ハジメ「この小説では期待できない…」
ま、まあ、本編をどうぞ?
「ハジメ、本当に地上に行くのかの?今なら我の権力に物を言わせて取り消しにできるのだが…」
「や、月夜見様の申し出は嬉しいんだけどさ、俺が地上に行きたいんだよ。今回の件はむしろ丁度良いんだよ。」
「ぬぅ。ソナタがそう言うのなら我は何もせんがのう。」
依姫さんから地上への追放の話を聞いて1日。
実際に追放されるのは明日ということになった。余程俺のことが怖いのか、はたまた何かしら別の理由があるのか。
そんな追放されてしまう俺が普段通り訓練場で鍛練していると、月夜見様がやって来て先程のような発言をしたのである。
こうして悲しそうな顔で引き留められるというのは、中々心に来るものがあるが、俺は強くなりたいという意思を曲げず、ありがたい申し出を断る。
「せっかく我が戦って楽しいと思えるような存在が増えたと思うたのに、直ぐに居なくなるとはの…。変化のない日常は嫌であるぞ。」
「我慢だ、我慢。俺は地上で戦い抜いて強くなって、いつか会いに来るからさ、その時を楽しみに待っていてよ。」
「追放されて、”また会いに来る”と宣言する人間なぞ初めて見たぞ。だが、楽しみに待つとするかのう。…我を失望させるでないぞ?」
「わかってるさ。むしろ負かせちゃうかもよ?」
「ほほう?大きく出るではないか?」
ただの威圧程度で気絶した自分に克ち、必ずや月夜見様をも負かせてみせる。それが俺の地上での生きるための目標となり、存在意義にもなりうるだろう。
敢えて目標である月夜見様本人の前で宣言することによって、俺自身に目標を自覚させ、宣言を違えぬよう目標を達成できるように行動する。
俺なりの気合いの入れ方だ。
「まあ良い。…明日、見送りに来るからの。」
「うん。ありがとね。」
月夜見様は俺の宣言にニヤリと不敵な笑みを浮かべ、去っていった。
ただし、ダッシュで。あっという間にその背は見えなくなった。
お分かり頂けるだろうか、その意味が。
月夜見様をダッシュさせた原因である、大きな力の反応が俺のいるところまで来ているのだ。
今の時間は午後のおやつの時間の手前、つまり14時くらいだ。
そしてその時間は、まだ仕事の時間である。
…察した?ここまで言ったら察したよね?
訓練場へと近づいてくる、隠そうともされていない剥き出しの力に気づいた玉兎達も、滝のように冷や汗を出しながら、訓練のフリを全力で始めている。フリとはいえ、全力で行っているらしく、訓練は激しいものとなっているようだ。
うん。何度でも言おう。
普段から、真面目にやったらどうなんです?
