「何故俺の居場所がわかった?」
全身真っ黒な怪しさ満点の来訪者の正面に、俺は姿を現す。
来訪者は特に驚いた様子も見せない。俺の姿が見えなかったのを月の技術だとでも勘違いしているのだろうか。
「何故わかったか?愚問だ。あれだけ霊力を垂れ流しにすれば、どんなに鈍いヤツでも気づく。屋敷を覆う霊力も隠す気がないだろう。」
わあ、この来訪者さん、すごい親切。ペラペラと教えてくれちゃう。
しかしそんな理由だったのか。やはり隠蔽とかできるようにならないといけないのかな。
そもそも気体となって攻撃を回避できるのが大きな利点だったため問題はないのだが、やはり姿が見えなくなる利点を活かしてみたいのだ。
「それに気づく程度の実力はあるんだね。」
気づかれたのが悔しく思え、少し虚勢を張ってみることに。
「ああ、そうさ。この仕事で稼いできたからな。当たり前だ。」
ふーん。仕事ってことは雇われの身、と。コイツ、何だかチョロいぞ。
…少し探りを入れちゃう?俺の知的好奇心が疼いちゃった。
「へえ、そんな君を雇う人はきっと君の実力に相応しい大金を払うんだろうね。」
「ククク…当然だろう?俺は俺に相応しい大金で動く。」
うんうん。やっぱりお金に余裕のある身分…月でも高位の者か。もしくは一般階級の金を稼いでいる自営業的な月人かな。
「自分の実力に自信をもっているんだね。雇い主も君の実力を認めてくれるような、きっと素晴らしい人なんだろうなあ。」
「ククク…クックック!そうさ、俺の実力を◇◇様は認めてくださる!俺に相応しい大金を払ってくださる!俺の欲を満たしてくれるような素晴らしい間柄さ。」
ち、チョロ過ぎた…だと…!?雇い主の名前まで吐きやがった!どっかで聞いたような名前の雇い主だけど!
コイツ、良いカモです!
でも逆に不安になる俺。このチョロさ加減は俺の油断を誘うための狙ってのものか、それとも天然製のどうしようもないお馬鹿ちゃんか。
「そんなに俺が雇い主の名前を出した事が疑問か?お前に教えても問題ないから言っている。」
「…何が言いたい」
とは聞いたものの、この会話の流れから想像すると……
「お前はここで死ぬってことだよ!」
「大した自信だねッ!」
やっぱりね!
来訪者は腰から小銃を取りだし、そのまま躊躇なく発砲してきた。銃声はない。どんな原理をしているのやら。
攻撃が来るのを予想できていた俺は発砲される前に気体へと戻っていたために、被害はなかった。後ろの方の壁で少し大きな音がしたのは気にしない。穴が開いたんだろうなあ、とか考えない。
今は目の前の的に集中するべきだろう。
「貫通した?姿が消えている訳ではないのか。…お前は攻撃してこないつもりか?」
そう言って俺を挑発してくる来訪者。
でもゴメンよ。
俺は戦うのは好きだけど、流石に銃で撃たれるのは痛そうだから、正面から正々堂々とは向き合いたくないんだよね。
かといって、背後に回り込もうにも俺の居場所はバレている。
確か、依姫さんからのお願いで生け捕りにしなくてはいけないんだっけ。
ならば脳からの微弱な電流を止めて、拘束してあげましょう。
「…!? おい、何をした。」
とか言いつつも体を動かす来訪者。
………あれえ?
