東方流生録   作:トロントロン

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かーなーり遅れましたが、明けましておめでとうございます。

ハジメ「本年もよろしくお願いたします」


20話

「『霊力カッター』!」

 

 俺が展開した霊力の刃の嵐が依姫さんに迫る。

 この霊力カッターだが、100万年前に地上で使っていた頃は数発でしか放てなかったのだが、いつの間にか増えていた霊力で数十発は放てるようになっている。

 たぶん、植物人間状態だったとはいえ、長年を生きて魂や生物としての格が上がったとか、そんな感じなのだろう。

 何にせよ、手数が増えるのは良いことだ。

 

「そんな見え見えの攻撃…!」

 

 一方、霊力カッターに狙われている依姫さんは、俺のわかりやすい攻撃を迎撃しようと剣を構える。

 大方、一振りで全てを迎撃するつもりなのだろう。

 

「フンッ!」

 

 俺の予想通り、依姫さんは霊力カッターを打ち落とすべく剣を上から下へと振り抜く。一寸の迷いもない綺麗な太刀筋だ。

 しかし、俺の狙いはここにあった。

 

 依姫さんが剣を降り下ろすその直前、俺は能力を使ったのだ。

 

『空間よ、流れろ』と。

 

 空間を流がす。簡単に言うなら、空間そのものを移動させただけだ。空間を移動させれば、当然その空間内の物質もその空間につられて移動することになる。

 

 今回は、正面にあった霊力カッターを含む空間を依姫さんの後ろ側まで移動させた。直接依姫さんに被るように空間を移動させても良いのだが、それでは勝負とはならないし、つまらない。それをするぐらいだったら、血管内の血の流れを逆流させて心臓をパンクさせたり、血管を破裂させたりする。

 

 俺は(そこそこ)正々堂々とした闘いを望む。だから依姫さんの後ろ側に霊力カッターを流したのだ。

 

「…ッ!?セイッ!」

 

 依姫さんは剣を振り抜いた後だというのにも関わらず、振り向きながら剣を振り上げて俺の霊力カッターを凌いだ。

 驚くべき反応速度。驚くべき剣さばき。驚くべき身体能力。

 

 しかし、俺も負けじと依姫さんが後ろを振り向いた瞬間には、依姫さんに肉薄して風を唸らせながら拳をつき出していた。

 身体能力を強化すれば、少し位の距離ならあっという間に移動できる。

 

「その程度、予想をしていました」

 

 依姫さんの声がしたかとお思うと、経津主神がその大きな剣を降り下ろしているのが見えた。なんでだろう。経津主神がスタ○ドに思えてきた。

 

 このままでは俺は、真っ二つに分かれてしまうだろう。しかし、俺には焦りはなかった。

 

「それは残念だったね」

「ッグ!?」

 

 俺は右手では依姫さんの背中を殴り、空いていた左手を経津主神の剣の側面に当て、経津主神の剣を『受け流していた』。

 能力も使わずにただ左手を側面に当てるだけでは、経津主神の攻撃を反らすことはできずに俺の胴体は左右でバイバイキ~ン☆、となっていたかもしれないのだが、俺は能力を使いながら当てたため、スルリと受け流せた。

 ぶっつけ本番でも意外とやればできるものだと思う。それにしても俺の能力が万能過ぎるな。

 

 

 

「…思っていた以上に強いですね。経津主神だけでは厳しいかもしれませんね」

「褒めても何も出ないし、経津主神以外の神様は使ってほしくはないなぁ」

「今日は経津主神でお相手するという言葉を違えるつもりはありませんので安心してください」

 

 吹っ飛ばされていた依姫さんは空中で体勢を整えて、軽やかに地面へと着地する。

 お互いに軽口を言い合いつつも息を整える。

 

「私も本気でお相手いたしましょう」

「(さっきまでのでさえ、本気じゃなかったのか!?)……なら俺はそれを上回るよう努力させてもらおうか」

「上回らせませんよ?」

 

 宣言通り、依姫さんは秘めていたその強大な力を解放する。当然のことながら月夜見様には遠く及ばないが、十分に驚異に値する。そして地味に経津主神も力を解放しており、依姫さん以上の威圧感を感じる。それでも月夜見様には及ばない。

 

 だが、俺にとっては月夜見様に劣っているにしろ、経津主神の威圧感も依姫さんの威圧感も恐ろしく感じる。月夜見様が力を解放したときのような、自分という存在がちっぽけに感じるあの感覚が再び甦る。

 

 

 嫌だ。

 

 

 俺の全力が依姫さんに及ばないのが?