「いない?確かにあの馬鹿の反応はここに…。なっ!?反応しか残っていない!?ダミー…ですって…!?」
「あのー…永琳さん?」
なにやら風変わりな機械を持って訓練場に入ってきた永琳さん。
一人で盛り上がっているようだが、怒りのせいか永琳さんの力が漏れて、非常に息苦しくなってくる。玉兎なんか全員が全員、喉を押さえたり膝をついたり地面に倒れ伏したりと阿鼻叫喚といった感じだ。
それにしたって100万年も見ていない間に、永琳さんは随分と力を付けたようだ。
「ん?ハジメじゃないの。聞いたわよ、地上に堕されるのを受け入れたって?折角貴方の知り合いには有力者が多いのだから頼ってくれても良いのよ?」
"有力者"、"頼ってくれても良いのよ"の辺りで自身の胸をトントンと叩くのは、"頼りなさいよ"ってことだろうか。
どうやら永琳さんといい、月夜見様といい、俺は良い知人を持ったようだ。
そんな彼女たちの申し出を断るのには、やはり気が引けるのだが、俺自身に地上に行きたいという意志があるので、きっちりと断らなくてはならない。
「悪いけど、自身が地上に行きたいからね。この機会を上手く利用したいんだ。」
「そう。なら仕方ないわ。貴方にはまだ返せてない恩があるのだけれどね。……ところで、あの馬鹿が何処に行ったか判る?」
「あ、あっちです。」
「ありがとう。……さて、どうしてくれようかしら?」
何あれ怖い。
永琳さんは俺に月夜見様の行方を聞いたあとは、顔に真っ黒な笑みを浮かべながら、ツカツカツカ、と歩いていった。歩いてはいたが、その速度はやけに速く、あっという間に背中見えなくなった。
月夜見様に合掌。
玉兎達もホッとしてヘタリこんでいる者もいる。地面に倒れ伏した子はそのまま寝ているようだが。風邪を引くのではないだろうかとちょっと心配だったり。
その後は特に何もなく、いつも通り能力の練習によって時間は過ぎていった。
ちなみに能力を使って、水滴が発生するまでの時間はまだ二時間程かかった。これからに期待である。
◆
そして翌朝、俺が地上へと堕とされる日。
俺は日も昇っていないような早朝から、”ファッショネーブル"の店の前に並んでいた。
俺の右手にはこの前の蓬莱山さんの護衛で手に入れた金。
俺はここでお菓子を買い込み、地上へと持っていくのだ。
どうせ月で手に入れた金は地上では使えない。ならここで使いきってしまおうというわけである。
ここの味は長いこと楽しめなくなる。
その辛さは『全身を固定されて足の裏を長時間擽られる』以上に辛いことではないのかと思う。
…辛さの方向性が違うため、実際にどうだとは言えないけれども。
下らないことを考えていると、俺の後ろにいつの間にか、青いリボンの巻かれた白い帽子を被った金髪の女性が並んでいた。俺が考え事をしている間にでも並びに来たのだろう。
女性の手には桃。その身は十分に熟しているようで甘い香りがする。そんな桃を一齧り。
…美味しそう。
「……あげませんよ?」
「いや、そんなつもりじゃないです。」
「なら良いわ。」
また、一齧り。良い香りの桃だなぁ…
"ファッショネーブル"の開店まだかなぁ…
ボケーッと考えつつ、店の開店を待っていると後ろから声をかけられる。
「ところでハジメさん?」
「何ですか?…………あれ?何で俺の名前を?」
もしかして:俺は有名人?
「あ、私は依姫の姉の豊姫です。妹がお世話になってます。ハジメさんは地上に追放されるのですよね?その際、地上に送り届ける役目となりました。貴方の名前は妹が嬉しそうに話していたので、知っているだけですよ。」
「依姫さんのお姉さんでしたか。こちらこそお世話になっています。」
検索結果…0件
でしょうね!
頭の中でふざけてみたり。
依姫さんが薄い紫色の髪に対し、姉の豊姫さんの髪は金髪。瞳の色も違って、雰囲気も違う。依姫さんは真面目な雰囲気で、豊姫さんは何と言うか…お茶目な感じだ。
姉妹でも結構違いがあるものだな、と一人っ子だった俺は軽く驚きを覚えた。
「お互い堅苦しい言葉は止めておきましょう。そういえば、依姫が嬉しそうに『伸び代のある優秀な子がいました!』とか『私もその内全力を出す必要がありそうです!』とか言っていてねえ。私も嬉しくなっちゃったわ!」
やっぱり依姫さんも戦いが好きなのか?同類ですか?俺と同類ですか!?
