東方流生録   作:トロントロン

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vs月夜見様、腹ごなし戦です。
そういえば、最近Wi-Fiの調子が悪いので、更新速度が今以上に遅くなるかもです。

ハジメ「こればっかりはどうしようもない。申し訳ない」


18話

「ここが訓練場であるぞ。広いであろう?」

 

「うわ~…こりゃスゴいや…」

 

 俺と月夜見様は玉兎の訓練場に来ていた。訓練場は月の都市の中心部の地下にあった。

 訓練場の広さは俺の生前の首都にあったナントカドームよりも大きく、高さに至っては日本位置高いと言われていた富士山に迫るほどではないかと思う。

 

 ここは地下なので明かりがないと暗くて何も見えないらしいのだが、どこぞの天才さん達によって作られた人間の子供の拳大の光球が訓練場全体を照らしているらしい。

 

 しかも光球を直接見ても失明しないという俺の常識を置き去りにするような説明までされた。

 床がはっきり見えるまで照らせるほどの明かりを出しているのに、その明かりを直接見ても網膜が焼けなくなるには、何をどう改造したらいいのか聞いてみたいものだ。

 …理系にしか通じない説明をされそうなので、文系の俺は聞こうとは思っても実行する気にはならなかった。

 聞いても30秒以内に寝る自信がある。

 

「ほれほれ、玉兎どもは今日の訓練はなしでいいからさっさと休憩所まで上がらんかい」

 

 月夜見様が手でシッシと玉兎達を追い払う。

 ぞんざいな扱いながらも玉兎達は訓練を免除されることに喜んでいるようで、全員できゃいきゃい騒ぎながら去っていった。

 

 うーん。玉兎の頭に付いている兎の耳については聞かない方が良いのだろうか。

 ピョコピョコ動くから気になって仕方がないのだが。

 まあ、どうでもいっか。

 

「ハァ…玉兎の者共も結局は訓練をサボっているようであるからの。訓練を免除してもしなくても最終的には同じなのが悩みどころだの。真面目にしてくれていれば我も安心できるというものなのだが…」

 

「一度鏡を見て最後の部分の台詞を言ったら月の都市のためになると思うんだけど?」

 

「……………そろそろ始めるかの」

 

 自覚があるってことでいいのかな、この反応。

 

 何とも言えないような、とても戦い前の雰囲気とは思えない中、お互いに構えを取る。

 いざ、始めようという所で月夜見様がゴソゴソと衣の中をまさぐっている。何かを探しているようだ。

 

「では、このコインが地面に落ちてから始めるとしよう」

 

「わかった」

 

 月夜見様が取り出したのは一枚のコイン。

 それを親指で弾いて、コインが地面に落ちた瞬間に闘いを始めようと言うのだ。

 俺は特に反対する気もないので、直ぐ様了承したが、月夜見様のなにやらニタニタとしたイタズラっぽい笑みが気になった。

 …何を狙っているんだ?

 

 

「それでは……そ~れっ!」

 

 

 ーーーーーベチィィィン!!!

 

 

 月夜見様はコイントスをするかと思いきや、コインを握った手をおもいっきり振り上げ、その後手を降り下ろして地面に叩きつけたのだ。

 

 俺たち二人しかいない訓練場に、コインが地面に叩きつけられた音が響く。

 

「ハッハッハ!どうしたどうした?ソナタが何もせぬのならば、我からいかせてもらおうぞ!」

 

 俺が呆気に取られている間に、空中に浮かび上がった月夜見様が神力を解放する。

 広い広い訓練場の全体に月夜見様の神力が満ちる。

 

「………!!」

 

 月夜見様のまさかの行動に呆気に取られていた俺は、月夜見様の神力に当てられて正気に戻った。

 慌てて構えを取り直すが、既に月夜見様の神力に場を支配されていて打つ手がない。

 

 場が相手の神力(若しくは妖力や霊力)で支配されているということは、闘いの主導権を相手に握られているということに他ならない。

 自分の場まで支配されているということは相手が「お前を360°、全方位からいつだって攻撃できる」と言っているようなものだ。

 

 全方向から銃口を向けられている。つまり、敵地のど真ん中にいると言っても過言ではない。

 

 更には俺の霊力での攻撃、例えば『霊力カッター』なんかを作ろうにも、月夜見様の神力に阻害されて思うように作り出せない。

 