 

 

 

 嫌だ。

 

 

 自分がちっぽけな、取るに足らない存在だと感じるのが?

 

 

 

 嫌だ。

 

 

 ただの威圧で気絶してしまった自分が?

 

 

 

 

 嫌だ。どれもこれも嫌だ。なにより組手にしろ何にしろ、戦いに負けるのが嫌だ。

 勝ちたい。

 

 

 

 

 勝ちたい。

 

 

 

 

 勝ちたい!!

 

 

 

 

「そんな威圧ッ!乗り越えてみせるッ!」

「…!?」

 

 気づけば俺は叫んでいた。

 気づけば全身で感じていた威圧感は消え去っていた。いや、感じてはいたが気にするまでもなく、平然と威圧感に立ち向かうことができていた。

 

 高々威圧。されども威圧。実力者が弱者を威圧すれば弱者はいとも容易く逃げ出すだろうし、気絶する。

 俺だってそうだった。月夜見様の威圧感に押し潰され、気絶する様な弱者だった。

 そんな俺が月夜見様ではなく依姫さん(とついでに経津主神)の威圧感に耐えきり、むしろ立ち向かうことができる。

 傍目から見れば小さな、俺からすれば大きな一歩だ。

 

 そんな俺を見た依姫さんは少し驚いた素振りを見せるも、顔に好戦的な笑みを浮かべる。ちょっと怖い。

 

「私の威圧を耐えきりますか」

「乗り越えただけさ。実際の実力差が埋まったワケじゃないよ」

「それでも大きな進歩です。他の月人でさえ私の威圧で脱兎の如く逃げ出してしまうのですから」

 

 他の月人がどれ程強いのかは知らないが、どうやら依姫さんの威圧を耐えきるのは凄いことのようだ。

 

「では、こちらから攻めさせていただきます、よ!」

 

 タッ、と地面を蹴る音が聞こえたかと思うと、依姫さんが既に攻撃を仕掛けてきているのが目に入る。

 …全く、攻撃に入るまでの動作が見えなかった。

 

 更に俺は自分の目を疑う。

 

 依姫さんの剣が上から、左下から、右下からの三方向から同時に斬りかかっているように見えた。

 ………え?三方向から、同時に?

 

 ちょっと待ってくれ。人間の腕は二本。そして依姫さんは両手で剣を構えていた。うん、そこまでは良い。

 でもさ、三方向から同時に斬りかかってくるとか人間技じゃないよね。おかしいよね。クレイジーだよね!?

 いや、待て俺。ここは単純に考えるんだ。その方が精神的に楽だ。そう、依姫さんは視認できない程の速度で、それも残像が残るほどの速度で斬りかかってきているんだ。そういうことにしよう。経津主神が攻撃する素振りを見せないのは罠なのか手加減してくれているのかわからないが、深くは考えないでおこう。この際無視だ、無視。

 

 

 ここまでの思考、0.4秒。その間にも依姫さんの剣は俺に迫ってきている。

 

 俺はどう動くべきか。三方向の内、二方向はフェイントだと仮定して動こう。でもどれが本命でどれがフェイントなのか。俺には見切れない。

 ならば、三方向全てを封じれば問題ないのではないか。剣は振りきらないと相手に傷を負わせるのは難しい。

 ここで敢えて依姫さんの懐に潜り込んでみるのはどうだろうか。それなら剣の刀身部分からは逃げ切れるかもしれない。だが懐に潜り込んだ場合、足からの反撃を警戒すべきだ。

 今、依姫さんの右足は膝を曲げた状態で前に出ている。右足からの攻撃はないと考えて良いだろう。

 左足はと言うと、地面を蹴ったせいか後ろに伸びきっている。これは左足での膝蹴りが来る可能性が高い。

 ということは、依姫さんの懐に潜り込み、そのまま右脇を潜り抜けるように逃げるのが得策だろう。そして上手く逃げきれたら依姫さんの方を振り返り、霊力カッターで反撃しよう。

