全体が黄色でプルプルしたモノ。その頭に茶色のカラメル。
俺は軽く指で押すだけで潰れそうなそのモノに遠慮なくスプーンを宛がう。
スプーンをモノに差し込むとぬるりと、何の抵抗もなくスプーンはモノの中に入っていく。
俺がスプーンを上に押し上げると、モノの一部がスプーンの上に乗ったまま出てくる。
俺はスプーンを口に運び、モノを味わう。
口に入れ、舌の上に乗せた途端に感じる強い甘味。舌の上でフルフルと踊るモノを優しく歯で噛むと、これまた広がってくる甘味。キャラメルと混ざって実に美味である。
その味をしばらく堪能し、名残惜しいがモノを飲み込む。喉をスルリと駆け降りていく感じが気持ちよい。
俺は再びモノの塊にスプーンを突き刺し、口に運び、味わう事を数回繰り返し、モノが無くなったところでスプーンを机に置いき、両手を合わせた。
「ご馳走さまでした」
「お粗末様です」
俺は店に来ていた。もちろん路地裏の3人組のお金を使ってだが。
偶々、オシャレな店があったので入ってみたのだが、それが大当たりだった。
さっきまで俺が食べていたのはプリンだ。
前世も合わせて、今まで食べた中で一番美味しいプリンだった。
「プリン、美味しかったです。お代はいくらでしょうか?」
「ありがとうございます。お代は194円となっております」
少々値が張るが、あの味を考えれば安いものだ。
第一、俺が稼いだ金でもない。働かずに食う飯は最高だ。
「またのご来店、お待ちしております」
俺は金を払い、店の外に出た。
時刻は3時位だろうか。プリンは3時のおやつとして丁度良かった。
さて、これからどうしたものか。
八意家から出てきてしまって、今さら戻るには気が引けるし、かといって働く場所や住居もない。
完全なホームレスである。
あーだ、こーだと考えていると、近くを歩いている人の会話が耳に入った。
「そう言えば、八意家の天才が月に行くための準備を進めているって話、知ってるか?」
「あー、知ってる知ってる。月読様が直々にに月の下調べも済ませたんだっけ?」
月?お空に浮かぶ、地球の回りを公転してる月?
今の科学力で行けるのだろうか。
それに八意家の天才って・・・全員じゃないかな?
あ、でも永琳さんが巷では天才として有名とかなんとか・・・
「えーっと、すいません、月に行くって本当ですか?」
俺は話ていた2人の会話に混ぜてもらう。
「なんだ、知らないのか」
「ならば説明しよう」
2人は気前よく教えてくれた。
俺の残念な頭では難しいことはよくわからないが、理解できた事を簡単に説明しておこう。
地上には何でも『穢れ』というものがあるそうな。
月にはその『穢れ』が存在しない。
生きるのには『穢れ』のない月の方が好都合である。
ならば月に行こうではないか。
みたいな感じらしい。もう一週間ちょっとしたら、月に行くためのロケットの生産に入るそうだ。
でも『穢れ』って何ぞ?ま、いっか。
「助かりました。ありがとうございました」
「おう、気にすんな」
「これぐらいなら、お安いご用だしな」
気前のいい2人にお礼を言って別れた。
そう言えば、原作にもいたな。月人とかいう種族。
そんな月人とかいう種族が今の会話から考えるにまだいなさそうだと言うことは原作開始前かな?俺は元々原作は全然知らないのだけど。
始まるまでのんびりと自分を鍛えていくか。
その後は、いつの間にか暮れてきた日を見て宿を探し回ったあげく、どの宿も満員だったため、泣く泣く洞窟で寝ることにした。
洞窟について、朝はいろんな動物に食われていた猪が骨もなくなっているのを見て、何だか悲しくなった。
南無三。
そんな生活を繰り返して1ヶ月が経っただろうか。
ロケットの生産にためにやってきた技術者のせいで、宿は常に満員で、俺はずっと洞窟暮らしだった。
お蔭でいろいろ大変だった。特にトイレが近くなった時とか。
どんな羞恥プレイだよ。
過去の事はどうでもいい。寧ろ忘れよう。忘れてください。
兎も角、1ヶ月が経ち、聞くところによると、ロケットの生産が終わったらしい。
因みにロケットは10機ほど生産したようだ。
1ヶ月で10機も生産するとは驚いた。
どんな技術力だよ。前世の科学者も真っ青だよ。
