東方流生録   作:トロントロン

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10話

「オラァ!」

 

 気で強化した、岩をも容易く砕けるであろう己の拳で

 

「ウルァ!」

 

 同様に気で強化した、全力で踏み込めば地面を陥没させられるであろう脚で

 

「ブルァ!」

 

 また1体、もう1体と妖怪を殺していく。

 たくさんの妖怪を一度に相手はできないがこうして1体1体と殺していくことはできる。

 しかし1体ごとに時間をかけていられないため、一撃で妖怪を殺していかなくてはならない。

 

 霊力さえあれば『霊力カッター』で一網打尽にできるのだが、その頼みの霊力も調子にのって使いすぎたため、『霊力カッター』をあと数発射てればもうけもの、といったほどにしか残っていない。

 

 ご利用は計画的に、の言葉が身に染みてわかった。

 

 また、俺の能力は霊力を消費して流れを生み出したり止めたりするため、もう戦闘で使うことはできないと考えていいだろう。

 

 チッ、使えねえ。

 

 まあ、俺が悪いんだけどな!

 

 と言う訳で、気で強化して体術を使わざるを得ない状況になっているのだ。

 

 気が使えるのなら『かめ○め波』とか使えよ、と思うかもしれないが、生憎と俺はまだ気を体外に出す練習をしたことがないため、そんな大技なぞ使える筈もない。

 

 いや、待てよ……?

 

 気を一ヶ所に集めて、勢いよく相手に飛ばすことならできるんじゃないか?

 一ヶ所に集めすぎて飽和してしまった気が体外に溢れでて、溢れでた気をを相手に飛ばす…みたいな?

 

 上手くいけば、飛ばした気……もう気弾でいいや、気弾の着弾地点で軽く気弾が破裂して範囲攻撃何てできるかもしれない。

 

 よし!物は試しだな!実践あるのみ。

 

 考え事を一時中断し、目の前の妖怪を拳で殴り、地面に叩きつけてから安全のため距離をとる。

 俺が急に距離を取ったためか、妖怪達は警戒してこちらに近づいてはこなかった。実に好都合だ。

 

 体中に巡らせていた気を右手にかき集める。

 徐々に気が集まっていき、心なしか右手の体感温度が上昇してくる。

 それでも俺は気を集め続ける。

 

 いつしか右手から溢れ出た気が手を覆いつくし、その手を白色に見せていた。

 

 …できた……のか?

 でもこれって飛ばせるのか?

 どう見ても完全に手のオーラと化しているのだが。

 

 とりあえず投げれそうな動作はしてみよう。

 

 ピッチャー振りかぶってーー

 

「!!」

 

 俺が狙った先にいる妖怪が一層警戒を強めた。

 

 俺は構わず振りかぶった手を勢いよく振り降ろす。

 

「ソオィィ!!」

 

 ・・・

 

 なにも起きなかった。俺の手に白いオーラが残ったままだ。

 

「・・・」

 

 おい、そこの妖怪。せめて何かしらの反応を示してくれよ。

 それに何度目だろう。この微妙な空気は。

 

「チラッ(周囲の妖怪同士で顔を見合わせる)」

 

「?(顔を見合わせた妖怪の片方が肩をすくめる)」

 

「「チラッ(俺の方を見る)」」

 

 こっち見んな。

 

 こっちを見た妖怪がこちらに一歩踏み出す。

 その目は明らかに格下の獲物を捕らえんとするかのようだった。

 

「ギエェェ!!」

 

「キシャァァ!!」

 

 今度は奇声を上げて飛びかかってきた!

 

 微妙な空気に戸惑っていた俺は咄嗟にオーラを纏った右手を顔の前にだし、頭を守ろうとした。

 下策だ。下がってから反撃すればよかった、と気がついたのは既に避けられないほどまでに妖怪がこちらに飛び込んでいる時だった。

 

 

 飛びかかってきた妖怪が俺のオーラを纏った右手に触れた瞬間ーー

 

「え?」

 

 血の一滴すら残さずに、音もなく消し飛んだ。

 

 …もしかして気が妖怪を消し飛ばせる程に高密度になっているのか…?

