東方流生録   作:トロントロン

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今回は短めかな。

ハジメ「特にこれといった出来事は無かったな」


16話

 永琳さんが永賀さんと桜淋さんを呼びに行っている間、俺は窓の外を眺めていた。

 

 四角い小さな窓ぶちの向こう側には、俺の記憶にある前世の東京と同じようなビル郡が見える。

 しかし、ビルの高さはこちらの方が上のようだ。30階なぞ、雄に越しているのではないだろうか。

 

 歩道の方はというと、規則的に木の植えられており、その横の道路を車が走っている。

 よく見ると車にタイヤがなく、俺は軽いカルチャーショックを覚えた。

 

 俺の知っている東京と違うぞ、ここ。

 …まあ、ここは東京じゃなくて月なんだろうけどね。

 

 空には地球から見た物と全く変わりのないであろう太陽が地上を燦々と照らしている。

 どうやったのかは知らないが、どこぞの天才が月にオゾン層やら大気圏やらを造り出したのだろう。

 

 もし俺の推測が当たっているならば、そのどこぞの天才が本当に人間なのか疑いたくなるようなモノである。

 

 

 俺は室内に視線を戻した。

 

 俺の頭がある方に置いてある機材に映し出されている線は規則正しく波打ち、俺が健康体であることを知らせる。

 

 他にも人工呼吸器やら、空気洗浄機やら洗濯機にテレビ果ては冷蔵庫。

 そして何故か自動販売機が置いてある。ちなみに商品は全て"売り切れ"だった。自動販売機を置いている意味が全くない。

 

 

 でも、壁に掛かっている男性の平均身長程はありそうな無駄に大きい謎の黄色い液体が入っているあの注射器は何なんだろー?

 

 俺が首を傾げていると、廊下の方が騒がしくなってきた。

 誰かが廊下を走っているのだ。

 

 小学校の頃、『廊下は走ってはいけません』と、教わらなかったのだろうか。マナー違反ですよ?

 特にここは病院(?)なのだから、足の悪い患者にぶつかりでもしたら大惨事だろうな。

 

 俺が他人事のように考えていると、足音が俺の部屋の前で止まった。

 何となく嫌な予感がしたので、耳を両手で塞いでおく。

 こういう時ってさ、多分アレなんだよ、アレ……

 

 

 バァアン!と大きな音がして、本来横方向に開閉する筈のドアを、床に倒した上に倒れたドアを踏んづけて部屋に二人の人間が入ってきた。

 …遅れてもう一人入ってきた。

 

 

「「ハジメ(君)!!!」」

 

 

 耳を塞いでおいて正解だった。名前を大声で呼ばれたら頭が痛くなるからな。

 俺の名前を呼んだ二人の人間…永賀さんと桜琳さんは、二人き踏みつけられている可哀想なドアに見向きもせず、俺のベッドの横まで来た。

 

 ああもう、ドアに二人の足跡がくっきりと…

 

 遅れて入ってきた一人…永琳さんもドアを容赦なく踏んで足跡は三人分となった。

 

 

「やっと起きたんだね!100万年も起きないままだったから、このままずっと目を覚まさなかったらどうしようかと不安で不安で仕方がなかったよ。私が起きて何でまだ生きているんだろうと疑問に思っていたら永琳がハジメの能力によって治療されたって言っててね、それはもう驚いたよ。しかも時間の流れを戻したんだって?あれは負担が大きいからやらないとか言っていたよね。それなのに無理をしてまで私の命を救ってくれるなんて、もう感動して泣いてしまったよ。だからこそ…」

 

「ああもう、永琳だけが帰ってきた時はどうなるかと頭を抱えてしまったのだけれど、遅れてハジメが主人を連れ帰ってきたと聞いて、本当にホッとしたんだからね。でもやっぱり大ケガしていた主人のケガを治すためにハジメが残りの力を振り絞って能力を使ったって聞いたときは、主人にために…なんていい人なんだと思ったのだけれど、残りの力を振り絞ったってことはやっぱり生命の危険があるんじゃないかって思っていたらハジメが気絶したって話を今度は聞いちゃって、しかも100万年間も一切起きることがなくてもう不安で仕方がなかったわ。だから言わせて頂戴…」

 

 

「「ありがとう」」

 

「どういたしまして」

 

 

