東方流生録   作:トロントロン

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22話

 俺は依姫さんに連れられて護衛対象の屋敷へと来ていた。但し、依姫さんは「もうすぐ作戦会議があるので失礼します」とか言って何処かへ行ってしまった。

 コミュニケーションが苦手な俺を一人残して行ってしまったのだ。ああ、嘆かわしい。嘆かわしいのはいつまでたってもコミュニケーション能力を改善させる努力をしない俺だが。

 

 前世で見た首都を思わせるような発展した都会の風貌である月の都において、俺が連れられてきた屋敷は何処となく和を感じさせる造りをしていた。

 門は既に開かれており、中が丸見えだった。防犯性はどうしたとか、命を狙われているんじゃなかったのかとか言いたくなったがそこをグッと堪えた俺はきっと寛容な人間なのだろう。自惚れだと思う?その通りです。ああ、止めて、石を投げないで。

 

 しかし、高層ビルが建ち並ぶこの都において、やはり畳のある家はまるで別の時間に置かれているような印象を受ける。

 牛乳の入ったコップが沢山置いてある中に、一つだけコーヒーの入ったコップが置いてあるのを想像してみよう。真っ白な中の黒一点。それがどれだけ浮いた存在であるか。

 

 そんな屋敷の門前で俺は暫く、どうやって護衛対象と出会おうと考えて右往左往した後、このままいても仕方ないかと門を潜って屋敷の敷地へと入った。

 

 そして俺に気づいた屋敷の使用人らしき玉兎が俺を護衛役として雇われに来た人物であることを確認してから、俺を客間へと案内した。

 畳の部屋で緊張していた俺は理由もなく正座をして待機すること数分。

 部屋の襖が開かれ、女性が入ってくる。

 

 女性の上の服は桃色を基調としており、胸元には白い大きめのリボンがあしらわれている。袖は長いようで、手首より先しか服の外には出ていない。

 下はといえば赤い生地の中に月、桜、梅、紅葉、竹のような風情を感じさせる模様が金色で描かれたスカートのようなものを履いている。しかしこのスカートのようなもの、非常に長い。立っていて尚も床に付き、広がっているのだから驚きである。俺としては汚れが付きそうだなあ、程度の感想であるが。

 顔はケチの付けようのないほどに美しく整っている。遠目に見れば、お人形さんのように見えることだろう。

 ざっくり言うと、和風美人である。服装は何処と無く和風仕立ての洋服といった感じだ。

 

 月って永琳さんや桜琳さん、依姫さんにこの人ついでに月夜見様といい、美人率が高いなあ。と下らない感想を抱いていると、和風美人は俺と同じように畳に正座する。その仕草は俺と比べて遥かに優雅だった。

 それから漸く口を開く。

 

「貴方が私の護衛役候補のハジメね?…この都では見ない変わった服装をしているわね。」

「貰い物の服装ですから。」

 

 俺の服は確かに平安時代の貴族が着るものなのだが、少し動きにくいってだけで俺は気にしていない。俺はお洒落に無頓着だと良く言われていた。

 ところで、この護衛対象さんも俺と同じような変わった服装をしているのにツッコミを入れるべきだろうか?

 

「別の服を着るつもりはないのかしら?まさかとは思うけれど、他に着る服がないとは言わないわよね?」

「この服装では不都合がございますか?俺はこの服で今まで困ったことは事はありません。」

 

 言葉に刺があるのは図星を突かれたからではないのだよ。本当だぞ。

 永賀さん達がくれたこの服を馬鹿にされたのが気に食わないからなのだ。彼女が本心から馬鹿にしているのかどうかは知らないけどね。

 うむ。お金が手に入ったら服を買うべきだろう。

 

「気に障ったのなら謝るわ。…護衛は貴方にお願いしようかしら。」

 

 まさかの即決。何が彼女に決定を促したのか。俺に知る術はない。

 能力で感情の動きとかは判るが、何を考えているかは判らないのだ。そういうのはそれ専門の妖怪の出番である。

 

「ええと、宜しいので?」

「ええ。私は立場的に敬われ、男共は口々に私の顔を褒め称えるばかりで疲れるの。何を言っても肯定ばかり。その点、貴方は少しムキになって言い返した。話し相手になりそうだし十分よ。…これ以上護衛役との顔合わせも面倒だしね(ボソッ)」

「それは光栄です。実力は確認しなくても宜しいので?」

 

 最後の呟きはスルーで。きっと身分が高い故の気苦労から、心の内がポソリと漏れてしまったのだろう。

 それにしても俺、宜しいので、ばっかり言ってるや。

 俺、そんなので宜しいので?宜しくないですね。もう少し語彙を増やしましょう。

 

「名門である綿月家の次女、依姫からの紹介。それに私の教師である永琳の父親を救った遠い昔の話。そrは遠い昔とは言え、目覚めた今でも自己鍛練を欠かさないと依姫から聞いているわ。実力を確認する迄もなく、貴方は十分な実力を持っていると判断できるわよ。」

「それは光栄です。因みに、俺が永賀さんを救出した話って有名なんですか?」

「一部の者のみの知る話よ。月に来てから生まれた、身分が低めな一般的な存在の者達に、地上には月の賢者の父親を追い詰めるような存在が大昔にいたという不安を抱かせないために秘匿されていると聞いたわ。今の月の都の戦力ならそんな存在が攻めてきても問題ないのだし、一般に公開しても良いとは思うのだけれど。」

 

 変に崇められても俺は困惑するだけだっただろうな。秘匿されていて、俺的には良かったのかもしれない。英雄願望なんてないし。ないし!ないもんね!