 俺は右手で顔を庇おうとした以外には何もしていない。

 どう考えても気が妖怪を消し飛ばせる程の高密度になっているということになる。

 

 まあ、結構な威力があるみたいだし、活用するしかないだろう。

 

「…ウシッ!」

 

 俺は気合いを入れ直し、自分から妖怪に向かって走り出した。

 俺が突然攻勢に出たためか、妖怪達が少し動揺したようだったが直ぐに立ち直り、俺を殺そうと接近してくる。

 

「セイッ!」

 

 お互いに接近していく内に、手を伸ばせば届く位置まで妖怪に近づいた。

 俺は妖怪に攻撃されるより早く妖怪を殺してやろうと思い、白いオーラを纏うその右手を妖怪に向かって伸ばした。

 妖怪に手が触れるか触れないかといった距離になった次の瞬間に、やはりと言うべきか妖怪は消し飛んだ。

 

 俺は続けざまに後続の妖怪にも手を伸ばし、次々と妖怪を殺していく。

 どの妖怪も手応えもなく消し飛んでいく。最早ただの作業ゲームと化していた。

 

「ハハハ!圧倒的じゃないか我が軍は!俺一人で軍って言うのも何だがな!…ん?」

 

 俺が調子にのって周囲の妖怪を全滅させて声高らかに笑っていると、右手に纏っていた気がどんどん薄くなっていることに気付いた。

 白かったオーラはいつしか無くなり、今までの快進撃での活躍など想像もできないただの右手に戻っていた。

 

 どうやら燃料切れのようだ。もしまだ妖怪が俺の近くで生き残っていて、俺が気が燃料切れになっていることに気づかない内にに襲われなどしたらひとたまりもなかっただろう。

 

 …近くに妖怪いないよね?今の俺の考えってフラグじゃないよね?

 年のために安全確認でもしとこうか。

 

「前よーし、右よーし、左よーし、後ろよーし」

 

 今までの戦いで、妖怪が妖力弾を遠慮なく飛ばしてきたせいで、辺りには残留妖力が漂っている。

 その為妖怪の妖力の反応がどこにあるのか特定するのが困難だったので、俺は仕方なく目視での確認をしたわけなのだが、どうやら問題無さそうだ。

 

 あ、上を確認してないや。

 

「上よー…しッ!?」

 

 危ない危ない。正に危機一髪だった。

 

 上を向いたら、丁度上空にいた妖怪が出した妖力弾が見えたのだ。

 上を向いていなければ、直撃を受けて今ごろはお陀仏だっただろう。

 そして神様に会って「久しぶりですー」なんて言ったりしていただろう。

 

 冗談じゃない。そんなのは御免だ。

 

 しかし、俺は地上から空の敵に向かって攻撃する手段を持っていないため、自ら空から俺を狙ってきた不届き者を成敗しなくてはならない。

 ただ、俺の残存霊力量が心許ないので、地上にいる今のうちに不届き者に対する処罰の内容を決めておこう。

 

 ここから『霊力カッター』を射っても軽く避けられてしまいそうだな。だとすれば無駄に霊力を消費するわけにもいかないから…

 そうだな。…まず近づく。次に地上に殴り飛ばす。そして馬乗りになる。更に顔面を拳で連打。

 よし、決定!あんまり深く考える必要ないもんな。殴ればすべて解決だ。

 

 後は如何に霊力を節約しつつ、接近するかだな。

 これは簡単だと思う。

 気で強化されている身体能力を生かした大ジャンプ。そこから大気の流れを妖怪の方向に向かって変化させて、俺を妖怪の方向に誘導する、と。

 

 たぶんこの作戦ならば、霊力の節約に繋がるだろう。

 最も重要なのは最初の大ジャンプだ。俺は未だに霊力無しでは滞空ができないため、能力を使わなければ滞空が不可能となる。

 ただ、俺の場合だと能力を使うのにも霊力を消費するのだが、能力を使用して滞空するのと、霊力のみで滞空するのでは、能力を使用した方が霊力の消費は少ないようだ。

 

 最初の大ジャンプでどれ程高く、勢いをつけて、正確に妖怪の方向に跳べるかで霊力の消費も大きく変わることだろう。

 

 まあ、実際に殺ってみないと分からないけどな。そろそろ名も知らぬ空を飛ぶ妖怪の攻撃を考え事をしながら避けるのにも飽きてきたことだし、実践しますか。

 

 俺は助走をつけ、近くの瓦礫の山のなかでも高い山の頂点まで駆け上がった。

 そのまま勢いを殺すことなく山の頂点を蹴って、空を飛ぶ妖怪の元まで一直線に飛んでいく。

 更に大気の流れを変化させ、強い追い風を起こすことによって勢いが更に増した。

 

 地上から見たら、一本の矢が妖怪に向かって吸い込まれて行くかのように見えたことだろう。

 地上からでは遠くてよくわからなかった妖怪の姿も徐々にはっきりと見えるようになってきたところで、俺は全身に流していた気を更に濃くした。

 

