吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第六楽章

『えっ、ルフィ。フーシャ村に戻ってこれないの?』

「おう。じいちゃんにいきなり連れて来られたから、どこにいるかも分かんねえ」

 

 赤髪海賊団がフーシャ村を拠点としつつも航海に出た折、入れ違いとなるようにルフィの祖父ガープがやってきた。彼は海賊になると公言して憚らないルフィをコルボ山の山賊ダダン一家の元へ強制連行して預けたのだ。

 

 ウタとしてはそのガープとかいうルフィのじいちゃんに会ってみたかった。海軍に所属しているらしいが、シャンクスなら楽勝だろうし捕まることもないはず。などと言われたシャンクスは青い顔で拒否した。余程そのじいちゃんに会いたくないらしい。

 

「山賊は大っ嫌いだし、兄貴?になったエースと友達になりてえ」

『でもそのお兄さんに谷底に落とされたんでしょ? ゴムだから無事だったけど、その後の狼は私が助けなかったら大怪我してたかもしれないし……ねえ、友達にしようとするの止めなよ』

 

 今日、どこぞへ行こうとするエースを追いかけたルフィは吊橋を渡る際にエースによって谷底へ落とされた。さらに、谷の下で狼に追いかけられている所で電伝虫にウタから着信があり、その歌声で狼の意識を奪うことに成功。

 

 そして、今。ルフィは電伝虫を通じて出てきたトットムジカが謎の光線で着火した焚火の前に座り、トットムジカは仕留めた狼を丸焼きにしていた。

 

「嫌だ。エースは絶対におれの友達にする」

『はぁ。それなら今度からはピンチになる前に呼んで』

「ししし! ありがとな、ウタ。お前がいてくれて良かった」

『……まったくもう』

「ムジカもありがとう!」

 

 どういたしましてとトットムジカは手を振り、こんがりと上手に焼けた肉をルフィに御馳走した。よく見るだけでなく、よく聞けば焼き加減も分かるのだ。

 

 

 

 

 

 

 その後もルフィはエースを追いかけ続け、常に怪我をし、時にウタに助けられながらも見失い、それでも諦めずに追跡を続けること三ヶ月。とうとうエースの目的地と思わしき場所にたどり着く。

 

「おえっ、くっせ~。何だここ?」

 

 そこは不確かな物の終着駅(グレイターミナル)。フーシャ村も属するゴア王国においてあらゆるいらないものが集まる通称『ゴミ山』。犯罪と病気が蔓延する腐臭漂う無法地帯。そこでルフィはエースの後ろ姿を見つけ出した。

 

 そして、悪意なくエースとその仲間であるサボの秘密を暴いてしまい、木の幹に括り付けられてしまう。

 

「お前、エースの友達か? お前も友達になろう!」

 

 ルフィはそのことを気にせず呑気なものだが、その隠れ家にはエースとサボが海賊として旅立つために集めた支度金が隠されていたのだ。当然、その金は真っ当に稼いだものではない。そもそもここでは真っ当に金を稼ぐことなど不可能に近いのだから。故に金の存在が漏れれば厄介なことになる。

 

「殺そう」

「よし、そうしよう」

「えええ~~~!? 殺されるとは思わなかった~! ウタ~助けてくれ~!」

「バカ! 静かにしろ!」

「誰だウタって、サボ! さっさと殺れ!」

「何言ってんだ! お前が殺れよ!」

 

 まだ幼く殺人を犯したこともないエースとサボの二人はそれが必要なことだと考えても躊躇してしまう。結果、その間も騒ぎ続けるルフィの声を聞きつけた者たちがやってくる気配を感じ、二人は仕方なくルフィを縛る縄を解いて身を隠した。

 

 やってきたのはブルージャム海賊団の船員たち。エースが奪った金は非道な輩として知られる彼らの金だったのだ。しまったとエースは後悔するも、もはや知らなかったでは済まされない。

 

「あれ? あいつは?」

「放せ~! コンニャロォ~! 助けてくれー! ウタ~! エース~!」

 

 ふと気付けば何故かルフィが捕まっていた。しかも、エースの名を叫んだことで目をつけられてしまい、さらに金の在り処を聞かれて下手なウソを吐いたせいで連れていかれてしまう。

 

 そんなルフィの姿をエースとサボは唖然とした様子で見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

「ルフィ、大丈夫かな」

 

