東方流生録   作:トロントロン

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そういえば、月夜見って男としてどっかの書物に書かれていたけど、ここではアレでも女だからね。

ハジメ「『アレでも』に悪意を感じた」


17話

 空に浮かぶ車が行き交う光景を横目に、ガックリと肩を落としてトボトボと歩道を歩く少年が一人。

 まあ、俺なのだが。

 

 頭に手をやると、寝癖を直さずに部屋を飛び出したため、少しボサボサとした感触がある。

 服は100万年前に着ていたモノと同じのを着ていた。

 

 実は妖怪との戦いの中で服が所々破れていたのだが、その辺りはキチンと修繕されており、永琳さん達の気遣いを感じ取れる。

 ………別に一般人が着ているような普通の服にしてくれても良かったのに、と思うのは失礼に値すると考えて、そっと心の奥底に失礼な思いを押し込んだ。

 

 

 しかし、何故俺がこんなところをほっつき歩いているのか。

 理由はご存知の通り、プリンを食べるためだ。文句あるかこのやろう。

 

 仕方ないじゃないか。

 

 俺はスイーツが好きなんだ。好きなんだよ。大好きなんだよ。

 プリンを筆頭にレアチーズケーキが好きだ、ティラミスが好きだ、リンゴタルトが好きだ、パフェが好きだ、ミルフィーユが好きだ、ショートケーキが好きだ、ロールケーキが好きだ、チョコケーキが好きだ、パフェが好きだ、アイスクリームが好きだ、モンブランが好きだ、ドーナツが好きだ、フルーツが好きなんだ。

 

 自宅で、レストランで、農園で、給食で、コンビニで、宴会場で、祭りで、ス○ーバックスで、露店で。

 

 この地上にある殆どの甘味が大好きだ。

 

 何処ぞのアイスクリームの店で何段にも積み重ねられたアイスクリームのタワーを崩すことなく食べるのが好きだ。

 横で見ている人達が俺の所業に畏れ戦き、嫉妬を抱くところを見るのは心が踊る。

 

 攻略不可能とさえ思える圧倒的存在感を誇る砦のようなパフェを少しずつ腹に納め、多大な時間をかけて攻略しきるのが大好きだ。

 初めは俺を見て嘲笑っていた店員が攻略済みの器を下げて行く時の呆然とした表情をしているのを見ると感動すら覚える!

 

 年に一度の誕生日の日のケーキが入った箱を開けていくことも堪らない!

「お誕生日おめでとう」と描かれたチョコプレートを最初に平らげ、染み一つとない純白の生クリームにナイフで傷を入れ、芸術品のようなケーキを最後の一口まで味わい、食後に幸せな気分のまま眠りに落ちるのも最高だ!

 

 母親が半日使って丹精込めて作ったマフィンを食べていき、最後の一つまで食べきって母親に「最高に美味しかったよ!」と言ったときの、母親の喜びようには全米が感動のあまり泣くだろう。

 

 そう、俺はお菓子が好きだ。フルーツも好きだ。スイーツが大好きなんだ。

 

 

 だが!

 

 

 近所の商店で好物のスイーツの大安売りが始まる旨の広告を見て、高揚する気分を抑えられぬまま財布を確認したときに所持金がスイーツを一つも買えない程度にしか無かったときなど、まるで学校の定期テストで学年最下位を取ったかのような悲しい気持ちになる。

 

 

 ……まさに、まさに今の俺がその状況なのだ。

 こんなことがあって良いのだろうか、いや良い筈がない。あってはならない。

 しかし、現実とは向き合わねばならない。俺は空を仰いだ…

 

 ◆

 

 

 俺が”ファッショネーブル”に到着した時には既に闘いが始まっていた。

 若そうな女性に混じって少数の男性がスイーツの奪い合いをしていた。

 

 一人がドーナツを取ろうと手を伸ばしたら、指先すれすれにナイフが飛んできて牽制されたり、ケーキの前で取っ組み合いをしている二人組を横目に第三者がヒョイとケーキを持っていき漁夫の利を得たり、フォークとナイフを高速で投げ合い、スイーツの真上で激突したり…

 

 こいつら身体能力を無駄遣いし過ぎじゃね?と思いたくなるような光景が広がっていた。

 

 いざ、俺も参加せん!と突撃しようとして、俺は大切な事を思い出した。

 

 

 

 

 ーーーーーーー金、持ってない………!

