吾輩はトットムジカである   作:sysy

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第九楽章

「何もなかった! ルフィもおじさんも分かった!?」

 

 ウタは何もなかったで押し通すことにした。ドラゴンは熱でもあるのかと心配したが、それでも何もなかった一辺倒。

 

「お、おう」と訳も分からぬままルフィは頷いた。

「あ、ああ」とドラゴンもそこには踏み込まず頷いた。しかし、宙に浮く古びた楽譜に関しては踏み込まざるを得ない。

 

「それが『トットムジカ』の正体か」

「おっさん、ムジカのこと知ってんのか?」

「待ってルフィ! シャンクスとゴードンさんから言われたんだけど、ムジカのこと知ってるのは大抵ろくでもない人だって」

 

 呑気なルフィとは対照的にウタはドラゴンへの警戒を強める。尚、『ドラゴン』のことを知っているトットムジカは不味いことにはならないだろうと楽観していた。

 

「間違ってはいないな」と剣呑な雰囲気を発し始めたドラゴンに対して二人は息を呑み、身を固くする。

 

「世界を変えると誓った者として、自由のため共に戦うと集った革命の同志たちの長として、世に破滅をもたらすその楽譜を見逃すことは出来ない」

 

 これは不味いことになったと油断していたトットムジカは反省する。今回の件についても暴走してやり過ぎた点は反省しているし、世界中の人々に申し訳ないと思う気持ちもあった。ただそれでも、楽譜として『トットムジカ』を世に残し伝えることは己が抱く罪悪感よりも優先される。

 

 正直、最近は燃やされようが切り刻まれようがリポップするような気がするので心配する必要はないのかもしれない。だが、悪魔の実のように最も近い楽譜にリポップするのだとしたらかなり困ってしまう。ここには楽譜がないのだ。どこに行くか分からない。そこでトットムジカは姿を消してウタの中に戻った。

 

「万が一ということも考えたが、やはり君がウタウタの実の能力者だったか」

「そ、そうよ。私はシャンクスの娘で赤髪海賊団の音楽家ウタ! ムジカは渡さない!」

「ウタとムジカに手を出そうってんなら、おれが相手だ、おっさん!」

 

 ドラゴンに対して体を震わせながらも二人は啖呵を切る。なんか墓穴を掘ったみたいとトットムジカは慌てた。

 

「赤髪海賊団!? なるほど、道理で」

 

 ドラゴンが一歩詰め寄る。ルフィはウタの前に出て、トットムジカも再びウタの前に現れた。

 

「ふっ、分かり易いな」とドラゴンは笑い、滲み出るような圧力が霧散する。

 

「何が可笑しいんだよ!」

「済まなかったな。少しお前たちのことを試させてもらった」

 

 革命軍が持つ『トットムジカ』の情報、さらにサボとエースから聞いた話と合わせてドラゴンは大方の経緯を把握した。二人とトットムジカに悪意がないことも。同時に悪意や今の世界に満ちる悲劇に対して容易に暴発し兼ねない危うさも。

 

「ドッキリってこと?」

「なんでだ?」

「こちらとしても再び『トットムジカ』と戦うのは避けたい。だが、船に乗せる以上見極める必要があった。それだけの力が『トットムジカ』にはある」

「ふ~ん。それで、どうするつもり?」

「ん? ここって海の上なのか?」

 

 未だに警戒を解かないウタに対してルフィは今更なことに気付く。

 

「当たり前じゃない。そんなことすぐ分かるでしょ」

「今、おれは航海に出てるのか?」

「そうなるな」

 

 ルフィはポクポクとたっぷり時間を使って状況を理解した。そして、叫んだ。

 

「うおおおォォォ~! 船出だァ~!」

 

「うるさっ!」とウタは耳を塞ぎ、ドラゴンは困惑する。

 

「行くぞウタ! 船首まで競争だ!」

「ちょっと、待ちなさい!」

 

 ルフィは走り出し、ウタはそれを追いかける。そして、呆気にとられるドラゴンの前でルフィは倒れた。

 

「ハラへった」とルフィはお腹を鳴らし、「何がしたいのよ!」とルフィの頭を叩くウタもお腹を鳴らす。二人共あれからなにも口にしていないのだ。ルフィは大怪我と急速治癒による消耗、ウタは急激な体力の消耗をしたことを考えれば当然である。

 

「……食事の用意ならすぐに出来る。船の案内はそれからでどうだ?」

 

 二人は先ほどのことも忘れ、諸手を挙げてドラゴンの提案を受け入れた。

 

「そういえばシャンクスたちに連絡しないと」

「これ返すか?」

「珍しい電伝虫だな。使うのであれば通信室に案内しよう。盗聴対策だ」

 

 革命軍であるドラゴンは世界政府からかなり目を付けられているため、防諜機能をもつ希少な白電伝虫を用いて連絡を取り合っているのだ。

 

「あっ、せっかくだからドッキリでも仕掛けようかな~」

「……ほどほどにな」

「おじさんにも協力してもらうから」

「何?」

「なー、はやくメシいこうぜ」

 

 三人は自己紹介などをしながら食事が用意されている場所へ向かう。そこには顔のでかい先客がいた。

 

「ンフフ。よく眠れタブルかしらキャンディボーイ&ガール」

「なんか変なのがいるー!」

「顔でけー!」

「イワンコフか」

 

 ズン♪ズン♪ジャラ♪ジャラ♪ とリズムに乗って踊る男か女かも分からない顔のでかいオカマ。さらに網タイツのオカマ達が部屋に整列して入場し始め、イワンコフの後ろに並ぶ。

 

「増えたー!」

「あれ男か? 女か?」

「男? 女? ン~フフッ! そのどちらでもなく、オ、オ、オカマじゃな~い!」

「オカマじゃねェのかよ! 一本取られたよ!」

 

 イワンコフの力強い否定にオカマたちは一斉にノリツッコミを入れる。ルフィは笑い声を上げるが、ついていけないウタは目が点になった。ドラゴンはまるで気にせず食事を用意させている。

 

「男でも女でもオカマでも! 性別という境界線なんてとうに超越している! それが新しい人類! そう! ヴァタシたちは新人類(ニューカマー)! ヒ~ハ~!」

「ドラゴンのおっさんもそうなのか?」

「違う」

「まさか、ドラゴンのおじさんが言ってた革命って……」

「全く違う」

 

 イワンコフたちのことを子供二人に説明するのは途轍もなく苦労したと後のドラゴンは語った。

 

 

 

 

 

 

  船内にある通信室では革命軍の者たちが緊張した面持ちで待機しており、その内の一人によって映像電伝虫に白電伝虫が繋がれる。

 

「用意が出来ました」

「よし、通信を開始しろ」

 

 ウタとルフィを運んできたドラゴンが部下に命じるとぷるると音が鳴ってすぐに反応をあった。シャンクスを筆頭に赤髪海賊団の面々の映像が映し出される。向こうにはこちらの映像が届いていることだろう。中央に立つドラゴンと縛られ口も塞がれたウタとルフィの姿が。

 

 シャンクスたちが息を吞む音が聞こえ、ドラゴンが重々しく口を開く。

 

「赤髪。お前の娘と友は預かった」

 

 これでいいのだろうかとドラゴンは自信なく思う。

 

 ウタは顔を伏せて笑いをこらえた。

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