「いち、に、さん、しっ、ア○ソック~。ホームセキュリティーは、アル○ック~」
いつの間にか空は薄暗くなり、永琳さんがこれから目指す月が空に昇ってきていた。
辺りも暗くなるのかと思いきや、所々で小規模な火災が発生し、思っていたほど真っ暗にはならなかった。
誰にも消化されない火災は夜通し俺らのための明かりとなるだろう。
そんな中、前世の記憶に残っていたCMの歌を歌いながら俺は走っていた。
前世では走っていると無性にこの歌を歌いたくなったものだ。
ちなみに走るペースはCMのモノより断然俺の方が速い。急を要しているのだから当然か。
我ながら仕様もないことをしていると思うが、体の疲れから意識をそらすために必要なことである。
例えて言うならば、勉強しなくてはならないという現実から目を背けるために、ゲームしたり読書したりする…ようなことことである。
…俺は何を語っているんだろう。
さて、現実から目をそらすのを止めよう。
今丁度、永賀さん達が見えてきたのだが、不味い状況に陥っている。
戦闘は現在3ヶ所で起きているのだが、その3ヶ所間の距離が開きすぎているのだ。
さの距離は俺が気で身体能力を強化して走っても5分程かかりそうなところである。一般人が走った場合は恐らく6、7分はかかるであろう。
それだけだったら良かったのだが、妖怪の個体数と人間の人数の比率が3:5程となっており、非常に苦戦しているようだ。
元々人間は妖怪と素手で殴り合いをしても勝ち目のない存在である。
そこで人間は妖怪に対抗するために武器を作り出し、お互いに連携を取ることにより、妖怪と戦ってきた。
しかし幾ら武器を作っても、連携を取ったとしても所詮は人間。貧弱なその身体では圧倒的に強く、数の多い妖怪を相手取るには限界があった。
永淋さんは全員で生きて月に行こうと考えていたため、妖怪と戦っている間に負傷し、戦闘続行の続行が困難だと思われる者はどんどんと後方送りになっていった。
例えて怪我人だとしても、人道には反することとなるものの、肉壁や囮としては使えたのだが、それを良しとしなかったのである。
その結果、前線で戦える人間が減っていき、只でさえ悪かった戦況が余計に悪くなっていったのである。
しかし、それだけだったら、まだ3ヶ所に分断され各個撃破されそうにならなかったであろう。
人間側は1ヶ所に集まり、何とか連携を取り合えたはずだ。
それが3ヶ所に別れた挙げ句に、1ヶ所ずつ妖怪による人間の包囲網が出来上がっているのだ。
ジリジリと狭まっていくその包囲網は、中にいる
自由奔放な妖怪共がこんな嫌らしい連携を取っているということは、恐らく力のあるリーダー役がいるのだろう。
ここまで統制が取れているとなると、俺が森で殺したリーダー格の妖怪よりも強大な力があると考えていいだろう。
俺は速く加勢して、永賀さん達をロケットの所まで連れていった方がいいだろう。
見た感じ、永賀さんのいる場所は永賀さんが弓を使って奮闘しているお蔭でまだ戦えているものの、残りの2ヶ所は満身創痍といったところだ。
やはり、人間の中では飛び抜けて永賀さんの戦闘能力が光っている。正に皆の希望の星となって輝いている。
流石は弓の達人。永賀さんが一回弓を引けば、矢が同時に5本程妖怪に向かって飛んでいき、ズドッという鈍い音とともに5本程の矢が全て妖怪に刺さっている。
その矢には気が籠められていて、永賀さんが気の扱いにも長けていることが窺えた。
流石は天才の親、というべきだろうか。
この様子だと、残り2つある戦場の苦戦している人達の救援に向かうべきだと思えるが、俺がどちらかの救援に向かったとしても、その間にもう片方の被害が大きくなってしまうだろう。
ならば、俺が永賀さんのいる戦場で暴れ、その後に残り2つの戦場にそれぞれ俺と永賀さんが向かった方がまだ被害を少なくできるのではないだろうか。
その考えが一番良さそうだと感じた俺は、永賀さん達のいる戦場へ文字通り突撃する。
「永賀さん!救援に来ましたよ!パパッと妖怪共を倒してしまいましょう!」
妖怪による包囲網の一角を崩し、永賀さんの元まで駆け寄り、声をかける。
「…ハジメ君か。助かるよ」
「以前以前助けていただいたお礼です。…でも何で俺に向かって狙いをつけているのです…?」
そう、何故か永賀さんが俺の額に確りと狙いをつけており、弦(弓に付いていて、矢をつがえる紐の部分)も引ききっているのだ。
もし永賀さんが手を離したら、俺の頭にポッカリと大きな穴が空くことだろう。
…もし空いても、再生できる(ハズ)なのだが。
再生できたとしても、恐いものは恐い。
「ハハハ…すまない。突然近づかれたものだから、新手の敵かと思ってな…」
申し訳なさそうにそう言いながら、永賀さんは狙いを俺から外し、矢を放った。
ブオッと風を切る音がした数秒後に遠くで何かの倒れる音がした。
振り替えって確かめると、数体の妖怪の体の急所と思わしき所に矢を刺さって死んでいた。
狙いを付けてから矢を放つまで1秒となかったのに、確実に獲物を仕留めている…!