そして、思っていたよりも高評価を貰えていたようだ。万歳。
「どんな子かと思っていたのだけれど、地上に追放だって小耳に挟んだものだから、妹もお世話になったことだし、せめて地上に送る役目をやろうと思ったのよ。まさか追放される当日に店の前に並んでいるとは思わなかったけれどね。」
「ここの店のお菓子が美味しいから仕方がないよ。」
「それには同意するわ。この店のを食べたらもう、他の店のは…あら、いやだ。涎が…」
豊姫さんも別の方向では俺と同類だったようだ。
俺、月夜見様、豊姫さん。この月の都に俺を入れて少なくとも三人は仲間がいるのだ。これは中々嬉しいことだ。俺はもうすぐ地上に追放されるけど。
その後、豊姫さんとスイーツについて語り合った。
"ファッショネーブル"が開店した後は、やはりお菓子の奪い合いの戦場だったと言っておこう。
俺は能力を活用して多くの戦利品を得た。
驚くべきは豊姫さんも多くの戦利品を得ていたことだろう。
しかも全て狙ったかのように桃が入ったお菓子であった。
自分の好みの物を狙って取れるとは。
…むぅ。侮れん。
◆
月の都の郊外。
豊かな海を湛えた、人工物のない静かな場所に俺は来ていた。
そう、地上に追放される時が遂に来たのである。
見送りに来てくれたのは月夜見様、永琳さん、蓬莱山さん、依姫さん、そして俺を地上へと送る役目を担う豊姫さんだ。
各々、忙しいのにも関わらず、態々時間を割いてきてくれたのだろう。何だか申し訳ない気持ちになる。
でも、ここに集合した人達の仕事上の隙間を埋めるべく、永賀さんと桜琳さんが働きづめになっていると、後々聞き、あの二人には頭が上がらないと思った。
でも、月夜見様。
何で縄で体をグルグル巻きにされた上に、その縄の先端を永琳さんに握られているんですかねえ?飼い主と犬かい?
シリアスもへったくれもないじゃん。いや、元より月夜見様に求めるシリアスなんて…これ以上は言わないでおこう。
「ハジメが気にすることではないのよ。」
俺の視線を察したらしい永琳さんがそう言う。
「ハジメを見送ったあとに脱走させないための処置なの。仕方がないのよ。」
「のう、永琳よ。逃げぬから、絶対に…多分……きっと、いや、もしかしたら逃げぬかもしれぬから、この縄を解いてくれんかの?」
「いやよ。」
「取り付く島もないのう。」
「月夜見様は一度、御自身の発言を振り返る必要があるのではないでしょうか…?」
ごもっとも。
月夜見様の徐々に自信のなくなっていく自分の行動への発言に対する、依姫さんのツッコミにその場にいた月夜見様本人を除く全員が頷いた。
「わからぬ。我にはわからぬぞ!?」
「ねえ、こんなのがリーダーなのに月の都って、どうして成り立っているの?」
「「「「さあ?」」」」
「我への信用、敬意も何もないぞソナタら!?我とて然るべき時には然るべき行動をしておるわ!!」
何この連帯感。そして月夜見様の疎外感。
ああ、苦労しているんだろうな、月夜見様の部下たちは。
簀巻きにされたまま遺憾の意を示すべく、プルプルウネウネと気持ちの悪い動きをしている月夜見様と、永琳さん達がやいのやいのと騒いでいるのを苦笑いしながら見ていると、蓬莱山さんがコソコソと近づいてきた。
「ね、ね、ハジメは地上に行った後はどうするつもりなのよ。」
「ん?兎に角強くなるために戦う!それ以外の予定は未定だよ。」
「予定は決めておいた方が良いと思うのだけど?…まあ、良いわ。」
そして蓬莱山さんはスッと目を細める。
「ハジメは穢れのある地上でも、寿命で死なないのよね?」
「寿命では死なないだろうね。でも何でそれを?」
「べ、別にいいじゃない。細かいことは気にする必要はないわ。」
蓬莱山さんには俺の能力のことは詳しく説明していなかったはずだ。
大方、永琳さんか月夜見様。もしくは依姫さんの内の誰からか聞いたのだろう。
「ハジメはどういう存在として地上に生きるつもり?寿命で死なず、人ならざる戦闘力を持ちながらも人間として生きるの?それとも人外として、はたまた妖怪として生きて行くつもりかしら?」
重いよ!?いきなりそんな重い質問ぶちこまないで!?