そして俺はと言うと・・・
「へぇ、おっきなロケットだな・・・」
「あの、ここは関係者以外立ち入り禁止なのですが・・・」
ロケットの(無断)見学に来ていた。
丁度良いことに、女性の研究者に何か言われたので、俺の1ヶ月の能力の特訓の成果をお披露目しよう。
「一々気にしてたら疲れてしまいますよ。ほら、楽に生きなきゃ」
「え、あ、はい。そうですよね。楽に生きなきゃですよね・・・」
本来女性の研究者はここで俺を追い出すなり通報するなりしなくてはならないのだが、俺の言葉に納得してしまう。
これが俺の能力の効果だ。
相手の感情を特定の方向へ『流した』だけである。今回は楽をしよう、気にしないでおこう、といったような感情へ流した。
地味ではあるが、中々に強力な効果だと思う。
但し、感情を動かしたい対象の意志が確固たるものならば、流すことは不可能っぽい。
もしかしたら俺の能力の使い方が未熟なのかもしれないが、それは後からわかるであろうことだ。今は気にするものではない。
「八意家の方はどこにいるかご存じですか?」
ついでに八意家の誰かとも会っておこうと思う。月に行ってしまうなら挨拶ぐらいはしておきたいしな。
俺は月に行かずに、地上に残るつもりだし。
「永琳様ならそこの階段を登って、一番上の階にいると思います。今は休憩中かと」
永琳様って・・・
いや、偉い人から当然なのか?
「そっか、ありがとう」
実に親切である。流しやすい女性であった。
俺は女性にお礼を言って、階段を登って、一番上の階までやってきた。
さっきいた場所は地下6階なのだが、登ってきたところは地上10階であった。
疲れる。
階段を登った先にあった長い廊下を抜けて、1つの扉の前まで来た。
その扉は、大きくて、まるで偉大さを表しているかのようだった。
ドアノブに『休憩中』と書かれた札が掛かっているのは笑えたが。
「どうぞ」
俺がドアをコンコンとノックすると、永琳さんの声が聞こえてきた。
仕事を多くこなしていたからか、少々疲れたような声をしている。
俺は扉を開けて室内に入った。
「失礼します、永琳さん」
室内に入ると、声だけでなく、疲れた顔をし、隈のできた目でコーヒーを飲んでいる永淋さんがいた。
永淋さんは俺に気づいて意外そうな顔をする。
「あら、ハジメじゃないの。どうやってここまで来れたかは聞かないでおくけど、元気だった?」
能力を使って、不法侵入してきました。
なんて言えるはずもないので、永琳さんの気遣いに感謝する。
「ええ、お陰様で。ところで、月に行くらしいけど、何時行くの?」
今でしょ!
あ、今のは無かったことにして。
「明後日には出れるわ。でも、私達が月に行くのを阻止しようとして、妖怪たちが団結して攻めてくるみたいだから、予定を変更して明日の午後には出るかもしれないわ」
今はだいたい午前10時頃。準備は間に合わないこともないだろう。
しかし、妖怪が攻めてくるのか。俺はこの1ヶ月で妖怪退治で遊んでいたが、そんな動きはなかった気がする。
「妖怪は人間が在ってこそ成り立つ存在とも言えるらしいの。だから私達に月に行かれたら、困るのでしょうね」
「そっかぁ、大変だと思うけど、何とか頑張ってね。じゃあ、休憩時間をあまり長く潰すのも悪いし、俺は帰るよ」
俺はそう言って、部屋から出るためにドアノブに手かけ、永琳さんの方を向く。
「妖怪退治なら、俺も手伝うよ。だから、あと少し頑張れ」
俺の言葉に少し驚いたのか、永琳さん目を少し大きく開くが、直ぐにいつも通りの表情になって言葉を返してきた。
「なら、お願いしちゃおうかしら?」
「任せとけ」
俺は永琳さんの言葉に短く答えて部屋から出た。
扉を閉めるときに、部屋の中から小さな声で「ありがとう」と聞こえたような気がする。
永琳さんも妖怪の対処には頭を悩ませていたようだ。
俺はまた長い廊下を抜け、階段で1階まで降りて、施設の外に出る。
これからの目的が決まった。
俺永琳さんのためにも、他の人のためにも、妖怪をある程度殺しておくことにする。
さて、1ヶ月の成果の見せ所かな?
だんだん文が雑になっていく…
誤字とかの報告待ってます。
無いに越したことはありませんがね。