「体がッ!固いッ!」
ボキボキ!
え?何しているかって?見ての通り、朝の体操です。健康に良いのでお勧めですよー。ラジオ体操とかね。この世界にはまだないみたいだけど。
ちなみに俺が朝の体操をしているのは健康にためではない。さっき聞こえてきたあの『ボキボキ』の音がその理由だ。
洞窟で雑魚寝をしたせいで体のあちこちが痛むし、固くなっているしで寝起きは大変だった。
横になっている状態から、上半身を起こしたら、腰の方から『バキッ』ていう不安な音が聞こえてね。
寝起き特有の眠気もきれいさっぱり吹っ飛んだよ。
っと、説明している間に朝の体操が終わったよ。次は朝食だね!
昨日猪を食べ残しの部分を置いておいた場所を見る。
そこには蠅やら、野良犬やらがよってたかって猪だったものをガツガツと・・・
よし。朝食の確保からやろう。
俺はなにも見ていない。
猪を食べようと争って血塗れになっている野良犬とか野良猫とか知らない!猪の肉を肉にくっついた蠅ごと食べて、グチャグチャと気持ちの悪い音を発てている野良犬なんて知らない!
だから川に行って魚でも取ってくる!
俺は気持ちの悪い光景を尻目に、昨日見つけた川に走っていく。途中で何かの虫を足で踏み潰したせいで、グチュっていう音が聞こえたが、気のせいだったことにして走り続けた。木の根に転けそうになったが、何とか踏みとどまって走り続けた。
川に着いてから、重力の流れを変えて飛んでいけばよかったことに気づき、何だか悔しくなった。
さて、俺はランニングとパンツだけの、『夏のおっさん』に状態で川の中にいるわけだ。
ランニングとパンツは八意家から貰ったものだ。例の貴族衣装の下着ている。
何だよ、現代風の下着に、平安風の着物って。八意家は何を目指しているんだよ。
まあ、そんなことはどうでもいい。たぶん。
先ずは飯なのだ。腹が減っては戦ができぬ、なのだ。戦なんてする予定も相手も今のところいないがな。
それにしてもこの川は透明できれいな川だ。川の底までよく見える。余談だが、濁った川に自分の顔を近づけると、自分の顔がよく見えるらしい。って母ちゃんが言ってた。
何はともあれ、川底までよく見えるのだから、泳いでいる魚もよく見えるのである。
しかし、いくら見えているとはいっても、実際に泳いでいる魚を捕まえるのは難しい。
そこで俺の能力の出番なのだ。俺の能力で川の流れを変えれば楽勝じゃね?という訳なのである。
実は朝食の確保のために川に来たのは、そんな理由からである。
早速泳いでいる魚の周りの水の流れに意識を向ける。そしてその流れを上に向けて、魚が空中に飛び出すようにする。
するとあら不思議。魚が目の前まで飛んでくるではないですか。
フハハハ。まさにこれぞ朝飯前よ!と思いつつ、魚に手を伸ばすが、その手は空を切り、魚は川にポチャリと落ちた。
「・・・」
・・・もう一回、やろう。
もう一度やってみたら普通に成功した。最初はどうやら俺が遅かっただけのようだ。
俺は魚を3匹捕まえて、猪と同じように焼いた。後は内臓ごとガブリと食べて終わりだ。尻尾や頭の部分は残すけどね。
ご馳走さんでした。
さて、朝食も終わったことだし、何しよう?
そうだ!町に行こう!森の中にいても何もやることがないもんね。
それに人との関わりって大事だと思うんだ。
俺は町に向かっていった。今度は重力の流れを変えて、空中に浮かべるようにしてだ。
これがまた力加減が難しい。最初は上向きの重力の流れを大きくしすぎて、かなりのスピードで上に飛んでいってしまった。
慌てて重力の流れを通常通りにしたので、今度は地面に叩きつけられたがな。
鼻が痛いよ。地面固いよ。コンチクショウ。
間違えて下向きの重力の流れを大きくしたこともあった。
地面とお友だちになった気がする。鼻が痛いよ。地面かt(以下略
結局、浮かべるようになったのは太陽が真上に昇っているお昼頃だった。
昼食はまた魚を取って食べた。
味?まあ、内臓とかの食感を気にしなければ美味しいんじゃないの?
その内臓が苦いこともあるけどね。
町まで来ました。中世ヨーロッパ風の町並みなのに、一ヶ所だけ高層ビルを建設中の土地があるよ!
・・・どーなってんの!?
