秒待ってあげるから早く逃げたら? 10、9……」

「な!? ずりぃぞ~!」

 

 不満を叫びながらも走って逃げていくルフィ。

 

 それを良い笑顔で見守るウタには確かな勝算があった。逃げた方向が分かり、距離を離されすぎない限り、歌を聞かせれば足を止めることができる。そして、ルフィでは10秒もない制限時間で歌が聞こえないほど距離を離せないことはかけっこ勝負で把握済み。仮に外ということで相手が茂みなどに隠れたとしてもウタワールドに取り込んでしまうなら関係ない。

 

 ウタはカウントダウンしながら勝利を確信していた。

 

「いでッ! なにすんだ!」

 

 だが、そんな声が聞こえてきたことでウタは慌てて走り出す。

 

 見えた先では以前出くわしたような気がする山賊っぽい男二人にルフィが蹴られていた。

 

「何やってんの、あんたたち! 止めなさい!」

「おーおー怖い怖い。やっぱりそっちもいたか」

「二人ともいるなら好都合。まとめてこの前の借りを返してやるよ」

「止めろ! ウタに手ェ出すな!」

「大丈夫よ、ルフィ。言ったでしょ、私は最強だって」

 

 ウタは呼吸を整え、大きく息を吸った。

 

 ルフィを踏みつけた男とは別の男がニヤニヤと笑いながら彼女の方へとゆっくり足を踏み出す。子供相手と油断した前回を省みて不意の一撃を警戒していたのだ。しかし、それはあまりにも悠長な行動だった。

 

「さあ、怖くはない♪」

 

 ウタがたったワンフレーズ歌うだけで男たちの意識はウタワールドに取り込まれる。

 

 そして、歌い続ける彼女に操られた身体はルフィから足をどけ、まるでバックダンサーのように踊り始めた。

 

「うーん、やっぱりソロだと物足りない。バックダンサーにするにも可愛くないし」

 

 すぐに気が乗らなくなったウタは歌うのを止め、踊らせるのも止めさせた。男たちは顔面から倒れたが気にしない。

 

「大丈夫、ルフィ? 怪我は、あるみたいだけど。立てる?」

 

「おう」と差し伸べた手を取ったルフィを見てウタは笑う。

 

「はい、捕まえたから私の勝ち~!」

「あっ! ずりぃ!」

「出た~、負け惜しみ~! 助けてあげたんだから他に言うことがあるんじゃない?」

「うぐっ。助けてくれたのはありがとう。でも! おれ一人でも負けなかった!」

「ふ~ん。でもルフィにはこんなこと出来ないでしょ?」

 

 ウタは再び男たちを操り、今度は変なポーズをとらせはじめる。それがおかしくてルフィは笑い、釣られてウタも笑った。

 

「さあ、こんな奴ら転がしておいて一度村に戻るわよ。怪我の手当てもしないと」

「別にこれくらい平気だ」

「いいから! 来なさい!」

「お、おう」

 

 ウタに力強く手を引かれて、ルフィは歩き出す。彼にはなんだかウタの背中が大きく見えた。

 

「ウタ、すげー強くなったんだな」

 

 以前、二人で山賊に出くわした時は、お互い一発かまして逃げるのは精一杯だった。だが、今のウタはその時の二人を倒してもまだ余裕がある。

 

「ん? 当たり前でしょ! 私はシャンクスの娘で赤髪海賊団の音楽家なんだから!」

 

 眩しいほどの笑顔でウタは言った。

 

 

 

 

 

 

 村に戻ったルフィとウタは怪我の手当てを済ませ、シャンクスたちがいるマキノの酒場にやってきた。

 

「なんだルフィ? 喧嘩でもしたか?」

「転んだ!」

 

 なにを言われても転んだで通すルフィにウタは笑った。

 

「決めた! おれはもっともっと強くなる! そんでもって、今度はおれがウタを助ける!」

「ルフィ……まったくもう」

 

 ルフィの宣言にウタは呆れながらも嬉しそうに微笑んだ。

 

「なァルフィ」といって赤髪海賊団の船長と副船長がルフィを挟んでその肩に手を置いた。

 

「先に言っておくが、どんな理由があろうと、俺は俺の娘を泣かせる奴は許さない」

「そんな奴がいたら、そいつを全員でボコボコだ。分かるな」

「わ、分かった」

 

 今まで二人から感じたことのない圧力にルフィは冷や汗をかきながら頷き、ウタはまた笑った。

 

 それからもどんちゃん騒ぎは続き、能力を使ったこともあって疲れたウタがテーブルに突っ伏して眠り始めた頃。

 

 望まれぬ客が扉を蹴破ってやってきた。

 

「邪魔するぜェ、ここにガキが二人いるって聞いたが……間違ってねェみたいだな」

「間違いなくあそこの二人ですぜ棟梁!」

「あっ! お前ら!」

 