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 店内に突撃する前に金が無いことに気づいたのは運が良かったとも言える。

 

 だがしかし…しかしッ!

 

 目の前に芸術品のようなケーキや家庭で作るのが難しいスイーツがあったのに、手を伸ばせば届いたかもしれない距離にあったのに!

 俺の手は届かなかった。

 

 ああ、こんなにも悲しき事があっても良いのだろうか!

 辛い!辛い過ぎるッ!

 

 

「ままー、あのひとなんであたまをかかえてさけんでるのー?」

「シッ、見てはいけません!さぁ、家に帰ってご飯にしましょう?」

「はーい!」

 

 

 ……声に出ていたらしい。少し、いやかなり恥ずかしい。

 こんな時間に大通りで頭を抱えて叫ぶ少年なんて見せてはいけないだろう。実に良い判断だよ、お母さん。

 

 しかし、一旦落ち着かないとな。

 そう思って座れそうな場所を探すために辺りをキョロキョロ見回していたら、後ろから声をかけられた。

 

「キミ、署までご同行願えるかな?」

 

「うぇ!?お、俺は何もしていませんよ!?」

 

 職質か?さっきの奇行を見られたのか!?と思って焦って後ろを見れば、残念系の紫色のお偉いさんが笑っていた。

 

「ハハハ!面白いヤツだのう。…ところで今少し失礼な事を考えておらんかったか?」

 

 残念系の紫色のお偉いさんって考えたことだろうか?どこが失礼なんだろうか。

 …とは言わない。俺はまだ(社会的に)死にたくないぞ。月の長を怒らせて殺されました、なんて笑えない。

 

「やだな~。気のせいだよ、月夜見(つ()よみ)様」

 

「そう言われると逆に怪しく思えるな。それと、間違ってはいないが、我は月夜見(つ()よみ)と名乗っておる。こう名乗っておるからには、この名前で呼んでほしいのだ」

 

「わかったよ、月夜見(ツクヨミ)様」

 

 細けぇこたぁ、どうだって良いんだよ。って以前どこかで聞いたことがある。

 口には出さないけども。

 

「でも何で『月の長』と呼ばれているお前さんがここにいるんだ?今は昼時とはいえ、お前さん程の地位の人間…いや神様がこんなところをほっつき歩いていて良いものなのか?」

 

 俺はふと疑問に思ったことを聞いてみる。

 地位ある者にはそれ相応の仕事があるはずなのだ。そして現在の時刻的には昼休憩には程遠い。

 俺が言いたいのは「仕事をやったのか?」ということ。

 

 その結果。

 

「うむ。あのな、えーっと、その、な?あれじゃ、視察…そう!視察に来ておるのだ!偶然にも以前、この辺りのチンピラがやらかしての。我としては打開策を考えるべく先ず現場の状況を確認するべきだと思ったから、ここにおるのだ!」

 

 何でか力説されてしまった。

 しかし、いくらなんでも最初で慌て過ぎだろう。というか、説明していても目が泳いでいて、怪しさが全開だ。

 

 …こんなのが月の長で大丈夫なのだろうか?

 俺としては不安な限りだが、月が滅亡していないことを思うと、一応は大丈夫なのだろう。

 

「と、取り敢えず、ここで会ったのも何かの縁であるな!何でも奢ってやるから何処かに食べに行こうではないか!」

 

 露骨に話を逸らしやがったーー!!!

 しかも俺を食い物で買収しようとしているな!?

 …まさか俺がそんな姑息な手に乗るわけがないだろ。俺を見誤るな!

 

「良いだろう。”ファッショネーブル”にでも行こうか!」

 

「ほう、ソナタいい趣味をしておるな。あそこのスイーツはどれも絶品じゃからのう」

 

 …俺は悪ない!勝手に動いた口が悪いんだ!

 しかし、俺の意思とは反対に体が動いていく。

 

 横を歩く月夜見様は取り敢えず誤魔化せたと思っているようで、コッソリガッツポーズを取っている。

 コッソリやっているわりに丸見えなのは、単にこの神様の残念さを表している。

 

「だが、今日は特化セールで品が残っていないと思うがのぅ」

 

「………なかったら別の店に行けばいい。スイーツ系の店限定で」

 

「ハジメは甘い物が好きなようだな。それでいて太らないのは、やはり男だからなのかの?」

 

「男ならもう少し身長が欲しかったなぁ…」

 

「……なんか、申し訳なくなるのだが…?」

 

 月夜見様の言う通り、俺は太ってはいない。太ってはいないのだが、男としては小柄だ。小柄なんだ。小柄なんです。ちくせう。

 前世では背の順で並んだら先頭から3番目以内なんてザラだった!