霊力の量は俺よりかは少ないし、月夜見様のような神の力を持っているわけでもなさそう。
身体能力や霊力を含めた実力が拮抗しているのか。それとも別の何かがあるのか。
そして関係のない事だけど。俺、この状態じゃあ喋れません。ちょっと不便。
「体の動きが、阻害され、クッ!上手く動かん!」
本来なら動けないんだよ。
声が出ないので、もがく来訪者を見ながら心で呟く。
しかし、どうしたものか。
もがきながらも銃の引き金からは手を離さず、銃口もしっかりと俺を向いている。個体に戻ろうものなら一瞬でズドンだ。
ちゃっかり、感情を怠惰へと流そうとしてみたけれど、効果がない。俺の能力で直接的に作用するものは効果がない、もしくは効果が薄いと考えて対策を練ろう。
うーむ。
…
「クソッ、このッ!」
……
「ぬあああぁぁ…!」
……………
「動けえ!動けえ!」
BGMが煩い中、考えた。
俺の能力が直接的に効かないのなら、間接的になら大丈夫だろう。
はいはい、即実行即実行。
まずは来訪者のいる空間をイメージします。
次にその空間が渦を巻いているようなイメージをします。
ドラム式洗濯機の回転しているような感じですね。
はい、完了。
イメージ通りに空間にな方向性を与える。
再び発砲されることもなく、ちょっと能力を使うだけで相手の無力化に成功した俺は今、きっとやりきったような、良い笑顔になっていることだろう…
▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「――――――で、これがその結果、ということですか。」
「面白いでしょ?」
「え、ええ、そうですね…」
侵入者を捕らえた。俺が蓬莱山さんにそう報告すると、蓬莱山さんは野次馬根性で侵入者を見に、永琳さんは依姫さんに連絡をした数十分後。
侵入者の引き取りに、部下らしき玉兎を連れて来た依姫さんは何故だかひきつったような笑みを浮かべている。
その視線の先には侵入者が…
「―――!?―――!!―――――――!!!」
言葉になっていない叫びを挙げて、クルクルと空中で回転していた。
昔とある動画サイトで見た、ゲッ○ンという動画を思い出した俺は、思わず腹を抱えて笑ってしまったのだが、依姫さんには受けなかったようだ。
ちなみに蓬莱山さんは口元を抑えて何処かへ行ってしまったし、永琳さんには呆れられた。
「ハジメって時々変なことするのね……」
確か永琳さんはそんなことを言っていた。解せぬ。何処が変だというのだ。
侵入者は仰向けからうつ伏せへ。身体をくの字に丸めたり反ったり。腕は脱力したまま振り回され、足は地につくこともない。
回転している間に覆面は取れ、汗と涙にまみれてぐちゃぐちゃになった素顔を晒け出している。ちなみに、空間を回転させているために覆面も空中をクルクル廻っている。
ああ駄目だ。見ているだけでも笑いが込み上げてくる。
「ハジメ、そろそろ降ろしてもらえませんか?」
「うん、ごめ、良いんだけど、ちょ、待って………」
「依姫様、この方の頭の中は大丈夫なんでしょうかね?(ヒソヒソ)」
「普段は大丈夫なのですけれど…まあ、気にしないようにしましょう(ヒソヒソ)」
堪えれなくなった俺は結局笑ってしまい、珍獣でも見るかのような、変な目で見られてしまう。
でも、面白かったのだから仕方がない。
静かな和風の屋敷に俺の笑い声が響く。だが、俺とは別の女性の笑い声が聞こえたのは気のせいだったのだろうか?
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲
俺の笑いが止まり、能力も止めて侵入者を空中から地面に落とし(降ろし)、「こいつの頭どうかしているんじゃないか」みたいな視線を向けてくる依姫さんの部下の玉兎に引き渡した後、俺は依姫さんに取調室へと連れて行かれた。
質問されたのは侵入者について。
俺は隠す必要性を感じないので、得た情報は全て話した。ただし、その情報に信用がおけるかどうかは解らない、という前置きをしてからだ。難癖付けられたら面倒だもんな。
その後は再び蓬莱山さんの屋敷に舞い戻り、何だか疲れたような顔をしている蓬莱山さんから今回の件の報酬をもらった。
「講義で疲れるし、笑いすぎて腹筋がヘコヘコするし、散々だわ!楽しかったけれど!」
報酬を受けとるとき、蓬莱山さんはそう言っていた。
何処に笑う要素が有ったのだろうか?と考え、もしかしてゲ○タンで笑ってしまったのだろうという考えに行き着いた。
彼女は俺と同類なのだろうか?蓬莱山さんに対して仲間意識が芽生えた。
それから数日後。
侵入者を雇った◇◇とやらは捕まり、裁かれたらしい。
それにしても◇◇って名前は俺には発音ができなかったのに先程気づいた。皆平気で呼んでいるから、月特有の発音の仕方なのだろう。
尚、俺は数日間、寝る・食べる・排泄以外の間は鍛練していた。
好きなことをして過ごす。最高な日々だった。
今日も同じように鍛練していたのだが、そんな俺に依姫さんが申し訳なさそうな顔をして近寄ってきた。
「や、依姫さん数日振り。」
「こんにちは、ハジメ。」
依姫さんがやって来たことに気づいた玉兎達が慌てて訓練(のふり)を始める。
だらけている状態から瞬時に切り替え、見た目だけはキビキビと訓練しているその様はある意味洗練された動きだなと、俺は感心した。それと同時に、真面目にやっとけや、と思いもしたが。
「どうしたの、依姫さん。俺に稽古付けに来てくれたの?あ、さっきまで玉兎達サボってたよ。」
チクってんじゃねーよ!!!
そんな叫びが聞こえてきそうな程の勢いで玉兎達が俺を睨む。
睨むときに俺の方を一斉に見るのだが、全員が同時に、コンマ数秒もズレずに俺の方へと顔を向けるのだ。
連携は完璧なご様子です。
「そうですか。後でキッチリと締め上げなくてはいけませんね。地上が発展していないとはいえ、訓練せずに油断するのは命取りだから、余裕を持って相手できるまで強くならなくてはいけないのに。」
締め上げる。その言葉にぞくりと反応する玉兎数名。君たちの過去に一体何があったのだ!?