 

 それ故に、月夜見様の神力に場を支配されているこの状況は非常に不味い。

 

「ん~?どうしたのかの~?」

 

 あの顔面一発殴ってやる。

 俺はニタニタと隠しもせず笑っている月夜見様を見て、心に固く決意した。

 

 しかし、この膨大なまでの神力を一体どうするべきか。

 地上にいた頃は、妖力の流れを操って自分の技に変化させたりしてみたが、どうもこの神力は上手く流れに乗せられない。

 

 俺の能力が通じていないのだろうか。

 それとも生物としての格に差が有りすぎるのだろうか。

 そうだとしたら無性に腹立たしい。

 

 

「ほれほれ、考え事ばかりしておるから隙だらけであるぞ?」

 

 月夜見様の一言と共に、三日月の形をした神力が具現化する。

 三日月の形の神力の刃は、訓練場を照らす光を反射してキラキラと輝く。芸術品として見るならば、素直に美しいと思えるが、鋭い刃がこちらを狙っているのでじっくり観賞などできる訳もなかった。

 

 しかし、当たり前のように視界を覆い尽くす量の刃を一瞬で作り出すのは勘弁してほしいところだ。

 

「ほい」

 

 月夜見様がそう言いながら手を降ろすと、刃の壁がゆっくりとが俺に迫ってくる。

 

 

 ギラギラと血に餓えているかにようにギラつき、徐々に迫ってくる刃の壁。

 

 

 どうする?どうやってこの場を切り抜ける?

 場は月夜見様に支配されていて霊力カッターは作り出せないし、ましてや俺は病み上がりの体。100万年ぶりの運動なのだ。下手に動かしたら翌日に筋肉痛が襲ってくること確実だ。

 なんで俺は闘いを了承したんだ。あ、俺はそこそこバトル好きだった。

 

 ともかく、俺ピンチ。大ピンチ。超ピーンチ。

 

 

 チラリと俺は月夜見様を見る。やはりニタニタ笑っている。

 …ここで諦めていいのだろうか?いや、月夜見様の顔面を一発殴ると心に固く決意したではないか。

 

 何もせずに諦めるより、必死に足掻いて万策尽きてから諦める方が、後々に後悔も少ないだろうし、俺自身も潔く敗北を認められるってものだろう。

 

 

 俺は全身の気の流れを活性化させる。100万年間眠り続けた気を叩き起こし、全身に巡らせる。

 場は支配されていても、俺の体の中までは支配できている筈もない。差し支えなく全身に気は巡った。

 

 次に思考能力の底上げだ。頭の回転の流れを早くする。イメージ的には脳だけ時間を早めているような感じだ。

 脳の負担なんてこの際無視だ、無視。脳の負担なんかより、一発殴る方が大事………だよな?

 

 既に高速回転している思考の中で、無駄なことを考えながら打開策を考える。

 場は支配されているから、何かを作り出すことは無理。

 しかし気の流れは活性化できたから、自分を中心に作用することなら問題なし。

 

 …自分に作用すること、か。

 液体にでも成れたらどんなに小さな隙間からでも逃げ出せそうなものだが…

 やってみるか。

 

 壁は大分近づいてきているが、俺は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 そしてイメージをする。特定の形を持たない液体を。流れ動く液体を。

 

「…スー…ハー………『流体変化』!」

 

 瞬間、視界から得られる情報が無くなる。その代わりに、感覚で周囲の状況を識ることはできた。

 そして周囲の状況を識ると同時に、月夜見様の作り出した刃の壁に存在する刃と刃の間の小さな小さな隙間のある場所を発見する。

 

 しかし、この液体となった体でどう動けばいいのだろうか。

 俺は心の中で首を傾げる。

 

 ……気合いさえあれば何とでもなるか。

 

 根拠どころか、俺の疑問に対する答えにすらなっていないのだが、何となくそう感じたからできそうな気がしたのだ。

 

 

 事実、液体となった俺の体は刃と刃の小さな隙間に向かって移動中だ。

 人間の時のように手足を動かす時の感覚と少し違い、液体の時の体を動かす感覚は、流れのある川の中に身を任せて勝手に流されていっているような、説明し難い変な感覚だ。

 