 大柄な友人に抱え上げられて「お前、軽いな」なんて言われても、「そりゃそうだ」としか言いようがなかった!

 

 だが、丘より低く川より浅い心を持つ俺は気にしなかった。

 ………随分と、心が小さい、というツッコミは受け入れておりませんので。ハイ。

 

「のう、ハジメや。どす黒いオーラを出している所に声を掛けるのは非常に恐いのだが、”ファッショネーブル”に着いたぞ?」

 

「本当!?」

 

 俺がガバッと前を向くと、"ファッショネーブル"の看板が。

 月夜見様は俺の豹変ぶりに然り気無く退き気味だ。

 

 だが、そんなことは関係ない。気にしない。

 スイーツが俺を呼んでいる!

 

 俺の心は躍りに踊った。お金の問題は月夜見様(財布)が奢ってくれると言った。残念系の神様だが、これでも『月の長』…つまりトップだ。給料も多いだろうから、俺がついうっかり(・・・・・・)店の品を食べ尽くしても、お金は出せるだろう。

 

 俺の心は喜びに震えた。店内を覗くと作りたてのスイーツが今まさに並べられている所だったからだ。客は少なくはないが、俺が全力を尽くせば品の殆どを回収することは不可能ではないだろう。

 

 

 故に

 

 

「ハジメ、いっきま~す!!」

 

「ぬおっ!?」

 

 

 驚く月夜見様を置き去りにし、俺は店内に突撃する。

 

 全身に気を流して身体能力を強化し、脳の処理速度の流れを速くする。脳に少々負担がかかり、かき氷を食べたときのようなキーン、とした感じになるが気にしない。

 脳の処理速度が速くなったために、周囲がスローモーションのように遅く見える。当然俺の体の動きも遅いままだ。

 

 だがこれで人混みの何処を通ればいいのかを判断しやすくなる。

 小柄な、小柄な、男にしては小柄な体を活かして狭い隙間を通り抜け、お目当てのスイーツにいの一番に到着。

 速攻でスイーツを回収してトレーに乗せ、次の獲物の元へ。

 

「お、おい!リンゴタルトが消えたぞ!?」

「あぁ、私のサバランが…」

「くそ!ちっこくてすばしっこいのがいるぞ!!」

 

 あっという間にスイーツを回収していく俺の姿に気がつかない人は何が起きているか解らず慌てふためき、見えていたとしても対処のしようがなく、俺の動きを苦虫を潰したような顔でただ眺めているだけとなった。

 

 だが最後のやつ、夜道に気を付けろよ………

 

「おうおう、ハジメが大暴れしておるわ…」

 

「あ、財h………月夜見様」

 

 俺が一通りのスイーツ回収し終えた丁度良いタイミングで月夜見様が入ってきた。

 月夜見様は俺がトレーに乗せたスイーツの量を見て、頬をひきつらせている。金を気にしているのかカロリーを気にしているのか。俺にとってはどうでもいい事である。

 

 それにしてもみんな、俺が月夜見様って呼んだのに驚かないのな。聞こえていないだけか、月夜見様の『月の長』のくせに知名度が実は低いのか、はたまた頻繁にこの辺を彷徨いたりして今更のように思っているのか。これも俺にとってはどうでもいいことである。

 

「おい、ソナタ今財布って言おうt…」

「店員さん!お勘定お願いします!!!」

「………ヌゥ。仕方あるまい。我から約束したことだしの」

 

 月夜見様は諦めたかのように呟き、紫色の衣に手を入れて財布を取り出す。

 そこからあっさりとレジに表示されている分の札を取り出した。

 

 レジに表示されている金額は具体的には俺の口からは言えない。今日一日中特化セールを行っているとはいえども、元々の値段が高いらしく、更に店内の商品を片っ端から俺が持ってきたせいで、少なくとも店内にいる一般人から「おおぉぉぉぉ………」とどよめきが漏れる程の額だということだ。

 

 罪悪感?…1ミリたりとも感じないや!