俺が永賀さんの技術の高さに驚いていると、戦場においても普段と変わらず落ち着いた雰囲気を持ったままの永賀さんが声をかけてきた。
…俺が町に駆けつけてきた時の指示を出していた永賀さんがまるで嘘のようだ。
あの時の口調なんて今の様子からは想像もできない。
「やれやれ…ハジメ君が来てくれて楽になりそうだよ。仲間たちとは戦っている間に分断されてしまってね…月に行けずにここで果てるのではないかとヒヤヒヤしていたんだよ」
「そんな縁起でもないこと言わないでください。…早いとこコイツらを片付けて他の救援にいかないと行けませんね」
一見、俺らは普通に会話しているように思えるが、妖怪と戦いながらの会話である。
……戦場なんだぜ?ココ。
「そうだね。…敵のリーダーも見つけ出しておかないとね。ところでハジメ君」
「何です?」
おっと危ない。少し余所見をしていたら背後から妖怪が近づいてきていた。
頭を地面に殴り付けて殺したけど。
改めて永賀さんに視線を向けると苦笑されていた。
どうやら俺が敵の接近に気がつかなかった事に気がついていたらしい。
何か悔しい。
「ハジメ君は能力を使わないのかい?」
「今は霊力が足りないので…あれ?何で俺が能力持ちなのを知っているのです?」
「永琳が言っていたよ」
永琳さんは口が軽いらしい。
…忙しそうにしていたけど、家族との時間は取れているみたいで良かった、かな?
「もしかして全部を自前の霊力で何とかしようとしていないかい?ハジメ君なら空気中を漂う妖力で上手いこと能力を扱えると思うよ?それならきっと霊力だって使わずに済む…と思うよ?」
何故に疑問形?あ、俺もだ。
「空気中を…漂う妖力…?」
試したことがないな。そもそも能力発動の原理がイマイチ解らないや。
もう少し頭が良ければ…仕方ない。何回も使って少しずつ理解していくか。
それは良いとして、空気中を漂う妖力か。意識すれば見えないことはないな。
試しにピンポン玉程の妖力球でも作ってみるか…?
俺は右手で近くの妖怪を殴り、左手の手のひらの上に漂っている妖力が集まるような流れを意識してみた。
すると周囲一帯の妖力が俺に向かって流れを作り出したのを感じた。
その流れは俺の左手の手のひらの上で流れを止め、そこに妖力が集まっていくのを感じ取れた。
そうして拍子抜けするほどアッサリと妖力球ができ上がった。
俺の手のひらの上で不気味な光を放っている妖力球からは霊力や気とは別の危険性を感じ取れる。
…今まで霊力を節約し、妖怪を直接殴ってきた俺の苦労は一体何だったと言うのだ…
解せぬ。
「なんだい。できるじゃないか。ところでハジメ君、その妖力球の妖力の密度が高すぎないかい?爆発するかもよ?」
「えええ!?ちょ、早く言ってくださいよ!?死因が自滅とかカッコ悪いじゃないですか!?」
「気にするところはそこなのかい…?」
いや、俺なら体の一部さえ残っていれば何処でも復活できるのですけどね。魂とかを破壊されていない事が条件だけど。たぶん。
兎に角、ここで爆発されては永賀さん達も被害を受けてしまうのだ。
最早空気と化しているが妖怪迎撃班の人達も一緒に戦っている。爆発すれば無論、彼らもお陀仏だろう。
そんな彼らからの「その爆発しそうな危険物をさっさと何とかしてくれよ」と言いたげな視線を感じたため、俺は妖怪の密集している場所にポイッと妖力球を投げてみた。
不気味な光を放ちつつ、妖怪達の中心に落ちた妖力球は一際強い紫色の光を発した。
余りの眩しさに俺も永賀さん、妖怪迎撃班の人達。妖怪でさえ眼を塞いだ。
暫くして光が収まったかのように思えたため、眼を開いて見えた光景に俺は唖然とした。
「これは…ハデに殺ってくれたね…跡形もないよ…」
そう、永賀さんの言う通り、跡形もないのだ。少し前まで妖怪が数十体いたはずの場所に誰もいないのだ。
それどころか、円状に大きなクレーターができていて妖力球の爆発の威力を物語っていた。
幸いのことながら、人間側の犠牲は出ておらず、妖怪の戦力を大きく削ることに成功したようである。
「妖力球を作るときは高密度にしてはいけないですね…勉強になりました…」
そこかよ。
