吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第七楽章

 『トットムジカ』の力は現実世界とウタワールドを繋ぐ。いわば空想の具現化。その力を振るうにあたってトットムジカが持ち込んだ遠い世界の知識と知恵は非常に有用なものだった。

 

 元来、短い時間で一国を滅ぼし、状況が整えば世界人口の七割を削りかねない力をもつのだ。

 

 それに加えて、遠い世界での戦争の歴史が編み出した数多の兵器群に、発達した文明に育まれた多様な空想。それらのアンサンブルは容易く世界を破滅させるだろう。

 

 せめて命だけは。その想いが枷となって、トットムジカが取れる手段は制限される。ただ、その枷も集積する負の感情によって徐々にその形を歪めていった。

 

 

 

 

 

 

 サボとエースから手短に事情をきいたドラゴンは革命軍の同志たちとも情報を交換しつつ、巨体に見合わぬ速度で移動する魔王を追った。

 

 魔王がグレイターミナルに出現した当初は我関せずとばかりに大門を閉鎖していたが、石壁を壊されてしまってはなんの意味もない。配置されていた兵もその進撃を遅らせることさえ叶わなかったようで、高町まで一直線に瓦礫の道が出来ている。そのため、グレイターミナルからでも王宮の辺りで魔王が翼を広げるのが確認出来た。さらに咆哮のような歌声と楽器演奏まで聞こえてくる。

 

 そして、トットムジカから八方位へ向けて一つずつ何かが発射された。

 

「(あれは……爆発物!?)」

 

 端町にいたドラゴンが危険と判断して突風のようなものを発生させると同時、中心街上空に到達した物体は爆発。秒に満たない一瞬で噴出した内容物が高熱の蒸気雲となって高町から端町まで覆い尽くす。

 

 唯一ドラゴンの周辺は無事だったが、安堵など出来ようはずもない。もしこの蒸気雲が可燃性の燃料などであった場合、火災や銃火器の使用で着火しようものなら彼のような飛びぬけて頑丈な者以外助からないだろう。

 

 ドラゴンは蒸気雲を晴らしながら中心街に踏み入った。そこにいた人々は民も兵も区別なく、皮膚や呼吸器系に酷い火傷を負って倒れ伏している。ただ、懸念していたような可燃性はないらしいことだけは救いであった。

 

 しかし、そう思ったのも束の間、なんらかの毒によるものか人々の体が変色膨張し始め、ついには煙を吹きだしてその身を包まれながらポンと軽い爆発音を響かせる。後に残ったのはファンシーな動物のぬいぐるみから楽器とラッパのような蓄音機を生やした不気味な獣。

 

 動き出した獣たちは歌声を流し、楽器を鳴らしながら近くにあった瓦礫などを凄まじい勢いで食べ始めた。ただ、ドラゴンに向かってくるものは一体もいない。彼が躊躇いながらも弾き飛ばしてみれば、瓦礫に激突しようともまるで損傷はなく、何事もなかったかのように起き上がって瓦礫を食べ始めた。どうやら人以外の物だけを選り好みせず食べるらしい。

 

 悪魔の実の能力の中には人を玩具などに変えるようなものも存在する。だが、なぜこんなことをさせるのか? 

 

 ドラゴンが魔王に近づきつつ見聞色の覇気で探れば恐ろしい事実が判明した。

 

 トットムジカは命だけは奪いたくないと思った。その思いは負の感情によって歪み、命さえ奪わなければいいと規定され行動するようになった。その結果、己の暴威に巻き込まれても大丈夫なのように人々を作り変えることにしたのだ。

 

 加えてウタに負担をかけたくないという願いも健在である。獣たちはその願いを叶えるためにあらゆるものを取り込み、エネルギーへと変換し、それをウタとトットムジカにも還元する。ただ、効率は悪く、エネルギーのほとんどをウタとトットムジカに搾取されるため、治まらぬ飢餓に喘ぐように食べ続けなければ停止してしまう。故に獣たちはこの世が破滅するまで、蝗のように餌を求めて暴食を続けることだろう。

 

 さらにトットムジカはより多くの人に聞かれたいとも願っている。それが体から生える楽器や蓄音機に現れていた。だがそれは聞き手を電伝虫に変えるようなもの。手段と目的が歪んでちぐはぐになってしまっていた。

 

 そして、トットムジカは音楽が届く範囲でしか力を振るえない。このままでは歌を広めることが出来ない。そこで範囲内で生成、加工したものを範囲外に飛ばすことにした。

 

 ドラゴンの目に次々とミサイルや軍用機を飛ばす魔王の姿が映る。各地にいる革命軍の仲間たちの報告により、それらが凄まじい飛距離と速度をもつことが分かった。そして、その中身が先ほどの爆弾であるならば、この国で今起きていることが世界中で起こることになる。

 

 絶対に阻止しなければならないとドラゴンは魔王に攻撃を仕掛けるがどんな攻撃も球体状のバリアに阻まれる。おまけにそのバリアは都合良く魔王とその創作物は透過するらしい。そこで近くにいた獣を魔王にぶつけようと試みるが今度は自動発生したシールドのようなものに阻まれた。そして、弾かれた獣はドラゴンなど気にせず食事に戻り、魔王も変わらず兵器を量産し続けている。

 

「見向きもしないか。敵味方の区別があるかも怪しいな。いや……」

 

 あの子供二人から聞いたとおりであればと、ドラゴンは魔王の中にいる者へと届くように覇王色の覇気を送る。

 

 途端に今まで反応を示さなかった魔王が兵器の生産を止めてまでドラゴンへの攻撃を開始した。

 

「やはりな!」

 