 というのも、勢いよく飛びすぎたせいで上手く体を動かせないのだ。

 最後はかっこよく妖怪を殴って終わらせたかったのだが、非常に残念である。

 

 等と考えているうちに妖怪にぶつかるまであと数秒といった距離にまで来ていた。

 妖怪は俺が猛スピードでここまで飛んできたことによる驚きのせいか、未だに少したりとも動いていなかった。

 正しい判断力が残っているのなら、普通に俺から距離をとるなりすると思うのだが、俺の突進で少したりとも動かなくなるほど驚くものだろうか。

 まあ、このまま死んでくれるのならそれはそれで楽だから全然構わないのだが。

 

 

 俺はいずれ来るであろう衝撃に備えて目を閉じた。そのため、耳から入ってくる音がやけにうるさく聞こえる。

 その後一瞬の衝撃の後、目を開けると今度は地上に向かって落ちているところだった。

 首を回して後ろを向いても、妖怪の姿はなく、ただ晴れた青空がどこまでも続いているだけだった。

 

 どうやら妖怪とはさっきの小さな衝撃の時にぶつかり、殺せたらしい。

 俺は小さな満足感を覚えたが、自分が地面に今度は地面にぶつかりそうになっていることを思い出した。

 

 このまま行くと今度は俺がグチャッとなるので、着地の衝撃から身を守るために再び全身の気を濃くし、姿勢をなんとか変えて足から着地した。

 

 ズドンという派手な音と共に着地に成功した俺は状況を確認するために辺りを見回す。

 やはりというか先程戦っていた場所から離れてしまったようだ。

 

 辺りに瓦礫の山があるのはどこでも共通しているのだが、唯一違うのが…

 

「…ハジメ、よね?どうして空から落ちてきたのかしら…?」

 

 ここには防衛目標であるロケットと永琳さん、更には一般人や妖怪迎撃班の負傷者らしき人々が居たことだ。

 誰もが突然空からやって来た俺に驚き、喋れないでいる。そのせいか、辺りは静寂に包まれている。

 正しく言えば、遠くの方から銃器の音や稀に銃声が聞こえたりしている。

 そして驚きからいち早く立ち直った永琳さんが俺に対してのこの場にいる全員の疑問を代弁したようだ。

 

「いやぁ、飛んでいる妖怪を体当たりして倒したのはいいんだけど、その後の事を全く考えていなくてね。そのままここに落っこちてきたんだ」

 

「考えておきなさいよ…まあ、いいわ。無事でよかったわ、ハジメ」

 

 色々とツッコミたい事があるのか、一瞬だけピクリと永琳さんの手が動いていたのだが、グッと我慢したようで、無事を祝ってくれた。状況が状況なので諦めたのだろう。

 

 非常に懸命だと思います、ハイ。

 

「永琳さん達こそ無事で何より。ロケットの方は発車できそう?」

 

 俺が質問をすると、永琳さんはチラリとロケットに乗り込もうとしている一般人と負傷者達の方を見てから答えた。

 

「…大丈夫よ。ロケットは母上が発車の準備をしているから、今戦っている妖怪迎撃班の人がロケットに乗り込めば丁度発車できそう」

 

「そうかい…じゃあ、俺が迎撃班の人を呼んでこよう。永琳さんは負傷者の治療や指示を出したりでここから動けないでしょ?」

 

「ええ、その通りよ。でも休む時間がほしいとは言えない状況なのよね。任せるわ、ハジメ」

 

「おうよ、任せとけ。永琳さんも無茶しないようにな。ここにいる人々にとっては永淋さんが頼りなんだから」

 

 じゃ、と軽く言って、俺は微かに聞こえてきている怒号や銃器の音のする方へと駆け出した。

 早い内に全員連れ帰って無事に月まで送り出さないとな。

 その為にも俺が頑張らなきゃな。

 

「・・・頼んだわよ、ハジメ…」

 

 駆け出す瞬間に永琳さんが消えそうな声でそう呟いたのが聞こえた。




遅くなりました。もう少し更新ペースを上げたいトロントロンです。
しかしリアルの勉強が不味いことになっているのでそうもいかずに…もう、ね…

ハジメ「ね…ってなんだよ」

まあ良いじゃないか。
ハジメは新しい技(?)を習得したんだしさ。

ハジメ「あれを技とは断じて認めないからな。あんなんは高密度で圧縮した気を相手にぶつけて、その気のエネルギーで相手を消し飛ばすっていう、ただのごり押しなんだから」

解説ありがとう。これで手間が省けたよ。
いやあ、ラッキーラッキー。

ハジメ「ハメられた…!?」
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