 

「買ったぞ。……なんであるか、お主らの目は」

 

「「「………」」」

 

 月夜見様を人間を(神だが)見るような目で見ていなかった一般人達は、月夜見様にジト目で見返されて、慌てて目を逸らした。

 まあ、あれだけの額をポンッと出せるのを人間として見たくはないよな。諦めろ。みんな気づいていないみたいだけどこいつ、これでも『月の長』なんだし。

 

 しかし、あれだけの額を払ったわりには、月夜見様は随分と嬉しそうだ。

 …ハッ!もしや月夜見様もスイーツの魅力に取り憑かれた一人なのか!?

 

「いやはや、最近何も買うものがなくてな。金の使い道に困っておったのだ。しかしこれで我が財布で暖めておいたお金も市場に出回ることだろう。感謝するぞ、ハジメ」

 

 ……普通に感謝されている様なのだが、俺には「金が貯まりすぎて困っていたから、散財する機会を設けてくれて助かった」と聞こえる。

 …つまるところ、「まだ金には余裕があるぞ」と遠回しに言っているようなモノだ。嫌みか。嫌みだ(確信)。

 

 買わせた俺が言うのも何だが、庶民の一人として言わせてもらおう。

 

 

 ………この、庶民の敵めッ!!!!

 

 

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 その後、俺と月夜見様は、店内にある食事スペースで(スイーツについて)語り合った。

 店内を出る時に、人で埋まっていた食事スペースから店の入り口までの道が、スッと左右に別れて通れるようになったのは驚いた。

 

 月夜見様は慣れているかのようにその道を歩いていたのだが、庶民的な俺は通る際は居心地が悪かった。

 …庶民の敵め。

 

「しかし、ハジメも中々分かるヤツであるな!久々に語り合える相手がいて少々熱が入ってしもうたわ」

 

 前を歩いていた月夜見様が、後ろを歩いている俺の方に首だけ向いて、話しかけてきた。

 

 ちなみに月夜見様もスイーツの魅力に取り憑かれた者の一人だった。

 

 やはり同じ好みを持つ者がいると、嬉しくなるのだろうが、前を見ずに歩くのは止めてほしいものだ。

 電柱とかにぶつかりそうで怖い。ぶつかるのもそれはそれで面白そうだが。

 

「同じ好みを持つ人がいるって良いな……ハハッ……」

 

「…何故そこで遠い目をするのかは聞かない方が良さそうだの」

 

 賢明だと思うよ。うん。ハハハ…

 何だろう、目から汗が出てきた…拭っても拭っても溢れてくるよ…

 

「して、ハジメよ」

 

「うん?」

 

 相変わらず俺の方に首だけ向けたまま喋る月夜見様。足は止めていないので前方にある電柱に気がつかない。面白いから俺は黙っているが。

 

「ソナタの”ファッショネーブル”店内での動き…やはりできるのであろう?」

 

 急にニタリ、と笑う月夜見様。

 俺は「何が?」とは聞かない。察しは付くし、次に言わんとすることも大体予想が付くからだ。

 

 ならば、俺もその意思を汲むまで。

 

「ああ、そこそこはできると自負しているよ」

 

「ふむ。そこそこは、か。…よかろう」

 

 俺の言葉に笑みを強めた月夜見様は、クルリと体も俺の方に向ける。

 …もう少しで電柱にぶつかりそうだったのに、然り気無くぶつからない位置に移動した。

 …チッ

 

「我も偶には運動せんとな。腕は鈍るし、ストレスは溜まるし、腹もゴニョゴニョ…」

 

 最後の方は聞こえなかったが要するに俺と"遊びたい"ワケだ。

 

「ま、まあそれは置いといてだ。食後の運動に玉兎の戦闘訓練場に行こうではないか!」

 

 人々の往来の絶えぬ歩道で、両手を広げて大声で言う月夜見様。周囲の人の視線など意に介せず、これから行う闘いの場を唯純粋に楽しみにしているようだ。

 

「いいよ。…玉兎の訓練場だか何だか知らんけど、大暴れしてやる!」

 

 月夜見様から感じ取れる圧倒的なまでの神力。そして俺の直感が月夜見様を強者だと告げている。

 俺も月夜見様との闘いが楽しみで仕様がない。

 

「やはりソナタも我と同じであるな。では、着いてくるがよい」

 

 俺と月夜見様はまた二人で歩き出す。

 最初はただの食事。そして今は心踊る闘いのために。

 




次回、vs月夜見様…になると良いね!

ハジメ「おいこら。どういうことだ」

ハジメ君。予定は未定っていう素敵な言葉を知っているかい?

ハジメ「え………え~…」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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