いや、恐いから聞きませんけど。ああ!でも人間特有の恐いもの見たさが…!
耐えろ!耐えるんだ俺!恐いものを見たところで夜に便所に行くのが恐くなるだけじゃないか!
…あれ?別に聞いても良いような気がしてきた。
「で、でもですよ、依姫様。私達にはこの武器があるので地上の者なんて一瞬でケチョンケチョンにできますよ?」
俺が心のなかで激しい(笑)戦いを繰り広げていると、玉兎の一人が依姫さんの前に出てそう言った。
その手には銃。ケチョンケチョンと言うよりか、蜂の巣と言う表現の方がしっくり来るのは俺だけではあるまい。
「それが油断です。……それに武器の力、科学の力に頼りきって、己を鍛えなくては意味がありません。第一、貴女方は―――――」
「あの、依姫さん。結局何かの用事で来たんですか?」
「あ、ごめんなさい。そうなのよ。上から強引に決定をくだしてしまって…」
依姫さんの説教が始まり、玉兎達が項垂れたのを見て助け船を出す。俺に向き直った依姫さんの後ろでは、玉兎達が全員でペコリと俺にお辞儀。睨んだ後にお礼ですかい。変わり身早いよ君達。
しかし、決定とは何だろうか。
もしや数日前に言っていた俺の処遇だろうか?表の月とやらで窒息は嫌ですよ?
「俺の処遇の事かな?どんな決定になったの?」
すると依姫さんが本当に申し訳なさそうな顔になり、言った。
「ハジメ。貴方を、月の姫である蓬莱山輝夜の護衛にも関わらず侵入者を屋敷に入るのを許してしまったこと、また能力を考慮した結果、危険分子として地上へと堕とすことになりました…」
………。
………………。
「な、なんだってーーー!?」
言いがかりじゃないか!
いや、でも地上に行く手間が省けて良いのかもしれない。
相反する二つの考えが俺の心に生まれた。
「月夜見様の本気を一瞬でも引き出し、私ともある程度互角に戦ったこと。そしてこの前の侵入者の件も加味された結果、誰にも手綱を握られていない戦闘力高めの危険人物だと判断がされてしまって…ごめんなさい。」
「いや、謝らなくて良いよ。依姫さんは悪くないし。まあ、地上に行く手間が省けて楽だと考えるようにするよ。」
実際のところ、地上に戻りたいとは思ったものの、どうすれば戻れるのかが解らなかったし、永淋さんにも聞き忘れていて、どうしようもなかったところなのだった。
「ハジメはそれで良いのですか!?月夜見様や私と戦ったのは兎も角、誉められる事をしたのに、黙って月から出ていくのですか!?」
「良いんだよ。元々地上には行きたかったんだし。それにこれはチャンスなんだ。地上は月よりもずっと広い。あっちこっち捜せば猛者は見つかるだろうし、月夜見様と同じくらい強い存在と多く出会えるかもしれない。その可能性があるからこそ俺は喜んで地上に行くんだよ。」
月も月で強者には事欠かないけどね。
最近の俺のトレンドは睡眠よりも戦いであるため、少しでも多くの相手と戦いたいのだ。
我ながら単純でつまらない理由だと思う。
「ハジメが気にしていないなら別に良いのですが…腑に落ちないです。」
「まあ、俺が気にしていないんだし、依姫さんも気にしなくて良いんだよ。難しく考えていたら疲れちゃうじゃん。」
「そうですか…」
依姫さんは疲れたかのように溜め息をつく。
月から追い出される日はまだ知らされていないけど、纏める荷物もないし、追い出されるまで自由にやっていこう。
依姫さんや月夜見様へのリベンジだって、またいつかできるのだし、地上で己を鍛えるのだ。
強くなって強くなって強くなって………
暗い様子の依姫さんとは反対に、俺は内なる闘志を静かに燃え上がらせるのであった。
~今日のダイジェスト~
侵入者「駆逐してやる!」
ハジメ「動きを止めてやる!」
侵入者「体が!動かし難い!」
ハジメ「完全に止まらない!?」
ハジメ「ゲッ○ン☆」
侵入者「ゆーれる ふーれる せつなぁぁぁああ!!??」
その他一同「何……この、状況………?」
輝夜「………クッ、不覚w」
依姫「ハジメを地上へ…シュゥゥウウウ!!…しろって、上司が…」
ハジメ「逆に考えるんだ…強くなる、チャンスだと!」
依姫「正気か!?」
~23話 完~
というわけで、ハジメは地上に行くことに。
展開は強引だけど許してくださいな。
ハジメ「シリアスバトルって何だっけ?」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
※次回更新は未定です。