「もちろん人として生きていくよ。」
「ハジメは元々人間だったのよね?ただの人間でしかなかった貴方は力を得て、永い時を人として生きると言う。今から100万年や200万年、そして1億年と経とうが、人の心を失わずに生きていけるのかしら?」
「……」
返答に詰まった。
元々人間だった、か。その言葉はまるで今の俺が人間ではないと言っているようにも思える。それとも俺を月人として見ているのだろうか?
身体は100万年生きているが、意識がある状態では数十年間しか生きてこなかったただの人間の俺が転生して、能力を得て、前世では戦いのない平和な国に住んでいたのにも関わらず、今世では戦いを求めるようになっている。
元々人間としての精神力と心を持ち合わせていだけなのに、老いなくなった俺は100万年経っても元々持っていた心が、精神が壊れことなく、本当に人として生きていけるのだろうか?
力を持たない人間と同じ価値観を持つ"人間"として生きていけるだろうか?
いっそ、人として生きることを諦めたら、こんなことにも悩まず、楽になるだろうか。
「それでも貴方は人として生きていこうと言うのかしら?」
「俺は…」
蓬莱山さんからの再びの問いかけ。
彼女の目は真っ直ぐと俺を見て放さない。じっと、心を見透かされているかのような錯覚さえ覚えてしまう。
そもそも俺が人でなくなるとすれば、一体俺という存在は何なのか。妖力を持たないから妖怪からも仲間と言われることはないだろう。
だとしたら普通の人間から見た俺は”人の皮を被った化け物”。妖怪からすれば”人間から見放された異端者”なのだろうか。
わからない。
こんな重いことや難しいこと、考えているだけでも疲れてくる。
俺が人として生きることを諦めたら、孤独になるだろう。でも独りは嫌だ。
諦めなければ、人と共存できる可能性はあるかもしれない。
もし、人の心を失っても、俺の行動の仕方によっては人と共にあり続けることも可能であるかもしれない。
なら、難しく考える必要はない。
答えは簡単だ。
「俺は人として生きる。たとえ、人間の心を失っても人と共存したい。」
「もし、人間の心を失わない方法があるとすれば?」
「当然その方法とやらに縋り付くさ。」
「そう。…じゃあ、手を出しなさい。」
「? うん。わかった。」
どうするつもりなのだろうか。
戸惑いながらも俺が手を蓬莱山さんに差し出すと、蓬莱山さんは両手で俺の手を包み込む。
女性の手は柔らかく、暖かい。今まで女性に触れることのなかった俺は蓬莱山さんの手の感触にどぎまぎする。
「え、えっと、これは?」
「おまじないよ。人であろうと思う貴方が永遠とあり続けることへのおまじない。」
おまじないと彼女は言うが、俺は不思議な感じがした。
ゆらゆらと不安定に流れ動いていた何かが固定されたような、言うなならば、風に揺れている風船を手で掴んで動かないように固定したような、そんな不思議な感じだった。
「ありがとう。…何だか人間として生きていけそうな気がするよ。」
「ならやった甲斐が…んん!おまじないをかけた甲斐があったというものね。…頑張りなさいよ。」
「頑張るとも。おまじないパワーでなんだってやってやるさ!」
「…何か恥ずかしくなってきたわ。」
蓬莱山さんはちょっと照れた風に顔を伏せる。
何で恥ずかしくなったのか。それは俺の理解の及ばぬところであった。
「何でもできそうな気がするなら助けてくれんかのう!?」
「あー…えっと、御免。前言撤回。無理なこともあるよ。自力で何とかして?」
月夜見様はちゃっかり俺と蓬莱山さんの会話を聞いていたようだ。
永琳さんに弄られつつも、こっちの話を聞くとは。
月夜見様の救出なんてできる気がしません。永琳さんが"イイエガオ"で「まさか救出なんてしないよね~?」とでも言いたげな目をして、俺の目をじっと見ているのだ。
恐いって。そんな目で見ないで!恐いんだから!