 …まさかの二人同時のマシンガントークで、二人共同じタイミングで一旦区切ってお礼を言ってきた。

 俺としては無理をした甲斐があるとは思えるが、かなり照れくさい。

 でも、ここで自分は何もしていません、等と謙遜するのは二人に失礼であると考えて、俺はお礼を受け入れた。

 

 

 その後は100万年の間、どんなことがあったのかを色々聞いた。

 始めは永賀さんと桜淋さんの二人で色々話してくれたのだが、いつの間にか二人の惚気話に摩り替わっていた。

 

 二人の話に俺が辟易としていたら、永琳さんが代わりに話してくれた。

 イチャイチャし始めたお二人さんには退場していただきました。

 

 その話の中でも、俺が特に興味をひかれたのが…

 

「月のお姫様の指導役に任命された?」

 

「ええ。月の姫たる彼女には最高の教育を施すべきだろう。それには月の頭脳と名高いそなたが適任であろう、なんて言われてね」

 

「永琳さんより偉い人から任命されたと」

 

「そうよ。私は確かに月の頭脳なんて言われてもて囃されて、様々な権限を持たされているのだけど、トップは私ではないわ」

 

 永琳さんの頭なら政敵とかを謀略にかけて簡単に殺せたりできるのだろうけど、そうはしなかったらしい。

 それが優しさからなのか、政治界の均衡を考えてなのか、それとも仕事が面倒だからなのか。

 

「ただ、その”様々な権限”でトップに近い程の権限を得ているのだけれどね」

 

「それって、最早ツートップってことじゃん!?」

 

 いや、でも任命されたってことはやはり永琳さんの方が下なのか。

 

「ちなみに、トップって誰なの?」

 

 大体予想は付いているのだが、聞いておくべきだろう。

 

「さっき部屋にいた馬鹿…もとい、月夜見よ。ああ、様は着けなくてもいいし、そもそも必要ないわ」

 

「やっぱりあの人かい!?」

 

 俺がいきなり大声を出すものだから、永琳さんが驚いて体をビクッと震わせた。

 ……面白い。

 

「でも、仮にもトップの人間に馬鹿って言ってもいいのか?」

 

「仮ではなくてトップよ。それに人間ではなくて神よ。いいの。碌でなし、鈍臭い、気分屋…1LDKなのだから」

 

「部屋と全く関係ないよ!?そしてさらっと言ってたけどアレ(··)って神様の一種なのかい!」

 

「アレとは何であるか!永琳も大概であるが、ソナタも酷い言いようであるぞ!?…あ、我が月夜見であるぞ」

 

「あ、ども。ハジメです」

 

 俺が思わず大声でツッコミを入れると、いつの間にか直されていたドアを蹴破って、件の人が現れた。ドアが不潤すぎて泣けてくる。

 部屋に帰ったはずなのに戻ってきた上にツッコミを入れ、そして然り気無い自己紹介をするあたり、色々と大物である。

 

(元)日本人な俺は普通に返事をした。

 

「…どうして部屋に帰った筈の馬k…貴女がここにいるのかしら?」

 

「今更呼び方を言い直しても手遅れであるぞ?…疲れはしているが、面白そうじゃから戻ってきたのだ」

 

「………それだけ?」

 

「ウム」

 

 月夜見…様?でいいのだろうか。一応俺の立場的には様付けした方が良いのだろう。

 月夜見様は全く気にしていないのだが、随分と棘のある物言いを永琳さんがしている。

 何?この二人って何かしらのライバル関係にあったりするの?

 

 俺、巻き込まれるのは嫌だよ?

 

「………」

 

「………(サッ)」

 

 永琳さんがじっと月夜見様を見つめていると、何故か月夜見様が決まり悪そうに目をそらした。

 

「…部屋には戻ったのかしら?」

 

「と、当然であるぞ?」

 

 あ、月夜見様の目が泳いでる。

 月夜見様が何だか宿題をやり忘れたから、先生を誤魔化そうとしているときの小学生の雰囲気に似ているように思える。

 

 永琳さんもそう感じたらしく、何やら目をスッと細めてご機嫌斜めな様子だ。

 

「おかしいわね…部屋には私が置いた今日中に片付けなくてはいけない案件を書いた書類がある筈なのだけれど?」

 

「…!も、もももう、お、終わったぞ?」

 

 あ、これは黒だわ。絶対に書類に手をつけていない感じの反応だわ。

 無茶苦茶どもってるし、冷や汗も沢山かいているし。

 

「ふーん…どんな案件だったかしら?」

 

「えっとだな………………新型武器の製造許可請求書と最近不祥事が目立つ◇◇家への処置、それから新型地上監視機の転送許可…だったかの?」

 

 おい、空白長かったぞ。それにしてもすらすらとよく思い付くもんだな。

 適当に言っているだけじゃないのか?