 時間が空いて船の自室に戻ったウタは心配そうに呟いた。ここ最近のルフィは本当に生傷が絶えないのだ。ピンチになる前に連絡しろと言っているのに、連絡すればほぼ毎回危ない目に遭っているのだ。不安になってきた彼女は電伝虫を手に取った。

 

 そして、電伝虫に出たのはルフィではなく見知らぬ男であった。

 

『何だこいつは? 映像まで映るのか?』

「誰よあんた! ルフィをどこにやったの!」

『ルフィ? そいつはゴムのクソガキのことか?』

「そうよ!」

『くくくっ! そんなに知りたきゃ教えてやる。映像が映るってんなら丁度いい。見な! ウチの海賊団を怒らせるとどうなるか』

「―ッ!?」

 

 ウタは思わず声に鳴らない悲鳴を上げようとして、それすらも吞み込んで絶句する。

 

 電伝虫に映ったのは血まみれで吊るされたルフィの姿だった。長時間の拷問によるものか、もはや叫ぶ気力も残っていない様子。その余りに惨い状態にルフィを囲む海賊たちさえ蒼褪めている。

 

 だが、ルフィを痛めつけた張本人であるポルシェーミという男だけは焦燥さえ浮かべており、棘付きグローブで再びルフィを殴りつけた。血しぶきが飛び、ルフィが呻き声を上げる。

 

『いい加減口が固くて困ってたんだよ。このクソガキの仲間だってんなら、エースのことも知ってるな。あいつが奪った金は何処にある? 言わねえならもうこいつは殺す』

 

「……許さない。……絶ッ対に! 許さないッ!」

 

 ウタに目の前に古びた楽譜が現れる。

 

 度し難いほどの怒りを覚えているのはウタだけではなかった。ルフィはトットムジカにとっても良き友達であったのだ。

 

 今この時、ウタとトットムジカの怒りが最悪の形で共鳴していた。

 

『ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ !!!』

 

 トットムジカはウタを取り込み、共に電伝虫の先へと本来の形で出現する。即ち破滅の譜の魔王として。

 

『ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᛏᚨᚲ ᛒᚱᚨᚲ !!!』

 

 今までトットムジカが負の感情を抑えることが出来たのはどこか他人事で己の感情ではないという意識があったから。だが、今のトットムジカは己の怒りさえ制御することが出来ず、その気もない。あまりに強い怒りはその矛先をポルシェーミへと向けて尚、周囲へと撒き散らさされる。

 

 ただ一人、ルフィだけをウタが抱き抱えるように取り込んで、それ以外の全てが吹き飛ばされた。

 

「ぐはっ、一体何が……」

 

 衝撃波を受けて尚、意識を保ったポルシェーミを摘まみ上げるように巨大な指が挟む。鋭い指先は彼の身体を貫き臓腑を潰す。彼は苦悶の声を上げて血反吐を吐いた。

 

『ᛗᛁᛖ ᚾᛖᚷ ᛟᚾ ᚷᛁᛖᚲ ᚷᛁᛖᚲ ᚾᚨᚺ ᛈᚺᚨᛋ ᛏᛖᛉᛉᛖ ᛚᚨᚺ』

 

 聞くに堪えぬ音だとトットムジカは思う。だが、案山子でいられぬほどの怒りが確かな形となって、大地を踏み鳴らす。

 

「……し、死にたくない」と息も絶え絶えな様子でポルシェーミがうわ言のように口にする。

 

 死の恐怖。それが種火となり焦燥に駆られてルフィを酷なほどに痛めつけたのだと負の感情が集まるトットムジカは理解した。

 

 ならばもうその感情から解放してやろう、と収束した光がポルシェーミを跡形もなく焼いた。

 

 

 

 

 

 

 ルフィ救出に向かったエースとサボが見たのは巨大な化け物とその中に取り込まれている女とルフィの姿だった。

 

「なんだありゃ? 何がどうなってる?」

 

 サボの疑問はエースが抱いたものと同じ。だが、エースの身体は疑問を抱きながらもすぐに動いていた。

 

「おい! エース! 止めろ!」

 

 そんなことはエースも分かっている。だが、今の今まで口を割らなかったルフィを助けると決めたのだ。決めたからにはやり抜く。それにあれだけひどい目に遭わせてきた自分に対し、なぜ諦めず友達になろうとしてくるのか? それも鬼の子と呼ばれる自分などと。そう思えば退く気になれなかった。