 そして俺は小さな隙間を無事に通り抜ける。液体の形は不特定だ。小さな隙間ぐらい体の形を薄っぺらくすればわけもなく通れる。

 

 通り抜けた前で俺は人間の体に戻り、手を握ったり開いたりと体の感覚を確かめる。問題なく体を動かせた。

 やはり人間の体だと落ち着く。液体の体だと、何だか俺自身が人間離れしていっているように感じて不安になったのだ。俺はまだ人間でありたいのだが。

 

 100万年生きている時点で人間じゃねーよ、なんて言う心の声は聞こえなかったフリをする。俺は人間だ。人外になった覚えはない。

 

「ほほう…これは楽しい食後の運動になりそうであるな。どれ、久方振りに剣でも振り回すかの」

 

 ニヤニヤした笑みをより一層強めて月夜見様は言う。いつの間にか取り出した剣をブンブン振って既に殺る気満々だ。

 ところで俺、武器持ってないんだけど?無手ですよ?頼りの霊力カッターも作り出せないから己の身一つが頼りなんですよ?

 やだー、苛めじゃないですかー…

 

「ハッハッハ!そぉれ!」

 

「アブね!?」

 

 笑い声が聞こえたかと思うと、いつの間にか俺の目の前に移動して剣で斬りつけてきた。

 ーーー速い!

 

 さっきまで空中で素振りをしていたクセに、瞬間移動の如く目の前に現れるなんて!?

 俺は間一髪で避けた……いや、避けさせられた。手加減されているのだ。

 

 俺は慌てて眼の気を体の他の部位より活性化させる。これなら月夜見様の動きが見えるハズだ。

 実際にこちらに向かってきている月夜見様の動きが目で追えるようになった。

 

「良いぞ…良いぞハジメ!我は楽しいぞ!」

 

「俺は命の危機を感じているんだけどなぁ!?」

 

「ハッハッハ!」

 

 聞いちゃいねえ!?

 

 俺は再び切りつけてきた月夜見様の剣の側面に右腕を当てて『受け流した』。そのまま月夜見様の顔面を殴ろうとするが、あっさり距離を取られて俺の拳は空を虚しくきった。

 

「おお危ない危ない。危うく我の綺麗な顔に傷が付くところであった」

 

 実際に月夜見様の顔は整っていて綺麗なのだが、自分で言うのはどうかと思う。

 だからといって不細工だと言われてもふざけんじゃない、って言われるのだろうから、整った顔というのも困りモノだと俺は思う。

 俺の顔はいたって普通の顔だから整った顔の人の気持ちなんて知らないし分かりっこないんだけどね!

 

「それは残念。俺はそのつもりで殴ったんだけどなッ!」

 

「それは困るのう」

 

 俺は敢えて顔を狙っている事を月夜見様に言い、実際に殴るべく地面を蹴る

 当然月夜見様は顔の防御に重点を置いているが、これは俺のブラフだ。最終的には顔面を殴るつもりだが、今はまだその時じゃない。

 

「『流体変化』!」

「なっ!?」

 

 俺はここで流体変化を使う。先程は液体に変化したが、今度は気体に変化する。

 流体とは液体と気体の総称であり、流動体、つまりは変形体の事だ。俺が気体に変化できない道理は無いハズだ。

 

 気体となった俺の体は実体を無くし、月夜見様からは視認が不可能となる。

 

「うりゃあ!」

「グッ!」

 

 気体に変化した俺は月夜見様の後ろに回り込み、再び人間形態に戻って、月夜見様が剣を握っている方の肩、つまりは右肩を殴る。これで少しは月夜見様の剣も鈍るはず。

 だが、月夜見様は痛がる素振りを見せるどころか、クックックと笑う。

 

「なるほどなるほど、そう来るか」

 

「何が可笑しい?」

 

「今は月に住まい、月人を称しておるが、地上にいた頃の月人どもは月の満ち欠けを生と死の繰り返しの様に考えておってな…」

 

 どこか月夜見様は懐かしむ様に言う。100万年も前の事だ、懐かしむのも当然だが。

 しかし、突然そんな事を言い出すなんて。何が言いたいのだろうか。

 

「生と死。いつしかそこから月は『再生と滅びの象徴』と言われるようになった。そして我は今や月の神と言われており、実際にそうだ。月の神である我に月の力を使えぬ道理は無い!ソナタは我の剣を封じようと右肩を殴ったのであろうが、これしきの傷なぞ直ぐに再生してくれるわ!」

 

 月夜見様が叫ぶと、右肩に薄い黄色の光が灯り、月夜見様は剣をブンブンと振り回す。傷が治ったのだ。

 ……これ、勝ち目あるの?