 

「ハァ、今貴女が言ったのは全部合っているのだけれど、惜しかったわね。月の軌道の微調整のための前調査結果報告を忘れているわ」

 

 え!?合ってるのかよ!?馬鹿じゃなくて十分有能じゃないか。

 

「…そ、そうであった。多すぎて忘れておったわ」

 

 ははは、と乾いた笑いをする月夜見様だったが、次の永琳さんの言葉を聞いて顔面蒼白となる。

 

「まあ、最後のは嘘なのだけれど。本当は100万年記念祭の経費報告書よ」

 

「なんじゃと!?」

 

 表面上はニコニコと笑っている永琳さんだが、目が笑っていない。

 捕まえた獲物をこれからどう料理してやろうか、とでも言いたげな目をしている。

 

 俺の目には月のトップである筈の月夜見様がとてつもなく小さく、それもミジンコよりも小さく見えてしまった。

 幻覚…だよな?アレ?永琳さんの背後に般若が見える…

 

「フフフ。さあ、お仕事をやりにいきましょう?」

 

「ひっ!?は、離しておくれ!我は仕事なぞしとうない!書類仕事は苦手なのじゃ!」

 

 永琳さんは月夜見様の綺麗な紫色の衣の襟部分をガシリと掴み、ズルズルと部屋の入り口まで引き摺っていった。

 部屋を出る際、俺の方を向いて、

 

「今日は仕事があるから、これで失礼するわ。明日、時間ができ次第また遊びに来るわね」

 

 と言われたのだが、俺には無言で首を縦にカクカクと振ることしかできなかった。

 そう、永琳さんの纏う怒りのオーラは、部外者である筈の俺にも恐ろしくて堪らなかったのだ。

 

 

 引き摺られている月夜見様が俺に手を伸ばして、無言で"助けて"と呼び掛けているように思えたのだが、俺は顔を背けることしかできなかった。

 

 

 

 ……俺が100万年間いたこの建物には階段があったらしく、遠くから「ちょ、段差、痛い、止め、もっと、優しく、運んででででででで!?」と悲痛な叫び声が聞こえてきた。

 

 俺はいつの間にか暗くなっていた窓の外を眺めながら、永琳さんは絶対に怒らせないようにしようと固く心に刻んだ。

 

 

 

 △▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 翌朝、俺は兎の耳の少女が運んできた朝食を食べながら、同じく運ばれてきた新聞を見て、飲んでいたコーヒーを噴き出しそうになった。

 

 

『毎度恒例!?”月の長”月夜見様、”月の頭脳”八意永琳に夜の町を引き摺られ強制連行!?賑わう夜の町に笑いの渦巻き起こる!』

 

 

「………」

 

 無言で新聞のページを捲った俺は悪くないと思いたい。

 むしろ、他にどんな反応をすればよいのか知りたいところだ。

 

 他には月の政界情勢やら、永琳さんが新薬の開発に成功したとか、そのような記事ばかりだったが、俺は一つ気になる記事を見つけた。

 

 

『お菓子屋"ファッショネーブル"、本日大特価セール実施!』

 

 それは小さな小さな写真と記事の広告だったが、忘れもしない以前プリンを食べたあの店だった。

 

 俺は兎の耳の少女に出かけてくる旨を伝えて、部屋を飛び出した。

 繋がれていた機材を外し、歯も磨くこともなく、今度はプリンだけでなく他のお菓子も食べてやるという想いを秘めて…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、俺はこの時重要なことを忘れていた。

 俺は今、無一文だということを…

 




うーむ。理数系の教科が伸びない。

ハジメ「作者は文系だからな(ただし英語ができるとは言っていない)」

だからと言って諦めるわけにも…
やっぱり文系重視で勉強してきたことが祟ったかな…

ハジメ「皆は均等に勉強しような。俺?勉強する必要がないなw」

はい、ハジメ君の未来の内の一つが今決定しました!

ハジメ「もしかして俺って、今フラグ立てちゃった…?」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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