東方流生録   作:トロントロン

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お久しぶりです。トロントロンです。

ハジメ「1ヶ月ぶりです。ハジメです。」

えー、遅れてしまい大変申し訳ない。
では、本編、どーぞー?

ハジメ(何で疑問系…?)


21話

 目を開くと見慣れた天井。ええ、病院ですよ。もう健康すぎる程に動きまわって暴れているのに寝床は病院ですよ。

 入院(?)の費用払ってないから迷惑かなー?なんて思ったこともあるけれど、どこぞの賢者様のありがたいお薬のお蔭で最早病院も形だけの存在で特に仕事ないし給料は固定でそれも中々良い額が支給されるから問題ないとかなんとか。あまり働かずしての高給取り。社会人の憧れである。

 そんなこんなで病院を宿代わりにしている俺だけれども、特に病気とかないのに病院にお世話になるのは良心がほんの少し痛むので、自分の家を持とうと考えた。

 夢のマイホーム。いい響きだ。

 

 しかしながらも俺には人脈がない。人脈があれば良い不動産屋とかも紹介してもらえたかもしれないのに。

 知り合いは八意家、月夜見様、依姫さんだけだ。

 アレ?…人脈、ない……のか?

 むしろ権力者しか知り合いがいないことに驚くべきなのかどうなのか。

 

 ただ、人脈よりも大きな問題がある。

 

 それは――――――お金。

 

 

 

 …俺、無職です。収入がないです。今までは病院で貰える食事をいただいていました。前世では病院のご飯は不味い、なんて聞いていたけど、そんなこともなく美味しかったです。栄養価的に見てもバランス取れているようだし。たぶん。

 家庭科の授業なんて寝ていたので、本当に栄養バランスが取れているかどうか知りません。たんぱく質?ビタミン?何ですか、それ。

 

 

「……やっぱり、現状維持でいっか」

「?」

「ん。何でもないよ」

 

 

 つい、口に出してしまったが、俺は現状維持でいこうという結論に至った。金ないし。仕事ないし。働かなくて良いのはありがたいけどね。勤勉な日本人が聞いたら怒りそうなことだ。あ、俺は日本人だったけれど。HAHAHA。

 

 とりあえず、無料で食事付きで実は風呂も付いていて寝泊まりもできるこの状況に全力で甘えるとしよう。

 

 ちなみに俺の独り言に反応したのはお馴染みの病院勤めの玉兎の少女だ。名前はまだ聞いていない。聞くつもりはない。聞く勇気がない。俺はコミュニケーションが苦手なんだよ!悪いか!

 悪いですよね。特に改善する努力をしないところとか。開き直っちゃってごめんちゃい。

 

 

 いつの間にか運ばれていた食事に手を付けながら、新聞を広げる。めぼしい記事は…ないかな。

『訓練場にて謎の少年出現!"神霊の依り憑く月の姫"と激闘を繰り広げる!?』なんて一面記事は見ていないったら見ていない。玉兎の少女が掲載されている写真と俺を交互に見比べているが気にしない。気にしたら負けなのである。

 しかし、情報伝達の速度が尋常でないことには感心した。記事を書き上げるのも速いし。前世の新聞記者もそんな感じだったのだろうか。今となっては知る術はない。

 ところで掲載されている写真はいつの間に撮っていたのだろうか。気にしたら負けか。そういうことにしておこう。

 

 

 

 食事を終え、玉兎の少女に礼を述べて俺は月の都を歩き始めた。予定は特にないが、歩くのに飽きたら訓練場で暴れる…もとい、鍛練しようと思う。

 月の都の空は相変わらず青い。地球と変わらない。どうなっているかは知らないが、やはり賢者様が以下略。

 俺にも少しばかり、その素晴らしき脳細胞を分けてほしいところである。

 しかし、こうして歩いてみると、前世の頃の首都と変わりない光景だ。人の数こそ少なく、売られているものは謎の技術で出来ていて見ていて飽きないのが相違点だろうか。このまま暫く彷徨けそうである。

 人は少ない、がそれは首都と比べてであって、発展中の都市住まいだった俺にとっては多く感じる。ちなみに、少ないながらも兎の耳がちらほらと見えることから玉兎もいるようだ。

 

 

 

 

 

「――――――で、何しよっか?」

 

 