唖然としながらもポツリと呟かれた俺の言葉に、この場にいる全員から心のなかでツッコミをくらった気がした。
お前ら仲良いな。そういえば、仲が良いほど喧嘩するって聞いたけど、人間と妖怪の争い(但し人間は殺られる側)も仲が良すぎたせいで起きているのかな…
「ハジメ君?…ハジメ君!」
「アハハ……ハッ!思考がぶっ飛んでました。ありがとうございます、永賀さん」
「え、う、うん…じゃなくて!ハジメ君のさっきの攻撃で妖怪達が逃げていったからさ、他の戦場に救援に行かないのかなー…て思ってね」
チラリとさっきまで生存していた妖怪のいた場所を見てみれば、遠くで妖怪達が猛スピードで逃げているのが見えた。
どうやら俺に恐れをなしたようだ。フフフ…流石俺。
「じゃあ、私達は向こうの方に行くから、ハジメ君にはあちらの方をお願いしようかな」
「わかりました」
別にどっちに行っても変わらない気がするので、永賀さんの指示に従う。
疲弊している妖怪迎撃班の人達を鼓舞し、向こうの方に行った永賀さん達を確認した俺は、もう一方の戦場に向かった。
俺の方が早く妖怪を殲滅できるはずだから、終わり次第永賀さん達の所も手伝いにいこうと思う。
ふと空を見上げると既に月が真上に来て夜空のなかで輝いている。思っていたよりも時間が経っているようだ。
俺は再び前を、向く。その先には妖怪達による包囲網があり、包囲されている人間達は狭まってくる包囲網に必死に抵抗しているが、妖怪からの反撃を喰らってしまったのか地に倒れ伏している姿もチラホラと確認できた。
さて、包囲網をどう崩したものか。
辺りには妖力に耐性のない者なら直ぐに体調不良となりそうな程妖力が充満している。この妖力をうまく使えば良いだろう。
先ほどのような妖力球による攻撃では、人間も殺してしまいそうなため却下だ。
…ならば、直接妖力に流れを作り、妖怪共にぶつけるか…?
イメージとしてはドラコンボ○ルのかめ○め波みたいな感じで、妖力をぶつけてみるのだ。
ある程度圧縮した妖力をぶつければ、そのエネルギーによって妖怪を跡形もなく消せることだろう。
よし、やってみよう。殺ってみよう。レッツトライだ。
大気中の妖力を意識してみる。妖力は大気中に高密度かつ広範囲に存在してるため、意識してみると全身が妖力という名のドロッとした液体に包まれているかのような感じがする。あまり気持ちのよいものではなかった。むしろ気持ち悪い。
俺はドロドロとして気持ち悪いのを我慢して流れを作った。流れを作った結果、1本の長い触手のようなものが出来上がった。
触手はまるでミミズのようにウネウネ動きながら俺の周囲をグルグル回っている。
一見、紫色のゼリーに見えるが美味しそうには見えないし、攻撃力にも期待できなさそうなのだが、妖力が非常に高密度になっているのは確かなため、この辺にいる妖怪程度なら高密度の妖力に耐えることはできないだろう。
「よし、殺ってみるか…」
触手を一度空高くに上げて、そこから一気に妖怪目指して矢のごとく向かわせる。
先程までウネウネと動いていたクセに、今は真っ直ぐ獲物目掛けて飛んでいく。
妖怪は勢いよく向かってくる触手に気づいたようだが、驚きのあまり体が動かないようだ。
そして最早ただの的と化した妖怪は為す術もなくアッサリと触手のエネルギーに飲み込まれ、妖怪がいたはずの場所には何も残らなかった。
完全に消滅したようである。
1体の妖怪を殺した触手はそのまま近くの妖怪に突撃し、次々に容赦なく殺していく。
血に飢えた獣の如く荒々しく、それでいて確実に獲物の命を奪っていくその触手は見る者に恐怖を与えることだろう。
そしてあっという間に包囲網を組んでいた妖怪達を全て喰らい尽くした触手の元となる妖力を四散させ、自分達が苦戦した妖怪を軽々と殺してみせた俺に驚いて動きを止めている妖怪迎撃班の人達に声をかける。
「救援に来ました。あと、永琳さんがもう少しでロケットを発車できると言っていたので、ロケットのあるところへ向かってください。」
「…そうですか。永賀様や他の仲間は無事ですか?」
一人が代表して俺に質問する。その顔からは仲間や自分達のリーダーを思う心が読み取れる。