俺は辺りを見回して、目のあった人に対して会釈をしながら考えた。
この町は衛生管理のしっかりできていると思う。俺が前世で聞いた限りだと、中世ヨーロッパでは窓からゴミをポイッ、とするような環境だったらしい。本当かは知らないけどね。
治安も良さそうだ。ゴロツキのような風貌をした人が見当たらない。
・・・路地裏以外では。
俺が路地裏の近くを通りかかると、声をかけられた。
「よう、そこの少年。珍しい服着てるじゃねえか」
「金をたくさん持ってそうな服だなあ、オイ?」
「けひひ」
今更ながらも俺の見た目についてだが、確かに小柄だ。身長は155cmぐらいで、肩幅も小さめだ。それに年齢も前世も会わせると17歳なので、少年で確かに合っている。
画面前の君、チビとか言うな。段差とかで転けるような呪いをかけるぞ。
それにしてもこの3人組、チャラチャラした格好だ。そして何故かこれも現代風の格好である。新宿とかにいそうなチャラ男と言えば判るだろうか。
1人は短い服を着ていて、ヘソが出ているし。寒くないのか?今の季節は冬だぞ?
「ごめんねー。お金は1銭も持ってないんだよ。むしろ、お兄さんたちの方が持ってそうじゃない?」
俺はズカズカと路地裏まで乗り込んでいく。
チャラ男3人組は俺に路地奥へと押し込まれていく。どうやら自分から路地裏に入ってきた俺に驚いているらしい。
元々路地裏まで誘い込むつもりだったのなら驚くなよ、と俺は言いたい。
「何だあ、コイツ」
「図々しいなあ、オイ?」
「けひひ。まあまあ、良いじゃねえか。自分からこっちに来たんだからよお」
路地裏の表通りからは見えない場所まで行くと、3人組は威圧的な態度をとってきた。
変わり身速いなあ、オイ?
「けひひ。少年、こいつが何だかわかるか?」
キラリと光る何か。銀色のソレは小さいながらも鋭い刃を持っていて、刺されたら致命傷に陥ること間違いなしである。
ソレとは要するに、ナイフなのだが。
そこは銃を出せよ。その方がカッコいいだろ。
あ、いや、この時代にあるのか?中世ヨーロッパ風だしな。
でも、明らかに高層ビルっぽい物を建てようとしていたな。
よく分かんないや。
「けひひ。コイツ、ビビってやがる。」
「さっさと金を頂いて、ずらかろうぜ」
「服も売ったら高そうじゃないかあ、オイ?」
俺は無一文だって言わなかったかあ、オイ?
まあ、言われても普通は信じないだろうな。珍しい服着てるのに無一文とか普通は無いし。
「ところでお兄さん達って、ナイフ一本しか持ってないの?」
「・・・けひひ」
「そ、そんなことはねえ!」
「良いからやっちまえよお、オイ!」
一本しか持ってんですね。本当にありがとうございました。
語尾にオイ、を付けるチャラ男に言われて、俺に向かってるナイフを持った、けひひなチャラ男。
ナイフの扱いに慣れていないのか、そもそも人を襲うこと事態が初めてなのか、腰が退けている。
情けないなあ、オイ?
「け、けひひ。さっさと金を出してもらおうか」
「いや、だから1銭も持ってないって」
「チッ。殺ってから確認しちまおうぜ」
「死体は妖怪にでも食わせれば何とかなるしなあ、オイ?」
そういえば東方の世界に来たのに妖怪に一回も会ってないや。
「けひひ。そこまで言われたら殺るしかないな。死んじまえよぉ!」
そう叫んで突っ込んでくる、けひひなチャラ男。
このまま何もしないでいれば、グサリとナイフが俺に刺さり、俺は絶命するだろう。
もちろん何もしないわけではないが。
「けひぃ!?」
けひひなチャラ男の体が急に吹っ飛んだ。
簡単なことだ。けひひなチャラ男の目の前の空気を、勢いよくけひひなチャラ男にに向けて流しただけだ。
手に持っていたナイフは急に体が吹っ飛んだせいで、落としたようだ。
吹っ飛んだ先にいたチャラ男2人が巻き込まれてた。チャラ男3人組はそのまま壁に飛んでいき、思いっきり体を打ち付けてしまう。
「ウグッ!」
「オイィ!」
「けひ。能力持ちかよ」
けひひなチャラ男は他の2人のチャラ男が犠牲となり、軽傷であったが、犠牲となった2人は泡を吹いて気絶してしまった。
うわ、汚ねえ。
「そ、確かに俺は能力持ちだな。お兄さん達って弱いねえ。変わりに俺がお金を巻き上げちゃおうかな」
俺はけひひなチャラ男が落としたナイフを回収しておいた。
そのまま3人組に近づき、3人組の財布を探してそれぞれの財布から半分ほど抜き取っておいた。流石に無一文になって死なれては俺も後味が悪いので半分ほどだけは残しておいたのだ。
けひひなチャラ男はナイフを首元に宛てておいたので、静かだった。
ナイフ便利。
俺はナイフを懐に隠して、表通りに出た。金もある程度手に入ったし、何かを買おうと思う。
軽い足取りで俺は表通りを進んでいった。
ハジメ「お兄さん達って弱いねえ(ドヤァ)」
こいつも悪人だな、って思った。