 

「今さら公開しても、”何故公開しなかった?”なんて抗議されて面倒なのでは?」

「私が思うに”大昔のことだし、どうでもいいや”ってなると思うのだけれど?」

「何だか、考えるだけ無駄そうですね。」

「そうね。一般の民達の反応が何通りもあり得るもの。嫌になるわ。」

 

 雑談っぽくなってきたなあ。

 それにこの護衛対象さん、凄い美人なんだけど、意外とめんどくさがりなのかな?

 見た目よりかは気さくにも感じるし。面白い人なのかもしれない。

 

「あら?」

「ん?」

 

 そうこうしている内に、部屋の襖が開いて見覚えのある人が入ってくる。

 三つ編みにされた長い銀髪。赤と青のツートンカラーの配色のなされた服。そして中心に赤十字の描かれた青いナース帽。

 何故彼女がこんなところに?

 

「永琳さんか。どうしたの?」

「あらハジメ。来てたの。どうしたのって言うとね。」

「私の家庭教師よ、ハジメ。」

「姫様…」

 

 あー、そう言えばさっき言ってたな。"私の教師である永琳"って。

 

 台詞を取られて軽く落ち込んでいる永琳さん。苦労してますね。

 ああ、そんな遠くを見るような目をしちゃって。まだ若いのだから希望に満ちた目をした方が………若い?見た目はそうだったね。

 

「………」

「……永琳さん?」

「何かしら?」

「イーエ。ナンデモネーダス。」

 

 女の勘恐い!

 哀愁漂う雰囲気だったのが一瞬にして憤怒のオーラになったし、メチャクチャ睨まれた!?

 何ですか。俺の心でも読んでいるんじゃないのかって位の勘の良さだよ。

 うん。無意識でも喧嘩は売ってしまわないように気を付けねば。

 

「フフフ。仲が良いわね。二人とも。」

「姫様どうなさいましたか。”フフフ”だなんて普段使わないような笑い声なんて出して…」

「そ、そういうのは気にしなくてもいーの!」

 

 護衛対象さんがからかわれてワタワタしてる。永琳さんの”してやったり”な笑顔が印象的ですね。

 この生徒と教師の方が仲が良いんじゃないのかな?良いんだろうね。積み重ねてきた歴史が違うもの。

 

 …だから睨まないでくださいな。二人して。

 積み重ねてきた歴史って、一緒にいた日々が多くて、あまり一緒にいる時間の少なかった俺よりも仲が良くなるのは当然だなって……ってなんでこの二人は揃いも揃って勘が良いんだ?俺の心って外にだだ漏れなのか?

 

「ハジメはもう少し気を遣いましょうね。」

「ハイ。ワカリマシタ。」

 

 護衛対象さんもイイエガオで威圧をしてきています。本当に何なのこの二人。

 

「ああ、そうだ。姫様、講義の時間ですよ。」

「あらもうそんな時間?わかったわ。じゃあハジメ。護衛の程、よろしく頼むわ。」

 

 そう言って立ち上がる護衛対象さん。

 ここで重要なことを思い出した俺は、その答えを知るべく疑問を口にする。

 

 

「――――ところで、お名前を伺っても?」

 

 護衛対象さんは立ち上がったと同時に転けそうになり永琳さんは呆れた顔になった。

 止めて!二人とも!俺をそんな哀れんだ目で見ないで!

 

 

 

 ▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 蓬莱山輝夜。

 それが護衛対象さんの名前でした。

 月。お姫様。輝夜…カグヤ。この単語から想像できるのは?

 竹取物語ですね。昔々、竹取りの翁といふ者ありけり、っていうあれですよね。

 

「あー、絶対守らなきゃね…。」

 

 そう。地上が今、何時代かは知らないが、もし平安時代よりも前の時代だった場合、ここで蓬莱山さんが死んでしまっては竹取物語は成立しなくなる。

 成立しなかったからといって、困るというわけではないのだが、守れる命を守れないというのは嫌だし、時が経って竹取物語を知る人間が俺だけになるというのは寂しすぎる。

 するとやはり、守るべきだという話に落ち着くわけだ。

 

 