 

 ここまでの思考、0.6秒。依姫さんとの距離を考えたら直ぐにでも行動に移さないとお陀仏だ。

 

 俺は依姫さんの懐に潜り込み、俺から見て左、つまりは依姫さんの右脇を潜り抜けて、依姫さんの方を振り返る。依姫さんの左膝は俺のいた場所を正確に貫いていた。俺の読みは当たっていたようだ。

 内心でガッツポーズをしながらお返しとばかりに霊力カッターを飛ばす。

 

 すると、依姫さんは両足で地面を蹴り、回転しながら空中へ舞い上がり、剣を一振りする霊力カッターを避けて地面に着地する。

 その動きを見た俺は直感的に後ろへと下がると、俺のいた場所の地面に斬られたような跡が残る。依姫さんは斬撃を飛ばしてきたのだ。人間業じゃないよね。もう月人業でいいよ。

 

 

 依姫さんが駆け出してから俺が一歩下がって依姫さんの斬撃を避けるまでの時間、なんと5秒もかかっていない。

 

 依姫さんがほん少し額に汗を浮かべているだけなのに対して、俺は汗にまみれて息を荒げている。冗談じゃない。たった5秒に俺は全力を尽くしたぞ。向こうは息を荒げることなく汗を少しかいただけとか…。ここまで実力差があるのか?なら、俺が倒そうとしている月夜見様の実力は?想像もつかない。今の俺では話にならないことは想像するに容易いのだが。

 

「まだ、続けますか?私はまだいけますが…?」

「勘弁してくれ。俺はもうクタクタだよ…」

 

 俺がそう言うとフッと経津主神の姿が消える。出番なかったよね、あの神様。

 依姫さんも剣を鞘に納め、俺の方へと歩んでくる。

 

「中々お強いですね」

「…いや、依姫さんの方が俺なんかより遥かに強いよ。勝てそうにもない。」

「ハジメは強いです。少なくとも玉兎の誰よりも、ヘタな武芸者よりも強いですよ」

「それでも依姫さんには遠く及ばないさ。手加減してくれているのに最後の最後で一撃も当てられなかったよ」

「やはり、気がつきますか。…確かに私は手加減しましたが、本気は出していましたよ?」

 

 手加減していて本気。一見矛盾しているように思えるが、おそらく『手加減している』状態での『本気』なのだろう。

 

「私の横を通り抜けたのは見事でした。並みの者が相手であれば何をされたのかもわからずに斬られて終わりですし。通り抜けた後とは言え、反撃をしてきたのも良いですね。その後で私の攻撃に気がついて避けたのには驚かされました」

「通り抜けるのは正直なところ賭けだったけどな。経津主神が動いていれば詰んでいたかもしれない。…けど、能力の補助があってのあの動きだし、体の方は限界に近いよ」

「また入院ですか?」

「よしてくれ。サボるのは好きだが大人しくしているのは性に合わないよ」

 

 実際のところ、能力で思考速度を早めたり気で全身を強化したものの、脳に負担がかかり頭痛はするし精密で、素早い動きを行ったために全身で今までにない程の疲労を感じる。気分的には今すぐ大の字に倒れて眠りたいところだ。ここでやると風邪を引きそうだからやらないが。

 

 

 その後、いくつかの俺の戦い方の改善点を依姫さんに教えてもらい、一旦病院に戻ることにした。…うん、一応入院生活ですね。大人しくしているかどうかはともかく。

 俺は家を持った方が良いのではないかと、今になって思ったよ。

 




~今日のまとめ~

ハジメ「威圧なんて!乗り越える!」
依姫「セイ!」
ハジメ「アブね!?降参降参!」
依姫「お疲れさまでした」

経津主神「出番は?ねえ、出番は?」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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