 その猛攻をしのぎながらドラゴンは己の予想が間違っていないことを確信する。ならばこの破滅の譜を止める鍵を握るのはただ一人。その者に己が声をかける資格などないことは百も承知。だが、世界の危機を前に私情は挟めない。いつか必ずこの世界を変えると誓ってこの国を出たのだから。

 

「起きろォ! ルフィ!」

 

 

 

 

 

 

 バリバリとした何かが伝わってルフィは目を覚ました。側には彼の頭を膝の上に乗せながら歌うウタがいる。彼が起き上がれば彼女も立ち上がった。

 

 ルフィはふと自分の顔を押さえて全く痛みがないことに気付く。散々棘付きグローブで殴られたのに傷がない。完全に治っている。

 

「そういや、なんでウタがいるんだ? 傷もウタが治してくれたのか?」

 

 返事はない。ウタは完全にトランス状態となっていた。

 

「おい、ウタ! どうしちまったんだよ!?」

 

 ルフィはウタの体を揺すって起こそうとするが、どこからか伸びてきた五線譜に手足を絡めとられて引き離されてしまう。

 

「うわっ!? なにすんだ!」

 

 そもそもここはどこなのか?

 

 辺りを見回したルフィは此処が巨大化したトットムジカの中で、そのトットムジカが誰かと戦っていることに気付く。一瞬、その相手が自分を殴っていた海賊の男かと思ったが、まるで違う男であった。その男は防御に徹し、ひたすらトットムジカの攻撃を捌き続けている。今のルフィにはよく分からないがその男がとんでもなく強いことは分かった。そして、周辺が瓦礫の山になっていることも。

 

「ウタ! やり過ぎだ! いくら相手が強いからって、周りがめちゃくちゃじゃねえか!」

 

 だが、ウタにルフィの声は届かない。

 

 どうしたものかとルフィは思案する。このままだと不味いというのは分かる。とはいえ、声をかけても起きず、自分の手足は動かせない。

 

「あっ、でもなー」

 

 ルフィには一つ思い付いたことがあった。ただウタにはあまりやりたくないことでもある。だが、このままでは他にどうしようもないとルフィは覚悟を決めた。

 

「ごめん! 起きろォ! ウタ!」

 

 ルフィの体はゴムだ。縛られていても多少無理がきく。身体をのけ反らせ、頭を伸ばしたルフィはその反動を利用してウタに頭突きをお見舞いした。

 

「……ᚨᚺ ᛉᚨᚾ ᛏᚨᚲ !」

 

 ウタは額を腫らしてのけ反ったが、それに構わず歌い続ける。痛みでは止まらないのだ。

 

「ダメか。どうすりゃ……、ん?」

 

 万事休すかと思われたルフィの前にマイクが現れた。

 

「歌えってことか?」

 

 肯定を示すようにマイクのスイッチが入る。それはトットムジカに残った微かな理性の欠片であった。

 

「ひぃ~がしの~そら~は~♪」

 

 ルフィの音痴な歌声が響いた途端、ウタの顔が歪む。トランス状態に亀裂が入ったのだ。その影響か外ではトットムジカの動きが鈍り、張られていたバリアやシールドが消失した。その隙をドラゴンが見逃すはずもなく、一転攻勢に出たことでトットムジカは大きく体勢を崩された。

 

 大きな揺れとともに手足の拘束が緩んだことで抜け出したルフィはウタに近づき、その手で口を塞ぎにかかる。だが、すぐさま追いかけてきた五線譜が再び巻き付いてその手を止めた。

 

 ならばとルフィは自分の口でウタの口を塞いだ。

 

 破滅の譜を謳う声が止まり、トランス状態が解ける。そして、正気に戻ったウタは驚愕した。

 

「んんんーッ!?(なんでルフィとキスしてるの!? 怪我は大丈夫なの!? ここどこ!? 後、なんかおでこが滅茶苦茶痛い!?)」

 

 混乱の極みにあるウタは咄嗟にルフィの横っ面を殴ろうとした。しかし、同じく正気を取り戻したトットムジカが慌てて獣となった人々を元に戻し始めたため、急速に体力が持っていかれて力が入らない。そのため、されるがままとなってしまう。

 

 さらに、拘束が解けたルフィはまた引き離されないようにと必死でウタを抱き締めた。

 

「ムグッ!?」

 

 追い打ちをくらったウタは呼吸を忘れ、体力の消耗と共にがくりと意識を失った。

 

「ウタ? ウタァ~!? しっかりしろ~!?」

 

 ウタの体を抱き止めたルフィが息を止めさせ過ぎたことを後悔するも、ウタが眠りについたことで魔王の体が崩れ始める。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!? 落ちるぅぅぅ~!?」

 

 落ち行くルフィとウタを小さくなったトットムジカが掴む。だが、その体は消えかけだ。少しでも落下速度を落とそうとパラシュートのような形をとった。それを見てルフィも思い付いたことを実行する。

 

「ゴムゴムの~風船ッ!」

 

 ゴムである自分が風船のように膨らんでクッションとなり、ウタを守ろうと考えたのだ。しかし、まだ未熟なルフィでは中途半端にしか膨らめない。

 

 そして、トットムジカが完全に消え、祈るような面持ちで落下するルフィとウタをドラゴンが受け止めた。

 

「無事だったか、ルフィ!」

「おっさん、おれのこと知ってるのか?」

「あっ……ああ。お前の祖父とは知り合いだからな」

「そっか、じいちゃんの。ありがとう! おっさん!」

「……礼など」

 

 こうしてトットムジカが起こしたゴア王国の悪夢は幕を閉じた。

 

 

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