 

 いや、弱気になってどうするんだ。しっかりしろ、俺!

 

「ホレホレホ~レ!」

 

 月夜見様が休むことなく斬りつけてくる。

 しかし先程とは違い、俺が避けた先の場所にレーザーのようなモノを撃ってきたり、刃を飛ばしてきたりと俺が闘い難いような動きをしてくる。厄介なことこの上ない。

 然り気無く、剣の斬る速度が遅いことを見るに、食後の運動はまだまだ続けたいらしい。冗談じゃない。こっちは最早命懸けの域に入ってきているぞ。

 

「ホレホレ、どうしたのだ?ソナタの奇怪な技はもう品切れかの?」

 

「なら、やってやるッ!」

 

 ただしぶっつけ本番でな!

 

 俺は敢えて月夜見様の剣を避けるのを止め、逆に月夜見様の顔面を狙って拳をつきだす。

 

「血迷うたか!」

 

 月夜見様は俺の腕を斬るべくそのまま剣を降り下ろす。

 

 それを待っていた!

 

 俺は腕を斬られる直前に腕の部分だけを『流動変化』で気体化させた。

 ただし、先程のように実体は消さず、月夜見様にも見えるようにしたままだ。

 

 月夜見様は俺の腕を豆腐を斬るかのよりもに手応えを感じなかった事を怪訝に思ったらしく、一瞬眉を潜めた。

 そして今度は眉ではなく顔をしかめる事となる。

 

「ソナタの体はどうなっておるのだ!?我が剣がすり抜けるなd…グヘァ!?」

 

 あ。顔面パンチ成功。ノルマ達成しちゃった。

 

 月夜見様が喋っているにもかかわらず、俺が腕を振り抜いたために、月夜見様の顔面にパンチが炸裂した。

 なにこの達成感。気持ちいい!

 

 俺は地面を蹴って、殴られた勢いで後ろに吹っ飛んでいる月夜見様を追う。

 そして遠慮なく追撃に移る。

 

「ヘアッ!」

「グッ!?」

 

 踵落としをお見舞された月夜見様は床にのめり込む。

 その影響か周りの床にヒビが入った。…修理代、請求されないよな?

 

 反撃を警戒した俺は月夜見様から距離を取る。

 

「イタタタ…思って以上にやるわい。…少し我も頑張ってみるかいのう」

 

 全身に薄い黄色の光を灯しながら起き上がった月夜見様の言葉と同時に、俺は月夜見様から凄まじい威圧感を感じる。

 月夜見様はその身に秘める神力を解放したのだ。闘いの開始当初の比ではない。

 

 月夜見様から黄色いオーラが出ているように見えるほどの濃く、吹き飛ばされそうな程に思えてしまう。そんな神力の量だ。

 月に対する、月夜見様に対する信仰とはこれ程までに多く、深いのか…

 

 俺の存在が小さく感じる。その反対に月夜見様の存在感が夜の暗い空に輝いている月のように大きく感じる。

 その存在感の差はまさしく蟻と象。一軒家と高層ビル。チワワとセントバーナード。白熱電球と一等級の恒星。それ程に差はあった。

 

 人間と神。種族の差はここまでも大きく、高い壁なのかと。

 

 

 

 恐い。

 

 

 

 俺は恐怖した。初めて月夜見という八百万の神の一柱に恐怖した。

 

 

「これ程に強い人間…ハジメにも業が重すぎるか。…姉上よ、ここ()はあまりにも狭すぎる。高々一柱を斬り殺してしもうただけであるのに…」

 

「………ぁ……あぁ……」

 

 

 月夜見様が何か言っているようだったが、俺には聞こえず声にならない音を出すのが精一杯だった。

 

 

 …

 

 ……

 

 ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから俺の意識は無い。気がつけば昨日、一昨日と見続けてきた天井をただ眺めていた…

 

 




あらら、完敗したせいで落ち込んでら。

ハジメ「………ハァ……」

いつかリベンジマッチでもやるから、元気出せって。な?

ハジメ「………おう」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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