とりあえず、この場は誤魔化そう。
「月夜見様って無駄にハイスペックだよね!」
「無駄とは失礼であるぞ!?為るべくして我はハイスペックなのだ!」
「心構えはポンコツのくせして、どの口がほざいているのかしら?」
「ちょ、やめ、永琳よ、足の裏はくすぐふふふへひゃひゃひゃ!!!」
簀巻きで抵抗できない月夜見様を抱えて、足の裏を擽る永琳さん。
月夜見様の整っていた顔は崩れ、美人が出すとは到底思えないような声を出して月夜見様は笑っている。
えげつない。えげつないよ、永琳さん!
アンタ、鬼や!
「あひゃひひふぇひょひょ…」
うわぁ…
見せられないよ!な顔になってるよ。
月の都のトップの月夜見様の威厳とかさっぱりないよ。もう何も残っていないよ。女の尊厳とか無くなってるよ!永淋さん恐いって!
あ、普段の月夜見様に威厳が無いのは元々か。
「………ところで、そろそろ時間が押しているのだけど。」
ポツリと豊姫さんが呟く。
「別れの挨拶、早く済ませてほしいなあ。なんて……」
そんな豊姫さんの呟きは、月夜見様の笑い声によって掻き消され、誰の耳にも届かないのであった。
◆
それから数分後。
都の中心部からから少し離れた、豊かな水を湛えた月の海の側。
そこには陸に打ち上げられ、力尽きた魚のように、時折ビクビクッと身体を震わせている者が1人。
「うひ…あひ……あひょひょ………」
言うまでもなく月夜見様である。
見事なまでに『全身を固定されて足の裏を長時間擽られる』という、"ファッショネーブル"のお菓子を長いこと楽しめなくなるよりは辛くないが、辛いことには変わりない拷問を受けて、瀕死となっている。
誰か、げんきのか○らでも持ってません?
いや、永琳さんは懐から"復活薬"というラベルを貼り付けた怪しげな薬の入ったビンを取り出さなくていいから!
そもそも永琳さんの服の何処にビンを入れれるような場所があるの!?月だから?月の超技術のお蔭なの!?
俺の思いが通じたのか、永琳さんは渋々ながらも懐にビンを仕舞う。
何でそんなに残念そうなの!?そもそも俺の心の中を察したように動いているってことは、心の中が見透かされているの!?天才なの?天才だったね!ええ、知ってましたとも!
喋ってすらいないのにこんなに疲れたのなんて久々だよ!
殆ど1人心の中でツッコミを入れていただけですけどね!
自業自得でした。
「師匠はハジメとコントでもなさっているのでしょうか…?」
「さあ?私にもわかんないわ。ま、楽しそうだし気にする事はないでしょうね。」
「そう、ですかね。」
ひそひそ話をしている綿月姉妹へと、何を話しているのかと視線を向けると、依姫さんは首を傾げ、豊姫さんは気にしないでねとでも言うかのように手をヒラヒラと振っていた。
じゃあ、気にしないでいようっと。
「気のせいかしら。私の知っている別れと違う雰囲気のように感じるわ、コレ…」
「蓬莱山さん、気のせいじゃないよ。俺もそう思うよ。」
ポソッと漏れた蓬莱山さんの意見に大賛成です、はい。
別れの時の雰囲気ってもっとこう、しんみりとしたような感じだよね?