…永賀さん、慕われているな。仲間同士の結束も固いみたいだし。
俺には前世でこんな良い仲間なんていなかったから少し嫉妬してしまうな…
「今から助けに行くところですよ。大丈夫です、直ぐに追い付きます。先に安全な所へ向かっていてください」
相手は年上なので念のため丁寧語を使っている。謙譲語やら尊敬語はさっぱりだが『~です、~ます』程度なら俺でも扱えるのですますよ。
…ですますって何だかポケ○ンを思い出すな。
「…では、我々は撤退します。永賀様達を…どうかお願いします」
そう言って俺に代表の人が俺に頭を下げる。すると周囲にいた他の人も頭を下げてきた。
「そんな、頭を下げないでください。永賀さんもお仲間も無事に助け出してみせます」
年上に、しかも大勢に頭を下げられる初めての事態に内心で辟易とする。
そもそも俺は頭を下げられることに慣れていないのだが…あ、告白した時に「ごめんなさいっ!」って頭を下げられたっけか。
…思い出すんじゃなかった。俺のガラスハートにヒビが入った。
俺は前世の悲しき記憶を思いだし、鬱になりつつも永賀さん達の所を向かった。
▽▼▽▼▽▼▽▼▽▼
永賀さん達の所の妖怪は大方倒せていた。残りの妖怪も少なくなっていたようなので、大分楽そうだった。
1体の妖怪に人間が4、5程でよってたかってタコ殴り状態だ。
やっぱり戦いは数だよ、兄者。…兄者って誰だよ。俺は前世も今世も一人っ子だよ。あえて言うなら独りっ子。
おっと、話が脱線した。
永賀さん達だけでも大分妖怪を倒せていたため、生き残っていた妖怪を俺が例の触手で葬りさった。
そして現在はロケットの場所への帰路についているところである。
俺は月には行かないつもりでいたため、ついてくる必要はなかったのだが、お世話になった人達が旅立つのを見送りたかったので着いてきている。
俺は歩きながらも自分の能力について色々と考えていた。
最初は自分の霊力で能力を行使していたのに、永賀さんに言われて妖力を意識して能力を使った途端に何事もなかったかのように能力が発動したことが未だに謎だ。
俺の能力は何を消費して発動するのだろうか。
戦闘が終わってから、気を意識して能力を発動させようとしたけど何も起きないし…
代わりに気が活性化して元気になったよ。逆に元気になりすぎて、戦いたくてウズウズしてしまった。
そもそも永賀さんが何故『俺の能力は妖力でも扱える』と気づいたのだろう。
能力の保有者である俺が気がつかなかったというのに…
俺が頭を悩ませていると、妖怪からの襲撃に備えて周囲を警戒しながら俺の横を歩いていた永賀さんに声をかけられた。
「ハジメ君。今日はありがとう。君がいなかったら何人が犠牲となったか…想像するだけでも恐ろしいよ」
「そんなに感謝されるような事じゃないですよ。命を助けられた上に3日間以上も永賀さんの家にお邪魔していた、そのお礼ですから。」
ただ飯もあったし。ただ飯だったし!ここ重要ね!
ご飯美味しいし、ただ飯も美味しいし、感謝しきれないと俺は思っている。胃袋を捕まれたら勝ってこないのだ。
「でも、まだ後1つお願いしたいことがあるんだ」
「どうしました?」
先程まで、警戒しながらも笑顔だったはずのその顔が、急にキリッと引き締まり、声のトーンも柔らかかったものが少しの緊張を含んだものに変わっていた。
それに気づいた俺は姿勢を正し、どんな"お願い"をされるのかと、少しビクビクしながらも耳を傾ける。
無理難題を言われたら「俺には無理なんだい!」って言って断るつもりだ。実際に言うかどうかは兎も角だが。
「驚かずに聞いてほしいんだ…」
ゴクリ
文字通りに固唾を呑んだ。
「…今、ロケットのある場所にーーーー」
この話の流れだと…
「…今までで一番大きな妖力の反応がある。戦闘も始まっているようだね…」
俺はいつの間にか頂点を通り越し沈み始めた月の浮かぶ空を仰いだ。
辺りの真夜中の静寂が妙に息苦しかった。
はい、ここまでお読みいただきありがとうございました。
ハジメ「次はボス戦か…どんなやつが待ってるか楽しみだ…」
ハジメは永琳達が襲われていることを忘れるなよ…?