 結局来たのは訓練場。都を見回るのも楽しいが、独りで回るのも寂しいしつまらないので、結局ここまで来てしまった。

 都を見回るのにいつでも暇そうな人(月夜見様)……神?でも誘えば良かったのかもしれないのだが、アレでも一応最高権力者だし、仕事をしてほしいので誘わない。むしろ働け。言葉に棘があるって?否定はしないよ。

 

 

 相変わらずながらも訓練場にいる玉兎達はだらけている。読書していたり会話していたり寝ていたりと、学校の休み時間を思い出させられる光景だ。訓練せんかい。

 俺はそんな玉兎達に場所を借りる旨を告げ、今に至るというワケだ。

 

 

 何しよっか、とは言ってみたものの実はやってみることは決まっている。じゃあ言うなよって話だが、入り方って大事なのだと、前世の母が言っていた気がする。

 

 それは、能力の新しい使い方の模索だ。

 昨日の依姫さんの戦いの後で、俺の能力の使い方を提案されたのだ。

 

 その提案の前に、俺の能力の捉え方に触れる必要がある。

 

 俺の能力はご存じの通り『流れを操る程度の能力』だ。その能力の及ぶ範囲は、転生する際に神様に付けてもらったせいか、かなり広い。

 

 水の流れに始まり、人の感情、脳から出る微弱な電流、血流、空間、空気、時間の流れを変化させたことによる不老や急速な上に無限に続く細胞分裂による怪我の瞬間的な治療、体内に眠っていた気、空中に漂う妖力。

 更には時間の流れを速めたり、今はまだ短い間だけだが時間の流れを戻すこともできるし、時の流れを読み取ることにより、未来を視ることもできる。視えた未来は遠い未来程不確定なモノのようだが。

 また、身体を流体に変化させることもできる。

 

 俺の能力の及ぶ範囲はざっと挙げたものだけでもこれだけある。素晴らしく便利なものだとは思う。

 

 そして依姫さんが言うからには俺の能力は『方向性を操作』しているかもしれないと言っていた。

 感情の正か負か。負ならば怒りや嫉妬、悲しみまでの細かい方向。時間の過去か未来かの方向。己の存在を物質の三態の気体、固体、液体のどの方向に偏らせるか。あえて方向性を与えないことによって、穢れによって得た老いへと遠ざかりもしなければ近づきもしない。細胞も一定の状態から方向性を取り除かれ、その状態から細胞の老化もなくなり、今の俺の身体の方向性を変えまいと維持しようとすることによる、急激な怪我の治癒。

 

 つまり、俺の力は使いようによっては、この世の全てを操ることが出来るようになるかもしれない。

 

 ――――ハッキリ言わせていただきますと、ハジメの能力は危険です。

 

 依姫さんとの別れ際に言われた言葉を、俺は思い出す。今後の行動によっては処断される可能性も考えておいてほしいとも、言われた。

 少なくとも、格上の存在には効果がかなり薄れるため、今はまだ危険人物として処断されることはなかったのは幸いだろう。

 格上の存在とは、例えば月夜見様。格上とは思えないような振る舞いが目立つけれども、ただの人間である俺に比べれば、神という存在は格上だ。残念ながらも。

 月夜見様がいれば、俺がこの力に溺れたとしてもストッパーとなってもらえるということだ。

 俺はその月夜見様にリベンジしようとしているわけだが。

 もしも、俺の月夜見様へのリベンジを成功させて、俺が月夜見様よりも強い存在となってしまえば、月の都全体から俺は処断されてしまうのだろうか。

 

 

 いや、これ以上考えるのは止めよう。俺の頭では堂々巡りになってそのまま一日が終わってしまう。

 

 

 俺は何もない虚空へと向かって掌を広げ、意識を集中させる。

 側から見れば、「なにやってんだ、こいつ」と言われるだろうが、俺には意味のあることだった。

 だから、後ろの方の玉兎達がヒソヒソ言っていても俺は気にしない。俺は寛容なのだ。たぶん。

 決して、空気の流れを操って、暴風を玉兎達の顔面に狙って吹かせてなどいない。悲鳴なんて聞こえない。

 

「何!?何なのぉ!?」

「ここは地下だよねえ!?」

「スカートが捲れちゃうぅ!?」

 

 可笑しいな、風は顔面の辺りを狙ったはず…イイエ、ナンデモナイデス。

 煩悩退散、悪霊退散、戻ってこいや平常心に集中力。

 全ては気のせい、風のせい、俺のせい。いや、最後のは撤回しよう。

 