 酒場に入ってきたのは先の山賊の棟梁ヒグマとその一味だった。

 

「俺たちは山賊だが、この店を荒らしに来たわけじゃねェ。ただうちの馬鹿が世話になったっつゥガキ二人に礼がしたくてな。なんでも内一人は面白い力をもってるらしいじゃねェか」

「あー、ウタとルフィが迷惑かけたみたいだな。そいつは悪かった。すまん。詫びに奢るぜ。こいつはどうだ? まだ栓もあけてない」

 

 事情を察したシャンクスは穏便に済ませようと手元の酒瓶を差し出す。

 

 それを受け取ったヒグマはその酒瓶をシャンクスの頭に叩きつけた。

 

「おい貴様。おれを誰だと思ってる。海でぷかぷかやってる格好だけのお前ら海賊と違って山賊はナメられたら終いなんだよ」

「あーあ、床がびしょびしょだ」

「こいつを見ろ」

 

 シャンクスが意に介さないのを見て、ヒグマはビンゴブックを見せる。そこにはヒグマの首に八百万ベリーの賞金がかけられていることが示されていた。

 

「分かったら今後気をつけろ。見せしめにガキ二人はもらってく。山賊様にたてついたことを死ぬほど後悔させた後で売っぱらってやる」

「悪いがそいつはきけないな」

「んん? 腰抜けがなんか言ったか? さっさとガキ二人を渡せ」

 

 剣を抜いたヒグマが凄むがやはりシャンクスは応えない。

 

「棟梁の言葉が聞こえなかったか!? 今ここでガキの頭吹っ飛ばしてもいいんだぞ!」

 

 先ほどウタにやられた山賊の一人が痺れを切らして眠りこけるウタに銃を向け、その銃口から庇うようにルフィはウタの前に進み出る。

 

 それが引き金となり、銃を向けた山賊は赤髪海賊団のコック、ルゥに頭を撃ち抜かれた。

 

「や、やりやがった!? なんて卑怯な奴らだ!?」

「卑怯? 俺達の娘に銃向けといて甘ェこと言ってんじゃねェ。聖者でも相手にしてるつもりか?」

「野郎共! ぶっ殺しちまえ!」

 

 ヒグマの号令で山賊たちが一斉に得物を抜き、店になだれ込む。ヒグマもその手にもつ剣でシャンクスに切りかった。だが……。

 

「失せろ」

 

 凄まじい眼光と覇気。それだけでヒグマを含む山賊たちの動きは止まり、意識を失って倒れた。

 

「しまった。やり過ぎた。悪かったなァマキノさん。ぞうきんあるか?」

「あ、ええと、私がやります。それは」

「シャンクス~! さっきのどうやったんだ!? おれにも教えてくれ!」

 

 ルフィは興奮した様子でシャンクスに詰め寄った。

 

「お前にはまだ早い。分かったらぞうきん持ってこい」

「え~! ケチ!」

「まァそう言うなルフィ」

「ベックマンは知ってるのか?」

「ああ。だがお頭が教えないなら駄目だ」

「なんでだよ!」

「悪いな。ただウタを守ろうとしたのは見直した」

「そうだな。褒美にジュースをおごってやる。ほら、飲め」

「うわ! ありがとう!」

「やっぱガキだ! おもしれえ!」

「きたねえぞ!」

「がはは! 飲め飲め! ルフィの小さな勇気に乾杯!」

「「「乾杯!!!」」」

「小さくねえ! 笑うな! もういい!」

「まァ待て。って手がのびた!?」

「なんだこりあぁ!?」

 

 引き留めるために掴んだルフィの手が伸び、彼自身も驚きの声を上げる。ルゥが急いで宝箱を確認するとそこに在るはずのものが空になっていた。

 

「ないッ! 敵船から奪ったゴムゴムの実が!」

「何ィ!?」

「ルフィ! お前、まさかこんな実食ったんじゃ……」

「うん。さっきデザートに。不味かった」

「ゴムゴムの実はな! 悪魔の実とも呼ばれる海の秘宝! 食えば全身ゴム人間。ウタと同じ一生泳げない体になっちまうんだ!」

「えー!? うそー!?」

「馬鹿野郎ォー!」

「あれ? ウタも泳げなかったのか? カナヅチじゃ船に乗せられないんじゃなかったのかよ! シャンクス!」

「面倒なことに気付きやがって! ウタは別だ!」

「え~! なんだよそれ! おれも乗せてってくれよ!」

「ううん。あ~、もう! うるさい! ってぎゃあぁぁぁ~! なんか人がいっぱい倒れてる~! ガーザンターク! ムジカなんとかして!」

「ウタ、お前、何かあったらすぐそれ歌うの止めてくれ。心臓に悪い」

 

 騒がしい宴の最中、トットムジカはチャンチャンとギターを鳴らした。

 

 

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