 

「一度向き合ったら、おれは逃げない!」

 

 トットムジカに対して果敢に挑みかかったエースだったが、如何せん相手が悪い。光線を放った後は何もせず佇むだけの相手に近づくことすら出来ずに吹き飛ばされる。

 

 その体をサボが受け止めた。

 

「悪ィクセだぞ、エース! あんな化け物相手に逃げねえなんて! 死にたがりが!」

 

 エースを担いだサボはそのまま撤退しようとして動きを止める。化け物が動き出したのだ。サボたちから離れるように移動していく。グレイターミナルと町を隔てる強固な石壁がまるで積み木のように崩され、破片が木の葉のように巻き上げられる。

 

 石壁の先にある『端街』は過ぎ、『中心街』へ。その先はサボがよく知る場所。ゴア王国の中心部であり、王族と貴族が暮らす『高町』だった。

 

「サボ!」と叫ぶエースの声でサボは我に返る。呆けている間に飛んできた瓦礫が迫っていたのだ。

 

 咄嗟にエースを放り投げたサボは覚悟を決めて身を固めた。だが、その瓦礫は彼にぶつかることはなく、横合いから吹き飛ばされた。

 

 代わりにそこに現れたのは見知らぬ男。

 

「一体この国に何が起きている?」

 

 彼の名はモンキー・D・ドラゴン。世界最悪の犯罪者と呼ばれる、革命軍の総司令官にしてルフィの父親であった。

 

 

 

 

 

 

 怒りの矛先の消失と同時、トットムジカが抱いていた怒りは忘却されたかのように消失した。新たに湧いた感情は後悔と迷い。なにも命まで奪うことはなかったのではないかと感情は訴える。しかし、知識は禍根を断つために仲間も根絶やしにすべきだと主張する。どうせ遠からず死ぬはずだったのだからと。

 

 だが、死んでしまってはもう、何も聞かせることが出来ないではないか。

 

 惑う心。それは集積された負の感情を支えるにはあまりにもか細い柱。意図せぬ暴威が周囲に吹き荒れ、物も人もゴミのように散らされる。その中に『エース』の姿があった。そして、彼を受け止める『サボ』の姿も。

 

 此処にいては駄目だとトットムジカは思った。

 

 おそらく遠い世界での境遇が大変恵まれていたのだろう。この『ゴミ山』で暮らす人々を差別し、あまつさえ汚点として処分しても当然としか思わない()()()この国の王族や貴族たちを嫌悪する気持ちがトットムジカにはある。だが、同時にこの『ゴミ山』で生きる汚くてモラルもないろくでなしたちもまた嫌悪していた。

 

 例外なのは知識にあるサボとエースぐらいなもの。だが、実際に見知ったわけではない。詰まる所、トットムジカがもつ知識と取り戻したミーハーな面が、『エース・サボの二人』と『名も知らぬそれ以外』を天秤にかけ、悪い方へと事態を傾けた。

 

 そのままじっとしていればよかったというのに。トットムジカはエースとサボを巻き込まないようになけなしの理性を削って体を動かした。ただただ彼らがいない方へ。しかし、その体は周囲に蔓延する負の感情に流されるように国の中心部である『高町』へと向かっていく。

 

 物が壊れるのはもう仕方ない。怪我をさせてしまうのも諦めた。せめて死ぬことだけはないように。ただそれだけを念頭に置き、あらゆる障害を破壊しながら進み行く。

 

 だが、死なせないということはそこにある負の感情が延々と膨らんでいき、解消されないということ。『トットムジカ』が元々持っていたものだけでも持て余すというのに、ゴア王国という国で長年熟成され、腐り果てた負の感情まで集積されるなど。

 

『ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ !!! ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ ᛏᚨᚲ ᛒᚱᚨᚲ !!!』

 

 もはや支え切れぬと愁いが零れ落ち、四つの手が地を突いた。解放を求めて噴き出た怒りが翼となって天を衝く。煮えたぎる憎悪が龍の咢と化して顔を出し、慟哭の咆哮が破滅の譜を響かせる。

 

 その姿はまるで人の罪に育まれた終末の獣の如く。

 

 もう止められない、トットムジカ自身でさえ。

 

 歌姫が眠りにつくその時まで、この悪夢が覚めることはない。

 

 

 

 

 

 

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