今の雰囲気は和気藹々としていて、もうすぐ追放処分される事をついつい忘れてしまいそうな感じだ。
約一名ばかし、ぐったりと息切れしているが、他の面子の顔には笑顔が浮かんでいる。
皆美形だから絵になるが、自分が受け入れたとはいえども、追放される俺からしたら何とも複雑な気分である。
「ぜぇ…ぜぇ……カフッ……ソ、ソナタとはまた会えるであろうに。」
「そうよね。老いを知らないハジメならば、いつ再会する日が来るでしょうしね。」
月夜見様はヨレヨレと、生まれたての小鹿のように立ち上がりながら、珍しくも真面目なことを言う。
見た目と言葉のギャップが酷いのだが、ソレにツッコミを入れる無粋な者はここにはいない。
永琳さんも先程まで全開だった茶目っ気さを引っ込め、何処か淋しそうな表情を見せる。
「今生の別れとなるわけではないですから。せめて笑顔で見送りたいですし。」
「次に会う時も
依姫さんも淋しそうな表情を見せるが、その言葉の通りに表情を直ぐに笑顔へと変える。
蓬莱山さんの言葉には先程の”おまじない”を意識したのであろうか、「変わらずに」を少し強調していた。
「まあ、また会える日までね。それと…月の都ではお世話になりました。ありがとうございました。」
とりあえず会話の流れ的に俺も何かを言うべきだろうと思って、言葉を口にする。感謝の気持ちは本物だ。何時目を醒ますかも判らぬ俺を100万年も待っていてくれたのだから。
雰囲気に流された感があるのを感じ取ったのか、永琳さんは苦笑いだ。だが、俺が本当に感謝していることは判っているのか、「良いのよ」と言った。
「ハジメには父上を助けてもらった借りがあるものね。」
…わかっていた上での言葉かな?
恐らく「これでおあいこ」だと言っているのだろう。
と言っても、俺には転生してから3日間程八意家にお世話になっているので、それを含めて考えれば俺が永琳さんに借りが1つあるのだが。
………よし。気にしないでいよう。そうしよう。
「えっと、このまま地上に転送して良いのよね?もう他にすること無いのよね?」
若干空気となっていた豊姫さんがソワソワした様子で喋り出す。
「いや、ほら、師匠のご両親に仕事を代わりに請け負っていただいているから、あまり時間をかけすぎると…ね?」
「それは不味いね。じゃあ、サクッとお願いしちゃおうかな。」
豊姫さんの言葉にハッとする永琳さんと蓬莱山さんと依姫さん。そして月夜見様は無言で目を反らす。珍しくも忘れていた三人と違って、月夜見様は分かっていたのだろう。この確信犯め。
「それでは、いきますよ…!」
「ん、ヨロシクね。……また、いつか会おうね!」
そう、俺が言い終わった瞬間、景色が変わる。そして「………あっ」と豊姫さんの抜けた声が遠くに聞こえた。
かくして、俺の体感的には短く、実際には100万年と続いていた月の都での生活の最後は、ドタドタとしてモノだった。
俺は地上に行き、どんな出会いをし、成長するのか。
人として、人間らしく生きていけるのだろうか。
それは未だ、誰にもわからない。
転送された俺の全身に、冷たい風が吹き付ける。
~今日のダイジェスト~
永琳「悪い子…具体的に月夜見はいねえがぁ~!!」
月夜見 は 逃げ出した
ハジメ「その後、彼女を見た人はいないと言う…」
ハジメ("ファッショネーブル"に開店前から並んでいる…?)
豊姫(もしやこの人は私の……)
ハジメ&豊姫「同士かッ!!!」
輝夜「おまじないよ」
ハジメ「ありがとう!」
月夜見「誰かたすふぇふぇふぇ!!??」
豊姫「シリアスなんてなかったわ!!!」
~24話 完~
結論:シリアスなんてなかった。
というわけで、次回より地上編です。
ここからホイホイ時間が飛んでいきます。
その点はご了承くださいな。
ハジメ「ここまでお読みいただき、ありがとうございました!」
※次回は書き終わっているので、近日中に投稿します。