 意識を再び掌に戻す。今やっていることは俺の能力の使い方の確認だ。といっても思い付きでやっているものだから成功するとはとても思えないのだが―――

 

「お?」

 

 突如、俺の掌の上に水滴が出現する。

 無色透明なそれは、際限なく数を増やしていき、水滴と水滴で合体を繰り返していき、終いには掌から溢れ出す。

 俺は掌の水に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。無臭だ。

 今度は口を付けて一息に飲み込む。無味だ。

 無味無臭。紛れもなくそれは水であった。

 

 種明かしをしよう。

 

 空気中の酸素分子と水素分子に方向性を与え、強制的に酸素原子と水素原子を化合させる。実際には電子の移動などの細かい色々もあるのだろうが、俺が能力で水素原子と酸素原子に方向性を与え、無理矢理互いに近づけて化合させた結果、水滴が発生したのだ。それを続けると掌から水が溢れるまでに至ったという訳である。

 どうやら細かい色々は能力がどうにかしてくれるようだ。

 

 意外や意外。やってみればできるものだ。

 まだ水が発生するまでに時間がかかるので、瞬時に発生させることができるよう訓練が必要となるかもしれない。いや、訓練は必須だろう。なんと水滴ができるまでの時間は、約一時間はかかったかのように思う。その後は割と早くできてきたのだが。

 

 これで俺の戦い方も大きく幅が広がる。後は、俺が全ての戦いの手札を状況に応じて使い分けることができるかといったことが問題であった。

 その問題については、俺自身が戦闘経験を重ねていく他ないだろう。幸いなことに、ここ、月の都では強者に困らないのだから。

 

「昨日ぶりだね」

 

 俺は背後に気配を感じ、振り返る。そこにいたのはやはり依姫さんだった。

 ただ、その表情には呆れが混じっていた。

 

「おはようございます…いえ、今の時間帯ならこんにちは、ですね」

「確かにそうかもね。ここへは玉兎達を叱りに来たの?」

「ま、そんなところです。目を離すと彼女たちは直ぐにサボりますから。ハジメも鍛練に?」

「勿論。昨日依姫さんに教えられたことを活かして、能力の新しい使い方の模索を中心にしているけどね。中々良い感じだよ。」

「それ良かったです。………ですが気を付けてくださいよ?師匠の御父様を助けてくださったからまだ良いものの、力を付けすぎたら―――――」

「処断、だよね」

 

 どうや俺が見逃してもらえていたのは、永賀さんを救ったことが大きいようだ。善行は積んでおくものである。

 

「というか、俺は何で処断されるの?ついでに、処断って具体的には何されるの?」

「単純に月の都の将来を脅かす存在になり得るからです。私達月人には月の都を守る理由を持ちますが、ハジメは違います。能力を使い、不老を得たハジメは穢れの蔓延する地上で過ごしても問題ありませんから、月の都に固執する理由がありません。ですから月の都を破壊し、穢れなき月に穢れを産み出してしまうかもしれない。上役はそれを恐れているのです。私は今のハジメを見る限りは大丈夫だとは思っているのですが、人の考えとはいつ変わるかも分からないものですので。」

「俺が月の都にとっての不穏分子だと?…むぅ、地上にいた方が気楽なのかも。あぁ、それで処断の内容って何なの?」

 

 要するに、自力で不老になった俺の扱いに困るし、月の都を守る理由を持たない俺が月の都を破壊する可能性があるからか。たとえ、その可能性が極僅かだとしても、0ではないのだから俺を信用できないということなのだろう。

 そんなに恐れなくても、俺にとって恩のある八意家がある限りは月の都には手を出さないし、八意家がいなくなってもめんどくさそうな事はしないのに。

 

「処断の内容は、地上に身を堕とさせることです。もしくは穢れのでないような何かしらの手段を使って殺すかです。地上に身を堕とすと、その身が穢れ、寿命による死をいずれ迎えることになります。」

「俺って不老だから地上に行っても関係ないし、むしろ地上に行きたい所なんだけど?」

「そうでしたね。でしたら表の月で窒息することに――――」

「洒落にならないよ!?」

 