 俺が蓬莱山さんの名前を聞いて、護衛対象の名前を知らなかったことに呆れる蓬莱山さんと永琳さんと別れた後、俺は蓬莱山さんの屋敷の縁側に座っていた。

 蓬莱山さんは永琳さんから講義を受けていて、屋敷にはいるが俺の近くにはいない。

 護衛をするなら近くにいるべきだとは思うのだが、恐らく講義を聞いている内に俺が夢の世界へと旅立つことを想像するのは非常に容易かったため、少し距離を置いているのだ。

 

 講義の内容は化学だったか。

 蓬莱山さんは化学が苦手らしく、化学の講義をすると聞いたとき嫌そうな顔をしていた。

 

「phって何よ!酸性とアルカリ性が何よ!」

 

 そう、喚いていた。

 どうやら月のお姫様は大人しいわけではないようだ。

 永琳さんの仕方ないなあ、といった苦笑いが印象的だった。

 

 結局、ごねる蓬莱山さんを永琳さんは引き摺って行った。俺の頭のなかではドナドナが流れてきました。

 蓬莱山さんが引き摺られていく様が月夜見様と重なって見えるのは何故だろう。

 蓬莱山さんと月夜見様が同類だということを暗示しているのだろうか?

 

 類は友を呼ぶ。

 

 あ、待って。それだったら俺も同類だということになってしまう。それは勘弁だ!

 

 

「………暇だなあ。」

 

 頭の中で色々と考えている俺だが、こうも状況の変化が少ないと暇をもて余してしまう。

 

 俺は侵入者対策に、霊力で薄く蓬莱山さんの屋敷を覆っている。

 外部から誰かが屋敷に入ってこようものなら、広げられている霊力が乱れて俺に伝わるため外敵への対策は万全なのだ。

 その広げられている霊力からも何の反応もないため、俺はすることがなくなっているのだ。

 気晴らしに水素原子と酸素原子を化合させまくって洪水でも起こしてやろうか、という危険な考えさえ頭に浮かぶ。

 実際には水滴を作り出すのにも時間がかかり、洪水なんて起こそうとしたら一年が過ぎてしまいそうであるため、やらないのだが。

 原子はとんでもなく小さいため、水滴を作り出すのにも一苦労してしまうのは仕方ないことだと納得はしているものの、もう少し楽に作り出せないだろうか、と悩んで時間を潰しているのが現状だ。

 

「………誰だろう?」

 

 ボケっとしていると、屋敷の門を覆っていた霊力の流れに乱れが生じたのが感じ取れた。

 霊力の乱れ具合から考えて、恐らく一人で乗り込んできたのか。それとも普通の客か。

 

 縁側から重い腰を起こして態々確認しにいくのも面倒に思えたため、俺は『流体変化』で気体となって様子を見に行く。気体となった俺はどんな成分で構成されているのか、ふと疑問に思ったが、直ぐにどうでも良いこととして疑問を捨て去る。

 

 スーッと冷蔵庫から漏れた冷気のように移動していき、来訪者の姿を目に納める。や、今の俺には目は無いのだが。

 

 その頃には来訪者は既に屋敷の内部へと侵入しており、渡り廊下をソロリソロリと細心の注意を払って移動していた。

 服は黒。ズボンも黒。覆面を着けている上にそれまでも黒。全身真っ黒な怪しさ満点の来訪者さんであったが、廊下の木製の床が軋む音も発てずに歩いている様は、随分と訓練されているようなイメージに思える。

 

 そんな来訪者さんは突然俺の方を向き、覆面の下からくぐもった、聞き取り難い声を出す。

 

「姿を現せ。お前がそこにいるのはわかっている。」

 

 バレてーら。

 俺の後ろには誰もいないので、"実は俺の後ろにいた人に声をかけていた"可能性はない。

 そして明らかに俺の居場所をわかっているようで、俺のいる場所から目を反らさない。

 

「出てこないつもりならこちらにも考えがある。」

 

 来訪者が腰の辺りに手をやって、取り出したのは紛れもない手榴弾だった。

 和風の屋敷に全身真っ黒な不審者。そして手榴弾。非常に時代錯誤な組み合わせであった。

 

 しかし、手榴弾の威力はわからないものの、爆発でもされたら蓬莱山さんと永淋さんに被害が及ぶかもしれない。

 俺は大人しく姿を現すことにするのだった。

 

 




~今日のダイジェスト~

ハジメ「和風の屋敷だ!」
輝夜「ども」
ハジメ「和風美人だ!」
永淋「姫、講義の時間です」
ハジメ「ところで、お名前は?」
輝夜&永淋「知らんかったんかい!?」

来訪者「侵入するにはやはりダンボールがいいと思う!あ、そこにいるのは誰だ!?」
ハジメ「バレてる!?てか、ダンボールの件は本編で一言も言ってない!」

~22話 完~

作者ちゃんは勉強つつ、ゲームしつつ、執筆(を1:5:2の割合で)していたのであった!
明後日も同じ時間に投稿です!そこからは未定ですが!

ハジメ(本当はその後の展開に悩んでいて、展開がある程度決まるまでは保留にしとこうと思った結果、1ヶ月経っていたとか言えないもんな)

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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