 恐らく冗談だ。依姫さん、笑ってるし。なんてブラックジョーク。

 表の月が何を指しているのかよくわからないけれど、窒息ってことは空気に流れを持たせて引っ張ってくれば問題無さそう。世の中そうそう巧くいくとは限らないけどね。

 どちらにしろ、俺に備わっているのは高い自己治癒能力だから、窒息することになったら詰みと考えても良いだろう。

 

「冗談です」

 

 本人に冗談と言ってもらえて俺も一安心だ。依姫さんもこんな冗談を言うものなのか、という驚きもあったりする。真面目な雰囲気を持っているため、どちらかというと冗談を言われてからかわれる側な気がしていたのだが。

 

「でもハジメが不老なら、地上に堕とされたことを根に持って、復讐してくるのを恐れる者もいるでしょうね。まだ処断を決める上役の人にハジメが不老であることを告げていないので、地上に堕とされるだけで済むと思います」

「そうか。ありがとうね」

 

 ……俺、もしかして依姫さんに弱味を握られている?うーむ、不老であることは告げない方が良かったのか?

 

 俺がそんなことを考えていると依姫さんが顔に満面の笑みを浮かべているのが目に入る。

 その笑みは何ですか、依姫さん。

 

「そう言えば、最近とある高貴な御方の護衛を募集しているのですが。ハジメは護衛を引き受けてくれますか?」

「えっと…高貴な御方の護衛に俺なんかを選んで大丈夫なの?ほら、さっきまでの会話の流れを考えるに、俺を護衛を選ぶのって不味いんじゃないかな?」

 

 何かしらの"お願い"(拒否権はない)があるのだろうとは思っていたのだけど、まさか護衛依頼とはね。

 俺が必死に反論して依姫さんに考え直させようとしているのは、決して護衛が面倒だとか敬意を払うのが無理そうだとかそんな理由ではない。ないったらない。

 単純に、他のお偉いさん達からの反対や、俺を護衛に誘う依姫さんの面子のためである。嘘は言っていないぞ。

 

「問題ありません。護衛と言いましたが、実際には以前まで護衛を担当していた玉兎が引退したので、後釜が育ちきるまでの繋ぎですから一時的なものになります。あまり長くない期間になるとは思いますので、駄々を捏ねる者も少ないでしょう。」

 

 繋ぎですか、そうですか。でも結局のところ一時的にとはいえ、護衛という役割を担うわけか。うーむ、鍛練する時間が減りそうで嫌だな。この件に関しての拒否権はないだろうけれど。

 

「ハジメも強さという観点から見れば問題ありません。何しろ、とある高貴な御方の命を狙っている不埒な輩がいるという話があります故に、護衛には当然ながら、かなりの実力を持った者が必要とされているので。」

「依姫さんは護衛はできない?」

「私は地上を監視する任を負っていますので。ただ、地上の人間はまだ文明力も低く、取るに足らない存在だと師匠が仰っていたので、不埒な輩を探すことになりそうです。」

「依姫さんが捜索するなら俺は要らなくなりそうだね。うん、護衛は引き受けるよ。犯人は生け捕りの方向で良いの?」

「はい。よろしくお願いします。」

 

 ところで。とある高貴な御方って誰だろう?

 取り敢えず、護衛対象と出会うまでのお楽しみって所だろうな。

 

 結局、仕事を引き受けることになった俺はこの後、鍛練は早めに切り上げて帰ることにした。

 良く良く考えてみれば、運が良ければ不埒な輩(実験台)がノコノコとやって来て俺の能力の練習を手伝ってくれるかもしれないのだ。

 その日の夜、俺はワクワクしながらベッドに横たわり、あっという間に夢の世界へと飛び立った。

 




~今日のダイジェスト~

ハジメ「現状維持で!」
病院勤めの玉兎「何の現状!?」

依姫の部下の玉兎達「変人だ!」
ハジメ「ちゃうわ!」

ハジメ「おお、水が作れた!時間かかったけど!」
依姫「貴方の能力は危険なんで処断の可能性が…」
ハジメ「許してちょ」
依姫「じゃあ、アレをお願いします」
ハジメ「ハメられた!?」

~21話 完~

やー、リアルが忙しくて中々時間がですね、って言い訳は止しておきます。

ハジメ「模試とかクラス分けテストとかあったもんな。でもコイツ結構遊んdモガモガ」

ハーッハッハッ!言わせねえよ!
そのお詫びと言っては何ですが、明後日(14日)のこの時間に次話を投下します!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
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